2003.07.06放送

稲毛第二小学校に学校ビオトープを見に行く。
 今週は(財)日本生態系協会が行なっている「全国学校ビオトープ・コンクール」の第2回目(2001年度)で、文部科学大臣賞を受賞した「千葉市立稲毛第二小学校」の学校ビオトープを取材・紹介しました。
 “生きものが生息する空間”=「ビオトープ」が学校の環境教育の中でどのように活かされているのか、子供たちがビオトープから何を感じ取っているのかなどを紹介しながら、自然や生きものと親しむことの大切さを、改めて考えてみました。

 まずはそんな学校ビオトープの設立から関わっている、西村幸子先生と教頭の佐藤仁先生のお話から伺いました。


●第2回目(2001年度)の「全国学校ビオトープ・コンクール」で、文部科学大臣賞を受賞したということですが、そもそもビオトープを造ろうとしたキッカケって何だったんですか?
西村先生:「4年前(平成11年度)に着任した前・伊藤節子校長が、今の世の中のいろいろな問題は心が荒んでいるからではないか、心を育てるのは豊かな感性が一番大事であり、それは机の上だけでは育たない。自然とともに体験し、汗を流して培ったものが豊かな感性になると考えて、教育目標も『豊かな感性を育む』というものを掲げ、それにはビオトープが一番いいのではないかということで造られました」

●デザインというのは当初からしっかり作られていたのですか?
西村先生:「原風景として自然がたくさんあった日本があって、そういうものが自分の心にあり、たまたまここは埋立地であるのでそういう原風景を再現したい、自然を復活させていきたいというのがあったんです。でも、それを造るときの自然と人、人と人の関わりがたくさんあるので、急激にボンっと造るのではなく、地域、保護者、子供、ボランティア、環境NGO、それから先生方、みんなの力を合わせてやろうということで、全体的なデザインを作りました。実質的な形や内容は、子供たちが描きました。それを元に、地元の環境NGOのグループ2000の代表である横田さんに20分の1の模型も作っていだたいたりもしながら、頑張ってきました」

●その模型があると「あっ、こうなるんだ」っていうのが見えるし、夢やゴールがわかって、少しずつ年が増すごとに変化していく様子を子供も分かり、先生方も原風景をなつかしく楽しんでいらっしゃる方もいるかと思うんですが?
教頭先生:「私は自然だらけの山形で育ったので、季節感があって、緑が多いのは当たり前だったんです。でも千葉は山は見えないし、常緑樹が多く、季節感が乏しい。そういう中で、学校に落葉樹があり、ビオトープが姿を変えていくというのはすごく季節の移ろいを感じますね」

●子供も大人も、生徒や先生にとっても憩いの場となっている学校ビオトープ、こちらでは「いのちの森」と題されているんですね。この名前はどなたがお決めになったんですか?
西村先生:「これはビオトープがそろそろ出来上がるという頃に全校に募りました。その中で一番多かった応募が「いのちの森」という名前だったんです。なので、子供たちが決めた名前でもあるんです」

●このビオトープにはピッタリの名前だと思うんですが、では、実際にそのビオトープに行って、直にお話を伺ってみたいと思います。

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 そしてザ・フリントストーン取材班は、ちょうどお昼休みが始まったばかりのビオトープへと向かいました。生徒達の手がとても行き届いていて自然感や生命感にあふれた環境に驚きながらビオトープへ足を踏み入れてみると、大勢の生徒達が集まってくれて取材に協力してくれました。

●まずは、このビオトープの「監督」と呼ばれている「うち・なおと」さん(5年生)に聞いてみました。このビオトープではどういったことをしているんですか?
「ゴミがあったら拾ったり、メダカとかが元気かどうか見ています」

●なるほど。メダカさん達は元気にしていますか? 蛍もいっぱいいるって聞いたんだけど?
「メダカさん達は元気です。蛍もいます。夜になるとチカチカ瞬いています」

●今、ビオトープの回りに木で歩道のように歩けるようになってるけど、普通は何であるのかわかりますか?
「はい、蛍とかが土の上を歩いていると踏んじゃったら死んじゃうから、そのために木を張って、蛍を踏まないようにしています」

●困ったこととか、何かありますか?
「こういうビオトープとかにゴミを捨てる人がいるので、困っています」

●それいやだねー。ちょうど道の横だから外からもポンって捨てる人もいるのかな?
「多分いると思います。困ります」

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●それは何を見付けてきたの?
「バッタです。いのちの森と、草っ原で見付けました」

●まだ小っちゃいねー。この後、このバッタはどうするんですか?
「この後は逃がします」
●じゃあ、先生に見せて、みんなでしっかり観察して、そっと逃がしてあげて下さいね。

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●ビオトープのない学校から4月に転校してきたばかりの5年生「かわはら・まさき」さん、どうですか、いままでビオトープって知らなかったよね?
「はい、4月にこの学校に来たんですが、ビオトープがあって自然がたくさんあって、夏に来るとすずしい感じがすると思います」

