2002.11.24放送 『カカポ募金』代表・内田泉さんの"カカポを救え" 世界には、絶滅の危機にある生き物が数多くいますが、この番組でも何度かお知らせしてきたように、ニュージーランドにだけ生息するオウムの仲間「カカポ」という鳥もそのひとつなんです。ちなみに「カカポ」という名前の「カカ」とはオウム、「ポ」とは夜という意味があり、つまり" 夜行性のオウム"という意味の名前を持ち、和名では「フクロウ・オウム」ともいいます。 その「カカポ」は、天敵がいない楽園に暮らしていたので、進化の過程で飛ぶことを止めてしまった、飛べない鳥でもあります。全体の色は黄緑色から緑色で、体の大きさは60センチ、体重は4キロと、ちょっぴり“太っちょさん”な鳥で、森に棲み、植物を食べ、その匂いは、まるでフリージアの花のようだといわれています。 そんな「カカポ」は、その昔、海を渡ってニュージーランドにやってきた人間たちが、農地を確保するために森を焼き払い「カカポ」の住み家を奪ったことや、怖いことが起こるとジーッと動かなくなる性質が災いして、人間たちが連れてきた「ネコ」や「ネズミ」「オコジョ」につかまり食べられてしまった為、その数が激減。フリントストーンが「カカポ」の存在を知った1998年・初めの時点では54羽しか生息していないという状況だったんです。しかし今年、保護プロジェクトの地道な活動が実を結び、大繁殖に成功しました。 今週は、そんな「カカポ」の保護活動を支援している「カカポ基金」の代表「内田 泉」さんを再びお迎えして、「カカポ」のユニークな生態、保護活動の内容、奇跡的に大繁殖した理由や、今後の見通しなどを伺いました。 ●もう実に、4年ぶりになるんですね。前回出演していただいた時に、すごく印象に残っているのが「カカポ」はフリージアの匂いがするっていうお話で「なんてステキな匂いの鳥なんだろう」って(笑)。 「そうなんですよね(笑)。フリージアなんだけど動物っぽいフリージアなんですよ。なんていうか、甘いような、でもやっぱり動物の匂いなんですよね」 ●動物がフリージアエッセンスの入ったシャンプーを使った感じなんでしょうか? 「(笑)。そして、ちょっと懐かしいようなね、野性的な匂いですよ」 ●内田さんが最初にカカポを知ったのは、写真がキッカケなんですよね・・・。 「その時は雑誌の編集のお手伝いをしていまして、岩合光昭さんが撮ってきたカカポの写真を見せていただいた時に、それがどう見てもぬいぐるみなんですよ。「普段は生きた動物を撮る人なのに、珍しいな・・・」と、思ったくらいで、なんか面白いなと」 ●写真を見た感じでも、本当に内田さんが最初にぬいぐるみと思われたのもわかりますね。しかし、このぬいぐるみを売ったら売れるんじゃないかなー? 「売ってるんですよ(笑)今日持ってくればよかったですね」 ●えっ、クリスマス・プレゼントにでも勧めましょう! これ何の鳥?って聞かれたら、こういう鳥がいるんだよって言えるし。 「そうですよねー、でも日本では売っていないんですよ・・・」 ●ぜひ日本で売っていただきたい(笑)! 「(笑)・・・!」 ●いきなり内田さんに迫って、どうするんだっていう感じもするんですけど、でもそれくらい愛嬌のある、そしてちょっと鈍クサイって所が私達の親近感を生む鳥っていうか・・・。 「本当に鈍クサイっていうか面白い鳥で、「ロバのように鳴き、猫のように遊び、豚のように唸る」などなど、色々な要素を持っている鳥なんですね。「猫のように遊ぶ」というのは、ヒナが人工飼育されているところで遊ぶのを見たんですが、タオルが大好きで猫と同じようにタオルに絡まってグルグル転がって遊ぶんですよ(笑)。 ●本当にイメージと全くぴったりの・・・。 「ぴったりなんですよ。本当に愛おしい。そして表情があるんですよ。カメラで写真を撮らせてもらおうと思って、パチッて撮ったんですね。それでフィルムが終わっちゃってジーって巻き戻ったんですよ。そしたら、その音でヒナが顔全体に「怖い」って顔をしたんですよ。不安で怖くてどうしようっていうような・・・。もともと鳥の目というのは、よく見るとちょっと怖い目なんですよ。でもカカポの目は、ほ乳類みたいな目をしていて感情が表れるような目なんですね」 ●見やすい、つぶらな瞳・・・? 「そう、本当につぶらな瞳なんです。例えばペンギンの目は感情が無い目なんですね。それが、カカポの目っていうのは感情のある目、それこそ犬とか猫とかの目と同じで。これはちょっと変わっているなっていうね・・・」 ●内田さんご自身がニュージーランドでカカポの保護活動に参加されるようになって、むこうに行かれるようになってからはどのくらい経つんですか? 「1993年からですね。最初はワーキングホリディという制度を利用して行ったのですが、その時の目的は「カカポに会う」というところまでは考えてなくて、ただカカポの保護をしている人達に会って、それで本を書こうと思っていたんですね。ちゃんとその保護活動を大人向けの本にしようと思って。でもその本は、まだ書いてません(笑)」 ●(笑)。言われる前に、自ら・・・。 