2005年8月21日

動物学者・今泉忠明さんの「行き場を失った動物達」

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは今泉忠明さんです。
今泉忠明さん

 動物関連の本をたくさん出版されている動物学者「今泉忠明」さんがゲストです。「今泉」さんの新刊「行き場を失った動物たち」にはトラブルを起こす“困った”動物たちの実話が満載。非常に考えさせられる内容になっています。確かに去年はツキノワグマの出没が大変話題に、そして問題になりましたが、そんな動物たちが起こしたトラブルを検証しながら、その原因はなんだったのかを考えます。

5歳の子がクマを撃退!?

行き場を失った動物たち

●今泉先生は本当にたくさんの動物関係の本を書かれていらっしゃいますけど、先頃、東京堂出版から「行き場を失った動物たち」という本を出されました。表紙には柿の木の前に立っているツキノワグマが描かれています。この本は人間にとって害があるとか、人間とトラブルを起こしてしまう、困った動物達のことについて書いてあるんですよね。

「はい。人間側から見ていろいろな“困った”が去年から一昨年にかけてありましたね。例えばニホンザルが、山から下りてきて売店のお菓子を盗んでいくとか、クマが家に上がり込んできて冷蔵庫を開けて野菜を食べていたとか、イノシシが畑に出て全部きれいに食べちゃうとか、そういった人間側から見て『あー、困ったなぁ』という話ですね。
 例えば、陸では哺乳類、クマ、イノシシ、サル、鳥もカラスなどが問題になっていましたね。小鳥も一匹一匹は小さいんですけど、何千羽という単位で集団をなしますと大きな動物と同じですからね。これがねぐらをビルの上や街路樹につくります。そこで糞をするわけですね。そうすると下を歩いている人はたまらないというわけです。そういう鳥の害もありました。それから爬虫類は大きなワニガメ(カミツキガメ)ですね。これはペットを捨てた問題です。ですからこれは動物自身は責任がないんですね。それから動物のうちの80パーセント以上が昆虫ですから、事件の80パーセント以上もおそらく昆虫だろうとなってしまいますので、ここでは触れていないんですけどね」

●大きなクマなんかはちょっと触れただけでも人間にとっては大きな被害になってしまうので、射殺されちゃったりとか、一番標的になりやすいですよね。

「危険だからいないほうがいいとかね。それはいろいろな理由があるんですけど、動物の言い分も誰か言ってあげなくちゃいけないと思うんです」

●それは今泉先生しかいないでしょう!(笑)

「(笑)。いろいろ調べたら、どっちもどっちっていうか、人間ももう少し譲ってあげろよって思うところもあるし、色々と原因があるんですね」

●クマの問題がすごくニュースになったときによく言われていたのが、子グマ達が母親に連れられて里のほうに降りてきて、そこをえさ場として人にも慣れてしまったから、その子たちが大きくなって人間を怖がらない、そこに行けば楽に餌が食べられるっていうことで、どんどん悪循環が起きて、去年あたりから大きくなってきた二世たちが里に降りてきているのではないかっていうことなんです。

「そうですね。例えば、カナダのハドソン湾のところにチャーチルっていう街がありまして、そこのゴミ捨て場にホッキョクグマが居着いちゃったんですね。それもやはり二世なんですね。ちゃんと親から教わってきてるんですね」

●それは他の動物達もいえることなんですか?

「はい。ニホンザルの場合もそうだと思います。ですから最初に食べ物を与えて呼んだりした人。そこに根本があるんですね。そこからこの悪循環が始まっていくわけですね」

●そういうのが理由で動物達が人間にとっての困った生き物になってしまっているんですね。

「そうですね。ただ人間側が対処法を同時に学んでいけばいいんですけどね。(食べ物を)あげるだけで『あとは知らない』だから今のような問題になっているんですよね。
 クマが出るとみんな『うわーっ!』って言って逃げるんです。だから追っかけてくるんです。犬もそうですよね。子供が騒いでいてそこへ犬が行って、『面白そうだなー』て近づいていくと、子供が犬にビックリして走りますよね。そうすると、(本能的に)走るものは追いかけますから・・・」

