2003年3月30日

写真家・倉沢栄一さんのアザラシ・アンド・トド物語

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは倉沢栄一さんです。
倉沢栄一さん

 今週は、北海道・襟裳(えりも)岬在住の自然写真家・倉沢栄一さんを写真展会場に訪ねて、お話をうかがったときの模様をお送りしました。
 南北に長い日本の海は、想像以上に多様性に富んだ、豊かな生態系を誇っています。そんな日本の海の生き物たちを撮り続ける倉沢さん。今回は主に地元・襟裳で起こっているゼニガタアザラシとトドの「食害」問題について、その現状や今後の展望などをうかがいました。

●今日、私達がお邪魔しているこの写真展会場に展示されているのは、以前出版された『日本の海大百科』に収められている写真ということですが、やっぱり本という形、写真集で読んだり見たりするのと、こうやって額に収められて貼られているのとは雰囲気が違いますね。

「そうですね、やっぱり写真はプリント、要するにペーパーに焼いたのが一番良いんですね、作品を見ていただく意味では。今回は、プリントアーティストっていう方がいらしゃるんですが、すごい方と出会ったというか、北海道の方なんですがその人に焼いてもらいまして、すごい仕上がりで自分でビックリしているんですけど、「一生お願いします!」みたいな感じなんですよ、本当に」

●(笑)。じゃあ今回、いい巡り会いがあったと。

「うん、で、本は本でいつでもいろんな人が見れる形で残せるけど、本当に写真の良さというか、持っている力を見ていただくには、プリントで焼いたやつを写真展会場で見ていただくのが一番なんですね」

『日本の海大百科』

●特に海の底の写真を見ていると、森の中にいるような、多分、水の泡がブクブクなっている部分が雲のような感じで、一瞬、「え!?これ、海の中なの?」って思っちゃうような写真も何点かありましたけど、そういう大きいプリントの写真で見ると迫力も全然違いますね。

「そうですね、入り口に飾ってある写真とかも、会場全体を水の中みたいな雰囲気にしたかったので大きくしたんですけど、雲が水と空気で出来ている、波もそうなんですよね。だから似ているようなところもあるし、延長ですからね、陸があって水面を隔てて海があって、そういう面白さというところも見ていただければと思いますね」

●かわいい写真から、圧倒されるような息を飲むような写真など、いろいろな写真が展示されているんですけど、前回お話を伺った時は、ジュゴンやマナティのお話をしていただいたんですが、同じジュゴン、マナティとかの海獣類の一つでもある、東京なんかではこの頃ずーっと話題になっている、タマちゃん。

「はい、いますね(笑)」

●(笑)。倉沢さん、タマちゃんの写真も撮りました?

「僕もミーハーなんでね、一回見に行きました、去年。帷子川に行ったんですけど、僕はどっちかというとタマちゃんを見に来ている人を見に行ったんですけど、たまたま三日くらいいなかったときで、見れなかったですけどね。残念でした」

●いま結構、問題があって、“タマちゃん問題”になっているじゃないですか。餌をあげたほうがいい、放っておいてあげたほうがいいとか、いろいろ問題になってますけど。

「大騒ぎしていますね。でも本人達は、一生懸命に本当にタマちゃんのことを思って発言したり、活動をしているので、うかつなことは言えないですけど、僕らの所(襟裳岬)にあれだけアザラシがいるっていう俺達から見たら、なんであんなに大騒ぎしているのかなって思って。よく冗談で言っているんですけど、あんな一匹のアザラシで大喜びされるんだったら、今、襟裳のアザラシは漁師の網に入って魚を食べる害獣扱いなんでね、親善大使として各河川に50頭くらい出すかって、そんな冗談も言っていて、でも条件があってね、名前は全部“エリちゃん”。江戸川の“エドちゃん”や、利根川の“トネちゃん”とかにしないで、全部“エリちゃん”(笑)。“エリちゃん1号”“2号”でもいいですけど。そんな冗談を言ってるくらいなんですよ」

