2002.2.17放送
ツリー・クライマー、ジョン・ギャスライトさんの
木の上で話そう。
フリントストーン初登場になるジョン・ギャスライトさんは、愛知県瀬戸市を本拠に活動するツリー・クライマーです。ツリー・クライマー、すなわち「木に登る人」。ジョンさんはツリー・クライミング・ジャパンという組織を率いて、木登りの素晴らしさを伝える活動をしているんです。そもそも、あまり聞きなれない、このツリー・クライミングとは、どういうことなんでしょうか。今夜の会話はそのあたりから始まりました。
「僕たちはレクリエーション・ツリー・クライミング、つまり子供からお年寄り、身体障害者に至るまで、だれでも安全に木に登る。世界中のどんな木でも登るという目的です。それが世界17カ国にある組織で、本部はアメリカのアトランタ。そして私たちは、その日本支部、ツリー・クライミング・ジャパンになったというわけです。もともとは18年前にピーターさんという樹木医さんが、仕事のためにあちこちの木に登っていたのを子供たちが見て、やりたい、というところから始まったんです。だからハーネスやロープ、サドルなどを使って安全に登る、樹木医が持っていた技術をアレンジしたものなんですね。子供たちは木に登ったりすると、木と友達になります。そうすると環境のことも興味が湧くし、一本の木と友達になると、他の木や森にも興味が湧くということがわかりました。」
ただ単に木に登るだけじゃなくて、環境教育の一環としても役立つものなんですね。
「実は子供たちは友達が出来たらその人と遊びたいし、守りたい。これは木も同じです。登ったり、遊んだり、木の上で寝たりしていたら“この木は生き物だ。一日どのくらい水を飲んでるんだろう”という興味を持ちます。そういう話をしていると、今度はどうやって木を守ろうかとか、森をどうしていこうかとか、発想がどんどん走り出す、ひとつのきっかけですね。」
でも、そんなツリー・クライミングにもルールはあるんですよね?
「ルールもあるけど、マナーですね。だから、木を絶対傷つけない、スパイクは使わない、季節ごとに木のダメージを考えて、登る木を決めたり、ずっと同じ木に登っていると木が痛みますから、根っこが元気になるような工夫をしたり、プロテクターを使ったり。ルールとしては、森の中に前から住んでいるいろんな動物のことを考えて、巣がある木には登らない。それとゴミは絶対に残さない。トイレはね、本当は高いところからオシッコするのは楽しいけど、ルールとしてはしない。僕たちはツリー・トップ・キャンピングといって、木の上に泊まったりもします。そのためにはビンを用意するとかして人間が出すものは人間がもって帰る。」
ということは、ツリー・クライミングのルールというのは、自然の中に入っていくときのルールやマナーと変わらないってことですね。
「そう。もちろん厳しい安全のためのルールはあるけど、マナーや心から始まるんですね。」
ジョンさんは実は、ずっと夢だったツリーハウスの生活を、ここ日本で実現させたわけですが、その最初のツリーハウスは、味噌ダルで作ったんだとか?これって快適ですか?
