2004.02.08放送 カントリー・ウォーカー・山浦正昭さんの旅の極意 ◎カントリー・ウォークの醍醐味は“触れ合い” ●カントリー・ウォークというのはどういうものなんですか? 「そんなの自分で考えなさいよ」 ●田舎道や里山を歩くのかなっていうイメージでしかないんですよね。 「大体そんな感じですが、あまり『こうだ』と捕らわれたくないんですよね。もっと自由に自分らしい歩き方を目指してほしいんですよ。本が『こうだ』とか言っているのは嫌なんですよ」 ●私がカントリー・ウォークと聞いたときにイメージするような、田園風景に限ったことではないんですね? 「そうです。自分なりにイメージを膨らませて自由にやってほしいんですよ」 ●のんびりとゆったりとした気分で楽しむのがカントリー・ウォークなんですね。 「ええ、その精神が大切なんですよ。技術とかどんな靴履いてとか行き先はどうでもいいんですよ」 ●じゃあ私も知らず知らずにカントリー・ウォークをしていることもあるかもしれませんね。 「そうですね。本題に入りますと一応、農的風景を入れてほしいんです。林だけだと農的風景にはなりません。針葉樹とか山だと農的風景に入りません。タウンや市街地に田んぼや畑はないのでこれも入りません。これはカントリー・ウォークの世界ではありません。人々の暮らしのある田んぼや畑や農家がある辺りを、時間に縛られずに触れ合いながら、この触れ合いっていうのが大事です。ただ自分が田んぼや畑が好きだと言って旅をしているだけでも失格。こちらから積極的に農家の人と接する。『でも農家の人いませんでした』とか言うんですよ。『お前、農家の人がいなくても鳥はいたろ? 花はいたろ? 川はいたろ? 川だって声をかけてごらん。応えてくれるよ』そういう気持ちが大事なんです。歩くのは非日常的時間や空間じゃないですか。そういう所に自分の身を置くと、今までの自分がいかに捕らわれていたか。それが化けの皮がはがれる。逆にはがれるような歩きや旅をしてほしいんですよ。ガイドブックを見てどことどこに行って何キロ歩いてとかそういうのをやめてほしいんです。分かった?」 ●分かりました。それがカントリー・ウォークの精神なんですね。 「そうです。農的な風景が今は鳥がいる山だったり、自分が都会生活をしてて無いものだったりしますよね。大自然と触れ合うというよりも、日常生活から出来るだけ離れることが目的になってしまっているんですね。私達は生活圏から離れたくないんですよ。農家のお年寄りの人が働いている場所や子供達が遊んでいる場所、もしくは子供達が学校へ行く通学路を『ここはお祭りの時は屋台が並ぶのかな』とか考えながら、故郷の風景や景観、昔の日本人の伝統的な暮らしの風景にもっと積極的に出かけていって触れあいましょうということなんです。それがカントリー・ウォークのコンセプトのひとつです。山と町を外せばあとは自由なんですよ。大体みんなカントリーなんですよ。場所やコースは関係ないんです。エイミーさんも自前で歩きを出来る力がない。だから『あっ、山浦さんがこんなことを言っていたから』と始めてみたらどうですか? とりあえずまぁ・・・どこか、お住まいは何線沿いですか?」 ●私は練馬の方なので西武池袋線ですね。 「とりあえず所沢まで往復してごらんなさいよ。清瀬の辺りから雑木林が出てきてね、『あっ、この辺で下りると清瀬とひばりが丘の間』とかね。『あぁ、新秋津』とかね。東京都の最北端ってどこか知ってる?」 ●東京都の最北端・・・?! 「考えたこともないでしょう」 ●考えたことないです。 「清瀬と所沢の間に東京との最北端という地点があるのよ。地図を見て一番最北端。そこへ行くと私達5人で建てた杭が立っています。僕は東京都の最北、最南端、埼玉県の最北、最南端を確認しました。行って杭を立ててきました。ついでに言うと埼玉県の最北端というのが珍しいんですよ。埼玉県にないんです」 ●埼玉県の最北端は埼玉県にないんですか? 「つまり利根川が蛇行したので、今は群馬県側から行かないと埼玉県の最北端に行けないんですよ。利根川の流れが変わったために群馬県側に取り残されちゃったんです。そこは北側がゴルフ場になっているんですけど、そこに私達が杭を打ちましたよ。私、役場に『お前らそういうこと意識してんのか?』と電話したんですよ。そしたら『していません』と言うんですよ。でも私が『看板でも建ててごらんなさいよ。バカな奴が寄って来るから、それだけでも変な観光地になるよ。お前のところ観光地が何もないって言っているけど、こんなにもすごい場所があるじゃない。テレビ局なんか来て放映したら大変な事だよ』って言ったんですよ。