2002.3.24放送
エコ・ビジネス・ルポ第10弾
エコ・カーの過去・現在・未来


今回はエコ・カーについて掘り下げていこうと思います。そのための助っ人として慶応義塾大学理工学部システムデザイン工学科の飯田訓正教授に来ていただきました。で、まずは初歩的なところから、エコ・カーの種類、どのようなものがあるのかうかがいました。
飯田教授「まずは排気ガスをきれいにするという観点から最初に出てきたのが電気自動車という考え方です。走っているときには燃料を燃やさず電気の消費だけですね。それから燃料の中で排気ガスをきれいにしやすい燃料というものがあります。メタノール、すなわちアルコールを燃料にしたものやディ・メチル・エーテルを使ったものがあります。天然ガスも燃料が非常にシンプルなので、その分類に入りますね。それから、将来のテクノロジーとして、フューエル・セル、燃料電池というテクノロジーがあります。これは水素と酸素を反応させると水が出来ますが、その過程で電気を作って、それで自動車を走らせるもの、燃料電池自動車です。ただ、電池と言っていますが、電気を蓄えるという意味ではなく発電装置です。そのほか、旧来のエンジンでもアイドリングから最高出力まで広く使わないで、エンジンの得意とするところだけ働いてもらって、足りない分は電気のモーターに助けてもらおうということで、効率を良くしたり排気ガスをきれいにしたりする考え方があります。これをハイブリッド自動車と呼んでます。ハイブリッドは異種のものを組み合わせたという意味ですから、電気自動車のいいところと、高効率のエンジンのいいところを組み合わせたものです。日本ではこのテクノロジーが市場でも成功してたくさん走っています。」

現在市場ではトヨタのプリウスやホンダのシビックなど、いくつかのハイブリッド車が販売されていますが、エコな取り組みのひとつの側面として、燃費の向上ということをテーマに、軽自動車の分野で早くからハイブリッドの研究に着手していたのが、ダイハツ工業株式会社です。E・HV開発部長の北村晏一さんに、ダイハツ工業株式会社の取り組みについて聞きました。
「1970年頃、フェローという軽の乗用車があったんですが、そのハイブリッド車が開発されました。その方式は前輪がエンジン、後輪をモーターで駆動するというものでした。その後、1974年頃に、朝日新聞社さんに納めたハイブリッドがありました。これはデルタのハイブリッド・トラックで、エンジンとトランスミッションの間にモーターを配したもので、住宅地の中のように静かに走らなければならない、排気ガスをまき散らしてはいけない地域ではモーターで走り、郊外に出るとエンジンで走るというハイブリッドでした。その後もいろいろなものを開発しましたが、最近では1999年のモーターショウに出品したものがあります。これはムーヴをベースにしたものでプリウスとほぼ同じようなシステムのものです。複雑な技巧と複雑な制御を必要とするものなんですが、その分燃費の向上効果も大きく、リッター37キロという数字を実験車で実測した経緯があります。
 要するに、クルマの燃費を向上させる方法としてエンジンの性能をあげるという方法と、クルマ自体の走るときのエネルギーを小さくする、すなわちクルマを軽くする、走行するときの空気抵抗を下げるというようなことを極限まで詰めれば同じエンジンを使っても燃費は非常に向上するということですので、当時のムーヴに搭載したハイブリッドを少しリファインして、もちろんエンジンも燃費がいいエンジンを持ってくればどうなるかということで、追及して開発したのが、UFEという2001年のモーターショウに出したクルマなんです。」

こうしてダイハツ工業株式会社はリッター55キロという驚くべき低燃費のクルマ、UFEを開発したんです。この夢のような車が実際、市場に出てくるときを楽しみに待ちたいところですね。

 さて、飯田教授は、エコ・カーを長期的に考えたときには、石油のことを考えないといけないだろうとおっしゃっています。それは、石油が限りある資源だからです。

「石油可採埋蔵量、採ることの出来る石油の量という意味なんですが、地球をちょうど(直径)1メートルの地球儀としますと、なんと仁丹ツブ一粒が地球上にある我々が使える石油の量なんです。あの銀色の小さな仁丹一粒なんですよ。で、今年世界中で使った石油の量をもとに、あと何年使えるかという可採年数を割り出すと、42年とか43年でなくなっちゃうんです。それに替わる燃料は何かといわれると、天然ガスがあって、これを大事に使っていきましょうということになっています。石炭はもっとたくさんあるんですが、これは炭素で出来ていますから、燃やすと全部CO2になってしまいます。ですから、やはり水素が入っている石油、それが無くなったら天然ガスというのが今の大きなエネルギー資源の流れです。日本の場合は周りを海で囲まれていますから、パイプラインで天然ガスを運んでくることが出来ないんですね。だから諸外国よりもはるかにコストが高くなります。」

