2002年2月10日
天体写真家・林完次さんを迎えて今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは林完次さんです。
ベストセラー、「宙の名前」の作者、林完次さんは天体写真家として、いろいろな星の写真を撮って、それにエッセイを加えて、私たちを星間旅行にいざなってくれます。
「太陽風の影響で両極に出来るオーロラを通して星を見たらどうだろうな、と思って出かけたんです。だからオーロラを見るのも楽しみでしたけれど、出来るだけオーロラと星が同時に写るように工夫して撮りました。実はオーロラは星よりも明るいんですよ。星を撮るのはいつも苦労するんですが、思ったよりも明るかったので撮りやすかったんですね。ただ、星と違ってオーロラはゆらゆら動きますよね。それが想像以上に速かったですね」 ●酷寒の中での撮影、大変じゃなかったですか? 「国内で撮影するときは、冬場手袋をしますけど、作業がやりにくいので、指の先を切って、指を出してるんです。そうしないと細かい作業が出来ないもんですから。でもアラスカでこれを使ったら指先が凍傷になってしまうと思ったんですけど、一応持っていったんです。で、向こうでは分厚い手袋貸してもらってやってたんですが、どこを触ってるのかわからないんですよ。これはやりづらいなと思って、勇気を出して指だし手袋でやったんです。案外大丈夫だったので、一晩中それでやってました」 ●でも相当寒いですよね。 「僕の場合は、フェアバンクスの空港について、空港の中は25度ぐらいあったのが、外に出た途端にあまりにも寒くて、一瞬呼吸が出来ないほどだったんです。で、迎えの人に聞いたらマイナス38度だったんです。翌日、今度は近くのロッジまで歩いていったんですが、わりとあったかいなと思ったんですが、ロッジについて寒暖計を見たらマイナス25度だったんです。それであったかいと思ったわけですから、一日か二日で身体が慣れちゃったんですね」 ●そんな寒いところは星空も違うもんですか? 「これがなんというか、星空が凍りついているようで寒い分クリアーな感じがしました。それにいつも日本で見慣れている星空が30度分ぐらい上の方に見えるんです。例えば、北極星ですと東京で見ると北の空から35度ぐらいの高さに見えるんですね。それがフェアバンクスだと65度ぐらいに見えるんです。あぁ、かなり寒いところに来たんだなぁと思いました」 ●アラスカのほかにも、ハンガリーのバラトン湖という湖でも写真をお撮りになった・・・。 「はい。ちょうど20世紀最後の日食というのが、ヨーロッパ全体を通過してみられたんです。私は晴天率と皆既時間の長さを考慮して、ハンガリーにしたんです」 ●写真も本当に見事なんですけど、あれは、真っ暗になっちゃうわけではないんですよね? 「真っ暗ではないです。全部隠れた皆既の状態で夕暮れよりも少し暗いかなという感じですね。これがね、今まで昼間だったのが突然夜になるわけですから、鳥なんかは慌ててねぐらに帰ろうとする現象があるんです」 ●昔の人たちがこの現象を見ておびえるのもわかるような気もしますが、皆既日食もオーロラも、空でおこるミステリアスなショーというのは人間の小ささを浮き彫りにしますよね。で、ここに群馬県の榛名湖で撮られた写真があって、ここに奇妙な光が映っていると。山の上のところにスーッと。 「なんか花火が打ち上がったような星の光りが見えているんですが、撮影中は気がつかなかったんです。家に帰って現像してみたら、こんな光があったことに気がついたんです。このとき実は数コマ写してありましたので、他のコマと比べたら、この光、下から上に流れているように見えるんですが、本当は上から下に向かって流れている光だったんです。下から上だったら花火のような感じがするんですけど・・・」 ●これ、UFOだったりして。なんか、ちょっとワクワクしてきたんですが、リスナーの方でわかった方があったら教えていただきたいんですけど。
「私、“UFOの様な光”というのは、過去に何回か経験しているんです。一回目はビバリーヒルズの近くのホテルに泊まってたときに、西の方の空を見ていたら、ちょうど宵の明星、金星が輝いてたんですが、その脇にポツンと星が見えたんですよ。で、その光がどんどん強くなって、宵の明星と同じぐらいの光になって並んじゃったんですよ。『なんだろう、これもしかして新星じゃないだろうか』と思って、電話しなくちゃと思って立ち上がったところ、今度はその光が横に動き出したんです。その途端に明滅しているのがわかったんで、『あぁ、飛行機だ』とわかったんです。飛行機が真正面から飛んできてたんですね。