●(笑)。

「ですけど、個人的な意見を言うと、僕は放っておけばいいのかなって。べつに自分で来たんだし、網が首に絡まったり見るからに弱ってるとか、そういうことでなければ放っておけばいいのかなって。少なくとも税金を使って捕獲はするべきではないなとは思っていたんですよ。でもずっと見ていると、逆に税金の無駄使いじゃないけど、いればいるほどいろいろな問題が起きるわけですよね。それだったら、早く収容して北海道に放すっていう話らしいですけど、果してそれで無事元にいたところに帰れるか分からないし、北海道もたくさん定置網のある沿岸がありますからね、それで網に絡まって死んじゃうっていうこともあるのでね」

●そうですよね。

「個人的な考えですけど、例えば捕獲したとして、健康診断も兼ねて水族館かどっかに収容して、そのまま展示できればして、みんなの、ゴマちゃんに次ぐ一番有名なアザラシですから、タマちゃんをみんなで大事に見守って、最後、亡くなったら国立科学博物館の上にはく製がいろいろ展示していますから、ハチ公と、リンリン、ランランの間にでもね、展示したらどうかなって思っているんですけどね。そんなこと言ってね、またいろいろ言われそうですけど(笑)」

●(笑)。前回、お話をスタジオで伺ったときも、北海道でのゼニガタアザラシと漁師さんとの問題というお話が出たんですが、ここで改めてちょっとおさらいを含めて伺いたいなと思うんですが、どういう状況なんですか、今。

「秋に塩鮭を定置網で捕獲しているんですが、それにアザラシが入って食べちゃうんですね。アザラシのことをトッカリと言っているんですよ、北海道では。アイヌ語なんですけど。僕は襟裳に住んで10年になるんですけど、当初はアザラシの写真を撮りたいと言ったら「お前は、トッカリの味方か!」なんて酒飲むとからまれたりしていたんですけど、でも、実は共存してきたんですよね、地元の人達とアザラシは。で、ゼニガタアザラシを天然記念物に指定しようという動きがあったときに、漁師は反発したわけですよ。結局、その反発を受けて、そういう天然記念物の指定にはならなかったんですが、そのときに逆に被害意識を持っちゃったんですね。そういう取り上げ方をしたんでしよね、アザラシか、漁師かで、二者択一みたいな記事、見出しがバーンって出て、それを見た漁師達はますます被害意識を持っちゃったっていうのがあるみたいですね。僕なんかが見ていて思うんですけど、実際の被害と被害意識って違うんですよ。被害を減らす努力をいろいろしているんですが、なかなか減らせなくて、でも被害意識を減らすことは出来るんじゃないかなと思っていて、その辺がネックかなと思っています。具体的にどういうことかというと、アザラシが定置網に近づかないように、アザラシが嫌がる音波を出したり、漁師さんが自分で考えたんですけど、海面にカカシを立たせてるんですよ」

●えっ、海面にですか?

「ええ、海面にカッパを着せたカカシを立たせて、アザラシが顔を上げたらそこに漁師が立っているというような(笑)。最近進化して、マネキンにカッパを着せて船に立たせて、風で手も揺れるんですよ。どう見ても、僕らが見ても人が立っているようにしか見えなくて、それも科学的なデータを採っているわけじゃないですけど、自分達で努力してやっているせいか、なんとなく効果があるって言ってるわけですよ。ある面、それで気が済んでいるというか、それでも漁業被害は無くなんないんだけど軽減しているっていうところがあるんですね」

