2002.9.8放送

くやしい探検隊、松木信義さんとアファンの森を歩く


 先週に続いてアファンの森からお送りするザ・フリントストーン。今週はC.W.ニコルさんとともにアファンの森を作ってきた森の達人、松木信義さんに案内していただいて、アファンの森を歩きます。久しぶりに“くやしい探検隊、略してくや隊”を組んで、森を歩くことにしました。永年にわたるリスナーならご存じかと思いますが、“くや隊”というのは、椎名誠さんの“あやしい探検隊=あや隊”にあやかって結成した、我がザ・フリントストーンの探検隊なんですが、いつもくやしい思いばかりをするので、“くや隊”と名付けられています。さてさて、今週はどんなくやしい思いをするのやら、早速森の入り口に集結した我々・くや隊一同を松木さんがで迎えてくれました。
ちなみに、この日のくや隊のメンバーは以下の通り。
1.エイミー隊長
2.エビカモ
3.フリント・ウェブのウェブ・マスター、カール君
4.サキ(ジイサンの娘)
5.ジイサン
そしてタイチが録音係です。


エイミー(以下:エ):さて松木さん、この森なんですが、ニコルさんと松木さんが設計しつつも、植えたもの、自然に生えてきたもの、色々あると思うんですが。
松木さん(以下:松)「自分なりにバランスなど色々考えて、残したほうがいいと思えば、たとえ草一本でも残すし、木の害になると思えば取り除くようにしてます。森全体を考えた中で、この場所にはこれが合うだろうとかという色分けはしてます。木の適材適木ということで、沢の湿地にはカツラを植えるとか、トチを植えるとか、ちょっと上がったところにはケヤキやナラとかね。草花だったらあまり湿地を好まないハギとかね。色々なものがあります。」
:いつも自分で不安になっちゃうんですけど、森に入ってきたときに私たちの足下なんですけど、雑草のようで雑草じゃないじゃないですか。
「雑草なんて名前はないんです。木にならないものを総称していろんなものを雑草というのであって、雑木みたいなもんだ。雑木なんて種類はないんだ。多くの種類を雑木というので、草だったら雑草と、こうなるわけだ。」
:歩いていくときに踏んでいいのか、だめなのか、気にしちゃうんですよ。
「それはいい心がけです。そういう人今どき少ないです。何でも構わず歩かれちゃうというのは、オレもニックも嫌うんだけどね。つまり、今は夏だからある程度伸びてるけど、芽が出たばっかりの時、踏まれちゃうとそれでだめになっちゃうのね。枯れて終わりになっちゃう。だから、木の葉や緑の色など、いろんなものを見て踏んでいいのかいけないのか、瞬時に判断するだけの知識がないとね、山をムチャクチャに歩くというのはホントはまずいんです。」
:ということは山に一歩入る前にある程度の知識をもって・・・
「そう。だからね、今年も春先に俺がついてなくて、教官が一緒だからいいだろうと思ってたら、芽が出たばっかりの時に踏み荒らしたから、カツを入れてやったなんてこともあったぐらいだからね。例えばここにあるんだけど、これトチなのね。最初は赤い芽で一本の棒のようになって出るんだ。ちょっと見ただけじゃわかんないんだ。」
:あっ、わかんないですね。
「だけど、おらが見れば瞬時にこれはトチの芽ということがわかるんだよね。」
:ちなみにウチのくや隊の中にはグリーン・セイヴァーがいますけど。
ジイサン(以下:ジ):はいはい。私のことですか。
:グリーン・セイヴァー、どうですか。わかりますか、ぱっと見て。葉っぱがないですけど。
:わかりません。ただの草にしか見えません。
「ハハハ」
:じゃあ、今日はこの後森の中に進むにあたって、松木さんの足跡を追うように。
一同:ハ~イ
「だからね、いつも通ってる道を歩いていってもらえば間違いないです。そこにはたとえいいものが出ていても育つ木はないです。育てないから。それは踏んでもいいです。それもいけない、あそこもいけないということになれば、もう歩くとこはなくなっちゃう。ただ、みだりにメチャクチャどこでも構わない、歩いちゃうというのはいけないというだけの話であって、そーんなね、ムチャクチャな話じゃないんだ。意地の悪いような感じに受け取られるかも知んないけど、そんなんじゃないんです。」

