2003年8月10日

中高年登山のリーダー・岩崎元郎さんの“登山不適格者”

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは岩崎元郎さんです。
岩崎元郎さん

 中高年登山のアイドルといわれる登山家の岩崎元郎さんは、国内の山はもちろん海外の山も極める登山の大ベテラン。そんな岩崎さんは指導者としてリーダーとして登山の入門書やガイドブックを多く出されてますが、先頃「登山不適格者」という本を出版、大変話題になっています。この本は登山ブームのお陰で今まであり得なかったトラブルや事故が多発、それらを例に取り、岩崎さんが苦言を呈しています。初心者には特に読んでいただきたい一冊。夏山シーズンの真っ最中だからこそ、敢えて岩崎さんにご登場いただき、登山ブームに警鐘を鳴らしていただきました。

『登山不適格者』

●ザ・フリントストーンでは3年ぶりの岩崎さん。NHK出版から「登山不適格者」という御本をだされましたが、すごいインパクトがあるタイトルですね。

「ええ、僕もどうしようかと思ったんですが、中高年の登山の遭難事故が増えている、不適格者だから遭難ということではないですが、ちょっと注意を促すというのも僕の役割かなと思って、敢えてこのタイトルでの出版に踏み切りました」

●遭難事故が増えているということですが、最近の新聞の記事では、2002年の山岳の遭難事故は1348件で過去最高、遭難者の数も1631人で最多なんです。これは10年前と比べると2倍になってしまっているんです。これって登山者が増えているから数も増えているんですか?

「登山者の数は中高年を中心に増えています。でも中高年の方達の事故でも大きく2つあって、最近は下山中の転倒滑落と道迷いが増えていますね。僕からは想像もつかないんですが、おそらくフラッと行って『さて、私はどこにいるの?』ってなっちゃうのかな。現実にそういう事故が増えて、野宿したりして、気候状況が悪いとそれっきりになっちゃうような事もあるんですね。そんな昔では考えられないような事故が増えていますよ」

●登山が身近になりすぎて、気軽に登山を楽しめる状況が出来てしまっている?

「はい、以前は登山は厳しいというイメージがあったと思うんですが、95年にテレビ番組「中高年のための登山学」を始め、僕と、みなみらんぼうさんの仲良しが、楽しく山を登っているんです。そこからよく言われるのが『私も山に登れそう、番組を見て登山を始めました』ということですね。そういう方が結構いらっしゃって、ほとんどがきちんと山を勉強していっらしゃると思いますが、気軽に行っちゃう人もいるんですね。山小屋に行っても、夜遅く着いて、飯だ、風呂だって言う人がいますからね(笑)。
 もしかしたら僕が不適格者を作っちゃったのかなと。僕の“責任”だなんて思ってはいませんけど、人は甘いところ、楽しそうなところしか見えないし、テレビもしんどい場面ばかりではチャンネル替えちゃいますよね。どうしても楽しい部分が流れるわけです。例えば槍ケ岳に登るにしても、中高年ですから夜行で行くのは止めて、温泉に泊まりながらの5日がかりの登山なのに、たったの30分番組でいいところばかり流れる。番組だけでは、実際の5日間を想像することが出来ないあたりが、便利になりすぎた弊害、そして不適格者になっちゃうのかなとも思いますね」

