2004.08.15放送
元環境衛生監視員・中臣昌広さんの“水と生活”
今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは中臣昌広さんです。
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保健所の環境衛生監視員は市民の健康と衛生を守る、いわば“水の番人”。番組では23年間、環境衛生監視員として活躍された「中臣昌広」さんををお迎えし、水と衛生に関するお話をうかがいます。「中臣」さんは「“水”の安心生活術」という本を出してらっしゃいます。その本には実体験をもとにした水まわりの話が満載です。
◎おいしい水の条件は15℃
●中臣さんは環境衛生監視員として23年勤められて、この春に「“水”の安心生活術」という本を出されていらっしゃるんですが、私は中臣さんの本を読ませていただいて初めて、環境衛生監視員という肩書きを知りました。
「聞き慣れない言葉ですよね。これは、保健所の衛生監視をする仕事なんですけども、例えば、ホテルとか旅館とか公衆浴場、理髪店とか美容室とかクリーニング店といった許認可を扱う仕事なんですけど、その中の1つが水の衛生を扱う仕事なんです」
●中臣さんの本を読んでいて、ほんとうに水の番人なんだぁって思ったんですけど、そこにはダニやカビも関係してくるんですね。
「水にまつわること全部ですね」
●こういう方がいらっしゃるということを今回初めて知りました。
「じゃあ、この機会に是非覚えて下さいね(笑)。環境衛生監視員です」
●今もそうなんですか?
「今は担当は変わったんですけど、今年の3月までの23年間は環境衛生監視員として水に関係する仕事をやってきました」
●この本は環境衛生監視員として関わった仕事のエピソードを通して、仕事の内容だったり問題が書かれているんですけど、まず、飲み水のお話からうかがいたいと思います。蛇口をひねるといつでも出てくるお水。その飲み水もおいしい水、おいしくない水がありますよね。
「例えばミネラル・ウォーターを見ますと、1985年に国がおいしい水の水質要件を出したんですね。その時のミネラル・ウォーターの輸入量、国内の生産量と現在を比較してみると10倍以上になったんですね。その裏返しには水に対しておいしさを求めて、安全性には不安を感じているというところが、10倍という数字に表れているんだと思います」
●この本の中にも「おいしい水とはどんな水か」ということを書かれているんですけど、水には色々な種類があり、好みもあるでしょうし、全体的には温度が凄く関係しているらしいですね。
「そうですね。水温が一番の要素だと思うんです。前に、保健所の催し物で利き水をやってみたんですよ。そこで3種類の水を選んだんです。1つは水道水、2つ目は湯冷まし、3つ目がミネラル・ウォーターだったんですけど、冷蔵庫で15℃に冷やして温度を一定にしたんです。それで、利き水をやった結果、見事に三者三様でバラバラになったんです。ですから、成分も関係はしているんですが、水温という要素がかなり大きいことが分かりました。大体、夏に『冷たいな』『おいしいな』と思う温度が15℃くらいなんですね」
●最近は、言わなくなったのかもしれないですけど、昔はよく「水にあたる」とか「水によって体調が変わる」って言っていましたよね?
「例えば、地方から東京に引っ越してきて、東京で水道水を飲んだらお腹を壊してしまったということはありますね。なぜかと考えてみると、塩素をかなり多く入れていることが影響しているかなと思います。例えば、地方で井戸水をほとんどそのまま飲んでいたとしますよね。それが、東京へ来て河川の水源の水を処理して、河川が汚れていればそれだけ塩素を多く使いますから、そういったカルキや塩素の影響で刺激があって、お腹を壊しているといえるかもしれないですね」
●でも、それは決して悪い水だというわけではないんですよね。
「もちろん、50項目ある水道法の水質基準をクリアしている水が水道水になっているわけです。ただ、消毒で塩素を加えたり、時にはカビ臭いにおいが水道に入ったりということはあります。水質自体は左右する要素が2つあると思うんです。1つは河川の水から処理をして作った水道水そのもの。もう1つは、こういったビルの場合、水を一旦溜めるタンクを持っているんですけど、そのタンクに水が入ってどういう状態になるか。それによって水質が変わってくる可能性がありますから、その2つの要素があると思いますね」
●例えば水道水という意味では、一軒家と高層マンションの上の方に住んでいる方では違ってくるんですか?
「一戸建ての平屋や二階建ての家は水道本管から直接、蛇口へきますのでリスクが少ないですよね。次に少ないのは、受水槽っていう水のタンクが1階、あるいは地下にあって、それを例えば圧力タンクという方式で蛇口へ送る形。これはタンクが1つですから、2番目にリスクが少ないです。それから、リスクがちょっとあるのは、今も多いのですが受水槽と屋上にある高置水槽という、2つの水槽を持ったタイプの建物は衛生管理に、より手間が必要ですからリスクがあります。ただし、しっかりやっていれば問題がない事は確かですけどね」
●こういう問題っていうのは、不安になったら環境衛生監視員の方に相談すればいいんですよね?
