2005年7月17日

冒険家・石川仁さん、葦船航海を語る

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは石川仁さんです。
石川仁さん

 7月18日「海の日」にちなみ、冒険家でカムナ葦船プロジェクトの代表「石川仁」さんをお迎えします。「石川」さんは5月に葦を編んで作った「葦船」で高知県の足摺岬から伊豆七島の神津島までの航海を成功させました。そんな航海のことや、古代の道をたどって太平洋を横断する夢についてうかがいます。

葦船は最も古い乗り物の1つ

●お久しぶりなので、改めて「カムナ葦船プロジェクト」というのはどういうプロジェクトなのか教えていただけますか?

「僕らは葦船という古代船を使って、古代の海洋民族が辿った海の道というのがあるんですけど、その道を改めて検証してみようという思いから生まれたプロジェクトです」

●葦船の「葦」っていうのは草の葦ですよね?

「はい。河原にボーボー生えていて2mから3mになるような草です」

●それを束ねて船を造るんですね。

「はい。その草を束ねてロープで縛って、それをいかだ状に何本か重ねて造る船です」

●前回、お話をうかがったときに「葦だから下のほうから水を吸って、それがいい感じに重しになってバランスが良くなるんだ」と聞きましたが、これはどういうことなのか簡単に説明していただけますか?

「はい。現代の船と違って、草ですから水を少しづつ吸っていくんですね。そういうことで多少沈んでしまうんですけど、逆に水に濡れて重心が下がりますので、安定感に繋がるんですよ。だからダルマと同じように濡れることでひっくり返りにくくなる。簡単に言うとそんな感じです」

●イメージするとかなり原始的な船なんですね。

「もう、かなり原始的です。一番古い壁画ですとメソポタミア文明では紀元前4000年の壁画が残っていますので、6000年くらい前から草を束ねた船というのが存在していたということになりますね」

●日本でも古事記に葦船が出てきますもんね。かなり歴史のある船なんですね。

「そうですね。乗物の中でも最も古いもののひとつにされています」

●今回、石川さんは伊豆七島の神津島から戻られたばかりなんですが、出発地点は高知県の土佐清水なんですよね?

「はい。5月8日に土佐清水を出港しまして、それから13日間かけて伊豆七島の神津島に到着しました」

●このルートというのはどういった理由で決まったんですか?

「葦船というのは原始的な船で、実はあまりコントロールが出来ない船なんですよ。というのは、前回も言ったのですが、前から風が吹いてきたらそのままバックしていってしまう。横から風が吹いたら横に流れていってしまう船なので、大体、伊豆諸島のどこかの島に着くんじゃないかというくらいの思いで航海したので、ゴールはすごくアバウトだったんです」

●潮の流れや風の吹く方向によってクラゲのように漂っているんですね(笑)。

「はい。どっちかというとヤシの実に近いような状態でした(笑)。ただ、出発地点はどうして足摺岬にしたかというと、黒潮の本流が日本で最初にぶつかるのが足摺岬なんですね。ですから、古代の海洋民族の道を辿ると日本の入り口にあたるのが足摺岬になると考えて、僕らはそこを出発点にしたんです」

●航海には13日かかったそうですが、この13日というのは予想通りだったんですか?

「そうですね。大体そのくらいじゃないかなと思っていました。直線にすると700キロくらいなので、順調にいったら1週間から10日で着いてしまうんですけど、どうして2週間かかったかというと、やはり何度かバックしているんですよね。3回くらいグルグルッと回りましたね(笑)。よくボールペンの試し書きでグルグルッと書くじゃないですか。ああいう感じで周りながら3回転半くらいしたかな(笑)」

●(笑)。自然の流れに逆らえない船なんですね。

「委ねるしかないですね」

●でも、そこが魅力でもありますよね。

「そうですね。乗物の中で人間がコントロールできないものっていうのはあまりないですからね。ただ、全くの漂流ではないので、というのは補助的ではありますけど、帆と舵がついていますので、後ろ斜めくらいから風が吹けばある程度は直進できます」

●「カムナ号」と名付けられたこの葦船なんですが、カムナ号自体の大きさというのはどれくらいだったんですか?

