2002年9月15日
加藤則芳さんのトレイルにかける夢今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは加藤則芳さんです。「森住みのものかき」として、ザ・フリントストーンには何度も出演いただいている加藤さん。自然保護の父、国立公園の父と呼ばれるジョン・ミューアの功績を讚えて、アメリカ西海岸にある340キロのトレイル、ジョン・ミューア・トレイルを何度も走破し、日本に紹介した人であり、「日本のジョン・ミューア」と呼ばれる人。そんなジョン・ミューア・トレイル、加藤さんは先月行かれたばかり、ということで、お話は自然とジョン・ミューア・トレイルのことから始まりました。 ●何でもツアーが組まれたと聴いたんですが。 「そうなんです。もう10何年、毎年、多いときには一夏で3往復するぐらい通い詰めてるんですけど、あるツアー会社が組んだ“加藤則芳さんと歩くジョン・ミューア・トレイル”てっやつなんですけど」 ●これは長いジョン・ミューア・トレイルのほんの一部だとは思うんですけど、やはり自分で荷物を担いで? 「いえ、それが日本の場合難しいところで、日本の中高年、登山ブームですよね。日本の山って山小屋ばかりなんですよ。ですから若い人も含めて重い荷物を背負って、テント・シュラフ・食料一式背負って歩ける人はほとんどいない。といったら言い過ぎかもしれないけど、もちろんいらっしゃいますけど、ほとんどの人はだめなんですね。ジョン・ミューア・トレイルを歩く場合にはそれが出来ないとだめなんですよ。だからツアー会社が企画する場合も、“最低25キロぐらいは背負って歩きますよ”と。当然340キロ全部は無理ですから、その一部を4泊5日とか5泊6日とかで組みますよね。でも、集まらないんです」 ●じゃぁ、今回のツアーは自分で担ぐのではなくて・・・ 「これ、ホースバック・ライディング、馬なんです。しかも、例えばネパールだとか、モンゴルとかの十倍ぐらいのお金がかかってしまうんです、アメリカは。人件費が高いから。ですからアメリカのツアーは期間が短いのに凄い高いものになってしまうんですね。でも、本来ならば健強者じゃなければ見られないところが、そういう年配の方でも馬で入って、楽しむことができるという良さはある」 ●どうですか、参加者の反応は。 「反響は想像以上に大きいので嬉しいんですけど、皆さん同じことをおっしゃるのは、世界中色々なところに行っているけれど、もう一回行きたいと思うのはジョン・ミューア・トレイルだけだって」 ●あぁ、そんなことを言われたらやっぱり行きたくなっちゃう。 「それはね、自然の大きさから言えば、シェラ・ネヴァダという4000メートル級の山の中にあるんですが、スケールも確かに大きくて風景もダイナミックだし、自然の良さのあらゆる要素、つまり標高が下がれば森ですし、上がってくればハイ・アルパインだし、いろんな要素がちりばめられていいところなんですが、スケールの大きさからいうとヒマラヤとかにはかなわないんですよね。でも、何が違うのかなって、やっぱり自然保護の観点からそのシステムだけを見ると、アメリカが世界でも一番優れていると思うんですね。で、そのシステムによって自然が守られている。だから、例えばネパールの方に行っても、ゴミが落ちていて汚かったりするんだけど、それが全然ないんです。いろんなレギュレーション、決まりがあるんですけど、多分日本人の人がそれを聞くと、なんてしち面倒くさいと思うような事細かいレギュレーションがあるんだけれども、私も含めて実際にそこに行って歩く人にとっては、一つ一つが当たり前のことなんですね。歩く人がモラルが高いし。こういういい方すると語弊があるかもしれないけど、やっぱり日本人で山に入る人の中にモラルの低い人がたくさんいます。日本の山に入っていつもがっかりするのは、ゴミや空き缶がやっぱり落ちてるんですよ。かつてよりは大分良くなりましたけど、まだ落ちてる。それから、生理現象があったときに、道の脇にテンコ盛りがポンとあったり。それは一日に一個や二個は必ず見る。でも、ジョン・ミューア・トレイルも含めてシェラ・ネヴァダの山を歩いていると全くない。当たり前のことなんだけど全員がスコップを持って行きますから。で、穴を掘って埋める。それ一つとってみても全然違いますよね。だから、そういうことがわかった人に行ってもらいたい。 私が『ジョン・ミューア・トレイルを行く』を出したのが6年ほど前のことなんだけど、それまで通い続けてきて日本人に一人も会ってなかったのが、本出して、NHKで90分番組をやってからは、毎年日本人が何人もジョン・ミューア・トレイルを踏破してるんです。で、その人たちはみんな私の本を見てるんです。私の本の中には細かいレギュレーションも書いてありますから、ちゃんとわかってる人が行ってるということで、それはとても嬉しいことなんだけども、それに日本人にもどんどん行ってもらいたいけれども、わかってない人には行ってもらいたくないなと」 ●そんなジョン・ミューア・トレイルに続いて加藤さんが挑戦するとおっしゃっていたのが、今度は東海岸にあるアパラチアン・トレイル、3,500キロ。 