2003.09.14放送 写真家・飯島正広さんのヒマラヤ動物紀行 ●先頃小学館から「大自然ライブラリー」シリーズとして「ヒマラヤ動物紀行~過酷な自然に生きる」という映像作品を発表された飯島さん。作品を拝見したんですけど、すごいですね。今回はネパールでの撮影だったんですね? 「見ていただけましたか? ありがとうございます。今回は、ネパールを中心とした、ヒマラヤの高い山から低い山にいる動物をまとめてみたんですよ」 ●主に4ヶ所で撮影されているんですよね。 「テーマとして4つ、撮影場所に選びました」 ●今日はそんな色々な場所を中心にお話を伺いたいと思うんですけど、まず、世界自然遺産にも指定されているチトワン国立公園はどういう場所なんですか? 「ネパールというと山国のイメージがあるんですけども、このチトワンというのはネパールでも1番右側でインドの北の方に接していて、標高300mくらいしかないところなんです。昔は沼だとか湿地だらけの流刑地で、マラリアだとかそういう病原菌も多く、人間がほとんど入らなかった場所だったので、開拓・開発をされずに大きな自然として残っているわけですね。そこは動物達をたくさん見れるし、世界遺産にもなっていて、ネパールでも残そうとしているような場所なんです」 ●そこでは泥浴びをしているサイの姿も見れるんですね。 「ええ、サイも泥浴びもするんですよ。夏や雨季になると暑いですから、ほとんど水の中に入ってたり、水から出ると虫がつかないように泥に入ったり、そういう場所で行動してますよ」 ●飯島さんは、これらの撮影をする際の移動手段として、ゾウを使っているとか? 「現地はすごい湿地なんですよ。例えば、多摩川のアシ原を想像していただけるとお分かりになると思うんですけど、それに山と湿地が混ざっているような場所なんです。なので自分がいる1m横にトラがいても実は分かんないんです。ちゃんとした道もないし、歩くことはもちろんできないわけですよ。トラに食べられちゃいますから(笑)。やはりゾウに乗って撮影に行くということしか考えられないんですよね。ゾウは川は簡単に横切ってしまうし、ぬかるんでいるところも歩けるし、頼もしい移動手段なんですよ」 ●しかもサイを撮っている最中は、ゾウから降りて撮っていましたよね? 「ゾウの上だと揺れるんですよ(笑)。普通の人は禁止されているんですけど、許可を取ってゾウの足元に降ろさせてもらうんです。実際にサイが突進してきたら僕は後ろに逃げるということにして、同じ目線で撮りたかったんです」 ●それから、ベンガルトラの映像も感動的でした。 「これもなかなか見れないんですが、朝5時頃にゾウ使いと歩いて足跡を見つけるわけです。その足跡を辿っていくと、うまくすると今回のように撮影できます。薮がすごくてほとんど見れないので、もう毎日行くしかないんですけどね」 ●また、大型の動物の他には野鳥も多いんですね? 「ええ、チトワンは渡り鳥のルートになっていまして、シベリアからも渡ってきますし、中国やヨーロッパからインドに行くルートにもなっているんです。ちょうど11月頃から冬にかけてや春頃とかは、鳥の種類が500種類以上はいると思いますよ」 ●私達がビデオで50分くらいで見る映像は、実際の撮影では長時間かけて撮影した映像を編集したものだと思うんですが、見ている限りでは図鑑をめくるかのように、本当にたくさんの種類が出てきますね。 「ええ、次から次へと図鑑でしか見たことがないような鳥が出てきますよ。非常に多様性がある国や地域だと思います」 ●そして、サガルマータ山麓ではレッサーパンダの撮影に成功されたんですよね。 「サガルマータというと日本人には馴染みがないんですが、エベレスト山、ネパール語でサガルマータっていう国立公園なんです。レッサーパンダを野性でみるのは非常に大変で、私も何回も挑戦してようやく成功したんですよ」 ●このレッサーパンダっていうのは、どのくらいいるんですか? 「細かい数は分からないんですが、そんなに多くはないです。僕が見たのも2匹だけで、その時も急斜面の笹が目に入ってくるようなところを登って探しに行ったんです。木の上にいる時はノッタリしているのに下に降りるとものすごい速いんですよ。