2003年9月21日
フォトジャーナリスト・水口博也さんの初小説『リトルオルカ』今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは水口博也さんです。
写真家・科学ジャーナリストの水口博也さんは、写真絵本「ザ・プラネット・オブ・ドルフィン~イルカの宇宙」や、第5回日本絵本大賞を受賞された「マッコウの歌~しろいおおきなともだち」をはじめ、クジラやイルカ、オルカなど海洋生物の写真や映像作品などで知られています。そんな水口さんが、オルカをモデルにした初めての小説を出版されました。タイトルは「リトルオルカ」。オルカの生態に精通しているからこそ描ける異色の小説と評価されています。
●ザ・フリントストーンとしては3年振りの水口さん。新しい作品「リトルオルカ」は初の小説なんですね。 「広い意味でのフィクションになります。実は、書き始めたのは8年前なんですよ。他の仕事をしながらチビチビ書いて、ようやく脱稿できました」 ●写真絵本を作られる以前からこの小説を書かれてたんですか? 「そうですね。きっかけに1988年の「オルカ」という本があります。それは私と友人でカナダでシャチを観察した取材記、いわゆるノンフィクション作品なんです。それを作った時から、僕達の目ではなくてシャチの目を通して見たこの世界を書きたくて、8年前あたりから書き始めたんです。でも本来の写真集を作ったりすることに多少時間をとられてしまって、この度ようやく終わったという状況なんです」 ●じゃあ、水口さんにとっては、本当にやっと終わった、完成したという感じですか? 「実は、頭の中にはこの先の物語があるので、また8年か10年かかってもう1作上がるかなとも思っているんですけども(笑)」 ●(笑)。「スノウ」と名付けられた赤ちゃんオルカが生まれて、オルカは家族の中で育ち大きくなっていき、その間にいろいろなことが起きて「スノウ」は・・・。危ない、危ない、内容を言いそうになっちゃった(笑)。 「(笑)。ノンフィクションの世界の人間だと思われながらも、ある程度の演出、フィクション性は中に含まれてます。だからオルカも100%ノンフィクションかというと必ずしもそうでもない。逆に今回の「リトルオルカ」のシャチの生態なんかでは、かなり私本来の観察の部分を使ってますから、物語自体はフィクションなんだけど、かなりの部分でノンフィクション性はあるんですね」 ●そうなんですよね。読んでいると「オルカってこういう生き物なんだ」、「こういうときってこういう反応するんだ」って、凄く分かりやすく浮かんでくるんです。そもそも、今回の作品をあえてフィクションという区切りにした理由というのは何ですか?
「私がフィクションと言わないで本を作ると、どうしてもノンフィクションとして取られてしまうんです。そうすると、僕達の頭の中で考えている『シャチってこんな暮らしをしてるだろうな』という、証明されてないようなことがまだたくさんあるのに、それを『こうしてます』と書いてしまうと、論文で発表された事実のように思われる。するとかなり制約が出てくるんですよ。『こうしてるんだろう』と思いながら自由に書くためには、フィクションという仮面を被らせたほうが、凄く自由に書けるんです。むしろ自分の筆で遊ぶという意味では、フィクションという形をとったほうが、非常に楽しい作品作りができたというのが正直なところですよ。
●ページをめくっていくと「あれ、本当に水口さんの本?」っていうくらい、写真が1枚も載っていないですよね。 「一切無いです。僕達の中でもフィクションなのかノンフィクションなのか非常に分類をしにくいところだけに、書店さんでも苦労されているようで、今まで通り生き物の棚に置いていただいているところもあれば、フィクションの小説の間に置いていただいてるところもあって、実際にどこの棚に置いてあるのか分からないことがあります。私達だけではなく、出版社も書店さんの方も、どういう本として扱っていいのか、統一した感じではないのが面白いところですね」 ●作者である水口さんとしては、どういう形で読んでもらいたいですか? 「もう、普通の小説として、架空の世界と思っていただいてもいいし、物語そのものを楽しんでいただければ」 ●そして、科学ジャーナリストの水口さんだからこういう形態をとっているのかなと思うのが、いわゆる会話の部分がないという点なんですよ。 「そうなんです。これも、ものすごい難しい選択だったんですが、会話を入れれば物語としては非常に展開させやすい。ところが大人の読者を前提にして、本当にシャチに日本語を喋らせてリアリティーが出てくるのか、なら日本語ではなく英語ならいいのかという問題も出てきますが、いずれにしても人間の言葉を喋らせるとリアリティーがどんどん失われていくような感じがしたんです。なので『こう思っている』という部分はあっても、会話は一切やめにしました。そういう意味で、文章がちょっと固くなっているかもしれないけど、リアリティーという点ではかなり成功したかなという気がしています」 ●状況が目に浮かぶようなシチュエーションがありつつも、自分がシャチになり切るということではなく、少し離れたところからシャチの生活や生き方を見ている。その視点が不思議なスタンスであり、そして不思議な気分にさせてくれるんでしょうね。 「視点をどこに置くか、それがかなり大きなテーマだったんです。実際には少し離れたところから見ている誰かが見て書いたという感じになっていますね」 ●また、昔のアラスカのお話ということで、あえて昔に設定した理由は何ですか?
