2004.07.25放送 WWFジャパン・山岸尚之さんに聴く地球温暖化 今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは山岸尚之さんです。 財団法人・世界自然保護基金ジャパン、通称WWFジャパンで気候変動担当オフィサーとして活躍する「山岸尚之(やまぎし・なおゆき)」さんをお迎えして、地球温暖化問題をクローズアップ。このまま地球温暖化が進むとどうなってしまうのか、CO2の削減に向けた取り組みはどうなっているのかなどうかがいます。合わせて、大ヒット映画「デイ・アフター・トゥモロー」を検証します。 ◎温暖化の影響は気温の上昇だけではない! ●気候変動担当オフィサーというのは、どういうことをしているんですか? 「要するに温暖化の担当ということです」 ●地球温暖化というものを簡単に説明していただけますか? 「みなさん御存知だとは思いますが、太陽からやってくる熱が地上で反射して、通常だったら返っていくんですけど、それが地球に大気があるためにその中に捉えられて暖まるという現象なんです。だけど、温暖化が問題だというときは、捉える機能が強すぎてしまって、普通よりも暖まってしまうという現象のことですね」 ●よく、寒がりの人なんかは「暖かくていいじゃない」って言うんですけど、違いますよね? 「そうですね。よく言われるのが、今後100年間で地球の平均気温というのは1.4℃~5.8℃上昇するだろうといわれているんです。それは、1.4℃とか5.8℃という数字を聞いてしまうと、例えば、暑い夏と寒い冬を比べたらそれくらいの気温差はありますので、大したことないと考えてしまいますけど、注意していただきたいのが、地球の平均気温が1.4℃~5.8℃変化するということで、局所的に見ればものすごい変化になる可能性があるんですね。それと、温度が変わるというのは、ただ単に暑くなったり寒くなったりというだけではなくて、例えば、植物が住んでいる場所が変わるとか、動物が棲んでいる場所が変わるとか、それから異常気象がどれだけ発生するのかということが変わってくるとか、そういう様々な変化を引き起こしうるんですね。ですから、公式な場所だとただ単に温暖化とはいわずに気候変動と呼んだりします」 ●特に、暖かくなる温暖化現象となると最初にイメージするのが、暑くなる=氷が溶ける。すなわち、極点の氷が溶けていって水位が上がって、サンゴで出来た南の島ツバルなんかはどんどん住めない状況になっていっているじゃないですか。それがまず最初に、一般の方も一番分かりやすく頭に浮かぶものだと思うんですよ。 「そうですね。海面上昇が温暖化によって引き起こされる現象の典型例だというのは、多分正しいと思います。ただ、先ほどおっしゃられた、北極や南極の氷が溶けることによって海面上昇するというのは、今後100年間の温暖化現象ではあまり大きくはないんですよ。実を言うと、海面が上昇する主な原因というのが、色々な物体もそうだと思うのですが、暖かくなると水って膨張しますよね。その熱膨張によるのが大きいというのと、その熱膨張ほど大きく作用はしないのですが、地上にある氷河などが溶けて、その中に入ってくることによる増加がある程度大きいのではないかといわれていますね。今後100年間で海面上昇は9cm~88cmの幅で起きるだろうといわれているのですが、それによっておそらく、残念ながらツバルなんかは信じられないくらいの被害は起きると思います。なので、実際に移住の計画などは始まっていますよね」 ●ツバルといってもピンとこない方もいらっしゃると思うので、日本で考えるとどうなるんでしょうか? 「先ほど申し上げた数字(9cm~88cm)というのは、世界平均の数字なんです。日本だと、どのくらいの海面上昇が起こるのかというのは今、手元に数字がないのですが、例えば65cm海面が上昇したとしましょう。そうすると、日本の砂浜の8割が消えまして、仮に1m上昇したとすると日本の砂浜の9割は消えてしまうという被害になります。そうすると、沿岸地域は日光浴なんかは当然ありえないですし、そういうところで観光産業なんかをやってきた人達なんかは大変な被害になりますよね。もちろん生活にも被害が及んでくると思います。恐いのが、今、温暖化の原因というのは二酸化炭素の排出なんですが、熱膨張による海面上昇っていうのはゆっくりとしたペースで起きるので、今それを止めたとしてもその影響というのは徐々に出てくるので、ずっと後まで続いてしまうんですよ。だから、海面上昇というのはある程度避けられない状況なんです」 ●ただ、早く止めれば止めるほどその先が緩やかになるということなんですね。