レッサーパンダがこんなに速く走るのかっていうくらい速かったですよ(笑)」 ●(笑)。私達のレッサーパンダのイメージは、動物園で見るようなオットリした感じなんですけど。 「僕もそう思っていたんですが、その下に降りたときの速さを見て、野性のレッサーパンダなんだと感じましたね。中国にもいるんですが、そういう自然の場所で見れるというのは非常に少ないと思います」 ●それから、いよいよ「ヒマラヤ動物紀行」のハイライト、アンナブルナ山群でユキヒョウの撮影に成功したんですね。 「実は何年もかかったんですよ。僕はアジアの動物が好きなので最初はトラを撮影していたんですが、その中でもどうしてもユキヒョウというのは別格だったんですよ。標高が3500m~4000m以上でないといないので、冬でも-20度近くの場所に自分がそこまで登らなければいけない。でもこれはどうしても見たいということで探したんです。 しかし、足跡はあるんですがなかなか見れない。現地の人も自分の財産である家畜を食べちゃうものですから、あまり撮影に対して良く思っていなかったんですね。でも、なんとか村の人と話し合って情報を集めて、アンナブルナの裏側の良い場所を見つけたんです」 ●隠しカメラみたいな感じのものを仕掛けたんですか? 「そうなんです。最初は人間がいると出てこないので仕掛けもしました。でも自分の目でシャッターを押したいので小屋を建てて何日も待っていた時に、地元の人からヤクの子供がやられたということを聞いたので、その場所に走って行ったんです。結局その日は食べなかったんですが、そのうち食べるだろうと思って隠れて待っていました。そしたら、ユキヒョウは必ず上から出てくるんですが、出てきたんですよ。もう、震えながらファインダーから外さないようにするのが精一杯でした」 ●そういう時のカメラマンの方って、肉眼で見たいって気持ちありませんか? 「そりゃそうですよ。でもね、ファインダーを覗いていると、ユキヒョウってのは白黒みたいなもんでしょ。そうすると雪が降って岩があるとほとんど保護色で、まったく分からなくなっちゃうんですよ(笑)。そうして一回カメラから外してしまうと距離は何百メートルあるので、もう入らないんですよね。なので、これはもう絶対に外してはいけないと、そればかり頭に入れて撮影していましたね」 ●どうでしたか、初対面したときは? 「もう、泣きましたね(笑)。本当に感激的でした。みんなでお祝いしましたね」 ●「ヒマラヤ動物紀行」のもう1箇所、タウラギリ山群ではどうでしたか? 「世界で1番小さいツル、アネハヅルがヒマラヤの8000mを超えてくるんですが、それをネパールにいるうちに撮影したいと思っていたので、最後にこの場所に来たんです」 ●私達もこの番組で、ヒマラヤを越えるツルのお話は出たことがあったんですが、実際に作品を通じて、本当に小さいツルなんだって実感しました。 「驚異的なツルだと思いますね。距離で5000キロ以上飛んでいます。夏の間にモンゴルやロシアで繁殖して、それから南下しながら越冬地であるインドのパキスタン側の砂漠に移動するんです。ルート上どうしてもヒマラヤを越えないとそこまで辿り着けないので必ず来るわけですが、その日に来るかどうかは分からないので、僕たちは毎日4000mくらいのところまで上がって待っていたんですよ」 ●ユキヒョウにしても、このアネハヅルにしても、かなり撮影地が高いところですね。 「そうですね、低いところから高いところまで、ネパールは本当に多様性に富んでいて大変ですね。あと低いところから、急に高いところに行くと、心臓が持たない。逆に高いところにいる人は、低いところに行くと低山病になっちゃうみたいですね(笑)」 ●(笑)。普段からずっと高いところに慣れている人たちですからね。 「そう、3500m~4000mのところに人が住んでいますからね。そういう人がチトワンに行くとおかしくなると言っていましたね」 ●じゃあ、そこを行き来する飯島さんは体力勝負ですね。 「そうですね、もう本当に高いところから低いところまで、ネパールにかけては上から下まで全部回りましたね。もちろん8000mまでは行ってませんけど」 ●その中で、念願のユキヒョウやアネハヅルのいいモノが撮れた瞬間ってどんな感じですか? 