2005年12月25日

東儀秀樹さんの「雅楽と宇宙」

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは東儀秀樹さんです。
東儀秀樹さん

 日本の宮廷音楽「雅楽(ががく)」の演奏家「東儀秀樹」さんをお迎えします。雅楽を持ち味に幅広い音楽活動をされている「東儀」さんに宇宙を表現しているという雅楽の楽器のことや、「東儀」さんが手掛けたプラネタリウムの音楽のことなどうかがいます。

雅楽は宇宙を作る感覚

●早速ですが月並みなところから聞いていきたいと思いますが、雅楽とはなんですか?

「漠然とした質問ですね(笑)。1400年くらい前の奈良時代とか飛鳥時代に、日本に大陸からもたらされた思想や学問の中にもちろん、音楽もあって、仏教思想といっしょに入ってきたものが、平安時代にわたるまでに色々な日本化がされて、整理整頓されて結局、平安時代の中期に完成して、それが今でも全く同じく続いている音楽です」

●日本に入ってきたころから考えると、日本風にアレンジはされているんですか?

「ええ。アレンジされています」

●楽器もすごく特殊ですよね?

「はい。全体図を見ると、西洋オーケストラと同じように管楽器、弦楽器、打楽器で構成されているんだけど、ひとつひとつの種類が珍しくて、メインである管楽器は笙(しょう)、篳篥(ひちりき)、龍笛(りゅうてき)という三つの種類です。それから弦楽器としては琵琶と琴。打楽器は何種類かあるっていう感じですね」

●東儀さんの音楽活動を通して、篳篥や笙といった楽器の音色とか、音楽を初めて知った方もいらっしゃると思うんですけど、それ以外だと雅楽のイメージっていうのは、神社とか仏閣で流れている印象がありますよね。

「そうですね。今でもまだまだ神社の音楽とか神前結婚では必ず流れて来るというイメージの方が強いかも知れませんね。でも、それとは別に平安時代の貴族達が普通に楽しむための部分でもあったわけだから、儀式用っていう専門ではないんですね。だから僕なんかはもっともっと、クラシックやロックやジャズと同じ感覚で雅楽っていうカテゴリーも楽しみとしてあったらいいのではないかと思っています」

●私たちがブルーノートやイクスピアリでディナーを食べながら、ワインの中に雅楽があってもいいんじゃないかということですよね。

「そうですね。古典的な雅楽の演奏だと、食べ物を食べながらというのとはちょっと違うんですけど、そういうエッセンスで身近にすることはできると思います」

●雅楽で用いられる楽器は主に笙や篳篥や龍笛。これらが意味するものがあるとうかがったんですけど、その意味を教えていただけますか?

「まず笙っていう楽器は和音を奏でることが出来るんです。今、音を出してみましょうか?」

左が「篳篥(ひちりき)」
右が「笙(しょう)」
篳篥と笙

●はい!

(笙を奏でる東儀さん)

「こういう音がするんです。この音色は昔の人たちは『天から差し込んでくる光を表した』というふうに伝えられています」

●まさに「エンジェル・ラダー」という雰囲気がありますね。

「そうですね。今、こうやって飛鳥時代のまま音色も形も変わらず日本に残されているんだけど、これがシルクロードの西の方に亙って近代近くになって、パイプオルガンに姿を変えるというルーツになっているんですよ」

●大きな教会にあるパイプオルガンの鉄の部分を丸めると、笙の形になるかしら。

「小さくして束ねて、持てるくらいの大きさにしたものって感じですね。で、もうひとつの特徴的なものが篳篥で、これは僕がいつもメインに使っている楽器なんですけど、18センチくらいの短い竹の縦笛で、口元に蘆で作ったリードを差し込みます。ちょっと音色を聴いて下さい」

(篳篥を奏でる東儀さん)

「という感じですね」

●太い音がするんですね。

「そうなんです! この直系1センチくらいの竹と18センチくらいの長さっていうと、ものすごく甲高い音をみなさん想像されるんですけど、実際吹くとこういう野太い音が出せるんです。これは大きなリードのおかげだとは思うんですけど、人間の男性が楽に声を出すことが出来る音域と一致していて、直線的でない揺らぎの動きも出来るっていうことで、昔の人達はこれを『人間の声』を表していると考えていたようです。つまり、地上の音という感じですね。で、先ほどの笙が天、篳篥が地の音で、もうひとつ、龍笛っていう横笛は龍の鳴き声を表しているんですよ。つまり、天と地の間を泳ぐ龍ですから、空間の部分。雅楽っていうのは、笙、篳篥、龍笛をまず合奏させるというのが基本的な形なんですね。合奏することがそのまま天と地と空を合わせるっていうことで、宇宙空間を作るという感覚があったらしいですね」