●逃げるものは追いたくなるんですよね(笑)。人間もそうですもんね(笑)。

「よくありますね(笑)。それで捕まえようという意志で軽く咬むと、牙が生えているからそれが痛いんですよ。すると、『咬まれた』っていうことになるんですね。ですから、対処する側の人間の教育というのも餌やりと同時にやらないと、変な方向に行ってしまうということですね。ですから、アメリカに行ってキャンプ場にクマが出てきますね。すると夜、『BEAR ! BEAR ! 』って騒いでいるんですよ。何を言っているのかなと思ってテントから顔を出したら、そこに熊がいたんですよ。真っ暗闇に黒いクマが。で、慌ててチャックを閉めたんですけど、人間っていうのは布1枚あれば大丈夫だという心理が働くんですよ(笑)」

●見えていなければ大丈夫っていう(笑)。

「そうそう(笑)。ところが、カメラを出して(写真を)撮ろうと思って出ていったらもういなかったんですね。それで探していたら、向こうのテントにおじいちゃんと5歳くらいの子供がテントを張っていたんですね。そしたら子供が出てきてクマをけっ飛ばしたんですよ」

●クマを!?

「はい。『あっちに行け!』って。そしたらクマが逃げていったんです。だから態度っていうか、気迫っていうんですかね。クマにも悪いことをやっているんだという意識が少しはあるんでしょうけどね。怖いという意識。そこへ小さな子供が来て英語で『コラッ!』とか何とか言って蹴っただけで行っちゃったんです。痛いからとかじゃなくて気合ですね」

クジラの大量漂着の原因とは?

●直接的に人間の生活に関わってくる困ったちゃんたち。クマやサルのお話もありましたけど、樹木などを荒らしてしまうっていうシカの問題っていうのもここ何年かはありますが、これはどうなんですか?

「これは増え過ぎということですね。これはいろいろな学者の方が天敵がいなくなったからだとおっしゃっているんですね。例えばニホンオオカミがいなくなったから、駆除をする生き物がいなくて増えているんだと。それは確かにそうなんですね。ただ、それをどうするかっていうところでいろいろな問題が起こっていますね。射殺するのか、尾瀬のような特別自然保護区へ入ったシカをどうするのかとか、そういう問題がいろいろ起こっているんです。ただ、天敵のオオカミは絶滅しちゃってますからね。駆除していくしかないのかもしれませんね。
 ただ、駆除をする時に、例えば県の鳥獣保護課とかそういったところの人がやるべきですよね。ハンターじゃなくて。そうすると、適正な数をとってその標本は博物館にいれるとか、そういうちゃんとした流れをつくればいいでしょうね。缶詰めにして売ったりすると、肉はいいでしょうけど、ニホンカモシカが一時期絶滅しそうになったときに、やはり密猟が出てくるんですね。毛皮がいいとか、角がいいとかいうと必ず密猟っていう問題が出てくるんですね」

●駆除をするだけではかわいそうだし勿体ないので、お肉などとして利用しようという発想はあまりよくないということなんですね。

「そうですね。家畜と違いましてそんなにずっといるわけじゃありませんからね。ですから駆除といっても、きちんとした国なり県なり市の係官がやるべきでしょうね。そうすればたくさん捕ろうとは思わないわけですよ、仕事の場合は。で、立派なやつを捕らないんですね。ハンターは遺伝子的に角の立派なやつを狙います。でも、係官がやれば頭数を捕る。そうすると一番捕りやすいやつを捕りますから、オオカミが獲物を捕るときと同じように一番弱いやつ、病気をしているやつ、怪我をしているやつとか、そういうのと似た状況になるかなと思います」

●直接的に人間がどうこうしたわけではないのに、困った結果になっているのが、つい最近あったクジラ問題。

「マッコウクジラですね」

●私も先生の本を読んでいて初めて知ったのが、座礁と漂着の違いがあって、生きているものが陸に来ちゃうと座礁になり、それが死んでいる場合は漂着になり、死んだ状態でそのまま浜辺に打ち上げられたものを、そのまま海に戻してしまうとゴミになってしまうっていう区別なんです。だからって食べてもいけないって非常に困りますよね。

「そうですね。昔から座礁っていうのはたまにはあって、海からの恵みものっていって村をあげて解体してみんなで食べていたわけですよね。土佐の方とか和歌山とか。で、今はそれに法律をかぶせますから、そういう問題が出てくるんですね。だからクジラにとって、最近多いんですけど、座礁の原因ですよね。それを意識的に捕るんじゃなくて、向こうから来たものは食べたりするのはいいでしょうけど、ただし、売るとなると食肉の問題が出てきて、寄生虫とか病気の問題が出てきますよね。ですから更に複雑ですよね。で、クジラは海から陸へは行きたくないんだけど、何かが海で起こっているんですよね。だから座礁や漂着が増えているんでしょうね。たまに1匹づつくらいは座礁することがあったんです。ところが、ドーンと一気に座礁するということは海に何かが起こっているんじゃないかという気がして不気味なんですね」

●先生はこの原因はなんだとお考えですか?

