2003年9月7日

自転車野郎・安東浩正さんの“真冬のシベリア横断紀行”

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは安東浩正さんです。
安東浩正さん

 今週は、極寒のシベリアを自転車で単独横断した冒険サイクリスト、安東浩正さんをお迎えしました。安東さんは去年8月にロシアに渡り、9月から今年の5月まで、約8ヶ月かけて冬季のシベリアを西から東に横断、約1万5千キロを走破しました。そんな安東さんをシベリア横断の旅に駆り立てたものはいったい何だったのか。マイナス数十度になるシベリアの大地は何を語っていたのか。そして厳しい旅の途中で出会った人々の温かさなど、興味深い話は尽きませんでした。

●冒険サイクリストというよりは、自転車野郎という感じの安東さん(笑)、最近も冬のシベリアを8ヶ月かけて単独横断してきたということで、そもそもこういう冒険的な旅を自転車でする始まりは何だったんですか?

「もともと登山をやっていたんです。植村直己という冒険家に憧れて大学で山岳部に入って登山を始め、それから自然だけでなく人間にも興味があって、あちこち海外をバックパッカーとして列車やバスで旅をしていました。でも、もともと登山をやっていたものですから体力が有り余って仕方なくて、ネパールで中古の自転車を買って乗り始めたんですよ。そしたらそれが面白くて、海外では自転車で走る旅行にはまってしまったんです。自転車だと、人との出会いが多いんですね。大きな荷物を付けた自転車でその辺の村のマーケットに入って行けば、ただ者じゃないってことで興味津々に話しかけてきます。そこからコミュニケーションが始まるわけですよ。それに体力もすごく使うので、どっちも満足できるんです」

●そんな安東さん、中国やチベット、インド、ネパールなどを主に旅をされていますけど、ユーラシア大陸にこだわる理由は何ですか?

「日本から近いということと、もともとアジア系の少数民族に興味があったんです。日本の大学を出てから中国の雲南省の大学に留学して、その時に隣にあったチベットを自転車で走ってみたんです。チベット高原は標高が平均で4000m以上、富士山より高いところが広がっていて空気が薄く、普通は歩くだけで大変なのに、ヒマラヤの麓なので景色が素晴らしい。そこでそこに住んでいるチベット人(遊牧民)と触れ合い、言葉は通じないけど仏教徒として相通じるものがあったんです」

●最後の課題が、今回成功させた冬のシベリアを自転車で横断することだったんですね。

「1992年の冬にシベリア鉄道で通ったことはあって、毎日吹雪いているような景色で、経験を重ねて、冬のアラスカを走ったりしているうちに、じゃあ、そろそろ行けるかなと。ちょうど去年の今くらいにヨーロッパに渡って、ヨーロッパ側のロシアの端っこから東に向かって走って、今年の5月のはじめにオホーツク海に辿り着いて、横断を達成しました」

●およそ8ヶ月、250日。距離にしては?

「14927キロ」

●自転車で、しかも冬に。シベリアって、名前のイメージだけでも寒いという感じなんですけど、どの程度寒いんですか?

「旅行中で1番寒かったのが、マイナス42度というのがありました。いままでもマイナス30度くらいまでは経験していたんですが、この10度の違いはすごく大きかったです。寒いより痛いという感じで、まばたきをすると上のまぶたと下のまぶたがひっついて、開けるときに抵抗があるんですよ」

●自分のまばたきでですか?

「そう、ちょっとだけまつ毛が凍りついて開かないと、手でこすって開けるという」

●それでも走りたかった冬のシベリア・・・。

「そうです。私が経験したわけじゃないですけど、北半球で最も寒いところのシベリアの内陸部のオイミヤコンでは、歴史上の記録でマイナス71.2度という記録もあるんですよ」

●そこにも人が住んでるんですよね?

「いますよ。ヤクート人という少数民族がいて、4月頃にその村にも行ったんですが、もし12月や1月に行ったら、マイナス50~60度。そうなると、ちょっとやばかったかもしれないですけど」

●安東さんが行かれた4月頃ではどのくらいの気温でしたか?