「(笑)」 ●その話を聞いたときも、確か絶句した覚えがあるんですけど、始まっちゃいましたね。 「そうですね(笑)アパラチアン山脈というのが、アメリカ東部にあるんですね。南はアラバマ州から北はメイン州を越えてカナダのラブラドール地方まで連なっている、地質学的にも世界で一番古いといわれる山脈の一つなんですけどね、その長大な山脈の中のジョージア州からメイン州のマウント・カタディンという、緯度的にカナダのモントリオールよりも北に位置するところまでアパラチアン・トレイルというトレイルがつながっているんですね。それを歩ききるということが特にアメリカのプロフェッショナルなバックパッカーにとって、一つのステイタスというか、最終的な夢の一つ」 ●いやぁ、わかりますよ。3,500キロですからね。 「大体6ヶ月はかかります」 ●なんか、ちょっと想像つかないですね。 「ただ・・・」 ●ただ? 「残念なことに私はそれを6ヶ月かけて一気に歩くということを前から考えていたんだけれども、今回雑誌の仕事でやるということになって・・・。全体を一気に歩く人のことをスルー・ハイカーというんですね。それに対して、何回にも分けてやって最終的に3,500キロというやり方をする人をセクション・ハイカーというんですよ。で、その形でやることになってしまったんですね」 ●その模様をBe-PALのプリマクラッセで連載しているわけなんですけど、確か、スルー・ハイクすると、2,000マイラーの称号のワッペンがもらえる。 「あのぉ、セクション・ハイカーももらえます。それはアパラチアン・トレイル協議会というのがあって、そこが出してくれるんですけど、要するに一気に歩くのは難しいから、分けてでも全コースを歩き通した人に与えようということで、セクション・ハイクを重ねた人でもOKなんです」 ●じゃぁ、一応ワッペンはもらえる、けれども・・・ 「そう。一気にやってもらいたかった(笑)やってる人がいるからね。今回も4月から6月にかけて2ヶ月行ってきたんですけど、60人ぐらいのスルー・ハイカーと接していろんな話を聞いたんですけど、もう、会うたびにうらやましくてうらやましくて。ただ、セクション・ハイクをするということは雑誌的にいえば、アパラチアン山脈というのはある意味、文化の塊みたいなところなんですね。歴史の塊みたいな。東部から西に向かって広がって行く中で、その山脈が大きな障壁になってたんです。そこにいろんな人々が集まってきて吹きだまってたのが、それを越えて一気に西部開拓が始まっていった。ですからそこにいろんな文化や歴史、南北戦争の戦跡や黒人奴隷問題のサイトもたくさんあるし、入植者たちの昔住んでた家なんかも残ってるし、それからアパラチアン・ミュージックという、いわゆるブルー・グラスの原形になっているものなんですけど、それがいまだに南部の町行くと、どこに行っても聞こえるのはロックでも何でもなくて、アパラチアン・ミュージックなんですよ。小さなコミュニティに行くと、ゼネラル・ストアがあって、そこでは毎週土曜日におじいちゃん、おばあちゃんがジャンボリーやったりしてるんです。どこの町行ってもやってるぐらい。マウンテン・ミュージックともいうんですけど、それはヨーロッパ圏、特にアイルランドやスコットランド系の音楽が原形になって出来た音楽なんです。私自身も自然の素晴らしさだけではなくて、歴史や文化、アメリカのひとつの側面をそこから見たいという考え方もあったので、それはそれでまた楽しい」 ●スルー・ハイクやりたいけれども、それは置いといて、ということで進んでいるこのアパラチアン・トレイル挑戦ですけど、去年、2001年だけで、2800人がスルー・ハイクにチャレンジして、400人が達成してるんですね。 「それはね、 異常に多いんですよ。ここ10年ぐらいうなぎ登りに挑戦者が増えて、一割弱の人が3,500キロ歩ききっちゃってるんですね。これ凄い数字ですね。しかも、なんでそんなに休めるんじゃい(笑)」 ●そうですよね。最低でも6ヶ月は会社とかも休まなくちゃならないわけですからね。 「ほとんどの人が学生じゃないんですよ。学生の方が休みにくいところもあるんですが、だから仕事を休んでこれをやるという人が、なんでこんなにたくさんいるんだっていうのも謎なんです」 ●しかもこのアパラチアン・トレイルをスルー・ハイクしようと思ったら、期間限定なんですよね。北から南に向かうコースと南から北へ向かうコース・・・。 「9割は南から北。ジョージア州を3月か4月にスタートして、実はメイン州のバクスター州立公園にあるマウント・カタディンというのが到達点なんだけども、ものすごく気候の厳しいところで10月15日に閉鎖されちゃうんです。だから、10月15日までには山を下りていなくてはいけないんです。そうすると、逆算するとそのぐらいにスタートしなくちゃいけない。で、早過ぎるとジョージア州といえども、雪が深いんです。北から南というのもあるんですけど、スタート地点は6月ぐらいまで雪があって、雪解け直後は湖がたくさんあって湿地帯がたくさんあるから、河に雪解け水があふれかえってて、ひどいときは首まで浸かって河を渡ったりしなくてはいけない。だから少し後ろにずらさくちゃいけないんだけど、そうするとジョージア州の辺りではもう雪が始まってるみたいな。だから北から南は難しいんです。でも、一割弱ぐらいはそのコースでやってますね」 ●アパラチアン・トレイルは加藤さん始められたばかりですが、ジョン・ミューア・トレイルとくらべるとどうなんですか。
