2002年1月13日
作家・翻訳家、星川淳さんを迎えて今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは星川淳さんです。
屋久島在住の星川淳さん。作家として発表された小説「ベーリンジアの記憶」や、ポーラ・アンダーウッドさんの翻訳本「一万年の旅路」、さらには星川さんのルポによるドキュメンタリー「環太平洋インナーネット紀行」など、我々の好奇心を多いに刺激してくれた作品を数多く発表されています。ザ・フリントストーンにも何度か出演していただいたんですが、今回は2年ぶりのご出演ということになります。
●屋久島は今、ゴミ処理施設の問題があると聞きました。 「今、全国の自治体で問題があるんです。2002年の12月1日から、ダイオキシンを今まで以上に出してはいけないということで、廃ガスの基準が厳しくなるし、構造基準も改められるので、古い炉も使えなくなるものが多いんです。だからそれまでに新しくしなくてはいけないという法律の問題があって、屋久島も南北二つの町にあった古い炉を廃し、ひとつの新しいゴミ処理施設を作りましょうということになっているんですけれども、どういうものなら屋久島にふさわしいのかということが決まらなくて、「とにかく急いでいるから出来合いのもので、とりあえずは作りましょう」という行政の側と「せっかく作るんだから、21世紀の屋久島にふさわしいものを作るため、急ぐのはわかるんだけども、議論を尽くしましょう」という、僕のような立場の人たちとの意見調整がつかなくて、紆余曲折やってるところですね。だから、僕の立場は、結論はともかくとして、みんなで話し合って、たくさんの人たちが納得できるものを、というプロセスを経ましょうよ、といっているんですけどね」 ●まぁ、屋久島びいきの私としては、自然と調和してこんなに人間は生きられるんだっていう国内のモデル・ケースが屋久島ですから。しかも世界遺産。国外からも多くの観光客が訪れるところ。日本はこういうところでも環境に配慮しているんだなということをアピールできる場なんじゃないかと思うんですけど。 「それはその通りなんですよ。だから、せっかくだからいいものをと。具体的にいうと資源循環型のゼロ・エミッションということで、できる限りゴミと名付けられるようなものはなくすぐらいの、そして燃やさないし、醜い谷を作って汚いものを埋めていくという様なことをなるべくしなくていいような。技術的にはできるんです。分別を厳しくしていって、できる限りのものを循環再資源化するという細かいルートに乗せていくというような丁寧なことをやりましょうということをいってるんですけどね。なんか、変な責任論というのがあって、自分たちが使ったものなんだから自分たちで処理しなくてはいけないということがあるんだけど、現代生活で使うものは複雑な物質が使われていて難しいものが多いんですよ。それを僻地や離島に持ち込んでいるわけですね。上流下流という考え方でいえば、上流で作られた複雑なものを、全部の末端で安全に処理しようとすると、中央の巨大科学で作ったものと同じか、もっと高いレベルの技術やお金や人材があれば同じレベルで処理できる。でもそれはお金の使い方としてムダだと思うんですね。それよりドイツ型で、持ち込んだものは上流に返して安全に処理する、というほうがいろいろな意味で合理的なんですよね。どうしてもその場で処理しなくてはいけないものは、人とか環境とか、なるべくその場の負担が少ない方法を考えると」 ●星川さんは環境審議委員としてだけではなく、もちろん翻訳家としても活躍されているわけで、昨年の夏には久しぶりに翻訳本を出されました。タイトルは「水路アメリカ横断8500キロ 西へ!」。これはドキュメンタリーですよね。 「そうです。川、運河、湖といった淡水の水系をたどって、アメリカ大陸を東から西へ横断した記録なんです」 ●おおまかなルートというと?