「結局一回じゃダメで、何回も失敗して、また次の年にも行くわけです。それでようやく撮れたということで、時間がどうしてもかかるんですね」 ●例えばこの「ヒマラヤ動物紀行」の52分の中に収められている映像を撮るのに、大体どのくらいの期間かかっているんですか? 「もう20年以上撮っています。20年全部ではないですけど、それくらいの時間がかかっています」 ●飯島さんのネパールの集大成ですね? 「はい。そういう意味でも今回は一つの区切りになったんじゃないかなという気がします」 ●これでネパールは一つの区切りとして終わられたわけですけど、ユキヒョウだけでなく他にもまだ撮りたいものもたくさんありますか? 「そうですね。ネパールでもパンダは撮影できましたけど、どうやって子供が育っているのかとか、もうちょっとパンダの生活史まで踏み込んで撮りたいですね。ユキヒョウもネパールだけでなく、モンゴルとかの違う場所で見てみたいと思います。実は去年の11月にも行ってるんですけど、その時にユキヒョウが巣として使っているような穴を見つけたので、それを密かにモニターしてみたいと思っています」 ●ユキヒョウの巣ですか? 「岩穴なんですけど、足跡もあるし、トイレもあったりして匂いを付けるんですね。何匹もいるわけじゃないけど、岩の割れ目みたいなところに縄張りを作るんですね。ユキヒョウの繁殖期って冬なんですけど、地元の人もその辺で鳴き声が聞えると言っていましたし」 ●じゃあ、ユキヒョウの旅はまだまだ続きそうですね。 「チャンスがあればまた行きたいと思います。また、日本ではモグラを撮っていて、それもモグラの子育てを見てみたいと思っているんですが、難航していて今年で3年目なんですが、これも時間をかけていいものを作っていきたいと思っています」 ●本当にこういうのは時間がかかるものですね。 「そうですね、誰に聞いてもすぐ分かる答えは出てこないので、自分で試行錯誤しながらやっているので、どうしても時間がかかっちゃいますね」 ●でも、モグラって、知っているようで知らないものですね。 「みんなが知っている動物だと思うんですが、なかなか姿を見せてくれないので面白いんだと思います」 ●それ、早くみたいです(笑)。いつくらいになるかは、まだ想像もつかないですか? 「僕も早く見たいですねー(笑)。想像はできても、それをうまく画にできるかはテクニックだと思うので」 ●じゃあ、我々フリントストーンは気長に待っていますので、またモグラが出たらその際はいろいろ教えてくださいね。その他にも、飯島さんはNHKの人気番組「地球!ふしぎ大自然」でも数多くの映像を手掛けていらっしゃるということですが、そういう番組では決まったことに向けて撮っていく期限のようなものもありますよね? 「ええ、企画を自分達で立てて、その企画が通った場合に仕込みからやると最低3年はかかっちゃいますね」 ●じゃあ、こういうものは本当に長いスパンでやっていかないとできないですね。 「やっぱり時間をかければ良いものができるし、評価も高いと思います」 ●番組を通じて飯島さんの作品を拝見したり、また「ヒマラヤ動物紀行」を皆さんにも見ていただいて欲しいですね。このユキヒョウの美しさ・・・私も拝見してユキヒョウをもっと知りたくなりました。 「こんな動物もいるんだ、こんな高いところにヒョウがいるんだということだけでも面白いと思いますよ」 ●また、ユキヒョウ続編みたいな作品も楽しみにしていますね。今日はどうもありがとうございました。
◎小学館の「大自然ライブラリー・シリーズ」『ヒマラヤ動物紀行~過酷な自然に生きる』(税抜価格4,200円/小学館) ユキヒョウやレッサーパンダ、ベンガルトラ、アネハヅルなど、野生動物の貴重な映像がふんだんに盛り込まれた20余年に渡る集大成の作品です。 また、飯島さんは同じ「大自然ライブラリー・シリーズ」で『アジア動物紀行~多様性の島々を訪ねて』という作品も出していらっしゃいます。ぜひ、そちらも合わせてご覧ください。 最初に戻る ON AIR曲目へ ゲストトークのリストへ ザ・フリントストーンのホームへ photos Copyright (C) 1992-2003 Kenji Kurihara All Rights Reserved. |