雅楽と星空

●現在、サンシャイン スターライトドーム“満天”というプラネタリウムで、「東儀秀樹 宇宙を奏でる」という番組が上映されているんですけど、これが来年の3月まで上映されているんですが、プラネタリウムですから、投影された星とかオーロラとかに東儀さんの音楽がフィーチャーされているというものなんですよね。

「そうです。音楽だけじゃなくて、僕の語りとか、星に対する思いとか、ちょっとした星の説明とかを僕の言葉で流しています。僕は小学校の頃から星を眺めるのが大好きで、今でも好きなんですけど、そういう思いがそのままリアルな感情も混ぜて、星に対しての語りをさせてもらうことが出来たから、凄く満足感を自分でも味わっています」

●「この星空にはこれ!」とかって考えていらっしゃると思うんですけど、音楽としてはどうですか?

「自分のオリジナル曲をピックアップするのにも迷いました。というのは、星空が好きで、ダイレクトではなくても星の影響を受けている人間が作った曲だから、なんとなく影響下にあると思うんですよ。だから、どれもマッチングがとてもいい気がしてきて、アップ・テンポの曲にしてもゆったりとしたバラードにしても、星と一緒に重ねあせると、どれも自分なりにシックリきちゃって、選ぶのに凄く苦労しましたね。その中でも厳選してテンポのあるものとかバラードとかを配分させながら、うまくやっとの思いでまとめることが出来ました」

●冬は星空がキレイな時季でもありますから、そのなかでなにかお話はありますか?

「冬だけのことじゃないんですけど、星って今、輝いているものは何年も昔に光った光を今、人間が見ている。で、例えば僕の年に近い光、つまり40数年前に光った星が今届いているっていう星を紹介してみたりとか。オリオン座の一番光っている星は何年前の光なんですよということを、宇宙の規模の距離感とか時間とかって大きさをそういうことで感じてもらう演出もしています」

美しい芸術は動物をも魅了する

●東儀さんは雅楽の家にお生まれになったわけですが、そんな中で日本の美とか、わびさびとか雅というものを意識されることって多いですか?

「特に意識はしていないけれど、自然と心の中に存在していたというのが一番いいあり方だと思いますね。でも、人に聞かれたときに、初めて言葉として伝えると『あ、自分ってこういう意識だったんだな』ていうのを気が付く、言葉にして気が付きますね。もしも、自分の中に入っていなければ言葉にもならないと思うので、証明が出来るっていうのはそういう時なんだけど、例えば、日本に生まれたっていうのは、その前に日本という国がここに存在しているっていうことから僕は感じちゃうんだけど、っていうのは、四季がある。夏が暑くて冬寒い。そこに生まれ育った人っていうのはそういうものを肌で感じている。で、そこで生まれた音楽とか、そこで見る景色。秋になれば紅葉を楽しめる。冬は白いとか、そういうことが結局、その国ならではの個性ある美学を産んでいるんだと思うんですよ。僕らの場合は、幼少期を海外で過ごしていたっていうのがあるから、それを外から観察することも出来たし、『外国人が思う日本』っていうのも語りあうことが出来たし、誤解がそこにあることも知ったしという意味では、もしかしたら普通の人よりも色々な意味で日本を感じて、日本の音楽を背負っている家に生まれたっていう。なのに、外国にも住んでいたっていう、全て多角的に多面的にさせる環境を、望む望まないに関係なく、縁があったっていうのは自分にとってものすごく大切なことでしたね」

●お正月なんかは着物を着ると気持ちが引き締まるじゃないですか。帯をキュッと絞めるとクッとなる感覚。例えば、篳篥を吹かれるときとか、平安時代の貴族の格好をされるじゃないですか。

「はい。狩衣(かりぎぬ)といいます」

●狩衣を着ているときと、洋服を着ているときの気持ちの違いとかってあるんですか?