「そうですね。例えば住んでいる地元の保健所の環境衛生監視員に相談してみるのも、1つの方法だと思います」
◎浴槽がヌルヌルは要注意!
●この時期、飲み水の次に気になるのってプール、温泉、お風呂だと思うんですよ。これらはどうなんですか?
「お風呂は各都道府県で条例がありまして、それに基づいて水質基準があって、行政側の保健所がチェックしているんです。ただ、基本的に日常は自己管理によって衛生管理が行われています」
●温泉なんかはずっと流していたりしますが、それはどうなんですか?
「いわゆる『かけ流し式』といって、温泉の元の源泉を常に入れている温泉ですね」
●そうすると「キレイなのかな!?」っていう気持ちになりますけど、実際にはどうなんですか?
「浴槽を定期的に掃除して、配管やお湯を溜めるタンクを掃除していれば、比較的キレイで温泉らしい温泉といえると思います。浴槽がヌルヌルッとしたら要注意かもしれません(笑)」
●(笑)。中臣さんの本の中でも紹介されているんですけど、一時期「24時間風呂」とかありましたよね。ああいうのってどうなんですか?
「私は使っていません(笑)」
●(笑)。その一言が全てを物語っているような・・・(笑)。
「基本的に家庭の浴槽は、毎日お湯を取り換えるのが理想的ですね。浴槽の内側の壁面を洗ってキレイにしておく。それさえきちんとしておけば、常にキレイなお風呂に入れるということなんです」
●でも24時間風呂だし、お水も勿体ないしと思うと、もうちょっといいかしらって思うんですけど、どれくらいまで大丈夫なんですか?
「壁面がヌルヌルしているっていうのは、レジオネラ属菌という肺炎を起こす菌が増えている状態なんです。生物膜ができると壁面がヌルヌルするんですけど、それは危険信号ですね」
●一時、備長炭や石をお風呂に入れておけば、天然パワーでお湯がキレイになるという方がいらっしゃいますけど、これはどうなんですか?
「まず炭ですけど、炭に活性炭と同じ効果を期待されていると思うんですね。汚れの成分を吸着してくれる効果を。でも、その吸着がどれくらい続くか。それが1週間なのか1カ月なのかは計ってみないと分からないですけど、そのまま2カ月も使うのはどうなのかなぁと思いますね」
●フィルターを掃除機で吸おうとしているのと同じですね(笑)。
「近いような近くないような・・・(笑)」
●石はどうなんですか?
「石はデータが手元にないんですけど、石を何の目的で使うかによるかもしれないですね。それも過信したり、あまり期待をしすぎると、どうなのかなという風に思います」
◎ダニ、カビ対策には湿気を防ぐのが一番!
●この本を読んでいて私が気になった点というのが、コンクリ-ト造りの新築一戸建ては、家が出来上がってすぐ入るよりも、ちょっと置いてから入居したほうが、ダニなどの被害に遭いにくいということなんですが、この辺をご説明いただけますか?
「1年目2年目は湿気を持ちやすいですから、できれば家が出来上がってから少し置いたほうが、湿気の影響は受けません。ダニが出にくくなって、カビも生えにくくなります」
●ということは、空き家として置いておく間にコンクリートが乾いて、ダニが死滅してしまっているということなんですか?
「ダニっていうのは、増える条件が3つありまして、1つは温度、湿度が高いこと。2つ目は餌があること。これは食べカスや人のフケとか垢ですね。3つ目は潜る場所、産卵する場所があるっていうこと。すなわち、畳とか絨毯ですよね。この3つの条件がないと増えないんですね。ですから、今挙げた条件のうち1つでも欠ければ増えにくいというわけです」
●風通しをよくして、室内をよく掃除をするというのが、既にダニが出てしまった家の対処法なんですか?
「ダニを減らすのに一番効果があるのは、湿気をなくすことです。夏でしたらエアコンで湿度を下げる。冬でしたら外の方が湿度が低いので、空気の入れ替えをして部屋の湿度を下げてあげる」
●カビはどうなんでしょうか?
「カビが増える要素っていうのは、大きく分けて3つあると思うんです。1つは温度、湿度が高いこと。2つ目は餌があること。餌は有機物です。例えば壁紙についている接着剤や、風呂場の石鹸やシャンプーです。そういった栄養分があること。3つ目が空気中の酸素があること。この条件があれば、カビは生えてきます」
●ということは、生活していたら避けるのは難しいということなんですね?