「その頃は、日中は零度くらいまで上がっていました」

●じゃあ、マイナス40度から比べたらかなり暖かいですね。

「ええ、全然暖かいです。ちなみにマイナス40度に慣れてしまうと、マイナス20度は暖かいんですよ。『なんだ、今日はマイナス20度か、暖かいじゃん』みたいな」

●ここで今回のシベリア横断の旅を振り返ってみたいんですけど。

「まずモスクワよりずっと北側の、北極海沿岸のムルマンスクという街を去年の9月1日に出発しました。それからサンクトペテルブルグ、モスクワを経由してヨーロッパとアジアを隔てる境であるウラル山脈を越えました。そしてシベリアに入って雪が本格的に積もり始めたんですが、シベリアの中間くらいの世界で最も透明度が高いバイカル湖までは道があって、スパイクタイヤを付けたりすれば問題ありませんでした。
 でも、そこからが本番で、バイカル湖は南北に長いんですが、その氷の上を約1000キロ走ってきたわけです。冬は全部凍って、雪が無いと真っ平らな氷がずっと続いているんですよ。その上を自転車で走るのは気持ちいいんですけど、調子に乗って走ると、時々クラーク、割れ目があるんですよ。落ちるとそのバイカル湖は世界一深いですから、大変なことになります。あと、乱氷帯といって、氷がせり上がっているところもたくさんあって、そういうのを避けながら走っていくんですよ」

●そこって、冬の間は車とかも通るんですか?

「車は3月くらいになると氷がすごく分厚くなるから走るようになるんですが、私が行ったのは1月末だったので、まだ氷が薄かったんです。だから自転車で走るのも怖いものがありました」

●安東さん単独ということは、一人ですよね。氷が薄い時期はほとんど人がいない時期?

「岸沿いには時々、村がありますから、その付近であれば漁師の人が湖の氷に穴を開けて魚を釣ったりしてますが、1週間くらい全然人に会わなかったこともありますよ」

●怖いと思ったことはなかったですか?

「いや、あちこち行って慣れてますから(笑)」

●そうですよね、そうでないとこういう計画を立てませんよね(笑)。それからバイカル湖の次は?

「レナ川を通って、サハ共和国の首都のヤクーツクに着きました。そこは日本の10倍くらい面積がある大きな国で、そこに住んでいるのがヤクート族という人なんですけど、川沿いに真冬になれば道ができるんですよ。そこに村があって、ヤクートの人も『日本人の自転車に乗っている人が来た』と。我々は良く知らないのに彼らは日本という国をよく知っているんですよ。日本の電機製品はあふれていますし、親切な人達ですから歓迎してくれるわけですね。村で日本人で初めて来た人だと。民族料理を食べさせてくれたり、小さな村で学校に連れていかれたりして、日本のことを下手なロシア語で話してあげると、子供達が目をキラキラさせて聴いてくれるんです。その後はサイン攻め。みんなサイン欲しがって(笑)」

●旅の魅力の一つで、行かなきゃ分からないことってあると思うんですが、今回のシベリアでも行って初めて知ったことって何かありますか?

「僕自身、少数民族に興味がありましたけど、ヤクート人は会ってみるまで分からなかったですし、モンゴロイド民族についてや、蒙古斑についてなんかも分かりました。言葉の響きも日本語に似ていて、日本に近いわけですね」

●そういうところの食べ物は?

「食べ物は手に入れば何でもっていう感じです。魚をよくくれるんですが、さっき話したバイカル湖は水がすごいキレイですから、魚も生で食べる。日本人は刺し身や寿司で生魚を食べますけど、川魚は生で食べないですよね。向こうでは生が当たり前で、これが美味いんですよ」

●えっ、日本人はお醤油を付けたりしますよね?

「もう、そのまま。氷に穴を開けて魚獲ってそのまましゃぶりつくという感じで(笑)、野生動物も見かけることは少なかったですけど、ハンティングで暮らしていますから、村々で食べさせてもらう機会はありましたよ」

●どういう動物を食べるんですか?