「大きさは全長16mです。船の底から乗っている部分の高さが2m。幅が4mです」

●クルーの方は何人くらいいらっしゃったんですか?

「クルーは8人で乗りました」

●それだけ乗っても大丈夫なんですね。

「そうですね。16mの船のうち、3分の1にあたる5mくらいは小屋があるんですよ。その小屋の中に8人が寝て、前の部分には竹で組んだ甲板があって、小屋の後ろ部分には操縦をする舵があるという感じです。なので、ノリで言ったらハックルベリー・フィンとかトム・ソーヤの冒険とかそういう感じですよね。ちょっと大袈裟ですけど気分はそういう感じだと思います」

夜光虫と添い寝した男達!?(笑)

●以前、お話をうかがったんですが、石川さんが葦船に乗って航海をする途中で船が真っ二つに折れてしまったこともあったそうですね。

「その時は世界で初めて『船が半分になっても航海した』と新聞で報じられましたけどね(笑)」

●(笑)。そんなハプニングの話もして下さったんですが、今回の航海ではどうだったんですか?

「今回は、葦という素材を初めて使ったんですね。以前も葦船葦船と言っていましたけども、厳密に言うと畳の表と同じい草の仲間を使った素材なので、もっとフワフワした感じなんですよね。で、今回使ったのはよしずとかすだれに使うような硬い葦なので、強度的にはすごくよかったですね。ビクともしなくて『これはすごいなぁ』と思いましたね。ただ、強度はあるんだけど、浮力がなかったんですよ。だから思ったよりも沈むのが早かったんですよね。最後のほうは水がザッパンザッパン入ってきまして(笑)、一番下で2人が寝ていたんですけど、そこに水がザバーンと入ってきまして、夜になると出てくる夜光虫で、彼らの寝袋がキラキラ光っているんですよ(笑)。顔もキラキラしていて、下の2人がお互いに顔を見合わせて『おっ、キレイだね』とか言っちゃって(笑)、まさに『夜光虫と添い寝した男達』ですね(笑)」

●なんかすごいですね(笑)。

「笑える話だけど、寒いですし、それだけ波が入るっていうことは時化てますからね。その2人は寝不足だった日が何日もあると思います。3段ベッドだったんですね。3段ベッドが3つあって本当だったら9なんですけど、下の1つだけは荷物を入れていたので、あとのみんなは上で寝ていたので助かりました(笑)」

●気の毒なお2人(笑)。でもキレイだったお2人(笑)。

「それと時化があってすごく揺れたんですよね。その時は下の人達は床と並行だったので、揺れるとベッドからストーンと出てくるんですよね(笑)。もう1人のほうにガーンとぶつかったりしてね(笑)。引き出しを開けたり閉めたりするように下で動いてましたね(笑)」

●(笑)。漂うほどではないけれど、自然任せの葦船の旅っていうのは、古代の人達もそうやって旅をしていたんですよね。

「外洋に出たというのはあまりなかったのかもしれませんね。古い時代の時はたまたま出たか、もしくは古代の宗教的なことで神の住むところへ行くとか、いけにえとかあったのかもしれないですけどね。あまり沿岸から離れての航海というのはなかったんじゃないですかね」

●今回、旅をしながら古代の先人達が体験、経験したものを分かったような感じってありましたか?