「これが分からないんですよ。いろいろな専門の学者が調べていても分からないんですけど、インターネットで見ていると、潜水艦を探索するためのソナーという強力な音を潜水艦が出すんですね。クジラはそのソナーを鼻の奥で感知するんですね。そこが破壊されるっていうんですね」

●方向がわからなくなっちゃうんですね。

「そうです。という説を軍の人も言っているという記事が書いてあって、確かにそういうことはありうるなと思いましたね」

●海からの恵みが海からの警告に変わってしまっているんですね。

「そうですね」

バッファー・ゾーンとは?

●本の中でツキノワグマのお話をされているときに、バッファー・ゾーンという言葉が出てくるんですけど、これを説明していただけますか?

「バッファー・ゾーンというのは、自然の森と人間が住んでいる畑の端っこの間の緩衝地帯(かんしょうちたい)をいいます。ここは人間も入り込むし、動物も来るという緩衝地帯を広めにつくるということですね」

●いわゆる里山ということですか?

「そうですね。里山をバッファー・ゾーンとしている人もいますね。ただ、純粋な山のへりをバッファー・ゾーンとしてもいいわけですね。里山までは人間の領分ということにしてもいいわけですね」

●そういう場所がもっと増えれば、人間と動物、両者にとっていい方向に向かうわけなんですね。

「そうです。ただ、みんな里山でクマと遭遇しているんですよね(笑)」

●先生、話の落とし所がなくなってしまったんですが・・・(笑)。

「人間が里山でクマと出会っちゃってビックリするわけです。だから、クマがいるんだという覚悟をして、自分で意識して山に入っていくことですね。山菜採り、キノコ狩り、そういうときは山、動物の領分に入っていくんだから、『出会ってもビックリしないぞ!』と思わないとね(笑)。それでできるだけ音をたてながら歩くとか、みなさん鈴をつけますよね。先にこっちの存在を知ってもらうわけですよね。ですから、そういう『つもり』が欠けると、出会ったときにビックリするわけですね」

●しょせん人間ですから、エゴもあれば、自分達が生きていくうえで必要な部分として、山を削らなきゃいけない状況もあるしっていうのが、ここまで来てこれだけの動物達が行き場をなくして、人間にとっても困った状況になってしまっているわけですよね。日本の雑木林もスギならスギばかりを植えているから荒れ放題だし、そこに息づく動物達もいなくなるしっていうのが現状ですよね。

「環境的な多様性を失うんですね。最初はいいんです。誰も住まないから。だけど、何年間かすると必ずそこに住みつく動物が現れるんです。最初は昆虫ですけどね。そうすると、そこは他の生物が来ないから入り込んだ動物にとってはすごくいい場所なんですよ。成功すればですけどね。すると一気に増えるわけです。そういうものは大体、人間が害獣と呼んでいる動物なんですね。害虫、害獣ですね」

●立場を変えてみると人間も同じですよね。住みやすいところにみんながガーッと集まって、大氾濫してしまうっていう(笑)。

日本は哺乳類のガラパゴス

●先生の本の最後の方に書いてあったんですが、今年の2月、世界最大規模の環境保護団体「コンサベーション・インターナショナル」が色々と協議をした結果、希少な生物種が多い一方で破壊の危機が大きく、保護が急務とされる世界の34地域というものを選び出した中に、日本も入っているそうですね。