「いやぁ、けっこう臭いよ。でも慣れてくるといいよ。実はね、本当の話をしていくと、結婚して子供が生まれて、ウチは男二人、7歳と5歳なんですけど、次男が生まれたころに奥さんと子育てについて話をした。人に優しいとか自然に優しい、夢をもって人を助ける力を持っていてたくましい子供。それには、私たちがそういう大人、親にならなければいけないということで、じゃぁ、夢をもって頑張ろうと思った。僕がカナダにいたときにいじめられたことがあって、辛い時期があったんだけど、僕のおじいちゃんが“いじめられたときには木に登れば大丈夫”と言って、高い木に登ってみた。それで、大きな木の上に行ったときにおじいちゃんが“人生、学校だけがすべてじゃない。この町の中のたくさんある建物の中のひとつだし、学校なんて小さなもの。視点を変えれば問題は小さくなるよ。ほら見てごらん、学校は小さいだろ?”と話をしてくれた。でも僕は一生懸命頑張っても友達が出来ないと、泣きながら言った。そしたらおじいちゃんが“それは間違ってるよ。ジョンはいい人だから、自分の夢をもって頑張れば、みんなジョンの友達になりたがるよ。合わせる必要はないよ”って言ってくれた。“でも言うのは簡単だけど、どうやってやるの”って、聞いたら、“この木の上に小屋を作れば、目立つし誰もやったことが無いからみんな友達になりたがるよ”って。それで作ったんです。そしたら、おじいちゃんの言う通り、僕が廃材を集めたりして楽しそうに作ってたら、みんな寄ってきた。その時に、大人になったらこんな家を作りたいと思った。
で、結婚して子供が出来たのを機に、廃材でツリーハウスを作ろうと思って、何かないかと思っていたときに、たまたま見つけたのが味噌ダルだったんです。これだぁと思って、味噌ダル譲ってもらって・・・。日本は何百年も前からタルとつきあってて、酒ダルを使ってる人はいるけど、味噌ダルはどうやっても臭いんですよ。でも、何が目的かといえば、子供たちにとって夢がある、日本らしい、リサイクルできる、今まで誰もやっていない。だから最初は変な外人がなんかやってるという感じだった。でもいろんな人が応援してくれて、住職が寺の土地を提供してくれたりして今、快適なツリーハウスになったんです。」
本当はちょっとしたツリーハウスにするつもりだったのが、一歩誰かが踏みだしたら予想以上に夢が広がったということなんですね。
「夢というのは面白いのは、自分だけの夢だと大きくならない。みんなの夢になると大きくなるんです。ある日、重度身体障害者の方が訪ねてきた。たまたま僕が木の上に登って遊んでいるときに、それを見た彼女が“私も登りたい。私があのうえに座ったら身体障害者じゃなくなる”って言ったね。その時におじいちゃんが“自分の夢がないなら他の人の夢を応援して。そうすればいつか自分の夢が生まれてくるよ。それに夢を運んで来る人は人生の財産だよ”って言ってたのを思い出した。そこで、“約束する。この10メーターぐらい登れるよ”って言ったんだ。言ったあとに、ワオ、どうやってやるんだろうと思って、探してみたら、アメリカにツリー・クライミングの教室があるってことがわかって、この道に入ったんです。」
じゃぁ、ツリー・クライミング・ジャパンの代表を務めるまでになるにはいろんなことがあったんですね。
「あったね。ホントにね、木に登りたいというのは、その彦坂さんという人の夢だった。それを応援しているうちに学校を作りたいという夢が出てきた。今までに3700人以上、日本でツリー・クライミングの経験が出来た。だからその人の夢はいろんな人の夢になったんです。」
ジョン・ギャスライトさんは、朝日新聞の夕刊に『木の上で話そう』というコラムを書いていらっしゃって、大好きな木から教わったこともたくさんあるということも書いてますが。
「日本語の木は、英語ではTREEだけど、ケルト語では“先生”という意味。アメリカの先住民は“木は立っている人間だ”といった。もともと木はいろんなことを教えてくれたんです。ツリー・クライミングをしていると、木のボディ・ランゲージがわかります。普通森の中を歩くと、木のお尻ばかり見てるじゃない?」
あぁ、下から見上げてるだけですからね。
