2002年9月29日

小説家・平野肇さん『昆虫巡査』を語る

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは平野肇さんです。
平野肇さん

 今週のゲストは、平野肇さんです。実在のお巡りさんをモデルにしたネイチャー・ミステリー小説『昆虫巡査』シリーズなどの作家として、またミュージシャンとして活躍、さらにエコツアーにも造詣が深く、先月のアファンの森で開催された「姉妹森の締結式」にも参加されていらっしゃる平野さん。まずは『昆虫巡査』シリーズの話題からお話は始まりました。

●平野さんといえば『昆虫巡査』シリーズ、読まさせていただきました。その中では、向坊一美(むかいぼう・かずみ)さんというお巡りさんがいて、彼がいろいろな昆虫を手掛かりにそれをプロファイリングしながら事件を解決していくという…。そこに「私」として登場するのが釣りライターの矢張双(やはり・そう)さん。ちなみに、この矢張さんというのは平野さんの分身なんですか?

「そうです。シャーロック・ホームズでいうとワトソンの役目なんですけど、僕なんです(笑)」

●この向坊一美さんが主人公のお巡りさん、つまり昆虫巡査なんですが、実際にいらっしゃる方なんですか。

「ええ、大分の駐在さんなんです。実際に20年位前、彼が昆虫を手掛かりに白骨死体の人を当てちゃったということがあったんです」

●この本自体は、その事件がきっかけなんですか。

「その話を聞いて実際面白かったので、本人である佐々木茂美さんに、つきましては小説にしたいのですが、と。佐々木さんは今、大分の巡査部長かな。実際に新聞にも載った事件で、ある村で白骨と着衣だけが残っていて、その着衣の中から虫の死骸とか抜け殻などがたくさんあったので、それから「これは去年の4月頃にここで倒れたのではないか」と推理をしたという…」

●あー、甦ってきますね『蜉蝣渓谷(かげろうけいこく)』の冒頭の部分が…(笑)。でも、これは新しいフィールドですよね。

「そうですね。ハワイの昆虫学者でFBIにもそういうことを教えている昆虫の学者がいるらしく、向こうでは「法医昆虫学」ということで確立しているみたいなんですけど」

●ということは平野さんはまさに、先駆けじゃないですか。

「いや、僕じゃなくて実際の佐々木さんが…。でも日本にもいたんですね、「法医昆虫学」の先駆けが(笑)」

●私もこの『昆虫巡査』にもっと小さいころに出会っていたら、もっと虫に興味が持てたんじゃないかなと思います。

「また、虫が主役というより主役は自然全体だと思うんですよ。自然の中で、虫がどういう役割をしているかということで。だから自然の勉強をしながら書いているという感じはしますね」

●平野さんの『昆虫巡査』シリーズは、現在5巻出ているんですけど、それぞれキーになるメインの虫は違うんですね。

「違います。『蜉蝣渓谷』だとシデムシ、別名・埋葬虫という死体を食べちゃう虫や、黄金虫がキーなんですが、あまり言うと内容がわかっちゃうので(笑)。『精霊蜻蛉の川(しょうりょうとんぼのかわ)』は精霊蜻蛉も出てきますが、他にもたくさん手掛かりとなる虫が出てきますね。『蛍の華(ほたるのはな)』はミステリーっぽいんですけど、源氏蛍と平家蛍がでてきて、それぞれ点滅の間隔が違うという説があり、その辺が少し絡んでいます。『越冬卵(えっとうらん)』というのは、森の中の高い所を飛んでいる蝶がいて、その卵は木に産み付けられて冬を越すんですが、その名前がきれいなので『越冬卵』と。『窯変の谷(ようへんのたに)』は小鹿田(おんた)焼きの焼き物をテーマにしていて、壺を焼くときに中に虫が入ってしまうと、その部分だけ穴になって虫が溶けた成分で不思議な色になってしまうんですが、それがちょっとしたヒントになっています」

●あー、もっと知りたいー! そして、それぞれが違うストーリー展開なんですね。でも『昆虫巡査』シリーズとしては、いまは5作目。

「ええ、とりあえず5作で一段落、休憩しているところですね」

平野肇さん

●さて、平野さんは、旅の雑誌にエコツアーに関する記事を連載されていたこともあるとのことですが、日本でのエコツアーはどうなんでしょう?

