1995年10月7日

椎名誠さん、焚き火を語る!

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは椎名誠さんです。

あやしい探検隊の食事情

『あやしい探検隊~焚き火水滸伝』

●前回は椎名監督としてお話をうかがいましたが、今回は作家の椎名さんにお話をうかがいたいと思います。先月、山と渓谷社から『あやしい探検隊~焚き火酔虎伝』というご本を出版されましたが、この本は『あやしい探検隊』シリーズとしては第6作目になるわけですよね。

「はい、そうです」

●最初の『ワシらはあやしい探険隊』というのが今から15年前なので、あやしい探検隊は15年間も続いているということになりますけど、その間にも探検隊には色々な方たちが参加しているんですね。

「どこで生きているのやらっていう、行方不明っていうのもいますよ(笑)。そういうのも含めて50人くらいいたんじゃないでしょうかね」

●私が知っているだけでも、林政明さんが料理人という形で参加していますが、三代目になるんですよね?

「そうですね。でも、三代目が一番偉いの。昔の東映ヤクザ映画でも何でも『三代目襲名』とかって言ってね(笑)。初代は今、イラストレーターをやっている沢野ひとしですね。まだ、アウトドアなんていう言葉がなかった頃、僕たちはテントを持ってキャンプや旅に出かけていたんですよ。テントも雨に濡れると、5、6倍に重くなってしまうようなやつだったんですよね」

●あの三角のやつですね?(笑)

「そう、三角の(笑)。蚊がブンブン入ってくるやつね(笑)。それを背負って、料理人も使うのは大きなお鍋と、昔の一般の家庭で使っていたような、木のふたがついた竃(かまど)を持っていったんですよね(笑)。夜逃げみたいなもんですよ(笑)」

●本当の意味で「あやしい探検隊」だったんですね(笑)。

「そう(笑)、ダンボールを持っているやつもいたしね(笑)。そんな感じでやっていましたから、作る料理もカレーを作り、豚汁とけんちん汁だったな。沢野はその3つしかできなくてね。今、思えば材料が全部同じなんですよ。途中まで方針が分からないの。ジャガイモを切って、ニンジンを切って、肉を入れて、その辺にある適当なものを入れて、それで煮えるでしょ。で、『これからどうしようか?』ってそれから方針が決定されるわけ。で、カレー派が多ければ二晩連続でカレーっていうことになって、カレー粉を入れればいいわけで、今日は一味変えて豚汁ということになれば味噌を入れればいいわけですよ。『今日はけんちん汁だ』ってなったら、しょうゆを入れればいいだけ(笑)」

●安易といえば安易ですけど(笑)、気分で変えられるっていうのはいいですよね。

「最後の微調整が効いていましたね。効いているというか、やぶれかぶれというかね(笑)。だから、3日経つとメニューがなくなっちゃうんですよ。また元に戻るという感じでね」

●カレーになるか、けんちん汁になるか・・・(笑)。

「ええ(笑)。素朴ないい時代でしたね。悲惨だけど、それを上回る海、山、川の魅力っていうのがあって、旅に行ったような気がしますね。二代目は山と渓谷社の編集者なんだけど、三島悟ってやつでね。彼は沢野と違って、レパートリーが広いの。で、大体辛いの。ピリピリカラカラするわけ。彼は酒飲みだから自分が酒を飲むのに好きな酒の肴を作るんですよ。でも、それが三代目の林政明さんになったらね、林さんは本職のプロの料理人なので、沢野や三島の比じゃないわけですよ(笑)。もう1000倍くらいすごいわけね。料理の道具からして違うわけですから。包丁が4種類くらいあるわけですよ。それまで、どんな風にも変化する三種類料理を食っていた悲惨な下働きたちは、林さんの料理を食べて、本当の野外料理の味を知ってしまったんですね。例えば、葉っぱがちゃんと包丁で切ってあるとかね。砂や泥が入っていないとか(笑)。それまではよく砂とか蚊取り線香が入っていたわけですよ(笑)。そういう変な味がしないっていうのは彼らにとっては大革命だったのね」

●例えば、同じ山で沢野さんの料理を食べたことがあれば、林さんの料理を食べたこともあるわけですよね。同じ料理でも場所によって雰囲気って変わってくるものですか?

「そうね。例えば、日本海のある島に行ったときのことなんですが、その頃、俺たちは現場調達主義だったんですよ。海が近いのでできるだけ魚は釣ろう、貝はどこかで獲ってこよう、野菜はその辺に転がっているやつをひっぱってこようとかね(笑)。ちょっとヤバイんだけどさ(笑)。出来るだけ土地にあるものを使おうという方針だったんですね。だから、テントを張るとみんなで海へダーッと行って、魚釣るのが上手いやつは魚を釣り、どこからともなくカボチャなんかを持ってくるやつは得意分野へ行き(笑)、潜って貝なんかを獲れるやつは獲りに行ったりしたわけです。海彦、山彦になったわけですよ。それで、あるところで10センチくらいあるムール貝がビッシリ岩にこびりついているところがありましてね。俺たち、その頃はずっと昔のことですから、その貝がよく分からなくて、『美味そうだなー!』って言っていっぱい獲ってきて、バケツの中で海水で茹でて、しょうゆをぶっかけて食べたんですよ。それはカレーの中に入れてもおいしかったわけ。今、思えば、あれは地中海料理とかしゃらくさい料理で出てくるんだけどさ(笑)。俺たちの初期の頃は、自分たちで獲ってきて一番美味い状態で食っていたような気がするね。それが忘れられなくて、何年か経って同じ場所に行ったんですけど、もうその貝はなかったね。つまり、絶滅しているんですよ。それから、どこからともなく持ってきたカボチャももうないね。やっぱり、八百屋とかスーパーに行かなきゃ手に入らないわけですよ。だから、現場調達という、ある種ロマンだったような気がするんですね」

