2001.11.18放送
ジェーン・グドール・インスティテュート・ジャパンを
設立した事務局長
宮部直行(ミヤベ・ナオユキ)さんを迎えて
チンパンジー研究の世界的な権威でいらっしゃるジェーン・グドールさんが、1977年に、非課税・非営利団体として創設した「ジェーン・グドール・インスティテュート~J.G.I.」。アフリカのチンパンジーを始めとする野生動物のフィールド研究や保護プロジェクトの支援、および、飼育されている動物たちの待遇の改善、そして何よりも、野生動物にまつわる問題を、より多くの人に知らしめ、改善する目的で、つくられました。
若者たちのフレキシブルなマインドとその活動力におおいに期待を寄せているジェーンさんは、世界中の幼稚園児から大学生までを対象に、環境や動物、地域社会を考慮した生活改善のための行動をうながす目的で、「ルーツ&シューツ」というプログラムも世界中でスタートさせています。そんな中、このほど正式に日本支部が設立されたというわけなんです。ジェーンさんは、宮部さんのことを「J.G.I.ジャパンはあなたを待っていた」といって、最大級の歓迎を示していますが、宮部さんは、何がきっかけになってこの活動に加わるようになったんでしょう。
『はじめにジェーンさんを知ったのは中学のころ。その頃はすごい方とは思ったけれど、別に何もなかったんです。再び出会ったのが1年あまり前で、ドイツで行なわれた「ルーツ&シューツ・インターナショナル・サミット」に参加したことがきっかけでした。むしろ、
僕がジェーンさんやJ.G.I.を待っていたという感じです。』
このルーツ&シューツについて教えてください。
『若い人たちが主体となって、環境保護の活動をしようというプログラムなんですが、狭い意味の環境保護ということではないんです。「人間は自然にとってガン細胞だ」という悲観的な見方をする人もいますが、人間と環境、環境と動物というふうに切り離して考えるんじゃなくて、人間も動物だし環境の一部だから、それをひっくるめて保護していこうという広い考え方をとってます。環境にいいこと、動物にいいこと、そして人間社会にいいことをしようという3つのテーマで活動をしようということです。』
宮部さんがJ.G.I.ジャパンをやろうとしたきっかけは?
『たとえ話でいうと、試験。1ヶ月前だったら焦らないですよね。勉強も特にしないじゃないですか。試験1日前だったらさすがに焦って勉強します。環境ということを見たときに、日本にいたら、温暖化とか森林破壊とかは知識では知っていても肌で感じることは少ない。試験1ヶ月前みたいな感じです。ところがドイツに行って、酸性雨で枯れてしまった「死の森」をこの目で見たときに、まずいと実感したんです。気づいたら明日試験だったみたいな感じで、ここまでひどいとは予想もしてなかった。で、焦って勉強を始めたようなものです。』
具体的にはJ.G.I.に参加してから今までの1年間、どんな活動を行なってきたんでしょう。
『ひとつはきっかけにもなったルーツ&シューツ・プログラムで、世界中で参加している若者たち20人ほどがドイツに集まってリサイクル工場を見学したり「死の森」を見学したりして、話し合うといったことをしました。それからアメリカで開催された「ルーツ&シューツ10周年」に参加したり、アメリカのJ.G.I.オフィスでインターンとして働いたりしました。今年の9月にもアメリカに行ってきまして、その時には2つのことをしてきました。ひとつは、「チンパンズー・カンファレンス」というものに出席したんですが、これは動物園で飼育されているチンパンジーの生活環境を改善しようというもので、動物園関係者、研究者、大学生などが集まって話し合うというものです。もうひとつは、ルーツ&シューツのアメリカ・サミット。これはアメリカの大学生が集まって話し合うという機会になったんですが、ちょうどテロの直後だったし、参加者の中にアフガン系アメリカ人の女性がいて、彼女にとってはアフガニスタンもアメリカも祖国であるので、非常につらいという話を聞きました。その頃実際にイスラム系の人たちが殺されたり暴行を受けたりする事件もあったので、ルーツ&シューツとして、何ができるかということを話し合ったんです。戦争をしないということも、もちろん大事なんですけど、それよりもストップしなくてはいけないのはイスラムやアフガンに対する誤解や無理解で様々な差別が存在するということだと思ったんで、イスラムの勉強会を開いたりして、誤解をなくそうという活動をしました。日本国内では京都大学の松沢哲郎教授を招いて、講演会をやりました。チンパンジーの子育てや親子の愛情、その他のことを話していただきました。それから4人程度の小規模なものですが、農業体験もしましたし、この夏には富士山の清掃もやっています。』