「今までとは違ってそれだけ翻弄されましたからね。日本の近海は航海が難しいとよくいわれるんです。と言うのは朝晩で風が急に変わるからなんですよ。だから次はどこから風が吹くか分からないですし、一定していない。でも、黒潮の本流に乗ってしまえば大きな流れですからそのまま行けるんですけど、僕たちは黒潮から1回降りたんですね。すると、支流が縦横に無数にあるんですよ。ですから、太平洋の真ん中とは違ってすごく繊細で、その時間時間で海流の向きが変わったりするんです。なので、本当に翻弄されたようなところはありますね。今回の旅ですごく感じたのは、どこに着くというのが目的の船ではないというのを実感しましたね。僕らの目的は船の上でどういう時間を過ごして、海から空から風から何を学ぶかというのが目的だったんだなぁというのをすごく感じました」

●現代人が本当に求めているのはそういうところなのかなぁという気がします。便利よりはストレスのないところっていう。

「まず1つには、葦船の旅っていうのは運ばれるというか、自分のエゴがあまり通用しないんですよ。だからといって全く通用しないわけじゃなくて、少しは通用するんですけどね。で、その中で僕らは何を学んでいくかというと、今、どこから風が吹いているのかとか、どこからうねりが来ているからこう対応しなくちゃとか、どっちかというと受け身の態勢になりますよね。それともう1つは、考えるということがあまり必要じゃなくなってきますので、感じるという感覚がどんどん研ぎ澄まされていきます。それが僕らが実感する海との一体感なのかなぁと思いますね。知らず知らずのうちに、今どこから風が吹いているのかとか、どこに向かっているのかというのが感覚で分かってくるようになり始めるんですよ。僕なんかはまだまだなんですけど、その延長上にもっと感じることが出来たら、今どういう状態に流れているから、自分はこういう対応をしようというのが分かってくると思うんです。これは船だけじゃなくて社会の流れもそうかもしれないですけど、社会の流れというのを敏感に感じ取って、それに対処していくっていうのがいいのかなと思いますね」

葦船はタイムマシーン!?

石川仁さん

●石川さんは葦船の学校もやっていらっしゃるじゃないですか。子供達の反応というのはどうですか?

「そりゃもうビックリしますよ。出だしの時は、稲刈りの時にもみが束になっているじゃないですか。あれの大きなものがゴロゴロ転がっているだけで、『本当にこんなんで船が出来るの?』『本当にこれが浮かぶの?』っていうところから入っていくんです。それが束になってきて、大きな束が出来上がります。それを絞り上げて2つくっつけて、前後を上げると三日月みたいな形になっていくんですけど、その形が出来始めるころから『船』というイメージが出来るんですよね。その瞬間にただの草だったのが船という新しい命に変わる瞬間でもあるんですけど、誰もがそこで『あっ、船だ』という感覚を覚えるんですよね。感動でもありますよね。で、実際に仕上がってそれを水に浮かべたとき、人間でいうと出産にあたるんですけど、水に浮かべて船に乗って、みんなで作る1つの命というか、それだけに感動もありますよね」

●前回、「カムナ葦船プロジェクト」を作られた目的の1つに、『葦船で太平洋横断というのもあるけど、水をキレイにする植物で造った船ということで、みんなで造って遊びながら水環境を考える機会になればいいな』とおっしゃっていましたよね。

「はい。実際には水を浄化するというものがあるんですけど、子供達に言ってもあまり実感がないみたいなんですよね。伝えることは伝えるんですけど、最近僕は『そういう説明はもうしなくていいかな』と思っているんですよ。ただ、河原に行ってゴミが落ちている状態を見たり、自然に触れて、人それぞれが何かを感じていくわけじゃないですか。その感じるものにこちら側が『こういうふうに感じなさい』って言うこと自体がちょっとややこしいのかなと思って、最近は造る中でみんなが古い知恵に触れるわけですから、自分の中に眠っている先人の知恵が目覚めていくっていう感じになればいいなぁって思っているんですけどね」

●明日は海の日です!

「いい日ですよねぇ。すごくいい祭日だと思うなぁ」

●石川さんにとっての葦船の魅力というのを改めて聞かせていただけますか?