以前、番組にお迎えしたゲストの方で、温暖化に伴って植物や虫達が変わっていき、今の東京では考えられませんが、熱帯地方の病気等が起こりうるのではないかというお話をされた方がいらっしゃいました。また、愛媛みかんは愛媛ではとれなくなり、東北がみかんの産地になるというお話もありました。 「よく、取り上げられる例と致しましては、過去50年間の実際の例で桜の開花日が5日間早くなっているというのが、統計的な数字として出ているんですよ。それから、最近もニュースに載っていましたけども、以前は長崎などで見られるから『ナガサキアゲハ』と呼ばれていた蝶々が、三重県などで発見されるようになってしまったりとか、温暖化というのは植物や動物が棲む環境を変えていってしまうという側面がありますから、ただ単に暖かくなる、寒くなるという問題ではないんですよね」 ◎映画「デイ・アフター・トゥモロー」を検証! ●映画「デイ・アフター・トゥモロー」みたいなことってありえますか? 「難しい質問ですねぇ」 ●一言では言えませんか? 「一言では言えないというか、あの映画で起きていることは全て起こりうるかというと、科学的にはフィクションだといわざるを得ませんね」 ●あの映画を見てマジに気を付けなくちゃいけないなと思ったのですが、分からなかったのが、温暖化になると暖かくなるという中でなぜ氷河期なのかなと思ったんですよ。 「映画を観られた方は、おそらくその辺が疑問だったと思うんです。私、先ほどフィクションと申しましたけれども、その大まかなラインというのは科学的根拠が全くないわけではないんですよ。というのは、なぜ温暖化なのに氷河期が訪れるのかと申しますと、一言で言うと海のベルトコンベアーと呼ばれるものがあるんですが、それが止まることによってそういう現象が引き起こされてしまうんですね。 難しい話になってしまうのですが、地球の海というのは1000年から2000年くらいかけて1周するようなすごくゆっくりとした、でもすごく大きな海流というのが存在しているんです。で、それがヨーロッパでいうと、南の方から暖かい空気をヨーロッパの北の方に運んでいるっていう役目を果たしているんです。だからベルトコンベアーと呼んでいるんですね。だけど、温暖化によって北の方にあるグリーンランドの氷が溶けて、その中に水が入るとか、あるいは、降水量が増えて水が入るということによって、そのベルトコンベアーが止まってしまう可能性があるんですね。で、なぜ止まるのかというと、そもそものベルトコンベアーの流れを作り出しているものっていうのが塩の濃さと温度の差なんですね。で、なぜ北の方で沈み込むのかというと、簡単にいうと塩分濃度が濃くなると重くなるんですよ。そうすると下に落ちていくんですけど、そこで雨が降ったり氷からの水が入って薄まってしまうと、重くならないので沈まなくなってしまうんですよね。そうすると、海のベルトコンベアーが止まってしまって、それによって南からの熱の供給が途絶える。そうすると、今までそれのおかげでヨーロッパは暖かくなっていたのに、その部分が急激に冷えてしまう。そうすると氷が張り始めますね。 で、氷が張り始めると、今度、太陽からの熱や光っていうのは、みなさん夏の日は黒い服を着たくないと思うんですけど、色が濃く、黒に近いものほど熱をよく吸収するんですけど、氷が張るということはどういうことかというと白くなるわけですよね。で、白くなると今度は逆に、熱を吸収しなくなってしまうので、ますますそこが冷えるような循環になっていく。それによって、氷河期が訪れるというのがあの映画のシナリオなんですよ。だから、まったく科学的に荒唐無稽でないというのは、基本的にそういう事が考えられなくはないという意味で正しいんですね。ただ、海のベルトコンベアーがいつ止まるのかということの関しては、科学者の間では統一見解はなくてですね、そういうことが起きたおかげで、過去の氷河期なんかは起きたのではないかといわれているんですね。ですから、その辺は正しいと思います。 基本的に2時間のハリウッド映画の中に温暖化という、普段ではすごく分かりにくい問題を詰め込んで、しかもエンターテインメント性を持たせるとしたらああいう形になると思うんですね。だからこそ海外なんかでも、温暖化の専門の科学者の方なんかでも『あの映画はいいね』という風に言っていたりするんですよ。ですから、大事なのはあれを観て『これが温暖化なんだぁ』といってその映画館を出たら忘れてしまうのではなくて、あれをキッカケに『温暖化って実際どうなのかな』という風に考えていただくというのが、すごく大事なことだと思います。 あの映画よりも実際の温暖化の方が恐いなと思う部分があって、それはあの映画の中だと温暖化の影響はアメリカや日本に直撃していますよね。