●ねー、このビオトープの中にいると風が違って気持ちいいよね。まだ4月から来たばかりということで、ビオトープの観察は新鮮だね。なんか変化ってあった?
「カエルがどんどん増えたり、たまにトンボが来ます」

●じゃあ、よく観察してそっと逃がしてあげてくださいね。

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●ビオトープの横には上総掘りの装置もあるんですが、上総掘りをやったことがある人?
「ハーイ!」

●みんなやったことあるんだ。どんな感じですか?
「たまに疲れちゃう。上下に棒を動かして掘るから、足がだんだん痛くなってきちゃう」

●みんなで交替でやったりするの? おもしろい? また今年もやれるといいね。
「おもしろい。またやりたい!」

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●5年1組の「おかざき・まさお」さんは、虫博士だと聞いたんですけど。
「世間ではそう呼ばれています」

●(笑)。虫博士、このビオトープにはどのくらいの虫がいるんですか?
「どのくらいっていわれても・・・」

●あっ、虫博士ナンバー2の「みやざわ・みひろ」(3年生)さんも一緒に考えてくださいね。
「10種類は超えています。トンボ、テントウムシの幼虫、アカムシ、アメンボ、ダンゴムシ、ホタルとかがいます」

●よくビオトープには観察に来ますか?
「うちの3年生は総合学習の時間で1組と2組が一緒に虫を観察して、みんなに伝える勉強をしています」

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●ビオトープ委員の6年1組の「なかじま・まさひと」さん、「さとう・じゅん」さん、よろしくお願いします。ビオトープ委員ということで、どういうことをやっているんですか?
「水位と水温、ホースから水が出ているかと、見付けた生き物をチェックしています」

●見付ける生き物って、変わったり、増えたりしていますか?
「季節によって違います」

●1年ごとに変わっていく中で、去年からの変化ってありますか?
「秋ごろに、ヘビを見たんですよ。今年はまだ見ないので逃げちゃったのかなって思います」

●水位とかはこれからどんどん暑くなるから、気を付けていないと大変だよね?
「前の日には溢れるくらいあったのに、次の日はもうカラカラの時があった。水は気を付けていないと」

●そうだね、水だけは気を付けてあげてくださいね。どうもありがとう。

★   ★   ★

 学校にビオトープをつくることによって、子どもたちは野生の「いのち」と直接ふれあうことが可能になり、そのことを通じて自然の仕組みを体験し、命の大切さを学ぶだけでなく、他者への思いやりの心を育てることができる一一一そんな学校ビオトープの設立に携わり、実際に指導されている先生方に、再びお話を伺いました。

●私が見た感じでは、子供たちが本当にイキイキしているなと思ったんですね。それぞれがビオトープでの楽しみを見つけて接しているなと思います。それを先生方にも報告に行っているって言っていましたが?
教頭先生:「はい、つい2~3日前には子供たちがホタルを見つけて報告してくれました。それは自分たちが2月に幼虫を放流したわけですが、成虫になって草の間に見つけてわざわざ見せに来てくれたんですね。かわいそうなので返させましたが、発見があるとうれしいし、教師にも知って欲しいということで、いろんな物を持ってきますね」

●ちょうど、そのホタルのこともあって枕木を池の周りに敷いてありますよね、その話を西村先生に伺って、その後に生徒さんの一人にも聞いてみたんですが、ちゃんと分かっているんですね。何のためにこうなっていて、自分たちのビオトープはどうなっているのかということを理解しているというのが素晴らしいなと感じたんですが、そういう子供達自身にも考えてもらうというのも、教育の一環としてビオトープに託しているものであるんでしょうか?
西村先生:「そうですね、一番最初に何を放したらいいか、放したらいけないものは何か、ということを全校で考えていたんですね。例えばザリガニはダメですよね、そういうことをクイズ風にして子供同士で知らせあったりしました。それから最近はほとんどの子が知っていますが、1年生は、担任の先生や月1回の土曜日に地域の方達がこの学校を使って自然の観察や指導をして下さっている場があるんですね。それを命名して『命の森の日』といっているんですが、そういう場で色々なものが伝授されて子供達に自然を大事にすることが培われていると思います」

●生徒さん達もお昼休みはかなりの人数がビオトープに遊びに行ったり、観察したりしていますね。また授業でも取り上げられているということで、ビオトープが出来てから子供達の変化って感じられますか?
西村先生:「先生方にもアンケートしたり、子供達に直に聞いてみて、命の大切さ、言葉だけでなく実際にメダカを孵化させたり蛍の幼虫を放流したりすることで、本当の命の大切さ、自然の移り変わりの不思議さを身をもって感じてきていると思います。全部が全部そうとは言い難いですけどね」