「どんどん言うと内容を知らせることになるので(笑)。カナダの太平洋岸の地図を見ると、ものすごく入り組んだフィヨルドがいっぱいあって、そこには現実に住みついているシャチの群れがいます。ただ、その入り組んだ世界は、わずか1万年前に昔の大陸の氷河が削り取ってできた地形なんですね。
●シャチとか、クジラ類、イルカ類ってすごく頭がいいし、私達人間も彼らの生活振りから学ぶことがすごく多いですよね。もし彼らがそういうことを考えていたとしても不思議じゃないですよね? 「ただ、今の自然科学、クジラやシャチの研究のレベルからいうと、シャチが自分たちの群れはどこから来たんだろうと考えるという設定は、やはり、少し無理がある(笑)。そんな意味で全体としてフィクションという形をとったんですよ」 ●この先も「リトルオルカ」から「リトル」が取れたりして、違う形としての小説、続編の構想を温めつつも書き続けてらっしゃるんですよね? 「何年かかるか分かりませんが、チビチビと(笑)」 ●(笑)。大人もイマジネーションを使いながら、オルカに想いを寄せられる感じの内容で、なかでも生態という部分は、やはり水口さんならではという感じがします。 「そうですね。ある部分はかなりきっちりというか、いままでにシャチについて分かってる知識は入れてきたつもりです」 ●そして今も観察を続けていらっしゃるんですよね? 「1年の半分くらいは観察に行っていますよ」 ●日本にいらっしゃらないんですよね、ほとんど(笑)。ちょっと前もアラスカの方に行ってらっしゃったとうかがったんですが、これもやっぱり観察のために行かれたんですか? 「去年あたりから、久し振りにシャチが大きなターゲットになっていて観察を続けているんですよ」 ●そんな長い間観察を続ける中でも、変化したものや、最近になって初めて知ったものとかってあるんですか? 「生態という大きな意味では、そんなに新しいものが見れるというわけではないんですけど、あらゆる局面は全部新しいんです。僕達が東京の真ん中で人々の暮らしを見て『へえ~』って思うのと同じような意味合いで、毎日の観察が新しいという気はしますね」 ●そんな中で、パッと頭に思い付くような「へえ~」ってありますか? 「海にあるいろんな物を道具にして遊ぶんですよ。例えば、歯形をつけて遊ぶんです。海藻を噛むと歯形がつきますよね。また横を噛んで歯形をつけて、また横を噛んで歯形をつけるのを繰り返しているシャチがいましたよ。また、流木をくわえてちょっと下へ潜って、それから下でペッと放すと浮力があるので海面からロケットのように浮き上がるんですよ。それをひたすら繰り返しているシャチもいましたよ」 ●何か、お風呂で遊んでいる子供みたいですね(笑)。 「そうですね。その遊び方っていうのは本当に1頭1頭全部違っていて、特にその海藻で遊ぶ姿というのは、今までに何度も見てきた光景ですけど、歯形を付けるという姿は今年見た光景で、本当に一個一個、毎日毎日が新しいっていう感じですね」 ●凄い面白い遊びを思いつくんですねー! 「道具を使ったり、おもちゃにすることや、さっきの木もそうですけど、こうしたらこうなるだろうっていう予測の能力がかなり優れているんだと思います」 ●1万年前から存在しているであろうオルカ達は、そうやって色々な遊びを通していろいろなことを学びながら現在に至り、まだ新たな遊びを発見しながらも社会という意味での平和はずっと守っている気がするんです。一方で人間は、同じようにいろいろなことを学びながら発展してきたのに、平和じゃない方向に進んでしまっている気がするんですよ。
「シャチ、イルカや人間は非常に脳が大きいという言い方をされてますよね。猿から人間に至る道もそうですけど、それまでの動物の進化というのは、早く走って獲物を捕まえたり、敵から逃げるということが進化を推し進める大きな力になったはずだといわれています。しかし、これはあくまで僕の仮説なんですが、イルカとかシャチの仲間や私達人間の脳を大きくしてきた理由として、おそらく社会の中でどううまくやっていけるかが進化を推し進める力になってきたんじゃないかと思うんですよ。そのことが、脳を大きくしてきたと思うんですね。