●なるほど。

「あと、今一つ動きがあって、旧狩猟法の鳥獣保護法というのがあって、今までは海の動物は入っていなかったんですが、今年の4月に改正、施行なんですけど、アザラシとジュゴンが入ったんですよ。クジラとかトドは入っていないですけど。事実上、むやみやたらにアザラシを捕獲できなくなったんですね。これは時代の流れで、しょうがないと思うんですけど、地元の漁師さん達もそういう流れを見ていて、自分たちも被害があると言っているばかりでは埒があかないと。どうせアザラシに手をかけられないんだし、残すんだったら積極的にそれを利用すればいいじゃないかって。襟裳岬って観光地ですから、一生懸命に役場とかがアザラシを観光の目玉にしたくて、今まで漁師の顔色を伺っていて出来なかったんですが、それも漁師も分かっていて、俺達が騒いでいた責任もあるから、それを積極的に襟裳岬にアザラシ目当てでお金を落してくれて、違うところで潤えばいいじゃんか、っていうようなことを漁師さん達が言い出したんですよ」

●なるほどねー。

「僕が思うに、動物と人間が共存するということで問題があったときに、別に動物と人間が話し合って共存、どうするかっていう問題じゃないんですよね。人間関係なんですよね。例えばアザラシがいて、アザラシがいないほうがいいと思っている人と、アザラシをどうにかして残したいという人との人間関係なんですよね。そこなんですよ、実は。人間VS動物ではなくて、人間関係。それをちょっと考えたほうがいいのかなって思いますね」

●そうですね、私達もこういう番組を長くやっていて自然とか、環境保護、特に自然保護で、人間が自然を保護しようなんておこがましい、っていうことを考えると、人間同士の問題だったりしますもんね。

「うん、結局そこにいっちゃうんですよね。その関係が上手く出来ていれば歩み寄れるわけじゃないですか」

●ちなみに今、襟裳の方ではゼニガタアザラシはどれくらいいるんですか?

「今、450頭ぐらいになっちゃいましたね。10年間で1.5倍に増えちゃったんですよ」

●どうなんでしょうか、これで保護されるようになると、さらに増えていくわけじゃないですか。

「そうですね。それも何で増えたのかっていうことがよく分かっていないんですが、昔は食べていたんですね、食料難の時代、戦争の前後の肉が無かった時代に。その食文化が残っていて、僕が行った頃は棒で叩いて食べていたんですね。それも今はほとんどしなくなっちゃったんですよ。少しはした方がいいのかなあって漁師さんに言ったんですけど、見に来ている人もいるのでやりづらいですし、今は美味しい肉も多いしやらなくなったんですね。おそらく、そのせいか増えていて、でもこれ以上増えるかどうかも分からないですね。上陸上の問題もあるし、餌の問題もあるんで。少なくとも襟裳岬の周辺で餌を求めているんですけど、多少、漁業被害は広がっています。増えてる分、広範囲になっているのは事実ですね」

●実は今回の写真展会場に展示されている作品の一つに、トドが網に引っ掛かっちゃっているのがあったんですが、お話によると、その鳥獣保護法にはトドが入っていないんですよね?

「うん、入っていないんですよ。なぜかというと、クジラとトドは、クジラは食肉として捕鯨の問題もあって水産省が関わってきていて手放せないと。あとトドも漁業被害があって、アザラシと違って網を食い破るんですよ。直接、漁業に被害を与えるんですね。水産省はそのトドの被害防止のためにいろいろ調査や研究もしていて、今まで通り水産省がやるということで手放せないんですよ。学者なんかはアザラシを入れるんだったらトドも入れるべきだ、って動いているんですけど、今のところ手放さないんです」

●そして倉沢さんはトドを見守る会というのを・・・?

「はい、襟裳狩猟クラブというような形で、トドと人間の共存を考える会ができないか、そういう相談を受けたんですけど、近々、積丹(しゃこたん)の方なんですけど、そっちの方で立ち上げると思います」

●北海道での、そういう問題というのは、時間はかかりながらもいい方向にどんどん行っているんですね?