 さて、森を少し歩いて行くと、達人・松木さんが“落ちている枯れ枝からも色々なことがわかる”と、突然、一本の枝を拾いあげました。
「例えばこういう下に落ちてる小枝ね。木の芽がついてるかとか大きさを見て、この木は何年前の何月ごろ枯れたのかということが判断できんだ。しかも、自然死か事故死かということもわかるんだ。」
一同:エ~~~ッ!!
:じゃぁ、ちなみにこの子は?(松木さんの拾い上げた枝を示して)
「これは、事故死です。」
:事故死?あっ、すごくきれいに落ちてますもんね
「他のもんに食われちゃったんだろ。」
:ナイフでスパっと落としたような。
「完全に事故死なんです。」
:いつごろですか?
「こんなの最近落ちたばっかりだ。まだ葉も青いからね。そうだね、1週間か2週間。2週間はたってないね。」
一同:へぇ。凄いね。
「いやぁ、凄くもなんともないの。木にそういうことが全部書いてあるんです。
:それを読み取る力が私たちにはないんだ。
「それを読めるかどうか、例えばコレ。(再び枯れ枝を拾い上げる松木さん。もう真っ黒になっていて、木の原形をとどめていない様な枯れ枝でした)枯れて相当古いからね、こうなっちゃえば何年前のいつごろかということは判断できません。
おおよその見当はつくよ。5年ぐらい前だと思う。しかも事故死か自然死かということもわかりません。何故かといえばまわりの証拠物がないんだ。だからわからないんですね。だけど、種類はわかる。何の木かということはね。」
:こんなになっちゃってるのに、ですか?なんか、シワシワのカレカレですよ。
「(苦笑しつつ)どうあっても種類はわかります。これはクリの木です。」
:えっ、私、栗原なんですけど。
「エヘヘ、だから記念に持ってきなよ。
一同:大笑い
:で、クリの木だって、どこでわかるんですか?
「この筋目とか、表だとかね、枝のところのクサレとかね。色々見て判断するんです。」
:ヒエ~~ッ。わからないは、そんなの
:でも、そうやってやってたらそこに落ちてる枝一本ででも楽しいよね。
「じゃぁ、これなんだ?」
:ナラ(何故か自信たっぷり、きっぱりといいきる)
「どこでわかったぃ。」
:えっ、あってんの?
「当てずっぽじゃだめだよ。」
:当てずっぽじゃないですよ。いや、実はウチでミズナラをドングリから育てていて、一番上の方が枯れたんですよ。それが、こういう色合いで、枝が出てたんだろうなという節々があったんですよ。」
「あぁ、なるほど。そりゃぁたいしたもんだ。そこまで観察すればいっちょ前だ。」
:(勝ち誇ったように)エッヘッヘェ。
:負けた!
「これはコナラ。だけどね、こうなると事故死かそうじゃないかということを見るのは難しくなってくるね。芽もついてないし。その時にどうしても見たかったら、これを切れる刃物で斜めに切るんです。そして年輪の幅を見るんです。実はこれ3年目の枝なんだよ。中を切ると3つ年輪があるはずだ。」
:本当ですか?じゃぁ、切ってみましょうよ。
「ホントさぁ。ウソはいわねぇよ。」
:それで当たってたらちょっと松木さん、尊敬しちゃうなぁ、オレ。
「何言ってんだよ!そんな。」
:斜めに切るんだよ
「カミソリのようなものでサーッと切らないと年輪が数えられない。この万能ナイフってやつは近年、安い代物なんだよなぁ。」
:すいませんね、安くて
「値段は高いかもしんねぇけどね。さぁて、どうだ。皆さんじゃぁ、年輪数えられないだろうな。(切り口を調べて)間違いない、3年です。」
一同:ホーッ
「3年でね、この木は事故死です。」
:それはどこで?
「年輪の幅でわかるんだ。枯れたのもおととしだな。」
:すいません、全然わからないんですけど。どこが年輪なんでしょうか。
「はっきり見えんじゃん」
:ハァ?
「中の2年目が白くて一番外が狭いでしょ。」
:はいはいはい。
「まぁつまらないような話で、こんなこと知ってたって、生活の上でもタシにも何にもなりゃしない。」
:ハハハ。
「そういうわけなもんだ。」

 プロファイラー、松木さんの実力に一同驚きつつ、森を進んでいくと、松木さんとあるところにしゃがみ込み、“自然を楽しみ、木と触れ合う為には、山の奥に入っていく必要はない。すぐ身近にもたくさんの自然がある”と言い出しました。