焚き火は物を考える原点

●今回、あやしい探検隊の最新シリーズが『焚き火酔虎伝』ということで、前にお話をうかがっていたときも焚き火が大好きだとおっしゃっていましたよね。

「うん。昔は自宅の前でやっている焚き火が風情だったけど、今は邪魔っていう感じになっていますからね。山や川や海へ行っても、そんなにどこでも簡単に焚き火ができる時代じゃなくなっちゃいましたよね。住宅街ではないところでも時代が変わって、昔のようなことが出来ないという現実があるんですよね。ますます焚き火愛好家たちが隅に追いやられていくっていう感じがしますよね」

●風流なものを求めようと思えば思うほど、それが難しい世の中になっていますよね。

「そうだね。火っていうのは、人間の原点というか、どこかで人間は自然に発火した火を持ってきて、それを自分で燃やしたり管理するっていうことを発見したはずなんですね。自分たちで起こせる焚き火があれば、どこだか場所も分かるし、火があれば人が集まってくるし、暖かいし、動物はある程度よけることができるし、その頃まで生で食っていたようなウサギの肉を、火であぶればおいしいということがありますからね。言葉もない頃から人間たちが集まって眺めていたものだと思うんですね。だから、裸火っていうのは人類的に懐かしく、物を考える原点になるものだと思うんです。
 だから、そういう意味でも大事だと思うんですよね。今の都会の子供たちなんて、もしかすると裸火を見たことない子もいるかもしれませんよね。まず家庭にないでしょ。昔は囲炉裏があったりしましたよね。ガスコンロはあるけどガスの炎を裸火とは言い難いよね(笑)。風が吹いてくると消えてしまう危うい火というものを子供たちは見ていないんですよ」

●今、おっしゃったみたいに火というのは人を素直にさせるというか、感情を左右するもののような気がするんですね。キャンプ・ファイアーとかで若者たちが集まると、自分たちの背くらいある焚き火を囲んで騒ぐというような楽しみ方もあれば、チビチビとお酒を飲みながら小さくて弱い火を囲んで話すというような楽しみ方もあって、色々な火の楽しみ方があると思うんですけど、あやしい探検隊の場合っていうのはどういう感じなんですか?

「これも、15年間の中でいろいろな変化と成長と、発展と衰退があってね(笑)、我々あやしい探検隊の中には登山家とか、川渡の人とか、釣りの人とか、ダイバーとか、いろいろな分野から来ている人がいるので、それぞれ山の焚き火と川の焚き火と里の焚き火と海岸の焚き火と流派があるんですよ。だから、渓流なんかの焚き火の人は、例えば、生木、濡れた木なんかを上手に使う術を知っているし、新聞紙を丸めたくらいの本当に小さな発火材とマッチ5、6本で火をつけることができるし、それから、材料が割と豊富な海の連中なんかは流木をただ横にドドーンと並べて端っこに火をつけて、風が向かってくる方向に向けて、燃えていったらそれをどんどん移動させていくっていうかなりぞんざいな焚き火をします。色々なんですよ。で、そういった各流派の連中が集まってきて、焚き火をするときには、最近は、ちょうど昔の囲炉裏端みたいな感じになってきたんですね。
 で、そこで話をしていると、酒の酔いもあるんでしょうけど、心根が素直になっていくんですね。それから、歌も焚き火を前にするとよく出ますけど、一昔前はギターを弾いたり、茶碗を叩いたりして、色々と激しい歌が出ましたけどね(笑)。最近は小学唱歌に落ち着いているんですよ。ハモニカを吹く人がいてね、野田知佑なんかはギターが上手いですから、中村征夫はハモニカが上手くてね。両方がいるときはハモニカとギターを演奏にして、1人、やたらと小学唱歌に詳しくて、歌詞を知っているやつがいるの(笑)。だんだんと役柄ができているんですよね。歌詞を知っている人が先行して、歌詞を先に言うわけ。それに続いてみんなが歌うわけですよ(笑)」

●昔の山本コータローのノリですね(笑)。

「(笑)。それがなかなかしみじみしていいんですよ。そういう小学唱歌と他の曲をミックスさせたりもしたの。例えば、俺たちの大傑作は『もずが枯れ木で』っていう歌があるでしょ。あれと、“エンヤートット”と歌う『斉太郎節』っていうのがあるのね。“もずが枯れ木で”と“エンヤートット”が合うんですよ(笑)」

(ミックスした歌を口ずさむ椎名さん)

「これを二部合唱で歌うわけ(笑)。ほとんどバカですけどね(笑)」

●新しい音楽が生み出されていたんですね(笑)。それを発見したときには・・・?

