2003年4月13日
稲本正さんのアマゾン木工紀行
今週は、オークヴィレッジの代表、作家そして木工芸家の、稲本正さんをお迎えし、発展途上国で森の再生・保護に努める地元の人々の支援を目的とした、森の惑星基金とその活動についてうかがいました。
●ご無沙汰しております。稲本さんは、ちょっと前にブラジルのアマパ州の方に行ってこられたばかりということで、今日はその辺の話から伺いたいと思うんですが、今回行かれたのは、JICA(ジャイカ)国際協力事業団の要請で行ってこられたんですよね? 「うん、JICAって、いろんな国、発展途上国が多いんですけど、それを支援する、外務省の団体なんです。日本人は時々誤解をしているんだけど、アマゾンの人って木や森が好きだと思っているでしょ? でもアマゾンの人は9割以上が、森も木も大嫌いなんですよ。あまりにも木や森が多いから、嫌いになっちゃうの。でね、そもそも前に行ったときに、前の知事、結局行ったら州知事が変わってたんだけど(笑)、前の州知事のカピベリーベという人と会って、優秀な州知事はやっぱり木や森は宝物だと思ってるから、僕がオークヴィレッジで作った家具とか木工品や建築の写真を見せたら、ものすごい驚くわけ。「すごい!」って。この技術がアマゾンに入ったら、木はいくらでもあるわけだから、アマゾンはすごいことになるって。いい技術協力でうちを助けて欲しいっていうような話を1999年から2000年のクリスマスの頃話してて、その時是非来てくれって言われたんだけど、実際に行くまで4年近くかかっちゃったのよ」 ●(笑)。じゃあ、その時の話が生きていて、今回ようやく実現したということなんですね。 「そう、やっぱしね、結局JICAって日本が金を出すわけだから、ブラジルが呼んで国と国の交渉だから、それが成り立たないと行けないわけだよ。個人的に行くとお金もかかるし、行っても儲けないしね。それが結果的に、3月に実現したんですよ」 ●なるほどね。ずっとその時の模様とかを稲本さん、オークヴィレッジのホームページで書かれているんですけど、その中でアマパは、アマゾンの中でも土壌が豊かだっていうような書き方をされていましたけど? 「豊かっていうか、下流だからなんですよ。アマゾンは元々は太平洋に流れていたの。それがアンデス山脈が隆起して、大西洋に流れるようになったんだけど、中流から下流まで、標高はほとんど海抜0mなんだよ。それでも、どんどんアンデス山脈から水を押し出して流れているのね。やっぱり上の方にも膨大な森林があって、アマゾン全体で日本の13倍の森林があるわけ、すごい森林。それが上流からどんどん下に流れて、あれだけの森林の養分が下の方に来れば、より豊かになるじゃない?」 ●元々アマゾンの全体的には、土地は痩せている? 「うん、痩せている。痩せているけど水と太陽は嫌になるほどあるから、木はどんどん育つんだよ。前から聞いていたんだけど、2年前に植えた木を見てビックリしたんだけど、2年間で10メートル以上伸びてるの。木にもよるんだけど、ゆっくり大きくなると言っても早いね、大体は。すごい硬い木でも5年くらいで直径が10センチ以上になっちゃうからね」 ●じゃあ、本当にちょっと植林なんかをすれば、どんどん大きくなっちゃうから、そこに住んでいる人達が「木、もういいよ!」という気持ちも分からなくはないですね。 「そう、木なんて、ゴミより多いんだから(笑)。それでね、アマパ州というのはね、日本より面積が広いのよ。そこに55万人しかいないの。日本より広いのに55万人しかいないのよ、それで8割以上は森林ね。そこで切った、切ったって言っているけど、よく聞いたら森全体の3%しか切っていないわけ。行ってみてもっとビックリしたのは、川に木が流れてくるのよ」 ●いわゆる、流木って言うやつですね? 「そう、森の中に氾濫原林のヴァルゼアとテラフェルメっていうのがあって、ヴァルゼアっていう水に浸かるところの木は、洪水がバーって起こるわけだから、どんどん倒れるわけ。倒れたやつが流れてくるのよ。そこの木材屋さんに「お前、何してんの?」って聞いたら「木を拾ってんだよ」っていうわけ。拾っているって言ってもね、直径1m以上で長さ40m以上の木が流れて来るのよ。下流にいるとね、ただ待っていればいいのよ(笑)。余計なことすると、損をするだけ」 ●流しそうめんのような感じですね、一番下で待っていればいいと。 