以前この番組でヴェジタブル・ディーゼル・フューエルというものを取り上げたことがあるんです。VDFですね。いわゆるテンプラを揚げたあとの廃油とかを使って燃料を作り出すということでいうと、リサイクルの観点から見ても非常にいいと思うんですが、このあたりはどうですか?
「バイオ・フューエルと一般的に言いますが、化石燃料もバイオ・フューエルも同じように燃やせばCO2が出てきます。じゃぁ、なんで技術者達が大事に考えているかというと、バイオ・フューエルというのはそのまま放っておいてもCO2になっちゃうんですね。例えばスウェーデン政府が力を入れているのが森林から木を伐採して、ビール工場みたいなところで、砕いた木からエタノールというアルコールを作ります。これでストックホルムではエタノールを使ったバスが走っています。木というのは葉が落ちたり枯れたりして倒れていきますよね。その倒木はバクテリアが分解して、みんなCO2になって大気に還っていくんですね。循環してるんです。だとすれば落ちた枝とか葉っぱを森林を破壊しない程度に採ってきてアルコールにして自動車を走らせても、バクテリアでCO2に還っていくのと自動車を走らせてCO2を出すのと、同じなんだという考え方です。ようは、環境に優しくて排気ガスがクリーンであるということ、それと一種類じゃなくて多種のエネルギーを使って、どれかが枯渇しても替わりがあるようにという複数のものを使っていくということが大事な戦略になってくると思います。」

エコ・カーの取り組みは、限りある資源を有効に使うということ、二酸化炭素をできる限り出さないこと、そして、排気ガスをクリーンにすること。これらの要素を総合的に考えていかないといけないということなんですね。資源の有効利用については飯田教授の言う通り、今使える資源を有効に組み合わせて使うという方向が示されています。そして、炭酸ガス排出問題に関しては、京都議定書以来、世界的な取り組み課題となっているわけですが、ダイハツの資料によれば、日本における運輸関係から排出される炭酸ガスは、1990年を100とすると、2000年で既に125%に達しており、このままで行けば2010年には140%に達する見込みだと言われています。それを1995年の水準、つまり、115%程度に抑えるために、今、様々な努力がなされています。この水準を実現するためには1300万トンのCO2を削減する必要があるんですが、そのうち500万トンは、クルマの燃費改善で実現しようという試みなんですね。そのためにはハイブリッドが有効であると、北村さんは考えています。
「ハイブリッドの技術というのは過渡期でも何でもなくて、一般のクルマに搭載されているのはガソリン・エンジンとか、ディーゼル・エンジンとかの、いわゆる内燃機関のエンジンが積まれているわけですが、このエンジンが続くかぎり、燃費を向上させるためにハイブリッド・システムが付加されていく割合が非常に増えていくだろうなと思います。従来はエンジンの有害な排出ガスを低減させる技術のひとつに触媒という、排出ガス浄化デバイスというものがありました。ハイブリッドというのは、ある見方をすれば、燃費を向上させるひとつのデバイスとして多くのクルマに、ゆくゆくはほとんどのクルマに採用されていく技術だろうなと思います。」

また、一般エンジンの分野でもダイハツは触媒技術の向上に取り組んでおり、その結果、国土交通省が規定する、「超低排出ガス車、ウルトラ・ロー・エミッション・ヴィークル」に、8車種10型式が認定されています。これは軽自動車ではダイハツだけで、国内ナンバー・ワンの実績なんです。そう考えるとダイハツはエコ・カーの分野におけるリーディング・カンパニーだと言えるのではないでしょうか。

 さて、一口にエコ・カーといってもいろいろな種類があって、消費者の立場では何を選んでいいのかわかりません。しかも、価格的にもエコ・カーというと、一般のクルマよりも高くなっている場合がほとんど。何か、消費者が参考に出来るような尺度はないんでしょうか?飯田教授にうかがいました。

「例えば自動車に乗ってどこまで行ったと。いつもだったら50分かかったのが今日は40分で来れた。これは時計がありますから今日は早く来れたという実感があります。それから家族で毎年スキーに行くと、前のクルマはガソリン代が5000円だったけど、新しいクルマになったら4000円で済んだとなれば、金額で実感できます。これらは目盛りなんですよね。ところが、自分の自動車がどれだけ窒素酸化物を出したかとなると、なかなかわかりません。私自身大学で排気ガスの計測をしていながら、自分のクルマがどれだけ出しちゃったかは知らないんです。でも、これを知ることが出来たら、選ぶ基準になると思います。クルマの中に速度計や燃料計と一緒に窒素酸化物計がついてて、“あれ、おまえのクルマはもう2トン出してるね。俺のは1.5トンだぜ”となると、私はこれで30万円高いエコ・カーを買ったけど、買った価値があると、地球に対して優しいことをしたということが数字で確認できます。そして実感できる。その目盛りが必要だと思うんです。専門的には、こういうのをライフ・サイクル・アセスメントと言いますが、自動車を作って、走って、廃棄されて、そのトータルでどれだけエネルギーを使ったかということなんですね。で、自動車だと難しくてわかりにくくなっちゃうんで、お米に置き換えて説明します。
 朝ご飯、茶わん2杯分のお米が、ご飯として炊き上がるまでにどれだけのエネルギーを使ったか、それを石油に換算したら、どれだけの石油に相当するかということを考えます。ご飯を炊いた炊飯器は電気を使ってますから、その電気代を調べますよね。電気はどうやって作っているかというと、電力会社が石油から作っていますから、使った電気分の石油の量がわかります。同様にお米屋さんがかけている精米機の電気、それから農協からお米屋さんまでの運送に使うトラックの燃料、日本の米の場合長期に保存しますから、倉庫の保存のための冷蔵装置や空調の電気代、農家の耕耘機や脱穀機、田植え機を動かすための燃料や電気、水を汲み上げるエネルギーもあるし、肥料を与えたならその肥料も肥料会社が工場でエネルギーを使って作ってます。それらを全部足し算するんです。そうすると、茶わん2杯分のご飯は牛乳瓶の半分の石油を使ってることになるわけです。」