●このビオトープやそれに関わる子供達に、今後どういうことを期待しますか?
教頭先生:「期待するというよりも、子供達に『自然を大事にする』という気持ちを持ってもらうことが、学校が担っている一つの役目だと思いますので、それには子供達の目の前に自然の姿があって初めて理解できることであって、本で読んだことや映像で見たことではなく、具体的にまず見せるということが1番だと思うんです。その中に、色んな生き物がいたり、人間の都合で死んでしまったり、様々な姿を見ることが出来る。『こうしなさい』ではなくて、生のものを見ながら子供達が感じていくことが1番良いと思いますね」
西村先生:「それから、先ほどビオトープのない学校から転校してきた子供達の話がありましたが、そういうことからでも子供達の理想的な生活空間、社会、町とはどういうものかというのを子供達が体得してくれたらいいなと思います。今は『町を知る』という段階ですけど、将来は『町を造る』という立場にもなると思うんですね。そういう環境を見直して地球全体、宇宙全体で物事を見ることができる大人になって欲しいですね」

●先ほど、3年生が「いのち」という詞の大合唱を私達に披露してくれたんですが、あれはみんなが暗唱しているものなんですか?
西村先生:「2年生以上の子供達は全員一人ずつ言えますね。1年生はまだ入ったばかりで憶えていないと思いますが」

●この詞は何がキッカケだったんですか?
西村先生:「命の大切さを、まず言葉でインプットしますよね。それが、こういうことなんだと、いろんなことに繋げていくにはとても含蓄のある詞だと思い、最初は群読ということで4年前から全校集会でやりはじめました。それからだんだん憶えて、各個人が暗唱するまでになりました」

●その詞に出てくるものも、最初は分からなくてただ憶えていたものをビオトープで実際に触れることで、意味として自分の中で深くなっていくのかなと感じました。3年生がリズムをとりながら、一つ一つ言葉としてだけでなく、心の底から伝えようとしている、噛みしめている姿に、鳥肌が立ちました。
西村先生:「最初にこの詞を子供達全員に配ったんですが、その時にある2年生のクラスの担任の先生が、『校長先生、大変です。泣いている子供がいます』と言ってきましてね、その2年生でも詞の意味が分かって涙が出たんだと思うんですね。その鳥肌が立ったというのも同じで、2年生なりの感受性で感じたんでしょうね」

 命の大切さというものを、本当に身をもって感じ、体験してどんどん大人になっていくんですね。それではここで三年生のみなさんが大合唱してくれた『いのち』の詞を御紹介しましょう。

 いのち
(クリックすると↑合唱が聴けます。) 
 作詞:古海 永ニ
花です 虫です からだです
鳥です 草です こころです
それらは みんな いのちです
いのちは どれも 一つです
いのちの ふるさと 地球も一つ
風が吹き 雲の流れる 地球の上に
要らないものなど ありません
互いに 支えて いるんです
見えない 手を出し 声を出し
互いに 支えて いるんです
どれも 一つ どれにも一つ
全部が 大事な いのちです

 実は、ビオトープでの取材中にはたくさんの児童が集まってくれて、マイクを向けていないところでも、他のスタッフにも色々教えてくれました。
 例えば、3年生の「なべしま・りょうこ」さんは、カマキリの巣のある場所を教えてくれた他、メダカやアメンボ、オタマジャクシ、タニシ、ホタルなどがいること。ザリガニやゲンゴロウは強かったり、血を吸ってしまうのでビオトープには入れないこと。メダカやオタマジャクシが寒さをしのげるように、水草をたくさん生やしていること。ヒメダカは強いので、生態系が壊れないように、ビオトープには入れないことなど、子供たちが本当によく知っているのにはちょっと驚かされてしまいました。

 また、「いのちの教室」と名付けられた一室があって、そこには児童たちがビオトープで見たり、観察した様々な生物の研究発表や写真、標本などが所狭しと置いてあり、見事にビオトープが学校教育や児童たちの遊びの中に活かされていたんですが、何より児童たちがビオトープの話をする時の目の輝きがとても印象的でした。
 この学校ビオトープ、もっともっと多くの学校、特に都会の学校に広まって欲しいと思います。
 
 今回、お話を聞かせて下さった西村先生と佐藤先生、そして児童の皆さん、本当にどうもありがとうございました。とても楽しかったです。

■ I N F O R M A T I O N ■
 今週は千葉市立稲毛第二小学校の「学校ビオトープ」をご紹介しました。

◎稲毛第二小学校が以前「文部科学大臣賞」を受賞した(財)日本生態系協会が行なっている「全国学校ビオトープ・コンクール」、すでに2003年度の募集が始まっています。学校の種類を問わず、教育現場で「学校ビオトープ」に取り組んでいる学校であれば、応募できます。
 応募の締め切りは、7月31日(木)。書類審査や、現地調査を経て、来年2月に最終審査が行なわれ、優れた学校は、「文部科学大臣賞」や「環境大臣賞」などに選ばれ、賞状や記念品が贈呈されます。学校関係者の皆さん、あるいは、PTAや地域の方々で「学校ビオトープ」を推進している方は、ぜひご応募ください。
 詳しくは「日本生態系協会」までお問い合わせください。
TEL:03-5951-0244
HP:http://www.ecosys.or.jp/eco-japan/


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