「自分の身の回りのものでも、手の届く範囲に何種類あるかってことになっちゃうんだ。その中を覚えただけでも相当な量を覚えられるんだ。俺はどうも草は弱いから、草はあんまり知らないけど、木にしたってこれはヤマグワ、ウリハダカエデ、これはツルだけどサルナシ、クマヤナギ、これはクワ、スミレ、ヌスビトハギ、チジミザサ、ツルリンドウ、これはオニグルミの葉っぱ。こっちはイタヤカエデの葉っぱ。これはミツバアケビ、これはニレ、ウワミズザクラ・・・」
:今ちょうど松木さんが座ってらっしゃる前だけでそれだけ。手の届く範囲でね。」
「こんなにたくさんあるんだぜ。」
:もうわかんない・・・
「多種多様なものを育てる。それが一番森としての健康を保つ、人間のためでも世のためでも何でもない、空気浄化から水の浄化から土砂の流出とかね、いろんなことを考えてもたくさんの種類があったほうがいいと。」
サキ(以下:サ):学校で緑のダムについて勉強したんですけども、この森も含めてすべての森が緑のダムなんですか?
「そうです。緑のあるところは全部ダムです。平らであろうと傾斜であろうと、そんなことは構わないです。緑さえあれば。まぁ、緑さえあればって言ったって、芝生みたいなのじゃだめだけどね。ある程度の木、中高木があればダムです。でも、すぐはだめなのね。なんにもないところにどっかから木を持ってきて移植したから緑のダムだって、そりゃ無理かもしんないけど、永年かかって腐葉土がたまってるところはダム。全然水はけも違う。腐葉土があれば絶対たまるから。それから木があったから土砂崩れしない、がけ崩れがないなんてそんなことはダメです。木を植えたから土砂崩れがないとか地滑りしないなんて、そんなのは無理です。だけども、いくらかでも止めることはできるんです。何故かといえば、滑るところまでに到達する時間。時間がかかればかかるほど地滑りしないんです。少しずつしみていけば、そのうち雨水はなくなっちゃう。だから滑らないんです。」
:時間稼ぎってことですね。
「そうそう。」
さて、松木さん、今度はある木の実に着目しました。
「これこれ、アブラチャンだよ。」
:アブラチャ。アブラチャンじゃないんですよね。
:アブラチャ。カトー・チャと一緒ですね。
「いやいや、チャン。」
:アブラチャンなんですか?アブラチャーン!!
「アブラチャン」
:アブラチャン。
:松木さん、アブラチャンていうのは、この実から油を搾ったとかそういうのですか。
「搾れば搾れるでしょうね。油がすごく多いです。だけど人間が食ってもうまくねぇんだ。」
:実に油が多いんですか?
「そう。中は真ん丸の玉なんだ。まだ早いよ。一番表は果肉だ。」
:緑に点々がある感じの。
「で、これがとってもくせぇんだ。」
:なんか、いい匂いがする。レモンの
:あっ、ライムっぽい感じ。柑橘系だね。
:ホントだ。
「これがタネさ。もっと大きくなるだろうな。」
:ちょうど小指の先ぐらいの大きさですね、今。
「それで、この中に魂があるんだよ。」
:魂???
「魂というのは生命のことだよ。人間だって魂ないから腑抜け野郎って、こうなっちゃうんだな。腑抜けの腑ってのは魂のことだよ。で、この実はこうなってるんだ。」
:あっ、白い!
「これがタネ。人間が食ってもうまくないんだ。だけどネズミとかリスとかいろんな動物は喜びます。まぁ、これよりうまいものがありゃぁ、こんなのは食わないんだろうけどね。それが栄養になったり色々するわけだ。これ、まだまだ早いよ。秋になってからね。表がカチカチになるぐらいになると割れて落ちるんだけど、その時が一番油気があるんだ。これが食えりゃぁ、栽培すると思うよ。いくらでもなるんだから。」
:でもちょっと皮を剥いていくつか消臭剤の変わりに置いとくだけでもね。匂いはいい感じだから。
:すごくいい匂い、これ。でも、ベトベトしてるね。
:ホントだ。
:松木さん、これ落ちてたんですけど、オニグルミの実ですかね。
「そうです。」
:梅のような感じのやつ。
「落ちてるというのは皆さんわかるのね。何故、落ちるのかという質問がないんだ。今落ちる時期じゃないのに、だ。」
:そうかぁ
「何故落ちるんか、と」
:それは動物が落としているっていう。
「そんなことはないんです。」
:風で落ちるケースもあるんですよね。
「風吹いたぐらいで簡単に落ちるようじゃ、子孫残せないんだ。」
