2004.03.14放送 オホーツクの自然・流氷の不思議に迫る 「ザ・フリントストーン」が初の北海道取材を敢行。場所はオホーツク海に面した紋別市。第1弾はこの時期の風物詩「流氷」の不思議に迫ります。流氷の研究者の青田昌秋さんにお話をうかがうほか、紋別名物・流氷砕氷船「ガリンコ号」の船長・山井茂さんにガリンコ号のことをうかがったり、「オホーツクタワー」でプランクトンの研究を行なっている、濱岡荘司さんにクリオネのことなどをうかがいました。 ◎海はコンク・ジュース?! 流氷といっても、いろいろな表情や段階があります。そんな神秘的な流氷とオホーツクの海について、楽しく学べるのがオホーツク流氷科学センター「ギザ」。 ここで所長を務めている青田昌秋さんにお話をうかがいたいと思います。 ●流氷のメカニズムを簡単に説明していただけますか? 青田「まず言葉の定義があります。専門的に言うと流氷とは海を漂って動いている氷のことをいいます。動かない氷は定着氷といいます。これは一般用語で、もう一つ海氷というのがあります。これは海水が凍った氷のことを専門的には海氷とハッキリ分けています。というのも氷山は陸で生まれたものだからなんです。一般用語の流氷という言葉がありますよね。海にある氷は留まっていようが流れていようが流氷でいいじゃないかという広い意味での流氷。この流氷科学センターで使っている流氷はそういう意味です。でも、メカニズムと問われると何を言えばいいか・・・(笑)」 ●基本的に紋別は流氷の南限だといわれているじゃないですか。 青田「これより南の海では海が凍らないというのが流氷の南限ですよね。何故比較的南に近い海が凍るのかというのがメカニズムでしょうね。海水は冷たければ冷たいほど、塩分が濃ければ濃いほど重いんです。だから冬になって表面が冷えると沈みます。すると下の温かい水が上がってきます。つまり対流が起こり始めるわけです。海は対流をどんどん続けて水が変わっていくわけですから、海は深いほど凍りにくいということになります。ところが何故オホーツク海だけが凍るのか、同じ緯度なのに日本海側は凍らない、太平洋側も凍らないという謎があるわけですよね。その解明がメカニズムなんでしょうね。 オホーツク海は閉じられた海ですよね。周りがシベリア大陸、カムチャッカ半島、千島列島、北海道に囲まれています。そこにアムール川という極東の大きな川から大量の真水が流れ込むわけです。その真水がオホーツク海の表面にフタをしてしまうんです。表面は非常に塩分の薄い水で下の方に濃い水があります。先程対流は深ければ深いほどと言いましたが、その対流は表面の薄いところでしか対流が起こらないんです。何故ならその下には塩分の濃い『いくらお前らが表面で冷えてきても、俺は塩分が濃いんだから俺よりは重くなれないぞ』という層が水深50~60mのところにあるんです。だからたった50~60mの浅い海といえるわけですね。それに対して日本海やオホ-ツク海側は対流がどんどん進んでいくから春になってしまって、氷はできないんです。これがオホーツク海の流氷ができるメカニズムです」 ●オホーツク海って魚介類が豊富じゃないですか。流氷と魚介類とは何か関係があるんですか? 青田「流氷ができる南極を含めた北の海は、対流で表面の水が冷えて沈みます。ところが赤道に近いところは太陽の光で熱せられますから、表面が温かくなって沈みにくくなります。北の海は冷えるから沈みやすい。そこで下の水と混ざり合う。 海には畑でいえば窒素、リン酸、カリの様な栄養分がたくさんあるわけです。ところがその連中を栄養塩というんですが段々沈んでいって、下にたくさん溜まっているわけです。そこへ対流が起こるとそれを上に上げてくれます。そこで植物性プランクトンがその栄養物を食べて繁殖するわけです。畑でいう野菜、牧草に相当します。それを動物性プランクトンが食べて、海の第一時的な生き物がたくさんできます。だからもともと北の海はそういう条件に恵まれている。そこに氷が張る。氷ができると氷の中の塩分を排斥します。缶ジュースを考えて下さい。凍らせすぎるとカラカラと音がします。そのジュースを飲んでみて下さい。コンク・ジュースになっているはずです」 ●はい。覚えがあります。 青田「あとの残りを溶かして飲んでも、水っぽいんですよね。ということは海も全く同じで海水中に氷が発生すると表面に発生しますよね。そうすると塩分を排斥します。その塩分は濃いし冷たいから重くて下に潜っていきます。