「ただ、上手に生活すればいいんです。部屋に水分が溜まらないようにする。それは例えば、お湯を沸かすときや調理をする時に、窓を開けて換気扇を回して湿気を外に出すといった生活の工夫をすれば、家の中の水分は下がりますのでカビが生えにくい家になります」
●私の家はマンションなので、風呂場に窓はないし、換気扇を回しっぱなしにしていても、カビが生えてしまうんですよ。
「私が今住んでいる集合住宅も南側しか窓がついていないんですね。どうしているかっていうと、窓を開けて換気扇を回します。それだけではなくて、今は夏の時期ですので、扇風機を窓のそばに持っていって、外からの空気をより入れやすくします。外の空気を入れて換気扇から出すということです。そうすることで短時間で効率的に家の中の湿気を出すことができます。ただ、これは外の湿気が高いときに、あまり長くやるとかえって中の湿気が高くなってしまいます」
●一時期、私がやっていて効果があるのか分からなかったのが、お風呂を上がった最後にシャワーを水にして、風呂の壁とかにかけてお風呂場の温度を下げることによって、早く湿気が飛ぶという方法なんですが、これは効果はあるんですか?
「水をかけるのは私もやっているんです(笑)。というのは、カビを生えにくくするには温度を下げる。それから、栄養分を取り除くということで、冷たい水をかけるんです」
●じゃあ、この方法は有効なんですね?
「理論的には合っています」
●水で壁を濡らして温度を下げて、最終的にはタオルで拭いて水分を完全に拭き取るのは効果ありますか?
「私は拭き取っています(笑)。ただ、タオル自体も管理が悪いとタオル自体がカビてしまいますから、その辺りは注意して、キレイなタオルで拭き取る分にはそれが一番いい方法だと思います」
◎水の仕事はライフ・ワーク
●私は環境衛生監視員という方々を知らなかったので、もっと早く知っていれば色々と質問をしたんですけどね(笑)。
「そうですね。言ってみたら、縁の下の力持ちみたいな存在ですね」
●水まわりのことで気になることがあれば、地元の保健所に相談するのがいいですよね?
「そうですね。一度相談してみたらいかがでしょうか」
●そんな中臣さんは「雨水市民の会」でも活動をされていて、「雨水市民の会」といえばフリントストーンにも以前出演して下さった、墨田区役所の雨水博士「ドクトル雨水」こと、村瀬誠さんが中心となって活動されているわけなんですが、中臣さんが「雨水市民の会」に入ったキッカケも村瀬さんなんですよね?
「そうです。村瀬さんとは、もともとは特別区23区の職員の自主研究グループで一緒で、村瀬さんは私の先生のような存在だったんです。その中で自主研究を進めていって、その柱の1つが雨水利用の調査や研究だったんです。それで、約10年前に墨田区で雨水利用の国際会議がありまして、そこで、実行委員会ができて、その実行委員会が発展的になったのが『雨水市民の会』なんです。そこで実行委員をして、そのまま市民の会に入ったというのがいきさつです」
●中臣さんは、凄く楽しそうに水に関することは何にでも興味を持っていっらっしゃって、ライフ・ワークなんだなと思いました。
「ええ。仕事だけではなくて、国際会議で2年に1回海外に行くんですけど、そういう時もその国でどういう水が飲まれているのか、どういうミネラル・ウォーターが売られているのかとか、ホテルに着いたら、そこから使う水などが興味、関心の対象になります。楽しいといえば楽しいライフ・ワークと言えるかもしれませんね(笑)」
●中臣さんから、都会生活者へ水に関するアドバイスなどありますか?
「是非、自分が使っている水や、飲んでいる水がどこから来ているか知ってほしいですね。そして、実際に見てほしいなと思いますね。水源がどういう状態か。キレイなのか汚いのかというのを、目で見て何かを感じ取ってほしいなと思います。そこから水を考える原点が見つかってくるんじゃないかと思います」
●今日はどうもありがとうございました。
■ I N F O R M A T I O N ■ |
文京区文京保健所の「中臣昌広」さんの本『「水」の安心生活術』(集英社/定価693円)
集英社新書の1冊として発売されているこの本は、23年間、保健所の環境衛生監視員として活躍された「中臣」さんの、“水の番人”としての実体験に基づいた知恵や知識がぎっしり詰まった1冊。水道水を使って美味しい水を作る方法や浄水器選び、カビやダニについて。また自宅のお風呂や温泉の話など、水まわりのエピソード満載!
・「中臣」さんの本が載っている集英社のホームページ http://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/0235-g/index.html
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