「行っているんじゃないですかね。少し気が付き始めたというか、トドにしても、要するにこれまで通り駆除をし続けても、絶滅させたいなら別ですけど、もう行く場所が無いから日本の海域に来ているわけで、これ以上やっていてもお金もかかるし、トドも減っちゃうし、漁師も頭駄目になっちゃう、両方にいいことが無いんですよ。それだったら、トドもいれる、漁師も食えるような海にした方がいいじゃないですか。そういうことに気が付いてきたんじゃないですか。ちょっと発想を一歩進めれば、暇な漁船をつかまえてトド・ウォッチングをするとか、そういう風にいくんじゃないかなと思っているんですね。面白いじゃないですか」

●そうですねー。

「一番理想的なのは、天然記念物とか、法律の網を被せるんじゃなくて、地元の人が残したいと思って見守るのが一番いいわけですよね、ずっとそれが続くわけじゃないですか。法の網を被せたって、それだけじゃ全然効力が無いわけだし、絵に描いた餅なわけですから、地元の人が、これは財産だから残したいという気持ちが持てれば一番いいんじゃないかな」

●いずれ、倉沢さんの写真展会場に、漁師さんがトドちゃんやアザラシちゃんを抱擁しているような写真や、チューしている写真とか、そういうような和気あいあいな写真も見れる日が(笑)。

「近いのはありますよ。親からはぐれた子供が弱って浜に打ち上がったりしているのを見つけて水族館に届けることもありますし」

●この問題、ザ・フリントストーンとしても見守っていきたいと思いますので、ぜひまた新たな展開がありましたら、番組でお話を聞かせていただければと思います。今回は写真展会場にお邪魔をしてお話を伺ったんですが、次の写真展や、写真集のご予定というのは?

「写真展はこんな大きいのはしばらくできないと思いますが、来年、これを大阪に持っていきます。本は今、英語のアザラシの子供向けの写真絵本みたいなのと、もう一匹有名なアザラシいましたよね、あれのドタバタ劇をちょっと書いています(笑)」

●(笑)。じゃあ、それぞれ、新たなものができましたら、またぜひ。

「はい。ありがとうございました」

●今日は本当にどうもありがとうございました。

■このほかの倉沢栄一さんのインタビューもご覧ください。

このページのトップへ

『海辺の生きものガイドブック』
『ジュゴンデータブック』

■自然写真家・倉沢栄一さん情報

『日本の海大百科』
TBSブリタニカ/本体価格4,700円
 日本の豊かな海に生きる海洋生物の写真を撮り続ける、倉沢さんの集大成ともいえるこの大作は、魚から海洋ほ乳類まで様々な生き物の営みが網羅された1冊です。

『海辺の生きものガイドブック』
TBSブリタニカ/本体価格2,400円
 “身近な海の生き物図鑑”として、お子さんと一緒に磯遊びをする時にも役立つ、分かりやすい内容のガイドブックです。

『ジュゴンデータブック』
TBSブリタニカ/本体価格1,800円
 去年9月に出版された倉沢さんの一番新しい本です。ちなみに、この本の売り上げの一部はジュゴンの保護に役立てられます。

 倉沢さんは現在、目の不自由な方のための、“触って分かる海洋生物図鑑”というのを考案中で、商品化された時には、ぜひまた番組でもご紹介したいと思っているので楽しみにしていて下さいね。

このページのトップへ

オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. PEACEKEEPER / FLEETWOOD MAC

M2. TELL ME WHERE YOU'RE GOING / SILJE

M3. EVERYBODY'S TALKIN' / NILLSON

油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M4. SNOWFLAKES / VANESSA WILLIAMS

M5. LOVE IS THE SEVENTH WAVE / STING

M6. SALT WATER / JULIAN LENNON

M7. STAY GOLD / STEVIE WONDER

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
このページのトップへ

新着情報へ  今週のゲストトークへ  今までのゲストトーク・リストへ  イベント情報へ
今後の放送予定へ  地球の雑学へ  リンク集へ  ジジクリ写真館へ 

番組へのご意見・ご感想をメールでお寄せください。お待ちしています。

Copyright © UNITED PROJECTS LTD. All Rights Reserved.
photos Copyright © 1992-2007 Kenji Kurihara All Rights Reserved.