「はい。つまり日本の動物が貴重だということを認めたっていうことなんですけどね。歴史的に日本列島っていうのはたまたま、哺乳類が繁栄し始めた時代に島になったんです。ですから、島に古い哺乳類が残っているんですね。で、南ほど古いんです。琉球列島、南西諸島ですね。あそこにはイリオモテヤマネコ、アマミノクロウサギ、鳥ではヤンバルクイナ、ノグチゲラとかね。それからケナガネズミ、トゲネズミという古い生物が南西諸島に残っているんですね。大陸と離れた時期が一番古いんですね。で、次が本州、四国、九州の本土地区で、そこがタヌキとかニホンザルとか。ニホンザルは世界で日本しかいないですからね。貴重なんですよね。害獣とはいえね(笑)。そういった哺乳類がいて、北海道が一番新しいんですね。ここは氷河時代に繋がっていただろう、化石がでているのでマンモスも来ていただろうといわれているんですね。それで、ナキウサギとかシベリアのほうと同じような動物がいるわけですね。島になっていると、新しい強い種類っていうのは入ってきませんから、そこに保存されるわけですね。ですから、それが非常に多いということになっているんです。哺乳類は日本に110種類くらいいますけど、そのうちの半分の50%ちょっとが日本にしかいない動物です。ユーラシア大陸の東に日本がありますけど、西にあるイギリスと比べると固有種っていうのはイギリスはゼロ。全部、大陸と同じなんです。で、日本は50パーセント」

●すごいじゃないですか!

「はい」

●誇っていいですよね。

「そうです。哺乳類の中のガラパゴスみたいなものです」

●それを困ったやつらだといって駆除しようとしている私達は考え直さなきゃいけませんね。

「そうですよ。勿体ないですよ」

●でも、そうはいえこういう状況になってしましました。しかも温暖化が進んで、さらに今まで考えられなかったようなウィルスとか病とかも出てきているじゃないですか。人間達も行き場がなくなったような気がするんですけど(笑)、どうすればいいのでしょうか?

「(笑)。日本人はこれから減っていくんでしょうけど、減っていく前に『ちょっとまずいかな』っていうのはありますよね。ですから、これからせっせと森をつくるしかないですね。つまり日本にいる固有種というのは大体、森に住んでいる動物なんですね。ですから、森をきちんとつくって引き取っていただくと。で、動物に会いたい人は山に行くと。そういうふうに住み場をきっちり分けなくちゃいけないでしょうね。これは、世界的にもそういう傾向がありますよね。人間の住んでいる場所と動物の棲んでいる場所を分けるという方向ですね」

●CO2問題という意味でも効果がありますよね。

「森は温暖化問題にも起用します。ですから、長い間かかって森を切ってきたわけですから、きっとそれ以上の年月が必要なんだと思いますけど、森を作り直すしかないでしょうね」

●それも多様な森ですよね。

「そうです。スギだけじゃなくてね」

●そんな森が完全に森として動物たちの棲みやすい場所になるまで、しばらくは人間にとっても動物達にとっても困った状況っていうのはなくならないんですね。

「続きますね。だからその前に絶滅させちゃいけないんです。クマの場合、お仕置き放獣(ほうじゅう)というのをやっていますね。唐辛子をふっかけたりして、放しているんですけど、ああいうのももうちょっと考えて、唐辛子をぶっかけるだけじゃなくて、街で捕まったわけですから、街に何しに来たかというと、食べに来たわけですね。だから、食べるものがないということを教えるためにギリギリまで飢餓状態にさせるんです。それで、腹が減って腹が減ってというところで放すんです。そうするとあそこに行っても何もないから二度と来ないだろうし、子供達にも『行っちゃダメだよ』って言うかもしれない(笑)」

●それはハトなんかでも餌をやらないことによって、数が減るといったのと同じように、知恵を絞りながらうまく相手の生態を知って共存していくしかないですよね。まだまだ困った状況は続くと思いますけど、この本にもいろいろな生態などが書かれているので、ちょっとでも動物の立場になって状況を考えられるキッカケになればと思います。今日はどうもありがとうございました。


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■動物学者「今泉忠明」さん情報

新刊『行き場を失った動物たち』
東京堂出版/定価2,100円
 クマやサル、クジラなど、動物たちが起こした事件を「食害」「糞害」「傷害」など、項目ごとに分けて掲載。人間と動物とのトラブルや事件の数々を簡潔にまとめ、動物たちの立場から考えるきっかけを与えてくれる1冊。

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. NATURAL ANIMAL / ECHOBELLY

M2. RUNAWAY RUN / HANSON

M3. THE SIGN / ACE OF BASE

油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

M4. THE ANIMAL SONG / SAVAGE GARDEN

M5. YOU'RE ONLY HUMAN / BILLY JOEL

M6. BOTH SIDES NOW / JUDY COLLINS

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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