何百人単位の講演会から3~4人の小規模のものまで、とにかく、「今我々にできること」をやっているという印象です。そんなJ.G.I.ジャパンのルーツ、根っこともいえるジェーンさん。とってもおだやかなひとなんですが、宮部さんにとってはどんな存在なんでしょうか。
『マリア様とか仏様とか、観音様とかいろいろいわれますが、僕にとってはお母さんの様な存在です。以前、一緒にバスに乗っていたときにサインをお願いしたら、そこに「YOU
ARE LIKE MY JAPANESE SON」って書いてくれたんです。そこで、ついでにLIKEをとってくれ、とお願いしました。以来、僕のことをジャパニーズ・サンと呼んでくれています。本当に安心する大きな存在ですね。』
動物保護の問題を語るときにはストイックになりがち。そんなときジェーンさんは「怒りをぶつけても意味がない。こちらが怒りをぶつければ相手も怒りを返してくる。だから穏やかに話すのが一番」といっていました。何気ないジェーンさんの態度やしぐさには学ぶことがたくさんあります。そんなジェーンさんをお母さんと呼ぶ宮部さん、うらやましい限りです。ところでジェーンさんが作ったJ.G.I.だから、チンパンジーの問題が最優先するというイメージもありますが。
『それは全くないです。ジェーンさんの考える悪い風習というのが、人間がいて、その下にきっぱりとした境界線があって、人間以外の動物達がいるということ。チンパンジーを最優先するということは、人間とチンパンジーの下に、それ以外の動物がいると置き変わるだけで、実質何も変わってないと思うんです。チンパンジーは人間と他の動物たちとの関係を考えるときのきっかけに過ぎない。人間も含めて動物全体に境界線なんかなくて、人間と動物というわけ方があるということ自体おかしなことなんだと、気づかせてくれるきっかけなんです。』
さて、「J.G.I.」のお母さん、「ジェーン・グドール」さんは、『REASON
FOR HOPE~森の旅人』という本も出されており、希望を持つことの重要性を強調していらっしゃいます。そして“REASON FOR HOPE~希望を持つ理由”について、今年1月にお話を伺った時、こんな風におっしゃっていました。
『まず、第1のリーズン・フォー・ホープは、人間の脳です。月に行くなど、これまで様々なことを成し遂げてきた人間が、ようやく環境問題の核心に気付いた今、世界中の人々と心をひとつにし、人間の偉大な脳を結集すれば、解決法を見つけ出すことは可能だと思う。そして例えば、ソーラー・エネルギーなど、すでに色々な解決法が見出されて、より多くの人たちがそれらを認識し始めている。
次に、第2の理由は自然の回復力。マザー・ネイチャーの寛大さには脱帽するわ。私たちがほんの少しの手間と時間をかければ、完全に汚染されてしまった河川や、砂漠化された土地なども元通りの美しい姿になる。また、野生動物たちも野生環境の保護や、時には捕獲しての繁殖行為によって、絶滅の危機を脱することもある。これらの事柄はとても希望に満ちていると思わない?
さて、第3のリーズン・フォー・ホープは、若者たちの意気込みと関与とエネルギー。問題を自覚した時の行動力はすごい。そのことゆえに、若者たちのパワーを引き出すためのプログラム、「ルーツ&シューツ」に力を入れているんです。
そして最後、第4のリーズン・フォー・ホープは、人間の不屈の精神。これまでにも、諦めることなく、困難に立ち向かい、奇跡を起こした人々は何人もいたし、その中には政治家を始め、ごく一般の人もたくさんいた。こうした人々は私にとって、とても希望とやる気を持たせてくれるのよ』
J.G.I. ジャパンでは、現在、会員募集中です。年会費は、一般、3,000円、学生、2,000円の他、家族会員は、5,000円、維持会員、1万円、法人会員、5万円などもあります。申し込みは、住所、氏名、連絡先などの必要事項を明記の上、郵送、ファックス、またはEメールで申し込むことになっています。
ホーム・ページのアドレスは、http://www.
jgi-japan.org
また、スタッフも募集中です。特に、環境に興味があるんだけど、何をしていいのかがわからないという人、一緒に活動をしましょうと、宮部さんは呼びかけています。
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