そこでまた対流を起こしてくれます。それで下の栄養塩を上げてくれます。海にフタがあるところに植物性プランクトンが発生しやすい条件ができます。植物ですから光合成をするので光が必要です。ところが流氷の厚さくらいでは光が通るわけです。光合成には十分なんです。で、栄養塩が豊富だから食べるものがいっぱいある。そこに流氷が張ってそこにしがみつく。『これは居心地のいいところだわい』と言って氷の下には植物性プランクトンがたくさんいるわけです。春近くなってガリンコ号で行くと、ひっくり返った氷があって茶色になっています。それは植物性プランクトンです。それが春になると増殖して、そこに小さなエビがいっぱい集まってくる。だから漁師の人達は流氷が来るとプランクトンを運んでくれるから、海は豊かだということになっています」 ◎流氷は予測不可 「ガリンコ号II」はその名の通り、流氷をがりがり砕きながら進む流氷砕氷船です。ガリンコ号の山井茂船長にお話をうかがいました。 ●私達の見るかぎり流氷はないですね。 山井船長「そうですね。この風は氷が戻ってくる風なんですけどね。4日前まではあったんですよ」 ●じゃあ、私達はオホ-ツク海クルーズを楽しみたいと思います。 山井船長「そうですね。ガリンコ号なのにガリガリと音がしないですね(笑)」 ●このガリンコ号ってガリガリという船首についている大きなドリルが特徴なんですよね。 山井船長「そうです。このタイプの砕氷船は世界でただ1隻なんですよ。氷の中を走る船で、船の前にドリルがついているのはこの船だけで、どこにも走っていないんです」 ●そうなんですか! 山井船長「砕氷船というのは世界各国どこでも走っていますが、舳先についているドリルは三井造船の特許なんですよ。世界でただ1隻です」 ●普通の砕氷船はどういう風になっているんですか? 山井船長「船の舳先が尖っていて、それを氷にぶつけて割っていくんです。この船は螺旋で氷を引っ張って船を氷の上に乗り上げて、船の重さで氷を割るという方法で進みます」 ●船長が今までこのガリンコ号に乗っていて、一番すごかった流氷はどういったものでしたか? 山井船長「今日は全然氷が無いからすごくないけど、氷が来た時はいつもすごいですよ。毎年必ず厚い氷やデカイ氷は来るんです。ガリンコ号で割れない氷はいっぱいあります」 ●割れない場合はどうするんですか? 山井船長「割れるところを走るんです。割れないところはよけてもいきますが、どうしようもないときは乗りかかっていきます。乗りかかっていって割れなかったらバックして、その先が青い海だったら2回、3回とチャレンジして割って乗り越えていくこともあります。オホーツク海の氷って結構厚いんですよ。何千トンもある船が立ち往生するくらいの氷が来るんです。だから、どこの氷でも割っていけるという船ではないです」 ●船長は去年、ガリンコ号IIで東京まで航海なさったんですよね? 山井船長「はい。7月に東京のお台場と横浜まで行ってきました」 ●ガリンコ号っていうところが渋いですよね。 山井船長「多分、他の人も不安だったと思うんです。私もこのガリンコ号がまさか東京まで行けるわけないんじゃないかと思っていました(笑)」 ●でも、船長は普段こうやってオホーツク海をガリンコ号で航海しているわけですけど、東京に来るには太平洋から行ったんですよね。海って全然違いますか? 山井船長「太平洋の波は大きいですね。ガリンコ号は長距離を走れるようには造ってないんですよね。紋別の近くを1時間か2時間のクルーズをするように造っているから、長距離を走れる船ではないんですが、行ってこいと言われたら私だって船乗りの意地がありますから(笑)、『行ってやるわい』って言って行きました」 ●オホーツク海の特徴ってなんですか? 山井船長「オホ-ツク海は風が止めば波が静かなんです。太平洋は常にうねりがあります。アメリカの方から続いているんだから、向こうの方で波が立てばうねりになって来ますよね。なので常にうねりがあるところなんです。それに風が吹くと波が大きくなるんですよね。オホ-ツク海は風が止んだら波がベターッとしちゃうんです」 ●オホーツクの海は風次第なんですね。その風次第で流氷が来たり戻ったりするんですね。ガリンコ号のガリガリが一番聞けるのは2月頃なんですか? 山井船長「いつもそう言っているんですが、自然のものなので予想がつかなくて難しいです」 ●“海の男”として予想はつきませんか? 