「そう、やっぱり木はね、歳をとって1mくらいになると中が空洞になっちゃうんです。空洞になった木というのは弱いから倒れるんですよ。だから僕らが使っている木を見たらみんな中が空洞になっていましたよ。空洞になっている木を放っておくと、それはどんどんシロアリが食って、それ自身が腐ってCo2を出すわけだから、空洞になった木を切ることは、環境には悪いことではないんですよ。アマパに関しては非常に生態系が守られている、アマゾンの中では。隣のパラ州という所は日本の3倍くらいあるんだけど、これは相当切っているんですよ。アマパ州自身はそんなに切っていないので、僕は循環型のモデルを作って、それで流れてくる木だけで家具を丁寧に作れば全然木はいらないって言うので指導に行ったんですよ」 ●なるほど。そこで具体的にはどういうことを指導されたんですか? 「行く前にいろいろ聞いていたんだけど、木を大切にしないのね。あまりにもありすぎて嫌いなんだから(笑)。インターネットとかで写真を送ってもらったら、大体僕らは木は台の上に置くでしょ。土の上に置くと砂とかがついて、機械にかけると刃が欠けるしね。ところが写真を見たら土の上に捨てるように置いているのよ。これ、本当かなーって思って行ったら、やっぱり捨てるように置いてあって、加工してあるものも土の上に捨てるように置いてあるの。せっかく加工したんだから、もうちょっと丁寧に置きなさいよとかさ。あと、木はちゃんと表面を削ればくっつくんだよ、接着剤を着ければ。でも向こうの人はくっつかないって言うわけ。要するに、きれいにまっすぐ削るということをしないから、隙間があってくっつかないんだよ」 ●嫌いだから、ダーってやって終わっちゃうんですね。 「うん、だから加藤っていう弟子を連れていって、これは意識革命をしないと駄目だって。こんな感じでいくらやっても駄目だから、僕らはオークヴィレッジで100年かかって育った木を、100年使ってね、一方で木を植えつつ循環型を日本でやっているんだと言っても、『へー』っていう感じでさ、『やったら?』『そんな、なんでここで木を植えるの?』って。あれ、真正面で質問されると意外と『あれ?』っていう感じで、なんて答えればいいのかな?って分からなくなるんだよ(笑)」 ●(笑)。そこは稲本さん、がんばって! 「それでさ、頭に来たから法隆寺の写真を持っていったわけ。『これを見ろ!』って言ってさ、この法隆寺は1400年前に作ってね、未だに建っているんだ!って言うと、それはビックリしてた。『エー!?』ってね。1400年の間も直してるけど、その直しをした西岡さんというのは僕の師匠だって言ってさ、まあ知り合いだからさ。それで見せたら、すごいって言ってさ、『西岡はペレみたいな人だな』って言うわけ。だから『そうだよ、俺はペレの弟子だからジーコだ!』っていってね(笑)」 ●(笑)。あっ、サッカーにつなげると、分かりやすくなるんですね。 「そう、そういう話をしていたら、次の日からね、日本から木工のジーコが来た!っていう話になってきたわけ(笑)。その辺から話がやりやすくなってね、加藤はもう、ロナウジーニョかロナウドだよ。現役だ!ってことで(笑)。たまたま加藤が木工をやっている写真が『緑の国オークヴィレッジ』っていう本の中にあって、本の中に写真が載っているということは、向こうではスターだから、『これを見ろ! 加藤は日本の本でも紹介されている一番の現役の木工のクラフト・マンだ!』って言ったら急に視線が変わるわけ。だからみんなサッカーに例えてるの(笑)。サッカーではフォーメーションが大切だろ? だから機械の配置を考え直せとか。あと、ジーコが今、日本の監督をやっているっていうのがすごく良かったのね。もう、みんなサッカーファンだから、それだけで『友達だ!』ってなっちゃうわけ」 ●わかりやすい! その加藤さんは、その後も向こうで? 「まだいるんだよ。それで俺が帰る直前にね“師の影を踏むな”って炭で書いてさ、それでポルトガル語に訳してもらって、まず時間厳守ね、あの人達、絶対に時間守らないから(笑)、それから整理整頓とか漢字で書いてきたんだよ。それを、どうやっているかというとね、みんな集まったら“師の影を踏むな”って加藤が言うと、わけ分からず『シノカゲヲフムナー!』、“時間厳守”って言うと『ジカンゲンシュー!』