探検隊かなんか行けば面白いかもしれない。だから視点の問題なんですよ」 ◎カントリー・ウォークは“はしご” ●カントリー・ウォークの本場はヨーロッパなんですか? 「ヨーロッパには日本と違って山らしい山はスイス・アルプスとピレネー山脈しかないんですよ。イギリスは一応山はありますけども日本アルプスのようなすごい山はないんです。地形が穏やかなんですよ。だからアウトドアといったらカントリー・ウォークしかないんですよ。バード・ウォッチングとか釣りとかね。つまりイギリス人には日本の京都みたいに一極集中的なレジャーをしたがらない。休日は何もない郊外の田園へ行ってブラブラしましょうというピクニック。外へ出てただお弁当を広げるっていうだけですけども、イギリス人の日常生活の中では重要なことなんですよ。私がイギリスへ行ったのはもともとカントリー・ウォークをしに行ったわけではないんです」 ●違うんですか? 「違うんです。もともと私は若い人の旅を指導する仕事をしていたんです。イギリスとかドイツは、私はユースホステル運動をしていたんですが、ハイキングというのはイギリスが発祥なんです。ワンダー・フォーゲルはドイツが発祥です。あれはみなさん生活用具をもって野宿しながら自由に野山を歩く、いわば徒歩旅行なんですよ。僕は若いときに長く大きな旅をしてほしいんです。ユースホステルというのはただ安く泊まるだけの場所ではないよと。連続して、例えば物を取るときに踏み台とはしごを考えてください。踏み台があるとちょっと高いところでも取れます。今のユースホステルの利用の仕方は踏み台なんです。ちょっとユースホステルを使うと1泊の料金が3000円とか5000円とか半額とか安くなる。でも本来的なユースホステルの利用の仕方ははしごなんです。はしごって分かります?」 ●高さとしても色々な段階があって色々な所へ行けるし・・・。 「違う違う。人間の歩幅で一定間隔で行ってどんな高いところでも、極端な言い方をすればビルの上までも消防車のはしごであれば行けますよね。それが子供や特別な能力がない人でも高いところまではしごの長さの分だけ行けるんです。だから例えばそのはしごをヨーロッパに例えたときに、まだ東と西が別れていないときにドイツ横断をしたんですよ。42日間、35のユースホステルがはしごになっているわけ。つまり35段のはしごがあるんです。そうするとドイツの端から端まで35のはしごを使えば、他の施設を一切使わずにユースホステルだけでゴールに行けるんです。700kmのはしごになっているわけ。いまやっているのはパリへ行きたいけどユースホステル1泊いくらで得したとか損したとか踏み台なんですよ。はしごっていう利用の仕方をしないわけ。はしごというのは徒歩でもっと大きな旅をするという意味なんですよ。はしごという利用の仕方をすると、私は去年と一昨年にイギリス縦断、ドイツ横断をしていたんです。これを無謀にもはしごでヨーロッパを歩こうということになったんです。デンマークの北海から地中海まではしごで行こうと。このはしごが実に見事にスイスまで出来ているんです。ところがフランスでははしごの1段、2段が欠けてんのよ(笑)」 ●惜しい・・・(笑)。 「だからテント。はしごの欠けている部分は自分でよじ登って次のはしごへということですね。農的な風景と先程言いましたがそれを田舎と都市で1日単位でレクリエーションと捉えれば小さいけども、カントリーっていうのは広い意味では地方ですから、ヨーロッパという地区のカントリー・ウォークとなったら規模は大きいよ。デンマークからフランスだもの。歩いてそういう旅ってしたことないでしょ?」 ●ないですね。 「人生何十年生きてきたか知らないけどさ、惜しい人生だよ(笑)」 ●悔しいー!(笑)いやでも、まだ先がありますから。これからですよ。 「そうです、これからです。人生は気が付いたときからが人生なんですよ」 ◎千葉はヨーロッパ ●山浦さんの話を聞いてカントリー・ウォークやってみたいという人が増えるかもしれませんね。 「そうだね。興味を持った人がいるかもしれないね。千葉なんかはオール・カントリーだよね。割と千葉はヨーロッパと地形が似ているんです。房総半島は山っていうのではなくて房総丘陵っていうんです。ヨーロッパも丘陵で高い山がないんです。つまりドイツがそういう地形なんです。川があって町があって房総半島全体が黒い森だと思えばいいんです。黒い森はもっと大きいですがドイツでいう黒い森なんです。千葉県の人は自分の房総半島をひとつのアイランドと思えばいいんです。この森の中に小湊鉄道が走っていたりいすみ鉄道が走っていたり、この沿線がローカル色が強いんですよ。