山井船長「自然のものだから全くつきません(笑)」 ●そんなものなんですね! 流氷ってテレビなどで見ているとアザラシや渡り鳥が留まっていたりしますけど、実際はどうなんですか? 山井船長「オオワシやオオジロワシは毎年必ず来て、結構ガリンコ号の近くまで寄ってくるんですよ。ただ、アザラシが寝そべっているのはなかなか見れないですよね。去年はよく見たんですけど、沖の方のアザラシって結構敏感なんですよ。ガリンコ号でガリガリと音をたてて行くと振動が伝わって逃げてしまうんです。港の中で氷に横たわって寝ているアザラシは、何回か船が通っているうちに慣れてくるんです。そうすると近くを走っても逃げないんです」 ●そうですよね。ガリンコ号って氷がすごい時はかなり振動があるんですよね? 山井船長「船にもドンドン、ガリガリっていう振動はありますが、その振動は氷を伝わって動物のいるところまで届くわけです」 ●動物からしたら怖いですよね。 山井船長「相手だって怖いから逃げちゃいますよね」 ◎流氷と一緒にやってくるクリオネ 紋別市を訪れたら見逃せない施設がもうひとつ、それは「オホーツクタワー」。世界初の氷海海中展望塔です。ここでは水槽で泳ぐ可愛らしいクリオネにも出会えました。 そんな「オホーツクタワー」でプランクトンの研究を行なっている、濱岡荘司さんにクリオネについてうかがいました。 ●私達は一般的にクリオネっていう呼び方をしているんですが、クリオネ・リマキナっていうのが正式名称なんですよね? 濱岡「そうです。属名がクリオネ属で種名がリマキナということで、その意味はクリオネがギリシャ語で海の女神という意味で、リマキナはナメクジやナメクジみたいな形という意味なんです。それで名付けられた名前がクリオネ・リマキナなんです」 ●ナメクジの形をした女神という意味なんですね。和名がハダカカメガイ。いわゆる貝の仲間なんですね。 濱岡「そうです。巻貝の一種です」 ●クリオネって何種類いるんですか? 濱岡「クリオネに近い仲間としては、世界中で8種類くらいいます。そのうちオホーツク海には2種類いて、普通のクリオネ・リマキナ、それともう1種類は別な種類でぺドクリオネという種類がいるんですよね。よく流氷の妖精とか流氷の天使っていわれるんですけど、実際の表現としては流氷の使者といったほうが適当なんです。もともとクリオネは外洋域、北極、南極周辺の沖合の深い海の表層200m前後に分布している種類なんです。ところがオホーツク海の場合は流氷がやって来ますから、その時だけオホーツク海の沿岸域、場合によっては波打ち際までクリオネがやってくるんです。流氷が来ることによって沿岸域でクリオネが見られるようになるということだから、流氷の使者あるいは流氷の使いといったほうが適切かもしれないですね」 ●まだまだ謎多き「流氷の使者クリオネ」。 濱岡「クリオネについては、もうおばあちゃんになっているカナダの研究者の方が詳しく調べられていまして、クリオネの生態についてはほとんど明らかにされています。でも未だに分からないことが寿命です。オホーツク海のクリオネっていうのはサイズがバラバラなんですけど、3mmくらいで成熟するんですよ。オホーツク海で一番大きなクリオネっていうのが4cmくらいなんです。さらに大きな個体というのは北極で8.5cmのクリオネが採取されています。3mmと8cmのものが一生が1年なのか2年なのかというのはまだハッキリと解明されていないところです」 ●私はクリオネをカワイイという感覚でばかり見ているんですが、濱岡さんはどういう見方をしているのですか? 濱岡「一般の方や子供達は翼足(よくそく)の大きくて、かわいいクリオネを好まれますね。普通は英語でもSea Butterfly(シー・バタフライ)といって海の蝶々という表現をされているんです。もともと私はクリオネの専門ではないんですけど、動物プランクトンを研究していたということで、プランクトンの仲間の1種類として見ています。別にカワイイとかそれだけじゃないんですけど、非常に関心のある興味のある生き物で、捕食方法は肉食性で非常にどう猛なんです。今度はこのクリオネを飼育するときに、当然なかなか餌が確保できないのですが、餌を与えなくても冷たい水温で上手く水を管理してあげれば1年以上生きるんです。なので、そちらの方がこれからの研究対象としても興味のある問題だし、そういう点では非常に面白い生き物ですね」 ◎流氷と温暖化の関係 ここで再び青田さんに流氷についてうかがいました。 