1998.12.12放送 カナダの自然派レコード会社「ソリテュード」の ダン・ギブソン&ゴードン・ギブソンを迎えて。 98年の秋、カナダ取材の機会がありました。メインはカナダの自然派レコード会社「ソリテュード」を取材して日本に紹介することでした。バンフ国立公園で取材を行なったあと、トロントに飛び、郊外にあるオフィスで「ソリテュード」の創立者ダン・ギブソン(当時77歳)と社長兼プロデューサーのゴードン・ギブソンに話を聞くことができました。ちなみにカナダ取材の模様は「グレート・ネイチャー・オブ・カナダ」シリーズとして、98年11月28日から4週にわたって放送。ここではその第3弾、カナダの自然音をテーマにした「サウンズ・オブ・カナダ」編を再録します。
ダン・ギブソンは自然音の録音や野生生物の保護などの活動を評価され、カナダで最も名誉ある賞「ジ・オーダー・オブ・カナダ」を受賞している名士。大自然の音をCD化するために81年に「ソリテュード」を設立、息子のゴードンのアイデアにより、自然音とイージー・リスニング系の音楽を合わせた素晴らしいCDを発表するようになりました。その作品の特徴について、こう語ってくれました。 ●ゴードン「他にもたくさんの会社が同じような作品を発表しているけど、彼らは基本的にありものの音楽に、ありものの自然音をかぶせているだけで、生物の地理的な関わりなんて気にしていないんだよ。その点、オヤジが録った自然音はすべて正確。よく同じ地域に改めて出かけて行って録音しなおしたり、時にはただその地域の音を正確に思い出すためだけに出かけて行くこともあるんだけど、これはすべて、その地域を正確に表現するためなんだよ。 僕たちがこういうことを始めた一番の理由は 自然を鑑賞すること。音楽はその引き立て役だから、もし音楽第一に考えるようになったら、本来のメッセ−ジは失われてしまうんじゃないかな」 ●ダン「各国に生息する生き物たちは、それぞれの国によって違った周波数をもっておるんだよ。深く低い音から高い音のものまでな。だからヨ−ロッパの鳥をカナダの作品に入れるわけにはいかんし、その逆でもいかん。正確でなければならないんだよ。これはわしが常に強調してきたことなんだが、正しい生物を正しい場所と季節にもってこなければいけない。 以前「野生のエルザ」を観ていた時、セレンゲティの美しいパノラマ・シ−ンがあったんだが、そこで北米の湖にしかおらんハシグロオオハムが鳴いておったんだよ。あれは 150人くらい出席していた特別試写会だったと思うんだが、このアビが出てきた時、わしは思わず「セレンゲティにアビだと! 」って叫んでしまったんだよ」 それほどまでに自然音を正確に再現している「ソリテュード」のCDなんですが、音楽や楽器との関係にもこだわっています。 ●ダン「確かに野生のム−ドに合う楽器はあると思うよ。例えば、オ−ボエやフル−トのような木管楽器はとても自然に溶け込むように感じるね。 まぁ、多くの場合は演奏するキ−にもよるだろうな。マイナ−・コ−ドがよく使われるんだが、特に、早朝の霧が出ているような寒〜い朝なら、木管楽器のバックにバイオリンとかでマイナ−・コ−ドを奏でれば、かなりそれらしい雰囲気になるんじゃないかな。わし自身はオ−ボエやバス−ンの低音の響きが気に入っておるんだよ。 それからもちろん、ギタ−。うまく使えば、ギタ−の音色は川のせせらぎや水といったものに非常によく合うんだ」 ●ゴードン「ミュ−ジシャンたちは鳥のさえずりと同じキ−で演奏するんだよ。例えば、何羽かいる場合でも、その中でソロのように目立っていて、音楽的にもその方向に進んだ方がいい場合ってあるんだよね。ただ、これはすごく難しいんだよね。ミュ−ジシャンたちと時間をかけて、分かりやすく説明しなきゃならないんだよ。 例えば、この時期の何時頃で、その時、その場所にいるとこんな感じがして、とかね。自然の中には、その時その時のハ−モニ−やぺ−スがあるんだよ。僕たちはよく“自然と共に息づく”って表現するんだけど、そういった体験をしたことのある人ならわかってくれるんだけど。ただ、ある一定の自然環境を再現するようなもんだからね、コミュニケ−ションがすごく大事になるんだよ」 仕事を離れたところで、子供たちへの自然体験プログラムも行なっていました。 ●ゴードン「キャンプでは特にカヌ−・ツア−で大自然に触れると人生観が変わっちゃうんだよね。ツア−では自分が持っていった食料とか自分で釣った魚くらいしか食べる物はないしね。2〜3日から36日間のツア−まで色々あるけど、このツア−が一番子供たちを変えるよね。自分たちで荷物をしょって、テント暮らしをして、雨に降られたり、もちろん電気はないから夜は真っ暗だし、アメリカクロクマはいるしね。こういう体験って本当に子供たちの人生観を変えるよね。幼い頃にそういった自然の美しさに触れ、いい体験をすれば大人になっても自然を慈しみ、理解する気持ちが生まれて、またそういう体験 をしたくなるんじゃないかな」
野生動物の生態を知り尽くしたダン・ギブソンは鳴き真似することでオオカミの声も録音しています。 ●ダン「別に怖がるようなものは何もないよ。何年もの間、わしは一人でオオカミの声を録りに行っておるんだ。オオカミは神経質で、あまり人のそばに寄りたがらないからな。だから、一人で行って遠吠えの真似をするんだよ。特にオオカミの子供たちが声をあげ始める 8月頃行って遠吠えをやるんだけどな、これは犬の遠吠えとほとんど変わらんのだよ(鳴き真似)…そうすると子供たちが(鳴き真似)…って興奮して色んな声を出し始めるんだが、そのうち親オオカミが帰ってきて返事をし始めるんだよ。わしはそうやってオオカミの遠吠えを録音してきたんだよ」 カナダを初めとする北米大陸を中心に世界の自然音を録音しているネイチャー・レコーディングの権威でもアメリカシロヅルという珍しい鳥の録音には(当時)まだ成功していませんでした。でも意欲的なダン・ギブソンはその後きっとモノにしたのではないでしょうか。 98年末に「ソリテュード」のCDは日本盤となって発売されましたが、残念ながら契約が切れ、現在は日本盤の発売はありません。でもファミリー・レストランのギフト・コーナーに輸入盤が置いてありますので、ぜひ買って聴いてほしいと思います。これまで自然音入りのCDをたくさん聴いてますが、「ソリテュード」のCDほど優れたものに出会ったことはありません。 SOLITUDES RECORDSのサイトへ 最初に戻る ON AIR曲目へ ゲスト・トークのリストへ ザ・フリントストーンのホームへ photos Copyright (C) 1992-2001 Kenji Kurihara All Rights Reserved. |