「自然とともに生きてきた先人達の知恵が詰まった知恵袋みたいな感じですね。その知恵袋に触れることによって、今、僕らが直面している自然とともにあるという感覚。頭でとか言葉でというのではなくて、石1つと木と草と動物達とその隣にいる人間となんら変わりなく接することが出来る感覚を持てる、そういうキッカケを作るタイムマシーンのようなものだと思いますね。それが葦船だと僕は思っています」

●海の日を前に、そんなタイムマシーンに乗って太平洋横断にチャレンジする意気込みを聞かせてください。

「やりますよー!」

●予定はもう立っているんですか?

「やる気は出たんですけど、今回のプロジェクト、高知から伊豆七島までの航海で改良点とか改善点がたくさん出て来たんですね。実際に今回やってみて太平洋を横断するっていうのはすごく大変なことなんだというのを改めて感じましたね。本当だったら2年後くらいに出せたらいいなと思っていたんですが、やはりもっともっと足りない部分もありますし、改善してまた一からやりますので、いつというのはお答えできないですけど、必ず渡ります」

●その時は是非、私達もお見送りに行きたいと思います。その前に色々と航海に行かれるんですよね。

「そうですね。今回第1次航海ということだったんですけど、先ほど言ったように浮力とか強度をもう一度確かめたり、クルーの訓練もしたいと思いますので、また太平洋横断の前にいくつか造ると思います」

●葦船学校も頑張って下さいね。

「はい。今回も実際に船を造るという段階だけで、300人くらいの方が携わってくれたんですね。でもそれ以外にも応援してくださった方が本当にたくさんいらっしゃいますので、つくづくみんなで造ってみんなの夢をのせて動く船なんだなぁというのを改めて感じましたね」

●今から太平洋横断を楽しみにしています。今日はどうもありがとうございました。

■このほかの石川仁さんのインタビューもご覧ください。

このページのトップへ

■「カムナ葦船プロジェクト」代表、冒険家の「石川 仁」さん情報

 「カムナ号」という名が付けられた、葦船(葦を編んで作られた船)で今年5月8日に、高知県の土佐清水港を出港し、風と海流だけを頼りに、13日後の5月20日、伊豆七島 神津島に到着。およそ1,000キロの航海を成し遂げた。
 そんな航海の模様は月刊誌「一個人」の8月号に掲載。
 また、「カムナ号」は、8月上旬まで「大島」に停泊中だということなので、この夏、大島に行く予定のある方はぜひ見てきて下さい。

葦船学校
 “葦船を自分たちの手で作り、乗ってみる”をテーマに開催。葦船を通じて、海や川、湖など、水の大切さを感じながら、自然の中で学ぶ楽しさも合わせて感じて欲しいという思いで行なわれている体験教室。
 今年は首都圏では、8月11日(木)~12日(金)に東京都足立区のがけ川で開校。このほか8月中旬に横浜、9月中旬に千葉県市川で開校予定。

  • 問い合わせ:カムナ葦船プロジェクト高知事務所
このページのトップへ

オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. COME SAIL AWAY / STYX

M2. SAIL ON / COMMODORES

M3. LET IT GO, LET IT FLOW / DAVE MASON

油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M4. THE ONLY ONE / BRYAN ADAMS

M5. ROCK ME ON THE WATER / JACKSON BROWNE

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

M6. I LOVE TO PLAY OUTSIDE / GLENN CAMPBELL

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
このページのトップへ

新着情報へ  今週のゲストトークへ  今までのゲストトーク・リストへ  イベント情報へ
今後の放送予定へ  地球の雑学へ  リンク集へ  ジジクリ写真館へ 

番組へのご意見・ご感想をメールでお寄せください。お待ちしています。

Copyright © UNITED PROJECTS LTD. All Rights Reserved.
photos Copyright © 1992-2005 Kenji Kurihara All Rights Reserved.