2002.01.20放送
低山歩きの達人・イラストレーター、
小林泰彦さんを迎えて
イラストレーターの小林さんとは1995年の2月に千葉県にある富山(トミサン)という低山に一緒に登って以来。小林さんは2001年暮れに、山と渓谷社から、「日本百低山」というイラスト入りのガイドブックを出版されました。そこで、あらためて低山の魅力についてうかがおうということでご出演いただきました。まずは「低山」の定義についてお話いただきました。
「まぁ、誰でも気軽に、日帰りで安全に登っておりてこられる山、特別な技術もいらない山、言ってみれば里山ですね。人が昔から入って山仕事したりキノコをとったり、薪や炭を作ったりといった、人とのつきあいがあった山がそもそも低山だと思うんです。だから登山、山を登るというよりも山歩きですね。丘陵といってもいいくらいの高さのところです。この本では基準がないと困るので、1500メートル以下ということにしました。というのも、もともと深田久弥さんの「日本百名山」をもじったんですが、百名山が1500以上なんです。例外もありますが、そのように規定されてますから、それをいただいて、1500以下にしようと。でも1500だと、高い感じがするところもあるんですね。だから僕の感じでは1000メートルくらいまでかなと思いますけどね。」
低山歩きは寒い、涼しい時期の方がいいんでしょうか。
「日本海側の雪の降るところは別ですけど、太平洋側の東京以西なら冬がいちばんいいです。まず、夏がとにかく暑すぎちゃってだめなんです。低い山ですから平地と同じように暑い。草いきれがものすごいですから平地より暑いぐらいです。それに薮が茂ってますから、遠くが見えない。それは面白くない。それに虫が多い。虫が多いのは不愉快ですよね。だから暑いときはだめってことで、いちばんいいのは冬なんです。葉が落ちて遠くが見えて、歩いていると暖かくなってきますから寒くてちょうどいいんです。しかも虫がいない。冬の西風の冷たい風が吹いても汗をかいて暑くなってますから、ちょうどよく気持ちがいいですね。薮も茂ってなくて適当に枯れてくれますから歩きやすいし。」
しかも近郊なら朝起きて天気予報と相談しながら行く場所も決められますよね。
「もっとそれ以前に天気が悪かったらやめられるんですよ。今、土・日が休みの方もいますから、土曜がだめなら明日でいいやと。明日もだめなら来週でいいやというくらいの気軽さですね。近くの低山はそういういいところがあります。天気を選んでいきますから、いつも天気のいい日に歩ける。そこが遠くの高い山と違う大きな違いなんですよ。」
小林さんが出された「日本百低山」、実は仕上げるまでにかなりの年月が経ってしまったとか。
「いつでもやれるといえばいつでもやれるんですけど、百に絞るのが大変で、それに時間かかっちゃったんです。100のうち90までは簡単に出てるんです。その残りの10が、迷うんですね。私は優柔不断なほうなので、これを入れるならこっちの方がいいかなとか、それで何年もかかったって言うと、笑われるんですけど、本当にそうだったんです。高い山は限られてますよね。3000メートル以上の山なんて数えるほどしかないわけですけど、低山って無数にあるわけですから、とにかく無数の中から絞り込んだんで、僕は深田さんの百名山の方がずっと楽だったと思います。」
ちなみに小林さんが最後まで悩んだ低山はどれだったんですか?