「はい(笑)。一応、まだ調査はしているんですけど・・・」 ●そして今年、とってもうれしいニュースが届けられたんですね。 「はい。今年、誰もが予想していなかった大繁殖というのがあったんです。リムという木がありまして、それが3年に1度くらい大量の実をつけるんですけど、その年にカカポは繁殖するらしいんですね。どうやら今年はその年だと去年の時点でわかっていたので、無人島をいくつかにわけて暮らしていたカカポを、そのリムの木がいっぱいある島にほとんど全部もってきたんですね。そしたら21羽いた繁殖可能な雌のうちの20羽が卵を産んだので、それからものすごい複雑な管理というのをしたんです。どうやらカカポというのは、自分でヒナを育てていても、その卵が急になくなっちゃったりヒナが急にいなくなっちゃったりすると「あれっ」て思いながらも、もう1回巣を作り直すということがわかったんですよ。そこでその習性を利用して、若くて繁殖の上手な雌が生んだ卵をそこからとりだして、それを他の雌にあげて"乳母さん"をやらせているうちに、繁殖の上手な雌にもう1回卵を産んでもらうことによって1シーズンに2回の産卵を促すというようなことをしたんですね。あと、カカポというのは普段は一人暮らしなんですよ、雄も雌も。で、繁殖期になると雄が広場みたいな山の上の方に集まってきて、胸にある空気袋を膨らませて、そこに座り込んで風船みたいに「ブンッ、ブンッ」「ンッ、ンッ」というように低い声で鳴くんですね」 鳥たちの95%は、オスがさえずるといわれていて、そのさえずりの目的には、縄張りの宣言や繁殖の為のメスへの呼び掛けなどがあるわけですが、「カカポ」のオスの場合は“ブンブン”と声を響かせる「ブーミング」を行なって、メスを呼び寄せます。ちなみに、この時、なるべく遠くに音を響かせる為に、音を増幅させるような「くぼみ」を地面に作って、その中に入って「ブーミング」を行なうそうです。 「そして、その低いドラムみたいな音が雌のもとに届いて、雌は「どの雄がいいかなー」と選んで一夜の契りを結ぶと、もう帰っちゃうんですよ(笑)。それから巣を作るのも子育ても1人でするんですね」 ●おんな手ひとつで・・・。 「ええ。そんな1人での子育てということをしているもんですから、雌としては何羽もヒナがいると大変なんですよ。1羽なら、一人っ子だから一人分の餌をあげればいいけど、3羽いると、3羽を育てなければいけない。3羽も育てようとすると、自分もヒナも痩せちゃって、全部が飢え死にしてしまうこともあるんですね。なので、たくさんヒナがいるところの雌から、ヒナを取り上げて繁殖が成功しなかった雌に分けていったんですね。それですべての雌が1羽か2羽ずつ子育てを出来ると。そうすると、子育てが分担できるじゃないですか。どうやらカカポはアバウトな所があって、例えば卵の上に座っていて、その時にちょっと席を外してご飯を食べに行くと。それは全てモニターされているんですが、その様子を見ていた保護官の人が、卵の代わりに生まれて2週間くらい経ったヒナをそこに置くわけです。そうすると、ご飯を食べ終えて帰ってきた母親は「あれっ?さっきは卵だったけど、ヒナになってる」と。でも、なんとなく餌をあげ始めるんですよ(笑)」 ●いい鳥ですねー、なんかそのアバウトさもなんともいえない・・・(笑)。今年はそれで大繁殖、大成功したんですね。 「はい、ようやく。今年の初めには62羽でしたから、12年くらいかけて1.5倍、40羽から62羽になったのが、急に今年、どーんと増えて86羽になりました」 ●他に保護をしている人達の活動としては、どういうことをするんですか? 「まず"巣を守る"仕事があります。実は、鳥達は背中に無線をつけていて、その無線でどこにいるのかがわかるんですよ。例えば普段は雌が歩き回っているんですが、同じ場所に毎晩寝るようになると「これは巣を作っている」というふうにわかるんですね。そうすると、自然保護官のプロが巣の場所を探すんです。それで巣の場所がわかったら、そこに小さなカメラを巣の中に設置して、巣の入り口には赤外線のドアチャイムを付けておくんです。そこを出たり入ったりすると、赤外線が察知して「ピンポーン」「ブー」とかいうんですよ(笑)。私達ボランティアは、まず夕方は4時くらいにご飯を食べてから、夜食、寝袋と、バッテリーをもっていくんです。それはそのモニター用なんですが重さが12.5キロもあるんですよ。そして寝袋が3キロくらいで、さらにリュックそのものも3キロくらいあるので、合計20キロくらいあるんですけど、そのリュックを背負って1時間くらい山道を歩いて巣のところへ行くんです。そこに行ってから、まず鳥がいるかどうかを見るんですね。そしてドアチャイムの「ブー」って音がすると母親が外に出たということなんですが、その母親も外で何時間かけてご飯を食べてくるかわからないんですよね。その時にヒナが凍え死にするという可能性があるんです。そこでボランティアは「ブー」って音がすると外に出て巣の所に行ってヒナに電気毛布を掛けてあげるんですよ。母親が帰ってくるまでずっと電気毛布で温度を30度くらいにして守ってあげるんですね。