「そう。でもツリー・クライミングをやっていると頭まで行ける。上から下を見ると木の本当の美しい姿が見えるし、根っこのことがわかってくる。森の中の木はいろいろな種類があるけど、根っこはみんな手をつないでます。みんな助け合っているんです。私たちは社会の中でそれを忘れていますね。“僕は一本の木だ”というけど、考えてみると森と同じように、みんなつないでますね、助け合ってますね。人間も助け合いをしないと社会にはならない。そういうことも教えてくれます。シュガー松という木があります。世界一大きな松の木です。松ぼっくりは40センチもあるんです。この木は成長が早いので、根っこが追いつかない。だから風が吹くと倒れやすいんです。この木は自分が弱いことを知っているから、高いところに大きな松ぼっくりを作るんです。そこに風に乗っていろいろな木の種が運ばれてきて、松ぼっくりの中に入り込みます。やがてこの松ぼっくりは、その松の根元に落ちて、そこからいろいろな木が成長して、それぞれ根っこを張ります。自分の根っこの上にいろいろな木の根っこが乗って、押さえてくれるんです。で、この松の木は他の木にとっては、日差しをある程度和らげてくれたり、雨よけの傘になってくれるから、弱い木でもこの木の周りで育つことが出来る。それで森が出来ていくんです。この木に登ったときに僕は、日本はシュガー松に似てるなと思いました。成長が早くて大きくなったけど、根っこが弱い。社会の面とかね。今日本は一生懸命、教育を変えたり身体障害者に対する思いとか、いろいろなことに気がついて、自分の根っこにいろいろなアイディアやタネを呼ぼうとしている。このようにツリー・クライミングするといろいろなことが心に生まれてくるし、木はいろいろなことを教えてくれるね。」
ジョン・ギャスライトさんの朝日新聞の夕刊コラム、『木の上で話そう』の中に、樹齢、およそ300年、という1本のイチョウの木にまつわるお話があります。この大きなイチョウの木は、ジョンさんがいつも歩いている道から見えるそうで、前々から、いつか登ってみたいと、ずっと気になっていたそうなんですが、ある時、念願かなって、そののびのびと育った大きなイチョウの木に登り、満足して降りてきたジョンさんは、近くに住むおばあさんから色々な話を聞いたそうです。例えば、昔は、紅葉の季節になると、子どもたちがやって来て、そのイチョウの木の絵をかいたり、写真を撮りに来る人もたくさんいたけど、今では滅多に来なくなったこと。また、畑や土地を守ってきたお年寄りが亡くなると、更地にされて土地が売られてしまうこと。ちなみに、ジョンさんの故郷カナダでは、素敵なイチョウの木があったりすると、それだけで魅力のある高価な土地になるそうなんです。ところが、日本では、建築と区画の都合で大きな木も切ってしまい、わざわざ味気ない真四角な土地にして売ってしまう。これは木や風景に対するセンス、価値観、国民性の違いかもしれないと、ジョンさんは考えたそうです。でも、そのおばあさんの話を聞いたジョンさんが何よりも心を痛めたのは「私が死ぬと、この木も死ぬと思う」というおばあさんの言葉だったんです。
「この話の裏にはね、実はおばぁちゃんと話をしたんだけれど、“私が死ぬのを待ってるんだわ”って。いろんな不動産屋さんが土地を狙ってるって話で“私が死んだらこの木も死んじゃうわ。だからこの木のために長生きするわ”って言うんです。“80歳にもなって私の木に外人が登って、その木の下で外人と日本語で、この木のことを話すなんて夢にも思わなかったわ。あんたに会ったからあと20年生きられるわ”って言ってました。そして、僕はおばぁちゃんに約束した。おばぁちゃんがいなくても僕はこの木を守るよっていって、たくさん写真を撮りました。それを役場に持っていったんです。そうしたら役場の人が、こんなきれいな木があったのかって言いました。やっぱり上から見てないからわからないんだね。それでこの木は残すべきだということになったんです。
日本はもともとみんな木が好きですね。自然が大好きな皆さんです。木の国といわれている日本ですからその心は消えてない。ただ、いろいろな視点で木を見る力がなくなってるんです。だから、いろいろな視点で木を見始めたら日本は早いと思う。世界一の環境リーダーになる力を持ってると、僕は思います。」
いろいろな話を聞かせてくれたジョン・ギャスライトさん。この次は木の上で続きを話しましょうと約束してくれました。その日が待ち遠しいですね。
*「ツリー・クライミング・ジャパン」のイベント
もっと多くの方に「ツリー・クライミング・ジャパン」のことを知ってもらいたいということで、主に地元・愛知県瀬戸市のほうで行なわれているスクールやイベントなどを、今後は首都圏でも計画中。ツリー・クライマーの育成も行なっていきます。今後のスケジュールも要チェック!
日程&内容:
3月21日(木・祝)午前中 子供やファミリーを対象にした「ハーフデー・ツリー・クライミング」
3月21日(木・祝)午後~23日(土) 「ベーシック・クライマー」の講習
場所:横浜こどもの国
お問い合わせ:ツリー・クライミング・ジャパン事務局
電話:0561-86-8686
その他:プライベート・レッスンやグループ・レッスンも行なっています。詳しく
はお問い合わせください。
ツリー・クライミング・ジャパンのサイトはこちらです。
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