「日本では難しいみたいですよ。ただ、盛んになりつつあります。もう10年以上前からあるんですが、やっと認められてきているのかなという感じですね。日本は自然が豊かなので、自然はタダだと思っている人が多いみたいですね。山に登るのもタダじゃないですか。それでガイドにお金を払おうという気がないんです、最初から。でも、ガイドの方もみんな苦労しているみたいですね。北海道の湿原ツアーに行ったのですが、面白いんです。自然のカラクリみたいなものを目の当たりにしながら、一つ一つ繋がっていることを物語的に、こちらも騙されたと思うくらい、うまく説明してくれるんです」

●まるで『昆虫巡査』シリーズの謎解きを読んでいるような…(笑)。熱心なガイドさんだと、ちゃんと研究や構成をしていて感動を与えてくれるような旅になっているんですね。ちょっと高いガイド料を払ってでも、そのガイドさんと一緒に歩いて学ぶことが、高いキャンプ場じゃなくても十分に楽しめて価値があることが増えてくる。

「そうですね。あと、日本には自然とのつきあい方には歴史がありますから。自然を愛でるというのは昔からありますよね。エコツアーもその日本の文化とうまく根ざせば、面白いと思いますね。また、普段起こりえないことや見ることの出来ないものが見えるのもエコツアーの面白さの一つだと思いますね。それは例えば、ボルネオの熱帯雨林でもジャングルでも、ある程度地元の人が案内してくれて少し知識が入って、それから東京の自宅に帰ってきてベランダの植木に虫がいるだけで、それも自然ですからね。普段見ている自然もまた違う価値で見えたり」

●平野さんといえば、先日、C.W.ニコルさんのアファンの森で開催された「姉妹森締結式」でアイリッシュ・マリーズさんと一緒に森の中で演奏されていましたけど、そういうことはよくあることなんですか?

「実は、森の中でギターを弾いたのは大学のフォークサークル以来だったので、ものすごく緊張しましたね。アファンの森は昔から知っていたし、ニコルさんも知りあう前からファンで彼の書いた本を読んだりしていただけに、そこに参加出来たことがうれしいですね」

●こうやってみてみると、平野さんはずっと自然との関わりが深い方ですね。ミュージシャンとしても、そして作家としても。

「ミュージシャンの頃はスタジオワークが多くて、その合間にキャンプや釣りや登山に行っていたけど、その時は結局、自然のもとに行ったのではなく、スタジオワークから逃げ出していたのかな(笑)」

●この先の予定とか、こういうのを発表しようとしているというのはありますか。

「『昆虫巡査』シリーズの第6作目をなんとかまとめたいなと、3年前から思っているんですけど(笑)。なかなか難しいですね。作品として10作書いたんですが、妙なサービス精神や、もっとインパクトを入れたいなどの変な計算が入ってきていて、そういうのを排除しようと思っていて、それで旅の雑誌とかの取材に出たんですが、その取材も随分たまったので、本にまとめたいなと思っています」

●その、新しいご本が出るときも、またぜひ番組までお知らせいただきお話を伺えればと思います。ありがとうございました。

■このほかの平野肇さんのインタビューもご覧ください。

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■作家/音楽家「平野 肇」さんの作品紹介

『蜉蝣渓谷(かげろうけいこく)』
『精霊蜻蛉の川(しょうりょうとんぼのかわ)』
『蛍の華(ほたるのはな)』
『越冬卵(えっとうらん)』
『窯変の谷(ようへんのたに)』

「昆虫巡査」シリーズ
1作目『蜉蝣渓谷(かげろうけいこく)』小学館文庫
2作目『精霊蜻蛉の川(しょうりょうとんぼのかわ)』小学館文庫
3作目『蛍の華(ほたるのはな)』小学館文庫
4作目『越冬卵(えっとうらん)』祥伝社ノンブック
5作目『窯変の谷(ようへんのたに)』祥伝社ノンブック

 ストーリーを通して、普段はほとんど気に留めていない昆虫たちの営みやその生態を知ることができるというのも、平野さんの「昆虫巡査」シリーズの面白さのひとつですね。
 また、平野さんが構想を練っていらっしゃるという「昆虫巡査」シリーズの6作目については、出版される時にまた番組でお知らせしますので、どうぞお楽しみに。

『弧峰の翼(こほうのつばさ)』
『釣魚大変(ちょうぎょたいへん)』

そのほかの作品
・イヌワシをモチーフにした小説
 『弧峰の翼(こほうのつばさ)』徳間文庫
・釣りの本『釣魚大変(ちょうぎょたいへん)』朔風社
/他

・「平野 肇」さん公認ファンサイト(KING FISHER STUDIO)
http://homepage2.nifty.com/kf-studio/top.htm

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. 幸せにさよなら / 伊藤銀次(ナイアガラ・トライアングル)

M2. WATCHING THE DETECTIVE / ELVIS COSTELLO

M3. THE BUG / DIRE STRAITS

M4. 星めぐりの歌 / ウォン・ウィンツァン

油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M5. 夕陽が笑う、君も笑う / スピッツ

M6. DEAR EARTH / HENRY LEE SUMMER

M7. PAPERBACK WRITER / THE BEATLES

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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