って言うんだって。だから結構上手くいってるよって言ってたけど」 ●稲本さんご自身はどの位いってらしたんですか? 「僕は3週間くらい。加藤君は3ヶ月だから、あと2ヶ月いるのかな」 ●その3週間の間にはサッカーに例えて、いきなりみんなの目が変わったっていうのがあったでしょうけど、技術的に、あとは大丈夫だな、回っていきそうだなっていう所までって、結構かかりました? 「結構かかったね。3週間のうち初めの1週間は行った時が悪かったんだけど、カーニバルの翌日だったんだよ(笑)。カーニバルって、3月4日の火曜に終わるわけ。それで5日は灰色の水曜日って言われているのね。みんな目が灰色になっちゃって(笑)。5日に話しても全く反応が無いから、6日にも話したけど、その週は駄目だったね。そして次の週になってサッカーを思い出して、例え始めたらだんだん良くなってきて、やっぱりこっちが『出来るぞ!』って見せなきゃ駄目。実際ウチで作ったものも、小っちゃいけど持っていったの。木の筆箱とか、額とか、漆塗りのものとか、いろいろ持っていって、物を見せると彼らは納得するんだね。いくら口で言っても駄目。だからウチの筆箱や漆器を見て、『こんな捨てるような材料で良く作れたな』『こんなのみんな燃やしていたよ』って言うんですよ」 ●もう、感覚が違いすぎたんですね、最初は。 「そう、それから最後の時に講義をして、木の作り方とかを話したら、結構分かってきたよ。だから2週間目くらいから良くなって、3週間目には完全にジーコの位置を獲得し始めたからさ(笑)、だんだん尊敬の眼差しが高くなってくるのが分かるのよ」 ●JICAの要請で今回は、アマゾンの中のアマパ州に行ってらしたわけですけど、実際その活動の合間に、森の惑星募金で支援する、アマパ州の秘境、イラタプルー村にも再び訪れたんですよね? 「イラタプルー村なんだけどね、アマゾン川ってすごい大きいんだよ。どの位大きいかというと、河口近くでは中洲の島があるんだよ。その島が九州より大きいのね。日本では九州の中に川が流れているけど、アマゾンでは川の中に九州があるんだよ。それくらい大きい所なんだけど、それの支流なの。支流って言っても日本の川より全然大きいのよ」 ●日本で言う大河が、向こうでは支流になるんですか? 「もう支流の支流の支流ぐらいだね(笑)。黄河とか揚子江くらいが、支流なんだよ。それくらい大きくて、そこにジャリ川というのがあるんだけど、そのジャリ川の奥にサントアントニオの滝というのがあるの。それが一番落差が大きい滝なの。落差40mという滝で、しかも幅が広いんだよ。前に行ったときは乾季に行ったからさ、水は流れててキレイだったけど、今回は雨季に行ったからさ、もうね、滝が、グヴァーって落ちてて水の量が何倍だから、水煙がゴオーってなって写真が撮れないのよ。その滝の奥にイラタプルー村があるわけ。それで前からノートと鉛筆が無いって言うから重いのに持っていってさ、雨季だからザーザー雨降るじゃない。だから特別に梱包してさ、絶対に水に当たらないように俺と加藤で持っていったら、やっぱり喜んでた。あの人達いっぱい子供作るからさ(笑)、子供が増えてどうしようかと思ってたんだけど、前よりいろんな施設が良くなっていて、先生も1人で教えていたのが、6人になっているの。交替で4人ぐらいは平均で来ているとか言って。いろんな所が良くなっていましたね、うん」 ●じゃあ、全体的にいい方向に行っているんですか? 「いや、そうでもないんだ。いろいろね、州政府が変わっちゃったから。前の州政府の時に僕らは行ったわけ。次の州政府で、アメリカで言えば民主党から共和党に変わったようなもんでね、クリントンからブッシュに代わったくらい政策が違うんで、イラタプルー村は前の州政府の保護下にあったから、今の政府はあんまり熱心じゃないです、正直言って。ブラジルナッツのビスケットの工場があって、前行った時は、なんか焚き火みたいなのでビスケットを作っていたのよ、ものすごく焦げている所と、全然焼けていない所があって、こんなの売れっこないだろうみたいなビスケットだったんだけど、超近代的な建物が忽然と森の中にあるのよ。その工場に入る瞬間に白装束に変わるわけ。それくらい衛生的にしないとブラジルでは売っちゃいけないというんで。