●「登山不適格者」の漢字6文字が、ズンズンと響いてくるんですが(笑)。山歩きと、山登りの違いも書かれていますね。

「考え方なんですね。ヨーロッパアルプスやヒマラヤというのは、二本の足だけで登るのは不可能ですよね。岩だったら両手両足でよじ登っていくし、雪や氷だったらピッケルで突き刺して登っていく。そういうのが本来の登山だったわけです。日本の場合は夏山だったらコースも整備されていて、二本足で上まで行けてしまう。やさしく思えるわけです。でも3000mあって、ちょっと天気が悪くなると危険極まりない、ヨーロッパアルプスと変わらない状況になるわけです。そうなってからでは遅いんです。
 例えば谷川岳に行きます。ロープウェーが天神平というところまで上がっていて、僕たちがちゃんとした身支度で登っていると、後ろから水上温泉に遊びに来たようなおじさんが、スーツのままくっついてきちゃったんです。でも彼らも頂上まで登れちゃうんですよ。そういう、日本の山はヨーロッパの山とは違う、二本の足で登れちゃうところが、山歩きになりますね。
 でも同じ二本の足でも、高尾山くらいなら山歩きでもいいけど、白馬岳などは登山と考えたほうがいいのかなとも思いますね。ハイキング程度とか言われて誘われたら行っちゃうでしょ。でも実際に白馬岳がどういう山かは、ほとんどの方が勉強していないんですよ」

●山は変わってないけど、表現する言葉が変わるだけで、“大丈夫な気”になってしまう。

「それで済むところが日本の山の危ないところだと思うんですよ」

●日本の山は、初心者や一般の人達も受け入れてくれるけど、その中には落とし穴もあるし、やはり自然が相手。油断があると危険だぞ、と。

「そう。日本の山は誰でも緊張しなくても入り込める。それはすごい大きな魅力なんですよ。だから、そこで事故を起こして欲しくないんですね」

●魅力が一杯の山だからこそ、浮かれた部分だけでなく、しっかり準備をしたいですね。それを怠ってしまう方達が、この本で言う「登山不適格者」なんですね。

「そういうことになります。例えば登山における携帯電話。これはもろ刃の刃というか、本当に危ないときにS.O.Sを発信するのは大いに結構なことですよ。でも発信すべきでないときに使用するのは不適格者と言わざるを得ないでしょうね。
 こういう人もいました。バテてしまったので、ヘリコプターを飛ばしてもらいたくて警察に電話をしました。でもその時は警察のヘリコプターは使えなくて、民間の業者に頼むので有料だとわかると『なら、結構です』。そういうやりとりを携帯でしてほしくないですよね。
 日本の山は危険そうではないだけに、登る側がイメージを膨らませて、それに基づいて対策を講じて出ていけば、これは僕の持論ですが『山を知り、己を知らば百山するも危うからず』です。そうすれば安心なんですが、みんなウキウキして行っちゃうので怖いですね」

●「登山不適格者」の内容には登山をするうえでの常識とも言えることも改めて書かれていますね。そうすると「登山不適格者」になってしまうのは、常識過ぎて見落としてしまったり、油断をしてしまったりしているのが多分にあるのかなと思いました。

「そうですね、日本の山はやさしいから甘く見てしまうんですね。僕は、山の難しさを級で表現しています。例えば、岩登りをするときの両手、両足、身体を確保する材料の4つのうち3箇所が必要な場合は3点確保が必要で、それを3級と言っています。また、2本の足で歩いて片足だけで身体を保持するのは1点確保ですよね、それを1級と言っています。そしてちょっと急で、1点確保だと不安だから片手だけ掴まる場合は2点確保になるので2級です。
 そのように上高地から槍澤をずっと登って槍の肩に行って頂上を目指すというコースでも、ずっと1級なんです。2本足を交互に出していけば行けますから。槍の頂上100mちょっとだけが3級なんです。そう言うと、やさしい山ということが分かりますね。でもガスったり、雨が降ったらどうするか、風速1m吹くと体感温度は1度下がる。100m上がると0.6度下がるわけで、3000mの稜線でも18度下がる。そこが雨で風が強かったら体感温度は0度近くで、夏でも疲労凍死なんていうのは簡単に考えられます。
 そうやって考えると、雨具も防寒具もちゃんとしたものを用意しよう、夜遅くなるかも知れないからヘッドランプも持って行こうってちょっと考えれば分かるのに、雨具も防寒具もない。お財布だけは持っているみたいだけど(笑)」