つまり、映画を見に行くような人達に直撃しているんですけど、実際に温暖化の影響が出て一番最初に被害が出るのは、例として挙げられていたツバルの方々みたいに、温暖化の原因をあまり作りだしていない人達が、一番最初に結果を受けると思うんですね。例えば、ツバルなんかは典型例だと思いますけど、その他にも温暖化が進行することによって、それまで熱帯病がなかったような地域にまで拡大したと。そうなったときに誰が一番最初に被害を受けるかというと、薬を買うことの出来ない人達が一番最初に被害を受けるわけですよね。で、薬を買うことの出来ない人達っていうのは、多くは貧しい人達ですよね。貧しい人達がどれだけ二酸化炭素を出しているかというと、大して出していないわけですよ。我々の生活レベルの方が明らかに出しているわけなんです。だから、原因を出しているのはアメリカを含めて我々先進国全般なのに対して、被害を最も受けるのは原因をあまり作りだしていない人達が一番最初に被害を受けるんです。そういう原因と結果の不平等という側面は、あの映画よりも僕はむしろ現実の方が恐いんじゃないかと思っていますね」 ◎温暖化対策は無駄を省くことが大事 ●1997年に「第3回気候変動枠組条約締約国会議」というのが行われました。そこで決まったことを、京都で行われたということで「京都議定書」と呼んでいますけど、決まるのにすごく時間がかかったじゃないですか。それが、一般的にはどこまで浸透しているのかが分からなかったり、自分達が何をすればいいかが見えていなかったりで、危機感はあっても具体的にどういうことをすればいいのかが分からないので、教えていただけますか? 「京都議定書のお話をしますと、これは基本的に温室効果ガス(二酸化炭素が代表例)の削減に関する目標を作ったんですね。先進国で約5%という削減目標なんですけど、その後、京都議定書で削減目標を作りましたと。それを具体的にどういう仕組みの中でやっていくのかということについての話し合いが行われて、2001年にその合意が出来たんです。それをもって、2002年にヨーロッパとか日本は京都議定書を批准したんですけど、御存知のようにその過程でアメリカは京都議定書を離脱してしまったんですけど、各国それに基づいて対策を進めようとしています。実は、今年は日本の国内の温暖化対策にとって大事な年でして、2002年に批准をしたときに日本の国内対策のグランド・プランみたいなものを作ったんですけど、今それの見直しをやっている最中なんですよ。実は、今年は大事な年なんです。 2番目の御質問の『じゃあ、私達は何をするの?』ということについてなんですが、家庭のどういうものから二酸化炭素が出ているかを申しますと、一般の三大要素の1つが車ですね。それと電気と冷暖房なんです。ですから、それらの使用を控えて、無駄を少なくするというのが大事な発想ですね。それに、車を利用するにしても、もちろんドライブが好きな方々もいらっしゃいますし、車を文化として考えていらっしゃる方々もいるので、一概に『それを全部減らせ』とは言えないんですけど、例えば、家の近くのコンビニまで買物に行くのに車で行くなよとか(笑)。そういう無駄なところを省くっていう発想が大事だと思うんですよね。冷暖房も温度設定をそんなに高めにしたり低めにしないということが大事だと思いますね。 それから、自分たちが活動できる事ですけど、例えば、家電製品などを買うときに、よく見ていただくと色々な商品に省エネ商品と書いてあると思うんですけど、そういう物を買っていただくとか、額面通りの値段を比べると2倍くらいしてすごく高いんですけど、長期的に使用するということを考えるとペイするんですよ。電気代とかを考えるとね。その辺に気を付けて買っていただくこととか、それとは関係のない商品を選ぶときでも、『この会社は温暖化対策に対して真面目にやっていないって聞いたから』とか(笑)、その辺を判断基準にしていただけると、産業の方々にとって何が一番嫌かというと、消費者にそっぽを向かれるのが一番嫌ですから、そういう意味でもすごく大きな力を持っていると思いますね。自分達で無駄な電気を減らすとか、車の利用を減らすというのが一方と、もう一つは選ぶときにそういうところに注意をして商品を選んでいただくというのが大事なことだと思います」 ◎温暖化対策は急務 ●WWFジャパンではシミュレーションによって、もっと減らせるんじゃないかとおっしゃっているそうですね? 「おそらくそれは、ホームページをご覧になられたんだと思うんですけど、少し昔のものなんですよね。その時点からあれだけのことを取り組んだら、これだけ減らせますよということだったんですが、今もう大分後になってしまっていますからね。あの時点の想定がそのまま適用できるかというとそうではないんですよ。