ところが、それだけ衛生的に作り始めたんだけど、州政府が変わっちゃったから、まだ売る許可が出てないのよ」 ●せっかくそこまでして一生懸命作って、均等に焼けるビスケットが出来たのに。 「すごい均等なの(笑)。だけどさ、みんなミキサーでかき回されて、ほとんど自動的にいくから、それで自動制御みたいなのも付いてて、全部温度制御して焼けて、出来上がったのがベルトコンベアーでダーってきて詰められて、ちょっと味気ないけどね(笑)、ま、そういうふうになっちゃって、それでもまだ売れないんだって。売れないけど、あんなにいっぱい(鉛筆とノートを)持って来たんだから、それと同じくらいビスケットを持ってけってね、帰りは重いビスケットを持って帰ってきたのよ、うん」 ●それはじゃあ、ブラジル国内でも当然売っちゃいけないし、国外にも輸出できない? 「うん、まあ自分たちで食べる分はいいから、こんどビスケットパーティーでもやろうと思っているんだよ(笑)」 ●近代的なビスケット工場ができるのはいいんですけど、変なふうに近代化されたりたりとか、変わって欲しくないですよね。 「うん、だからその場に合うバックアップというか、ちょっと今回のはやりすぎだったんだよね。G7というすごい大きいプロジェクトの一環でやっちゃってますから、超近代的と超原始的とのギャップがすごくて、それをどう埋めるかというのがこれからの課題ですね。地元の人達のやる気はもちろんあるので、僕も少しずつ関わっていきたいですし、日本人の方がアマゾンの奥地を手伝うのは向いていると思いますね。ヨーロッパとかアメリカの人達は超近代的な発想だけど、日本人は里山という発想を持っているから、自給自足しながら少し里山的に木を植えたり作物を作ったり、その木で家を造ったりというのは向いているんじゃないかなと思ったね。アマパでね、最後に僕は講演したのよ、それで講演の締め括りに、締めの一言って言われて何て言おうかなって思ったんだけど、日本語訳で“どんな大きな木も、一粒のドングリから”という言葉があるんだけど、それを言ったの。そしたらみんなスタンディングで拍手をしてくれて良かったんだけど、『あなたね、種を植えたんだから、大木になるまで面倒を見て下さいね』って言われてさ、絶対に最低1年に1回は来て下さいって言われて(笑)。ちょっとこれはまた行かないといけないかなという」 ●良いんだか、悪いんだかと言う状態に自ら追い込んでますね、稲本さん(笑) 「そう、だんだん関係が出来るとさ、もう来い、来いってなっちゃうじゃない」 ●これから稲本さん、まだまだ年に一度ブラジルに行かなきゃいけないし、他にも行かなきゃいけない所がいっぱいあるわけですから、お体に気を付けて、また楽しいエピソードを。 「でも、ああいう所に行くと元気になるんだよ(笑)」 ●(笑)。またぜひ番組でお話を伺わせて下さい。今日は本当にありがとうございました。 ■このほかの稲本正さんのインタビューもご覧ください。
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■木工芸家・作家「稲本 正」さん情報
『森の惑星~循環と再生へ 世界の森を旅する』
『森を創る 森と語る』
「森の惑星募金」受け付け中 ・オークヴィレッジのホームページ:http://www.oakv.co.jp/ |
オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」
M1. OUT IN THE COUNTRY / THREE DOG NIGHT
M2. TEACHER I NEED YOU / ELTON JOHN
M3. YOU'RE THE ONE / PAUL SIMON
油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」
M4. MASTERPIECE / ATLANTIC STARR
M5. AMAZON ( LET THIS BE A VOICE ) / JOHN DENVER
M6. IS THIS WORLD WE CREATED / QUEEN
エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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