「例えば、ムースという鹿の仲間とかですね。何でも美味しいですよ。サイクリストはいつも腹ぺこですから(笑)。現地に溶け込むには、現地のものを何でも食べられなきゃいけません」

●現地の人が食べているものを食べるのが、その土地でのベストなコンディションを作れると聞いたことがありますが。

「あと、彼らはウォッカという強い酒が好きなので、昔の日本みたいに『飲め、飲まないと許さないぞ』みたいに飲まされるんです。マイナス20度くらいをこの後自転車で走らなきゃいけないのに、下手に酔っ払ったままいくと危ないんですね。僕は健康で病気はしないんですが、そのウォッカで2~3日すごく調子が悪くてこれは本当にヤバイと思いました」

●近くに村があればいいですけど、そういう時ってどうするんですか?

「日本でも山岳部で中国に留学しても酒好きで、お酒には自信があったので酒を断らなかったんです。でもさすがにヤバイので断るようにしました」

●でも本当におせっかいなくらい親切なんですね。うれしい悲鳴ですね。今回の冬のシベリア横断を成功させ、一応ユーラシア大陸は終了ということなんですね?

「今回の最終到達地点はカムチャッカ半島の根っこくらいにあるマガダンというところでオホーツク海に到着して終わったんですが、まだ行こうと思えばさらに東に向かって、ベーリング海峡っていうアラスカとの境まで、冬になれば冬道ができて凍った大地の上に道ができるんですが、もうマガダンに着いたのが5月6日で、もう春なんですね。着いたときの海はまだ凍っていて、その景色に感動するものがありましたが、その2日後には雨が降って、それまでは雪がたくさんあったけど溶けて、天気も良くなっていったんです。そして冬道も無くなって旅は終わりということでした」

●次の旅の予定は?

「ユーラシア大陸をメインにやってきましたけど、他にも行きたいところはたくさんあります。ただ発言はしないというか、しゃべると行かなきゃいけないので」

●きっと安東さんが行かれるところは、人との出会いがいっぱいあるようなところだと思うんですが、自転車の旅は人に対してもお勧めですか?

「もう、自転車の旅行はすごくお勧め。飛行機で自転車を運ぶのも、みんな難しく考えているけど、車輪をちょっと外して袋に入れてしまえば、お金はかかりません。気軽にどこでも持っていける。ただ、僕みたいに極端な冬のシベリアとかはあまりお勧めしません(笑)。でも海外に行く必要もないので、これから秋になってサイクリングに1番いい季節ですから、日本でも走ってみるのもいいと思います」

●自転車は歩くより速く荷物も持てるし、車やオートバイよりはゆっくりで寄り道をしながら行ける。今回のシベリアの旅はいずれ本にする予定なんですよね。

「チベットを自転車で走った本は山と渓谷社から『チベットの白き道』という本が出ています。今回のシベリアの旅は月刊誌に連載します。写真も盛り沢山、シベリアの大自然の写真が出て来ますので、そちらもご覧下さい。最終的には本にまとめたいと思います」

●では、その本も出版されましたら、番組でも御紹介をさせていただきますね。今日はありがとうございました。

■このほかの安東浩正さんのインタビューもご覧ください。

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■冒険サイクリスト「安東浩正」さん情報

安東浩正さんの著書

 厳しい冬のシベリアをおよそ8ヶ月かけて横断した安東さんの自転車旅のレポートに関しては、毎月20日に「八重洲出版」から発売されている月刊誌、『サイクル・スポーツ』の9月号から連載がスタートしています。連載のタイトルは『冬期シベリア横断MTBツーリング/遥かなる白い道』。過酷な旅を物語る写真もたくさん掲載されているので、ぜひ読んでください。

チベットの白き道
山と渓谷社/定価1,785円
 安東さんがチベット高原の単独横断をやってのけた時の冒険紀行。

「安東浩正」さんのHP:http://www.tim.hi-ho.ne.jp/andow/

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. THE LONG RUN / EAGLES

M2. COLD / ANNIE LENNOX

M3. YOU'RE MY BEST FRIEND / QUEEN

油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M4. 道なき道の向こうへ / 石川よしひろ

M5. STRANGE WEATHER / GLENN FREY

M6. ALCOHOLIC / STARSAILOR

M7. THE LONG AND WINDING ROAD / THE BEATLES

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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