「非常に地味なところです。標高が低いんですね。だいたい2000メートルぐらい。カリフォルニアは非常に乾燥してて空が突き抜けているけれども、東側は日本に非常によく似ている。特に南側の340キロをとりあえず歩いたんだけども、日本の奥秩父を歩いてるような感じです。標高はずっと2000以下ですからほとんどが森林地帯を歩く。だから風景のダイナミックな展開がない、非常に地味なところです。そのアパラチアン・トレイル・ハイカーにとって一番の敵は孤独感と単調さ。精神的に参ってやめてしまう人がたくさんいるんです。
●アパラチアン・トレイルの最初の部分では歩いてて八ケ岳の森に似ているから、ウチの森は今ごろどうなってるかなって思いだしながら歩いてた、なんてくだりもありましたけど、そんな『森の暮らし、森からの旅~八ケ岳山麓だより』という本を7月に出版されています。これは手紙風ですね。 「そうですね。前に雑誌で5年間連載したものをまとめたものなんですけど、手紙形式で森からの便り見たいな感じの、今までの私の文体とは全く違うものですね」 ●この帯のところに“田舎暮らしは厳しく、辛い”と書いてあるんですが・・・ 「けれども楽しいですよね。楽しくなくちゃ住めないですから。今、なんだろうな、そういう厳しさが楽しい、なんていうとマゾみたい、ハハハ」 ●いいえ、そんなことないですよ。 「だから重いの背負って歩くのも楽しいし、達成感の喜びって僕は人より大きいのかもしれませんね。日々そういうことを楽しんでる」 ●でも、森に実際に住むというのは楽しいことばかりじゃなく、確かに辛いこと厳しいことがたくさんあると思うんですけど、それでも住みたくなる森に住む魅力っていうのはなんなのでしょうか。 「どうなんでしょう。あまり人が好きじゃないのかなぁ、と思ってるんですよ。だからこの本もホントは自然のことを取り上げた本でもいろんな人の話がちりばめられた本のほうが読みやすいと思うんだけど、自然のことしか書いてない。(笑)」 ●それが加藤さんらしいといえば加藤さんらしいですけどね。 「煩わしいことから逃げたいというのがずっとある・・・。東京にいたころや埼玉県の実家にいた時も、気がつくと1時間ぼーっと、何かを眺めてたりとかってことをやってたんですよ。それをそのまま自分の生活のすべてにしちゃおうと思ったのかもしれない」 ●そんな加藤さんだったら、ある意味単調だと言われるアパラチアン・トレイルの自然も飽きることなく、楽しめるということですね。まだまだアパラチアン・トレイル・ハイクは続くと思いますが、アパラチアン・トレイル以外には? 「今回は10月に帰ってくるんですけど、帰ったら屋久島に行こうかと。前やったことあるんですけど、もう一度縦走してみようと」 ●じゃぁ、ずっと歩きっぱなし(笑)。 「そうですね。今年アメリカだけでも半年は行ってますから、ほとんど半分以上歩いてる」 ●お体に気をつけて頑張って下さい。 ■このほかの加藤則芳さんのインタビューもご覧ください。
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■森住みのものかき、加藤則芳さんの本の紹介
エッセイ集『森の暮らし、森からの旅~八ヶ岳山麓だより』
『ジョン・ミューア・トレイルを行く~バックパッキング340キロ』 |
オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」
M1. CAN'T STOP THIS THING WE STARTED / BRYAN ADAMS
M2. EVERYBODY WANTS TO RULE THE WORLD / TEARS FOR FEARS
M3. AIN'T NECESSARILY SO / WILLIE NELSON
M4. THE DREAM IS STILL ALIVE / WILSON PHILIPS
M5. BLAZIN' YOUR OWN TRAIL AGAIN / REO SPEEDWAGON
M6. WALKING MAN / JAMES TAYLOR
エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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