「嬉しかった! みんなで声の限りに歌いまくりましたよ(笑)」

「さらば、あやしい探検隊」が椎名さんの夢!?

●あやしい探検隊の最新シリーズ『焚き火酔虎伝』の序章では、八ヶ岳のアイス・クライミングから始まって、色々な旅のお話が出てくるんですけど、行く場所によっても集まってくる仲間も違ったりしながら、必ずやることが焚き火とお酒を飲むことだそうですが、このあやしい探検隊はいつまで続きそうですか?

「最初に書いたやつが1回きりで終わると思っていて、先のことを考えていませんでしたからね。自然発生的にシリーズになってきちゃったので、それもなるがままでいいと思うんですよね。でも、もう新しい旅が始まっていますからね。今は林さんの料理旅があるんですよ。それに僕がくっついていく格好になっているんですけど、それは例えば油揚げを食べながらキツネとタヌキの関係について語るとかね(笑)。なかなかいい旅なんだけどね。そんな風にして興味はあちこちにいくでしょうけど、今、平均年齢が40代半ばから50代半ばくらいなんだよね。今、20人くらいが中心メンバーですけど、みんなアウトドアがプロの連中ですから、年をとったら年をとったなりの、もっとしみじみとして地球と一体化していくような、それこそあやしいキャンプができるかもしれないので、また2、3年したら1冊にまとめるくらいのことができると思うんですけどね。でも、あんまり60、70歳になってまだザック背負って『じいさん、まだやっているのかよ』って言われるのも哀れを誘いますからね(笑)」

●でも、椎名さん、ご本には「さらば、あやしい探検隊! 続いて、帰ってきたあやしい探検隊。ゴホゴホ巡礼編」とかって書いているじゃないですか(笑)。

「そうなんだよね(笑)。いつか『さらば、あやしい探検隊』というタイトルの本を出したいんですよ。それは次かもしれないし、8冊目かもしれないし、下手すると25冊目くらいかもしれないけどね(笑)。でも、それを書くのがひとつの夢ですね。ただ、本当にさらばしちゃうとさびしいから、すぐ『帰ってきたあやしい探検隊』を書こうと思っているんだけどね(笑)」

●(笑)。「さらば」っていうのが出てきたら、そのあとには「帰ってきた」が続くことになっているんですね。

「それは対になっているから(笑)」

●必ず出るんですね(笑)。

「映画でも何でもシリーズっていうと、題材に苦労するらしいんだよね。ああいうシリーズで考えられるのは、『帰ってきた』の次は『復讐』っていうテーマがあるわけ(笑)。『あやしい探検隊の復讐』!(笑) 何に復讐するのか分からないんだけどさ(笑)。タイトル的にはね」

●その前に戦い系のものが何か必要なんじゃないですか?(笑)

「『逆襲』とかね(笑)。『くたばるあやしい探検隊』、そしてその次に『あやしい探検隊の逆襲』(笑)。その辺までいくかな。ま、僕はあやしい探検隊のシリーズが好きなんでね。書いていて楽しいんですよ。第7弾目は『あやしい探検隊パタゴニア博物誌』っていうのが今年出るんです。これは、これは外伝的というか、外国編になるんだよね。で、僕は最近、読んでも書いても小説があまり面白くないの。むしろ、本当のことが好きなんですよ。博物誌とか、植物のことを突き詰めていくとか、鉱物の問題であるとかね。そういう本をずいぶん読んでいるので、そういった自分が体験した旅と、博物関係のものを組み合わせて、書誌学的なあやしい探検隊シリーズが始まるんです。これは、僕の50歳を過ぎた年がそういう思考をさせているんだと思うんですけどね。自分自身はすごく楽しんでいます」

●それが今年、出版されるんですね。

「うん。あやしい探検隊の7弾目で出ます。結構続くんですよ。だから、『あやしい探検隊の逆襲』までいくような気がするなぁ(笑)」

●『逆襲』にいくまでにはまだまだ時間がかかりそうですね(笑)。今日はどうもありがとうございました。

■このほかの椎名誠さんのインタビューもご覧ください。

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■作家「椎名 誠」さんの著書紹介

「焚き火酔虎伝」
角川書店/定価500円
 「あやしい探検隊」シリーズの第6冊目。現在は文庫で発売中。

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オープニング・テーマ曲
「ARMS / JOHN HALL」

M1. WEEKEND / 高橋幸宏

M2. GOOD TIMES / TOM COCHRANE & RED RIDER

M3. JAMBALAYA / CARPENTERS

M4. BOYS WILL BE BOYS / HOOTERS

M5. WHEN I'M 64 / THE BEATLES

M6. MOON RIVER / AUDREY HEPBURN

M7. MOONLIGHT SERENADE / CHICAGO

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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