ただ、昨年発表させていただいたもので、日本全体ではないのですが、日本の電力部門、いわゆるパワー・セクターと呼んでいるのですが、その電力部門からの排出削減を2000年のレベルから比べて、2020年までに20%の削減が出来るんじゃないかという報告書を、昨年に発表させていただきました」 ●これに関係してくるのが、世界的に行なっている「パワー・スイッチ!」キャンペーン。これについて教えていただけますか? 「『パワー・スイッチ!』というのは、日本語で言うとわかりにくいんですけど、『パワー』というのは電力や熱のことを指していまして、世界的に見ると電力とか熱っていうのは、二酸化炭素の排出量のうち37%を占めているんですね。世界最大の排出源なんですよ。ですから、二酸化炭素の排出量を減らしていくっていうのが、まず大事なんじゃないかと思うんです。パワーをクリーンな方向にスイッチしていくという思想で、『パワー・スイッチ!』という活動をしているんですね。それは日本だけではなくて、アメリカやヨーロッパで、まずどれくらい二酸化炭素の排出量を減らすことが出来るのかという報告書を出して、それに基づいて電力会社さんと協定を結んだりということを、アメリカやヨーロッパではやっています。今までは、電力会社さんや政策決定をされる方向けだったんですけど、それに関するパブリック・キャンペーン(一般の方々向けに『こういうことをして下さい』って働き掛けること)を今WWF全体で企画しています。それは今年の11月くらいから開始しようとしています。是非、リスナーの方々にも参加していただけたらと思っています」 ●どんな感じになりますか? 「11月から1年間くらいキャンペーンを続けていくつもりです」 ●番組でもまたキャンペーンのお話をうかがえればと思います。映画「デイ・アフター・トゥモロー」みたいなことって、フィクションだからと無視できませんよね? 「そうですね。あの映画を最初に私がフィクションと言ってしまったのが良くなかったんですが、すごく正しく描けてるなと思った部分が1つありまして、それは温暖化というのは起きてしまってからではどうしようもないんですよ。その時の恐怖感というのはとてもよく描かれていると思います。あの映画でも起きてしまってからでは、『退去しましょう』とかしか出来ていませんでしたが、実際にもそうなんですよ。それは実際の温暖化でもそうだと思うんですよ。地球の調子が狂い始めて、正常の状態から別の方向に向かい始めてしまったと。なってしまったら、温暖化が温暖化を加速させる性質を持っていますので、どうしようもないところがあるんですよね。だから、すぐにでも取り組み始めていかなきゃならないと。 WWFも含めて国際的な環境NGOのネットワークでクライメット・アクション・ネットワークというのがあるんですけど、そこは地球の平均気温の上昇は2℃未満に抑えましょうといっているんです。そこを越えてしまったらもうヤバイぞと。地球の平均気温の上昇を2℃未満に抑えるということを目標にみなさん頑張りましょうねと、世界的に訴えかけている状況です。いつと比べてというのは、産業革命より前から2℃未満ということなんですけど、産業革命から考えると地球の平均気温は既に0.6℃上昇しているんですね。今、傾向として二酸化炭素の排出量が減っているということを考えると、1℃以上の上昇はもう避けられないだろうという見解ですね。それを考えて、どうしても温暖化を防がなくてはいけないという観点で2℃未満という目標の立て方になっているわけですね」 ●じゃあ、結構ギリギリのところにいるんですね。 「そうですね。ギリギリです」 ●余裕はないっていうことですね。笑っている場合じゃないんですね(笑)。そのためには我々が出来ることから始めないといけないということですね。まず、家庭から。電気、車、冷暖房というのが誰にでも出来る一番身近なところということで、今日からでもみなさん注意しながら考えていただければと思います。11月からは一般の方が参加できる企画ができるということなので、心して参加させていただきたいと思います。今日はどうもありがとうございました。
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■WWFジャパン~地球温暖化 WWFが現在特に力を入れている活動の1つが、地球温暖化の防止。ホームページ内では温暖化がなぜ起こるのかに始まり、温暖化になるとこんな影響があるという予測や京都議定書のこと、そしてWWFで行なっているキャンペーンなどを掲載。また現在、一般の方にもっと地球温暖化問題について関心を持ってもらうための方法を検討中。11月頃には決まる予定なので、番組でも改めてご紹介します。
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