乗ったことないでしょ?」 ●ないですね。どこにも行ってないですね(笑)。 「なんだよー(笑)。訊いた所全然行ったことないじゃない。じゃどこ行ったのよ? 館山行った?」 ●館山行きました。 「そうだね。ミーハーなら館山(笑)。あとは鴨川とか・・・」 ●鴨川行きました(笑)。 「そうでしょ。あとは犬吠埼の銚子か九十九里か・・・」 ●はい、行きました(笑)。 「成田山とか・・・」 ●はい、もちろん(笑)。 「ね? 千葉とか東京国際空港とか・・・」 ●もうバッチリです(笑)。 「じゃあ富津岬は行ってないかもしれないね」 ●富津岬は行ってないですね。 「そうでしょー(笑)」 ●すいません(笑)。 「富津岬レベルでも行かないんだから、ましてや中の細かいところは行かないよね。久留里線なんか乗ってないでしょ?」 ●久留里線も乗ってないですね。 「ね? メジャーなところしか行ってないんだね(笑)。つまりカントリー・ウォークっていうのはメジャーじゃないんですよ。第一、名前が出てこないでしょ。内房線と外房線くらいしか・・・」 ●畜生・・・(笑)。山浦さん! 1年待ってください。来年の今頃にはもう少し分かるようになっています。 「地図をもっと見なさいよ。千葉県の地図くらい。今100円のダイソーだって売っているよ」 ●でも地図を見るだけでもダメじゃないですか。 「その時には頭に入れないと。一番頭に入る方法は行くことです。行くときに電車に乗るでしょ。例えば総武本線だったら何駅あって、一つ一つを頭に入れていく。自分の地域をお庭みたいにして歩くといいですね。僕達は千葉県を結構歩いているので、例えば野田線の沿線を各駅で歩いていますし、成田線も歩きましたし、その先に銚子電鉄っていうカワイイ電車もあります。それから武蔵野線のかたつむり歩行も千葉県がスタートなんですよ。西船橋から府中本町まで何駅あるかというと22駅あるんです」 ●そんなにあるんですか? 「はい。私達は今1駅を1年かけての、計22年で220回のウォークをやっているんです。だから1991年からスタートして2012年に府中本町でゴールなんです。今年は武蔵浦和から歩き始めました」 ●そういうのってこの番組を聞いていた人が参加したいと思ったらどうすれば参加できるんですか? 「あっ、ちょうどいいわ。かたつむり歩行が2月15日に行なわれます。毎月第3日曜日にやっているんですよ。それから2月14日から新しいシリーズが始まるんです。関東百駅巡礼歩行っていうんです。百の駅を歩く1回目のスタートが千葉の流山なんです。私の家が葛飾だから流山が近いんですよ。でも流山電鉄っていうローカル線がまた良いんですよ。流山行ってないよね?」 ●うん(笑)。 「メジャーじゃないもの(笑)。そこに近藤勇の陣跡があるんです。今度のNHKのドラマが新撰組なんでしょ。そこに立てこもった近藤勇の陣跡っていうのが残っているんですよ。流山の町自体は古い町でお醤油とみりんの町なんですよ。ちょっと足を伸ばせば江戸川もあるし森もあるようなところなので、そういう所に目を向けてまさにカントリー・ウォークですよ。どこでもいいんですよ。いっぱいありますから」 ●でもとりあえず今日山浦さんの話を聞いて私も人生を考え直そうと思いました。 「そうだよ。考え直したほうがいいよ(笑)」 ●すいません(笑)。まずカントリー・ウォークに1回御一緒させていただいて、どこまで私が気付いていなかったかを自覚したいので、今度は是非フィールドでお会いしたいなと思います。 「今度は現場でね。しごいてあげるよ(笑)。何十年も生きていて地図も読めないんだもの(笑)」 ●だから気付いた今日からスタートですから(笑)、これから心を入れ替えて頑張りたいと思いますので、次回は現場でよろしくお願いします。今日はどうもありがとうございました。
『カントリーウォーク』 NHK出版/本体価格1,300円 生活実用シリーズの1冊として発売されているこの本はカントリー・ウォークについて分かりやすく解説したもの。写真もたくさん載っているほか、お勧めフィールドのウォーキング・ガイドも掲載。 「関東百駅巡礼歩行」 10年かけて毎年10駅のペースで100駅を目指すという山浦さんの新企画。 内容はローカル線に乗り、降りたい駅で降りて周辺を地図を片手にぶらぶらするというもの。
「あしまめクラブ」会員募集のお知らせ 山浦さんが個人コーチを務め、いろいろな行事やツアーを行なっている「あしまめクラブ」では現在会員を募集中。
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