●(笑)。軽量化の気持ちも分からないではないけど、そんな中で岩崎さんの3種の神器と呼ぶものもありますね。

「はい、やはり登山者の証ということで、きちんとした靴。運動靴でも登れないことはないけど、1点確保の1級の山でも、ちゃんとしたトレッキングシューズで行きましょう。ザックはそれなりに背負いやすいもの。雨具は防水性と透し性があるもの。ちょっと高いけどそういうもを揃えることが登山者の証でもあるし、安心ですよね」

●この岩崎さんの「登山不適格者」をチェック事項として考えれば、安心で楽しい登山を楽しめますね。

「そう思いますね。あと、僕のことを可愛がってくれる経済人も、この本は面白いと。会社経営の危機管理でも使えるというお褒めの言葉をいただいて嬉しかったですね。タイトルはちょっとキツイですけど、危機管理を考えて欲しいという提案、意識をしてもらうということでは成功したタイトルかなと思っています」

●夏の間は特に登山者が多いわけで、岩崎さんは教室・スクールもやっていらっしゃって、お仕事での山登りがすごく多いと思いますが、プライベートでのここにもう一度とか、ここにはまだ行っていないというようなところはありますか?

「子槍というのがあるんですよ。
 ♪ アルプス1万尺 小槍の上で アルペン踊りをさあ踊りましょう
この歌の子槍です。子槍は一般コースから外れていてロッククライミングが出来ないと登れないんですけどね、1回登りたいですね」

●その歌の子槍なんですね。大槍の方はもう登られているんですか?

「ええ、大槍は日本百名山の一つで、鎖もはしごもかかっていて何回となく登っていますよ」

●あと、教室もいろいろやっていらっしゃいますね。初心者の方でも簡単に参加できる、“岩崎先生”のもとで楽しめるスクールなんかもありますか?

「秋口になりますけど、9月20日に尼ケ禿山(あまがはげ山)の山登りを計画していて、名前はすごい山ですが、沼田の郊外にある山でブナがとっても綺麗なんですよ。頂上が1400mなので、1200mのところまではタクシーで入って、たった200m、1時間ぐらいを登ります。このコースを、運動靴ではなくトレッキングシューズで、ちゃんとした雨具とザックを御用意いただいて、僕はここから始めるという方にも自信をもっていろいろな山の歩き方を御案内します。ぜひ御参加下さい」

●ザ・フリントストーンも、岩崎さんとは約10年くらいのお付き合いですが、まだ1度も山に行っていないんですよね(笑)。

「そうですね、御一緒してないですね。よかったら、いらっしゃいませんか?」

●ぜひ、近いうちに、不健康な生活をしている私達が登山して、日本の山たるものを、やさしそうに見えて、どれだけ厳しいかということを体験レポート出来ればと思います。その時は、よろしくお願いしますね。今日はありがとうございました。

■このほかの岩崎元郎さんのインタビューもご覧ください。

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■登山家「岩崎元郎」さん情報

『登山不適格者』
NHK出版/本体価格680円
 山を、そして登山を愛する岩崎さんが、少しでも遭難事故やケガなどを防ぎたいという一心で書かれた本です。

「無名山塾」
 岩崎さんが主宰している「無名山塾」では、レベルに応じた各種登山ツアーを行なっています。

お問い合わせ:無名山塾
TEL:03-3941-3481
HP:http://www.sanjc.com/
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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. SUMMER BREEZE / SEALS & CROFTS

M2. YOU'RE NO GOOD / LINDA RONSTADT

M3. LIVING IN DANGER / ACE OF BASE

M4. THE RIDDLE / NIK KERSHAW

油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M5. ETERNAL FLAME / BANGLES

M6. WALKING ON BROKEN GLASS / ANNIE LENNOX

M7. 晴れたらいいね / ドリームズ・カム・トゥルー

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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