こうして、ひとつの尺度に換算することで共通の物差しが出来るわけなんですね。将来的には、私たちは、ある一定の物差しを見ながらどのクルマがいいか判断できるようになるというわけなんですが、実用にはまだまだ時間がかかるということです。

 さて、来年にも市場に登場すると言われているエコ・カーがフューエル・セル、燃料電池車です。この燃料電池車の良さについて、ダイハツの北村さんにうかがいました。

「ガソリンの持っているエネルギーをクルマを走行させるエネルギーに変換させる、エネルギー変換効率を考えた場合、内燃機関、つまりガソリン・エンジンやディーゼル・エンジンよりも、燃料電池の方が効率がいいということが最大のポイントとなって、燃料電池車が有望視されているということなんですね。で、燃料電池の場合の燃料は水素です。この水素というものはいろいろなものから取り出せるんですね。決して化石燃料だけに限ることなく、単純に言えば水を電気分解すれば水素が出てくるわけですから、いろいろなエネルギーを使うことが出来る。つまり、変換効率が高いことと、いろいろなエネルギーを使えるということが燃料電池車が有望視されている理由でしょう。また、燃料電池車の場合、もし水素そのものをクルマに積んで走らせるとするならば、排気ガスは出ず、水が出てくるだけという完全無公害のクルマということです。」

お話の中に出てきたエネルギー変換効率ですが、トヨタが発表しているそのデータによると、油田から採掘した原油のエネルギーを100とすると、一般のガソリン車の場合、タイヤに伝わるまでに、14%に減少、プリウスのような燃費向上効果の高いハイブリッド車で26%、ところが燃料電池車は現状で29%、目標値は42%と、ガソリン車の3倍、ハイブリッド車の1.5倍の効率ということになります。そんなところからも燃料電池車が有望視されているわけなんですね。
 
でも、エコ・カーの技術はまだ始まったばかり。言ってみれば子供の段階。エコ・カーの未来について飯田教授は次のようにまとめてくれました。

「多様性があっていろいろなアイディアでいろいろなものが出てくると思います。その中には残念ながらそのまま育っていかないものもあるし、育つものもあるでしょう。今の段階では43年で終わってしまう石油資源を、今の自動車の効率と排気ガスをきれいにしながら続けて使っていく。そのほかに、フューエル・セル(燃料電池)のテクノロジー、あるいはディ・メチル・エーテルとかアルコールといった新しい燃料を使った自動車の中からいいものが残っていく。ハイブリッドにしてもそうでしょう。全部がハイブリッドに替わっていくかもしれないし、天然ガスに替わっていくかもしれないし、あるいは天然ガスから水素を取り込んでフューエル・セルで走るのがいいということになるかもしれない。色々多種のものが出てきて、みんなでそれを暖かく見守って育てていただくというのが大事だと思うんですよね。」

慶応大学理工学部教授・飯田訓正(のりまさ)さんの「飯田研究室」では、高効率で低公害化な、究極の自動車の開発を目標に、近未来エンジンやディーゼル燃料、そして製造から排棄までの「ライフ・サイクル・アセスメント」などの研究を行なっています。興味があるかたはぜひ覗いてみてください。
ホーム・ページ:http://www.iida.sd.keio.ac.jp/japanese/index_jap.html

ダイハツ工業は1965年(昭和40年)から電気自動車の開発を行ない、1972年には燃料電池車を開発。いち早くエコカーの開発に着手した自動車メーカー。意外に知られていませんが、ガソリン・エンジンの超・低排出ガス車(U-LEV)は今年1月の時点で、ダイハツの場合、8車種10型式。これは国内の自動車メーカーではいちばんの数で、軽自動車ではダイハツのみ。1リットルのガソリンで55キロも走る超低燃費の4人乗り軽自動車「UFE」は今のところ、発売日などは決まっていませんが、ホーム・ページでは「UFE」の写真などを見ることができます。
ホーム・ページ:http://www.daihatsu.co.jp/

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