●そんな水口さんは、取材を兼ねての観察ツアーも企画されているということなんですけど、これはどういったツアーなんですか? 「観察ツアーが本来の目的ではないけど、私達が取材するときは、1週間位の単位で船を出します。それも一人や二人の船ではなく、四、五人、場合によっては八人位は寝泊まりが出来る船を使います。したがって、空きのスペース、ベッドがありますから、費用を分担していただきつつも、一緒に観察されたい方はいらっしゃいませんかということです。普通の旅行よりはもっとちゃんとした形で、クジラやイルカや自然を学べる機会になるだろうということで、興味のある方を一緒にお誘いして来ていただいています」 ●いわゆる「水口博也取材同行ツアー」ですね? 「そうですね。私が取材しやすいように船を動かすので、それに付いてきて下さいと(笑)。だから最初に予定を発表をするけど、僕がクジラがいそうだからあっちに船を出すと判断すれば、そっちに行きます。そういう意味で、取材が中心ですよと念を押してるんです。ただ、私が1番取材しやすいところへ船を回しますから、密度の高い、良い観察が出来ることは、自信をもってお伝えしていますよ」 ●今後のツアーの予定などはありますか? 「一人でする旅行もありますが、複数人乗れる船なんかをチャーターする機会があれば、ホームページを通して御紹介しているという状況です」 ●じゃあ、水口さんのホームページを見ていただければ分かるということですね? 「そうですね。1年間に数回は何らかの形であると思います」 ●そして、昨日9月20日から、3ヶ月にわたって名古屋の先の方にある「南知多ビーチランド」で水口さんの作品の上映が始まりました。ここでは3D映像で見られるということですが、どういった映像なんですか? 「私が撮影したクジラとかイルカのビデオを、3D立体映像の形にしたものです。3ヶ月ご覧いただけますので、是非見ていただけると大変面白いと思います」 ●これは、あの3D用のメガネをかけると、イルカと一緒に泳いでる感覚になれる? 「そうですね。例えば、バハマ諸島の非常に澄みきった海で、何十頭というイルカの群れと一緒に泳いだときに撮影している画なんかでは、実際に自分の後ろからイルカが出てくるような印象で、囲まれちゃうわけですよ。これが非常に楽しいんですね」 ●じゃあ、現地に行けない方はまず、この南知多ビーチランドで疑似体験をして、その後に水口さんの同行ツアーに一緒に参加すると、より楽しく色々なことを学びながら出来るということですね。今月のメキシコのコルテス海ツアーの後も、まだまだあちこち行かれる予定ですか? 「たっぷりあります(笑)。11月にはアルゼンチンの先のフォークランド諸島、それから12月には南極という比較的南半球の大旅行が入ってます」 ●では、また旅から戻られて一段落したら、是非楽しいお土産話を聞かせてくださいね。今日はどうもありがとうございました。 ■このほかの水口博也さんのインタビューもご覧ください。
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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」
M1. GOT MY MIND SET ON YOU / GEORGE HARRISON
M2. BOOK OF DREAMS / SUZANNE VEGA
M3. GENTLE GIANTS / JONAS KVARNSTROM & STEFAN SCHRAMM
油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」
M4. MIDNIGHT AT THE OASIS / MARIA MULDAUR
M5. PEACE IN OUR TIME / 10CC
M6. 青い楽園 / 杉真理
エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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