「宮内庁の職員だった頃や、デビューして間もなかった頃は、狩衣を着た時にはやはり『気が引き締まります』ってことを言い続けていた記憶があります。でも結局、最近は狩衣だからってこともあまり関係なくなってきているなぁと思うんですよ。もちろん古典を演奏するときには狩衣を着て演奏をしたいし、そうしているんだけども、結構着る前から古典を演奏しようと思った瞬間に僕の背筋は伸びているような気がするし、狩衣を着たから背筋を伸ばさなきゃじゃなくて、もうそれをしようと思ったときには、狩衣に向いた気持ち、肉体になっているような気が最近はしますね。もちろんそこには無理はないんですよ。洋服着たり、バイクにまたがって帰ったりするときには、また全然違う自分を凄くラフに楽しんでいるんですよね。だから、『ここからスイッチを入れ替えなきゃ』っていう作業がなくなりつつありますね。僕にとってものすごく、どれも自然なことで、いつの間にかそのモードに体がなっているという感じですね」

●ある時、東儀さんが笙を奏でていたら、動物達が寄ってきたそうですね。

「そうなんですよ。動物っていうのは純粋な生き物であって、人間のように妙な欲を持っていないということは確実に分かっています。人間でいう赤ちゃんみたいな状態なので、耳を傾けて気にしてくれたってことがものすごく僕にとっては嬉しい事であったんですよ。
 フランスの農場で笙を吹いていたら、景色がきれいだから吹いてみようと思って吹いてみただけなんだけど、気が付いたら何十匹の牛が集まってきて、僕の5メートルくらい近くに来てピタッと止まって、偶然来たのかなって思っていたんだけど、笙を吹き終えたらみんな一斉に背中を向けて帰っていったんですよ。動物って嫌だったら威嚇をするだろうし逃げていくのに、わざわざそこに来てたたずんでいたっていうことは、嫌じゃなかったんだなって思ったんです。音楽を奏でていた間だけそこにいた。つまり音楽を聴いていたんだって僕が勝手に証明しているんです。だから、音楽は人間だけのものだ、芸術は人間だけのものだっていうのは、もしかしたら人間のおこがましい考え方なのかも知れないっていうことを感じる瞬間でもありましたね」

●他の動物達でもそういうことってあったんですか?

「ハワイの沖で船の舳先にまたがって篳篥を吹いていたら、30匹くらいのイルカが集まってきて、船と同じ速度でずーっとで泳いでくれて、面白いからって笙に持ち替えてみたら、泳ぎ方がちょっと変わったような気がして、音楽でコミュニケーションがとれているんだろうなぁっていう実感で凄く熱くなりましたね」

上海の兄弟達とのユニット「TOGI + BAO」

「春色彩華」

●幅広い音楽活動の一部として、上海の若手一流ミュージシャン達とTOGI + BAOというユニットを結成されたそうですね。

「はい。実際に雅楽に身を寄せていると、色々な世界の民族楽器に対する夢みたいなものとか可能性を知るのが常だったんですね。で、実際、雅楽の楽器っていうのは大昔に大陸から亙ってきました。シルクロードとすごく関わりがある。だったら今、1000年以上たって、日本の楽器と中国大陸の楽器が仲良く融合するっていうのも、兄弟が再会しているような気持ちで楽しく出来るだろうなぁって思ったんですね。で、実際にそれを形にするのに、テクニックがちゃんとしていないと、どんなに簡単な音楽も深いテクニックがないといい表現が出来ないことを知っているから、実際に上海民族楽団というところに行って、オーディションをしたんです。で、その中で6人選ぶことが出来ました。琵琶であったり、二胡であったり、横笛であったり、これがまた選ぶ基準は厳しかったんですけど、まず、絶対的なテクニックがあること。それだけじゃなくて、コラボレーションの時に僕がいつも大切にしていることなんだけど、人間的に気が合いそうだっていうところですね。どんなに(演奏が)上手くても『この人ちょっと合わないな』っていうんだったら選ばないですね。で、一緒にこれから音楽活動をしていくうえで、同じものに向かって同じだけワクワクしてくれる人たち。そして、新しいチャレンジをするんだけど、僕と同じように古典も凄く大事にできる。古典も絶対に非の打ち所のないことが出来る人っていう基準で選びました。それで今のTOGI + BAOが出来ました」

●このユニットはこれからもずっと活動を続けていくんですか?