青田「この10年くらいの間に北海道周辺のオホーツク海の流氷が、多くなっているか減っているかを調べる方法が何かないかなと探索していたんです。北海道大学では34~35年流氷レーダーで周辺の氷が多いか少ないかを調べていたんですが、それでは長期的な兆候は見つからないわけです。それで網走の気象台は1892年頃から110年くらい目視観測をしているんです。その目視観測のデータと流氷レーダーのデータの相関をとると、目視観測でも十分オホ-ツク沿岸の流氷勢力を表すことができるということを確かめたうえで、110年間くらいの流氷勢力の変動を調べてみたんです。もちろん網走の気象台がやったんですが、それは気温ももちろんあります。年々流氷の勢力も気温もどんどん大きく変動しているんですけど、それを長くならしてやるわけです。パチンコ屋さんでいえば勝った負けたというのは思い入れがありますけども、多分月単位で平均していくと損することがでてくるというのと同じなんです。そういうやり方を移動平均といいます。つまり、短周期の変動をならしてしまうんです。それで長期的な傾向を浮かび上がらせるということをやってみたら、この沿岸の流氷勢力は100年前に比べて、40%くらい減っているということが分かったんです。それと、気温は0.6℃くらい上がっているということが浮かび上がってきました。 しかし、そんな狭い範囲のデータで地球を論じることができるのかという批判もあります。でも少なくともここの海はかろうじて凍っているわけです。ちょっとの温暖化ですぐに減ります。寒い年には長い間氷で覆われます。つまり流氷は地球温暖化に対する敏感な温度センサーといえるわけです。それも洒落ているでしょ。青い海が白くなって、白い海が青くなる温度センサーですよ。この流氷の減少傾向は地球温暖化と一致しているかどうかには疑問がありますけども、少なくとも自然が人類に警告を与えていると捉えたいと思います。温度の傾向は他の研究者が北半球全体で研究している傾向と一致しているわけですよね。私は流氷勢力の現象は地球温暖化の一面を表しているんじゃないかなと思っています」 ●青と白のコントラストがオホーツク海で楽しめている間はギリギリ安心という感じですね。 青田「青くなったままの時はますます深刻だと言っていいと思います」
・「北海道立オホーツク流氷科学センター[ギザ]」 氷点下20°の部屋に一年中、本物の流氷が展示されている他、視界360°の円形ドームに映し出される迫力ある映像が見物のアストロビジョンや流氷プレイランド、流氷観測室など、体験しながら流氷について学べる施設。 問い合わせ:TEL:01582-3-5400 HP:http://www.ohotuku26.or.jp/organization/center/index.htm ・「流氷砕氷船ガリンコ号II」 1月下旬から3月にかけてオホーツク海を埋め尽くす流氷原を、巨大なドリルでガリガリ砕きながら進む流氷砕氷船。流氷の季節以外にはオホーツク・ブルーの海をクルージングしたり、釣り体験ができるクルーズやナイト・クルーズなども運航。 尚、ガリンコ号IIは予約制。出航時間は季節によって異なるため、詳しくはお問い合わせ下さい。 問い合わせ/申し込み:オホーツク・ガリンコタワー(株) TEL:01582-4-8000 HP:http://www.o-tower.co.jp/garinko/ ・「氷海展望塔オホーツクタワー」 オホーツク海の約1キロ沖にそびえる世界初の氷海海中展望塔。海上と海底から流氷観察や四季を通して海洋生物の様々な生態観察ができる他、水槽で泳ぐクリオネにも会えます。 開館時間:11月~4月 午前10時~午後5時 5月~10月 午前10時~午後9時 但し2月と8月は午前9時から 閉館30分前まで入館可 休館日:悪天候により営業できない場合など不定期 入館料:大人1,200円 小・中・高生600円 問い合わせ:オホーツク・ガリンコタワー(株) TEL:01582-4-8000 HP:http://www.o-tower.co.jp/towerframe.html 最初に戻る ON AIR曲目へ ゲストトークのリストへ ザ・フリントストーンのホームへ photos Copyright (C) 1992-2004 Kenji Kurihara All Rights Reserved. |