それで母親が帰って来た時に私達を見るといけないので、母親についている無線機を頼りにアンテナで常に帰りをチェックをして、帰ってきたときは毛布を外してテントに戻るんですね、それを一晩中やるんですよ」 ●いま、お話を伺っていてふと考えてしまうのは、いわゆる保護区で人間が保護をして繁殖させて大きくさせて、母親カカポには次々に卵を産んでもらったほうが楽だし確実なんじゃないかなという気もするんですけど・・・。 「やっぱりできるだけ自然の状態で、アイデンティティーを失わないように育てたいというのが基本的にあって、病気の鳥や発育状態が悪い鳥は保護官が世話をするんですが、それも、ものすごく大変なんですよ。とにかく一日中餌をあげなければいけないんですから。実際には朝6時から夜の12時くらいまで一日10回くらい餌をあげなければいけないんですが、それぞれあげる量も違いますし、それも特定の粉を決まった温度の水で溶かして、注射器みたいなもので胃に送り込んで、食べさせた後はアゴの辺りをさわってあげて・・・」 ●もう、母親に育てさせましょう(笑)。でも、カカポを守るためにはリムの木も守らなくてはいけない。自然は人間の力ではどうにも出来ないことも多いけど、その自然との繋がりというのがカカポの激減だったり大繁殖だったりに繋がるということが、ニュージーランドの人はもちろん、世界中の人達がわかってくれると、86羽にすることがどれだけ大変で大切な事なのかということをわかってもらうことにも繋がりますよね。そして応援してくれる方々が、もっともっと増えてくれるいいですね。 「そうですね。私も教えてもらうことがいっぱいあって、結局いまの人間のペースって、すごく人間の身体に合っていないペースで動いていると思うんですね。でもカカポというのは、ものすごい悠久の時の中で、飛ぶ能力を失いながらも適応し、森のリズムに合うような形で進化してきて、ニュージーランドが大陸から分かれてからの6000万年の間に身に付けた自然のリズムで生きていきたいのに、それを許さない環境にしているのは実は私達なんですよね。その自分たちの生活とかバランスのいい生き方というのを考えるという意味でも、知ってもらえるとうれしいなと思います」 ●カカポ基金の代表である内田さんとしては、今後の活動の予定はどんなことが・・・。はじめにおっしゃっていた本も、そろそろ仕上げて欲しいなとも思うんですが(笑)。 「(笑)。いま、ニュージーランドの自然保護省がカカポのリカバリープランを英語で紹介しているんですよ。それを日本語にしようということで日本語化翻訳プロジェクトというのをやっておりまして、これももう1年やっているんですけど、あと一歩の所まで来て止まっているので(笑)。それを見ればカカポの歴史だとか生態などが分かるので、これをぜひ、まずは年内に・・・。 ●カカポは今年は順調に繁殖が成功しました。この先、来年とか、これが順調に育っていくことを見守るしかないですね。 「そうですね、まだ80羽くらいなのに増えすぎちゃったという感じで(笑)、縄張りをもっている鳥なので、一つの島にいっぱいいるとケンカをしてしまう可能性があるんですね。だから今度は別の新しい島にも住み始めていて、チョウキー島というところなんですが、今年の6月から繁殖の出来そうな鳥を移していっているので、その鳥達がはたしてちゃんと繁殖するかどうかというのが次のシーズンへ向けての鍵になっていますね」 ●また新しい進展があれば、ぜひ番組の方まで教えていただければと思います。 「いつも、見守っていただいて。ありがたく思っております」 ●見守る事しかできない「ザ・フリントストーン」ですけど(笑)、これからも応援させていただきます。頑張って下さい、今日はありがとうございました。 『カカポ基金』紹介 『カカポ基金』では会員を募集中。年会費は3,000円です。 写真とイラストによる「カカポ」のポスト・カードも5枚組、1,000円で販売中。こちらは会員でなくても購入できます。 ポスト・カードの売り上げも、『カカポ基金』の会費も、必要経費を除いて、ニュージーランドの自然保護省を中心とした、「カカポ・リカバリー・グループ」に寄付されることになっているので、皆さんもぜひ、ご協力お願いします。 お問い合わせ:カカポ基金事務局 PXI12631@nifty.com カカポ基金(日本語) http://homepage2.nifty.com/kakapofund/index.html カカポ・リカバリー・プログラム(英語) http://www.kakaporecovery.org.nz 『カカポ 月のこども』 ハート出版/定価1,500円 内田泉さんは「カカポ」の絵本も出していらっしゃいます。お子さんへのクリスマス・プレゼントにするのもいいかもしれませんね。 最初に戻る ON AIR曲目へ ゲストトークのリストへ ザ・フリントストーンのホームへ photos Copyright (C) 1992-2002 Kenji Kurihara All Rights Reserved. |