「淡路島に先山というのがありまして、“日本最初峰”というサブ・タイトルがつく山なんですけど、不思議な山なんですが、実はそれを忘れてたんです。全部決まって本作りにかかってから、あれ入れないとまずいと。何故かといえば、日本最初峰、つまり神話の中で日本列島を神様がお作りになったときに、一番最初にこの山ができちゃったという伝説があるんです。ただ黙って登っておりてくるだけならいくらでもある山のひとつって感じなんですけど、やはりこの山の存在価値は“最初峰”ということなんですよ。それを思いだしたもんですから、どれかひとつ落とさなくてはいけない。もう、苦渋の選択でひとつ落としました。」
数えられないくらいの山から100に絞るのは大変ですよね。
「百名山の場合はどれも有名な高い山ですし、誰が選んでも入ってしまうという山がほとんどだと思うんですよね。でも、低山でもそれに似たものがあるんですよ。例えば、函館山。歌の文句にも出てくるし夜景の名所、誰でも知ってます。東京では高尾山なんて、遠足で高尾山に行かない人はいないくらい有名だから最初から名低山って決まっている。それから関西では六甲山。これも歌に出てくるし阪神ファンなら誰でも知ってるし、京都の愛宕山や比叡山も有名な名低山ですよね。」
今リストしていただいた中でも私は函館山も登ってますし、フリントストーンでも御岳山や高尾山にも行きました。でも、考えてみると函館山なんてクルマで行っちゃっていますね。
「あそこは山頂までクルマで上がれるし、ロープウェイもありますからね。この百低山に入っている山、乗り物で登っている人もたくさんいると思います。だけど、もしこの本を読んで“へぇ、こんな感じなのか”と思ったら歩いて登られたほうがいいと思うんです。自分で歩いて登ったんだぞというほうが気分がいいですから。低山は山登りではなくて山歩きですから、やはり歩くというのがいいですね。」
低山の魅力、もう一つありますよね。以前富山にご一緒したときワインを持ってきていただいて・・・。
「そうでしたね。あと、パーコレーターでコーヒーもいれましたね。結局、低山というのはほとんど装備がありませんから持っていくものが少ないんですよ。だからコーヒーもコンロからパーコレーターも持っていけるし、ワインなんてボトルで持ってけますから。」
ちなみにこの「日本百低山」には持っていったほうがいい持ち物もイラストで載っているので、分かりやすいですよね。しかも、小林さんの山のイラスト付き。
「低山というのは山の姿はあまり問題になっていませんよね。山の形が素晴らしい山だねぇというのは、案外少ないかもしれませんが、山の個性はあるんですよ。それは写真よりも絵の方が出しやすいですから、その山の印象は絵でかけたと思うので、印象はこれでつかめると思うんですね。実は、山の画文集は今までにもいくつも出してるんですが、今度はガイドもつけたんです。僕の本としては初めてなんです。だからこれを読んで行こうと思われた方は両方入っていてお得なんじゃないですか(笑い)。ただ、地図だけは私の書いた略図が載ってますが、2万5千分の1の地形図が市販されていますからそれを持っていかれるといいと思います。できれば行きたい山をあらかじめいくつかチェックしておいていただいて、その分だけあらかじめ2万5千分の1の地図を求めておいていただければ、いきたいと思ったときにすぐにいけると思います。」
それと楽しみのひとつ、ちょっくら温泉というのもいいですよね。
「低山歩きというのは時間が短いですからね。僕は歩行時間だけで3時間くらいを標準にしています。休憩時間もとっておかなければいけませんし、頂上でゆっくり景色を楽しんだり、ワインやコーヒー飲んだり、サンドイッチ作ったりとかもしたいですから。それでも登っておりてくると時間が余るんですよ。その余った時間、最近では立ち寄り温泉なんかもたくさんできていますよね。疲れが取れるし気持ちがいいし、そこでシャツを着替えちゃったりもして。あるいは神社仏閣もあるでしょうし、麓の町の面白いものに触れたり、土地のおいしいものを食べて帰ってくるとか、そういうプラス・アルファが楽しめるというところが低山歩きのいいところですから。」
小林さんはこれからも低山歩きを続けられると思いますが、「百低山」の次のプランは?
「幸いにして足はまだ丈夫ですから歩き続けますし、低山の連載も続けてますから、まだまだ続けていくつもりですけど、もし、まとめて本にするとすれば、今度は無名なものをやろうと思ってるんです。今回、有名なものをやりましたけど、誰にも知られていないけどいい山とか。そういうものをいいほうから100選んで「発見百低山」というかたちで。これからはそれを気にしていこうかなと思ってます。最後の3〜4つで苦しむんじゃないかなとも思いますけど。」
小林さんのお話を聞いているうちに、また近場の低山に行きたくなってきました。まさに今が低山歩きの旬。小林さんは東京近郊の近場のお薦めとしていくつか上げてくれました。高尾山、石老山(セキロウザン)、扇山を始めとする中央線沿線の山々、丹沢の大山や塔ノ岳、奥武蔵の笠山や伊豆ガ岳など。皆さんも「日本百低山」をもって、近場の低山に行ってみては?
『日本百低山』小林泰彦さん
山と渓谷社/本体価格、2,200円 絶賛発売中
北は北海道から、南は鹿児島までの100の低山がイラストと文で紹介されているこの本はそれぞれの低山を登るためのガイドも付いているので、すごく便利。関東地方の低山も多く紹介されているので、すぐにでも行けそうです。また、小林さんのカラーペンによるイラストを見ているだけでも楽しいので、ぜひ、あなたのライブラリーにも加えて下さいね。
小林さんのサイトはこちらからどうぞ。
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