「はい。ずっと続けていこうと思っています。僕は色々なことを並行してやるので、これに全てをっていうのではなくて、これをやりながら単発の古典もやれば、プラネタリウムの演奏もするしっていう感じで、色々なことをやっていきます」

●来年の1月5日からはコンサート・ツアーもスタートするそうですね。

「はい。これは東儀秀樹らしいコンサートなんですけど、TOGI + BAOとはまた別で、二部形式にしていまして、第1部が平安時代の古典の部。第2部が僕のオリジナルっていう構成なんです。今回はその平安時代にプラスして、さらに雅楽以前の芸能だった伎楽(ぎがく)っていう、もう絶えちゃったものなんですけど、そのエッセンスを少し取り入れて、雅楽よりももっと庶民的な芸能だといわれる部分を、ちょっと付け足した形で演出しています」

●コンサートも楽しみですが、ニュー・アルバムの御予定はありますか?

「来年の夏にまた上海の仲間のTOGI + BAOのツアーを予定しているんですけど、そのときに同時に、今年の夏にやったライヴのライヴ・アルバムを整理整頓して出そうかと思っています」

●これからも幅広い御活躍期待しています。コンサートにもうかがいたいと思います。今日はどうもありがとうございました。


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■日本の宮廷音楽「雅楽」の演奏家「東儀秀樹」さん情報

プラネタリウム番組『東儀秀樹 宇宙を奏でる』開催中!
 満天の星空と全編に流れる「東儀」さんの楽曲を、「東儀」さんのナビゲーションで楽しめるプログラム。

  • 開催期間:2006年3月12日(日)まで
  • 会場:サンシャイン スターライトドーム“満天”
       (池袋サンシャインシティ・ワールドインポートマート屋上)
  • 上映開始時間:毎日12時、14時、16時、18時(上映時間はおよそ40分)
  • 料金:大人800円、子ども500円
  • 問い合わせ:サンシャイン スターライトドーム“満天”

「東儀秀樹」さん新春コンサート2006~天平彩華
 2006年1月からコンサート・ツアーをスタートさせる「東儀」さん。東京での公演は下記の通りです。

  • 開催日時:2006年1月5日(木)~7日(土)いずれも午後7時開演
  • 会場:アートスフィア(天王洲アイル)
  • チケット代:S席7,500円、A席6,500円
  • 問い合わせ:アートスフィア チケットセンター
「風と光の軌跡~BEST OF TOGISM~」
「風と光の軌跡~BEST OF TOGISM~」
「春色彩華」
「春色彩華」
DVD「春色彩華+」
DVD「春色彩華+」

 尚、上記の情報などは「東儀秀樹」さんのホームページにも載っています。
 「東儀」さんのホームページには雅楽や楽器の説明はもちろん、「東儀」さんの色々な趣味を紹介しているページもあるので、ぜひご覧下さい。
「東儀秀樹」さんのHP:
http://www.toshiba-emi.co.jp/togi/index_j.htm

初のベスト・アルバム
「風と光の軌跡~BEST OF TOGISM~」

東芝EMI/TOCT-25270/3,000円
 2004年に発売された東儀さん初のベスト・アルバム。96年のデビュー以来、12枚のアルバムと4枚のシングルを発売している東儀さんの集大成。番組でもオンエアされた「三ツ星」、「Eternal Vision」、「ふるさと」のほか、大ヒット曲「New ASIA」も収録。

■ユニット「TOGI + BAO」

初のアルバム「春色彩華」
東芝EMI/TOCT-25585/3,000円
 東儀さん自らが上海に渡り、オーディションをして出会った才能溢れる若手ミュージシャン達とコラボレーションしたユニットがTOGI + BAO。東儀さんが「弟たち」と呼ぶ、二胡や琵琶を演奏するミュージシャン達と作り上げられたこのアルバムには、東儀さんの楽曲のセルフ・カヴァーやクラシック・ナンバーに加え、彼らに触発されて書き上げた新曲も収録。番組の最後にオンエアされた「新世界」も収録されています。

DVD作品「春色彩華+」
東芝EMI/TOBF-5388/3,500円
 TOGI + BAOの結成からメンバーの素顔まで彼らの魅力を余すことなく紹介した初の映像作品。東儀さん自らが語るBAOの魅力や、メンバーのインタビューやオフショット他、ライヴの映像も収録。さらに、初公開のBAOのオーディション映像も収録。

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. 星空につつまれて / 東儀秀樹

M2. 三ツ星 / 東儀秀樹

M3. ETERNAL VISION / 東儀秀樹

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M4. SUNSET / AZTEC CAMERA

M5. ふるさと / 東儀秀樹

M6. 新世界 / TOGI + BAO

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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