:ですよね。その通りです。
「それが落ちちゃう。これは自然落下なんだ。自然に落ちてしまう。風とか人為的にとかじゃなくて。この木自体がいらないよと、ぽろっと落としちゃう。今年はとても陽気がいいんだね。雨も降らない、寒さもあまりない。だけどこの前ちょっと寒かったときがあった。木の樹勢、勢いね。木の勢いがいいほど実を落とします。」
:えっ、勢いいいほど、落とす?
「ウン。子孫を残す必要がないんです。親が元気だから。気が弱ると止めちゃうんです。子孫を残すために実を結して落とす。これ、なるには栄養使うんだよ。だから実がならないようにして自分の木の勢いを旺盛にして、多くの子孫を残そうとするわけだ。だから後で多く残すんだから、今はいらないよって落としちゃう。間引きに落とす場合もあるんだよ。例えば温度が急に下がっちゃって持ちこたえられなくなると、間引きするんだよ自分で。例えば一房に30個なってるとするでしょ?30個持ってたってとても芽が出ないと。すると、その中からいくつか選んで落としちゃうというのがある。だから、弱ってる木、そういうものは大体実が小さくても無理につけとくんだ、子孫を残すためにね。だからようけ、なります。リンゴだって剪定して樹勢を落として、無理にいじめて弱らせて・・・」
:ハハァ、反対なんですね。
「あれ、そのままにしといちゃだめなんだ。一杯ついて、しかも小さくて。それでうまくないと。これじゃぁ弱りすぎていい実にならないということで、今度は肥料くれるんだよ。生かさず殺さずというかわいそうな木なんだよ。」
:なんか不憫。
:でもそのリンゴの実を俺達はうまくいただいちゃってるわけですね。
「そうそう。そうやって木に負担かけて人間がうまいだのまずいだのって文句たれてんだ。」
:ところで松木さん。いろんなことを考えて木を植えたり、笹を刈ったりする中で嬉しい誤算というか、計算してなかったものや想像してなかったところにこんなものが出てきちゃったなんてことはないんですか?
「それが自然の面白みだ。」
:今、このあたりでそういうのはありますか?
「一杯あるよ。草を刈ったら思いもよらない木が出てきたとかね。いろんなものがあるよ。全然植えないけど普通の林になるほど生えてきたカラ松なんてのもあるよ。一本も植えてないのに、どんどん出てきて苗畑みたいになっちゃったんだよ。ぎっしり笹があったんだけど、それを刈ったらごっそり出てきたんだ。あと、このへんにないキリとかさ、マメガキ、ウルシ、本物のウルシだよ。ヤマウルシじゃないよ。そういうものがどこにそのタネがあったんだかわからない。とにかくこの辺には全然ないんだ。」
:えっ、なんで出てきたんですかね。
「だから、大昔にそのタネを落としといたんだろうな。それで草が刈られていいチャンスがあったんで芽が出たんだろう。」
:ふ~ん。じっと耐えてたんですね。
「だってこの近所にないんだ。それっきり考えられないんだ。鳥が運んできたっていうこともあるけど、そういうときは一つの場所にたくさん出てくるもんなんだよな。でも、ここでは一本かニ本きり出てないからそれは不自然だ。だから俺は、昔々にその木があって、タネをこぼしたのが何十年か前にあって、何年も土の中で自分の発芽のチャンスを待ってんだと思うんだね。だから一回ぐらいきれいにしたからって出てはこないんだ。2~3年続けて日光が当たったり風通しが良くなったり、水の状態が良くなったりすると、始めて今発芽すればオレは枯れなくてすむなということを知ってるんだ。」
:なんか、植物って私たちが想像する以上に、人間のいい方をすると賢い、一杯考えてる。生き残るために考えてるんだなって気がしますよね。
「それは凄いもんだよ。人間じゃちょっと考えられないよ。」
:松木さんまだ森に入ってあまり奥まで来てないんですけど、この続きはまた今度ということでいいですか。
「ああ、いいですよ。いつでも。まだまだこの山からいきゃぁ、100分の1も歩いてないんだ。」
:季節によっても違いますしね。
「自然というのは毎日変わるからね。一日として同じことはない。だから楽しいんですね。」
:今日は勉強になりました。色々ありがとうございました。一同、礼。
一同:ありがとうございました。

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