「東から西へというのは、ヨーロッパ系の人たちがきて広がっていった方向なんですが、くしくもアメリカの白人達が奥へ奥へと行った道筋に近いんですよね。ハドソン川から始まって、エリー運河をたどって西へいってオハイオ川の支流から本流にはいって、今度はミシシッピー川をさかのぼって北西へいきながらミズーリ川に入る、それをさかのぼってロッキー山脈を越えるときにちょっとだけ、陸を搬送して、ロッキーを越えたらスネイク川、サーモン川、コロンビア川とたどって、太平洋というルートですね。
●さて、実はさきごろ緊急出版された「非戦」という本の執筆者の一人であり、サステイナビリティ・フォー・ピース(平和のための持続可能性)の中心メンバーとしてかかわったのが星川淳さん。これは去年アメリカで起こった同時多発テロ、アフガニスタンへの報復攻撃と、一連の出来事に対するものなんですが、これ、インターネットを通じて皆さんがやり取りしたとか。 「そうですね。9月11日の衝撃的な出来事に対して、大手のメディア、日本のメディアはほとんどアメリカ追従でしたけど、大手のマスコミから出てくる情報と、インターネット上で行き交っている情報とが全然違いすぎて、それを比較しながらしばらくたったときに、友人の坂本龍一さん、彼はニューヨーク在住で貿易センターから1マイルしか離れていないところに住んでいるんですけど、彼が、こういう大事な情報をやり取りするのに、メーリング・リストを作ろうよということになって、最初は数人だったんですけど、その中で世界中のマスコミとは違ういろんな情報や分析をやり取りしていって、その途中から「もったいないから本にしよう」ということになって。だから正味一ヶ月以内の編集で。編集もすべてインターネット上で、イギリスとニューヨークと東京と屋久島に住んでいる私と。時差がありますからほぼ24時間ずっとやり取りして、メールが全部で7000通、一日最高が360通やり取りしながら、選んで、翻訳するものは翻訳して突貫工事のようにやりました」 ●タイトルの「非戦」。なぜ、「非戦」だったんですか。 「これは直感的なものなんですけど、反戦という言葉がありますが、そういう同じ土俵の上で、戦うのか、押さえるのかというのではなくて、その土俵自体からひいて、よく見ようよと。暴力に対する非暴力と同じ意味合いなんですが、なんか、9月11日以来の世界の展開があまりにも短絡的で乱暴な論理で、この数百年の間に、世界大戦、原爆という流れの中で、なんとか極限的な戦争という暴力によらないで、話し合いや約束でおさめていこうということを積み重ねてきたのに、そういうものを全部投げ捨てちゃって、乱暴な論理で物事が進んでいくというところに、僕自身は危機感を感じて、ちょっと待ってよという、もう少し丁寧に世界というものは動かしていきましょうよ、良く考えましょう、ということなんですよね」 ●屋久島のゴミ処理施設もそうかもしれないですけど、「とりあえず」という対応が今、多いんですかね。
「そうですね。乱暴な物事のやり方や考え方が世界の表面を覆いはじめているなぁと。この10年ぐらい前から傾向はありましたけど、この9月11日の事件からドーンと表面に出てきて、このままだと、21世紀はもう少し夢のある時代を求めていたんですけど、なんか、世界貿易センターの倒壊した跡地のような、あるいはアフガンでヒンドゥクシの山脈の冷たい風にさらされながら、テントさえ毛布さえなく飢えと寒さをしのげずに死んでいくという難民の人たち、殺伐と寒々しい世界になっていってしまいそうだと感じてね。でもそれはしたくない。せめて持っている知恵や愛情や思いやる気持ちとかを差別なくね、先進国だから大事で第三世界の人たちはどうでもいいというものではなくて、みんな同じ立場で同じ命だというところにちゃんと立って、世界を見直していくという仕事のひとつがこれであり、ゴミの問題もそうなんですけどね。
●この件に関してはリスナーの皆さんもひとりひとり意見があると思います。私たちのこれからの生き方を考えるうえでも、一度この「非戦」をお読みになって、考えるきっかけにしていただけたらと思います。 ■このほかの星川淳さんのインタビューもご覧ください。
|
■作家・翻訳家、星川淳さん情報
『非戦』
『水路アメリカ横断8500キロ〜西へ!』
『屋久島水讃歌』 |
オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」
M1. A HAZY SHADE OF WINTER / BANGLES
M2. A LITTLE TIME / THE BEAUTIFUL SOUTH
M3. WIDE RIVER / STEVE MILLER BAND
M4. WALK OF LIFE / DIRE STRAITS
M5. THESE DAYS / JACKSON BROWNE
M6. IMAGINE / JOHN LENNON
M7. BRAND NEW DAY / STING
油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」
エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
|