●ところで、林さんは沖縄でもたくさん写真を撮っていますが、その土地その土地で、星や太陽の呼び方が違うそうですね。沖縄の方言では“太陽が沈む”というのを“シナが沈む”というんですね。なんか風情がありますけど、沖縄の星はどうなんですか。見え方も違うんですか? 「一番端的に表せるのは南十字星ですね。本州からだと全く見えないんですよ。九州まで行くと南十字星の4つの星の一番上の星だけ見えます。でも、一番上の星だけ見えたってわからないですよね。やっぱり4つ全部そろって十字架の形になってわかるものですから。それが沖縄の那覇まで行くとちょうど水平線上に4つ全部顔を出すんです。あぁ、南に来たなという感じがします。さらに南の方に八重山諸島があって、最南端には波照間島というのがあります。ここは沖縄よりも500キロ南ですから、さらに上の方に南十字星が見えます。日本はけっこう広いんだなと思いますね」 ●林さんは去年、この「宙の旅」とは別に、角川書店から「星の島」というフォト&エッセイ集も出されています。 「ちょうど沖縄から八重山諸島の方に行くと、飛行機から海の中にサンゴ礁が隆起して出来た小さな島がたくさん見えます。それを土地の人は「星の島」と呼んだんです。方言では「プシヌシマ」というんですね。その表現がなんとも良かったので、これを書名にしたんです。向こうの海の色って全然違いますよね。青くてきれいで、砂浜は真っ白ですし。そして夜になるとそこに宝石をちりばめたように見えますから、昼間の青い海と夜の青い星を撮ったのが「星の島」なんですね」 ●いろいろな星を撮っている林さんなんですが、ギリシャ神話だったり中国の伝説だったり、同じ星でもいろいろな話がありますよね。何か印象に残っているものはありますか? 「そうですね。今の時期ですとオリオン座が見えてますね。オリオン座はギリシャ神話だと海の神ポセイドンの子供で、カッコ良くて背が高い狩人なんですが、乱暴者なのが玉にキズ。おれは強いと公言しすぎて、神の怒りを買いサソリに刺されて死んだという話が伝わっているんですが、そのオリオンにもサソリにも三つ星があります。これが中国ですと、二つの三つ星を、オリオンの方を“参(シン)”、サソリの方を“商(ショウ)”と呼んでいて、二人の兄弟を表しているんです。この兄弟は仲が悪く剣を取って戦うところまでいったので、王様が苦慮してこの二人が顔を合わせないように、東西の国に分けたんです。そうしたら国が安定したということで、“人生相見ざること参と商のごとし”ということわざも生まれたんです」 ●話の内容は違うけれど、意図しているところは同じなんですね。また、この中でサソリは中国で青竜に見立てられているということも書かれていますが。 「中国には宿と呼んでいる独自の星座があるんですね。青竜は巨大なものとしてみています。サソリ座の隣に天秤座がありますが、そこからはるか彼方の牛飼い座と乙女座まで続いているんです。牛飼い座にはアルクトゥールス、乙女座にはスピカという一等星があるんですが、それが竜のツノだというわけです」 ●なかなか面白いですよね。星を見上げるなら今がいちばんいい時期ですよね。 「何気ないときにふっと窓を開けて、ちょっと空を見ると昼間と違った空気が流れてきますからね。それに冬は冬の匂いがしますから。その時に出来ればちょっと上を見上げていただければいいんじゃないでしょうか」
この時期、夜空には8つの一等星が輝いています。
■このほかの林完次さんのインタビューもご覧ください。
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■天体写真家・林完次さんの著書紹介
『宙の旅』
『星の島(プシィヌシマ)』
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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」
M1. STARS / SIMPLY RED
M2. オーロラのささやき / 神山純一
M3. FLYING / NICE LITTLE PENGUINS
M4. WAITING FOR A STAR TO FALL / BOY MEETS GIRL
油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」
M5. STARDUST / WILLIE NELSON
M6. 星ぬ子守歌 / TINGARA
M7. 見上げてごらん夜の星を(A SONG FOR YOU AND ME) / 4 P.M.
エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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