2006年1月1日
スローライフの仕掛け人、辻信一さんの2006年の生き方今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは辻信一さんです。
新年初のゲストは、明治学院大学の教授で、環境・文化NGO「ナマケモノ倶楽部」の世話人「辻信一」さんです。「辻」さんは1999年に仲間とともに「ナマケモノ倶楽部」を設立、スローライフの提案や実践などを行ない、2001年には「スロー・イズ・ビューティフル」という本を出版、“スロー”をキーワードにした、いろいろな運動を行なっています。いわば、スロー・フード、スロー・ライフ、そして100万人のキャンドル・ナイトの仕掛け人といえる方です。
ポトリから始めよう●あけましておめでとうございます。本年も宜しくお願いいたします。 「よろしくどうぞ」 ●約半年前の去年の6月に出演していただいたときに、辻さんが一番力を入れてらっしゃるプロジェクトが「ハチドリ計画」だとうかがったんですが、まだ御存じない方のために、物語をある小学生の女の子が朗読しているので、聞いてみて下さい。 「森が燃えていました。
森の生きものたちはわれ先にと逃げていきました。
でもクリキンディという名のハチドリだけはいったりきたり。
くちばしで水のしずくを一滴ずつ運んでは、火の上に落としていきます。
動物たちがそれを見て『そんなことをしていったい何になるんだ』といって笑います。
クリキンディはこう答えました。
『私は、私にできることをしているだけ』」
●とてもかわいらしいですね。前回は辻さんに読んでいただいたこの物語なんですけど・・・。 「やっぱり小さい子が読むほうがいいですね。ハチドリって小さな鳥なんですよ。熱帯の森の中で宝石みたいにキラキラ光りながら飛ぶ小さな鳥です。その小さな鳥がしずくを運んでいくっていうね。改めて小さな子供が読むのを聞くといいですね」 ●実はこの物語がインスピレーションとなって、「ハチドリ計画」というものが出来たわけですけど、この「ハチドリ計画」というのを簡単におさらいしていただけますか? 「僕達が活動している南米エクアドルの先住民の友達から聞いた話なんです。私たちが生きている世界には大きな問題がたくさんある。だから時に、問題の大きさに圧倒されちゃって『あー、何をしても無駄だなぁ』とか『こんなことをして何になるんだろう』ってどうしても思ってしまう。そんなときにはこの話を思い出してねっていうメッセージをくれたんですよ。それが僕の中にずっと残っていたんだけど、最近みなさんも非常に懸念されていると思いますけど、地球温暖化を始めとして、巨大な環境危機がじわじわと我々の身の回りにやって来ていますよね。その中で、『何かしなくちゃいけない!』とは思うんだけど、『何をしても大した効果はなさそうだな』っていう時に、このハチドリの精神を僕達は思い出さなきゃいけないんじゃないかなと思うんです。それで色々なNGOに呼びかけまして、連携をとるネットワークとしてハチドリ計画というのを作ったわけです」 ●前回、お話をうかがったときは、この物語は『私にできること~地球の冷やしかた』という冊子の中のひとつだったんですけど、この度、光文社から1冊の本として発売されました。タイトルが『ハチドリのひとしずく いま、私にできること』。先ほどに朗読していただいた物語が最初にあって、そのあとに色々な方達の「こういうことを実践している」というものが載っているんですけど、その中で後半に、私たちも地球を冷やすためのハチドリになるということで、こんなことができるという目安の「ポトリ」について書いてあります。その「ポトリ」についてもう一度御説明していただけますか? 「はい。16人の方々がそれぞれの持ち場でやってらっしゃることを聞いたうえで、さて、私に出来ることはなんだろうという、そのためのヒント集をズラズラと後ろに並べてみました。まず最初がポトリですね。ポトリっていうのは何かっていうと、水のしずくをハチドリが落とすでしょ。その『ポトリ!』って音なんです。だから、ちょうどハチドリがしずくを落としているように、僕達も燃えている森に水のしずくを落としていこうよっていうことで、こういうふうに計算してみるんですね。地球温暖化の原因になっているものは主に二酸化炭素(CO2)ですよね。だから、CO2を100グラム減らすごとにしずくがひとつポトリと落ちたと考えるわけですね。100グラムごとに1ポトリ。本にはどういうことをするとどんな効果があるというのが並んでいるわけです」 ●前回も色々と御紹介させていただいたんですけど、3キロ移動するのにタクシーの代わりに地下鉄を使うと、12ポトリ。 「すごいでしょ、これ」 ●大きいですよね。 「つまり1200グラム。これはもちろんタクシーに限らず、自家用車を必要のない、無駄なところではなるべく使わない。その代わりに歩くというふうにすればもっと凄い効果があるわけですよね」 ●もちろん色々なジャンルがあるわけですけど、食いしん坊の私としては、食べ物も非常に気になるんですけど・・・(笑)。 「(笑)。僕、いつも言うんですけど、食べ物が一番大事だと思っているんです。フード・マイレージっていう話が出てくるんですけど、例えば食べ物にはどんな食べ物にもちゃんと距離がついているわけです。その食べ物がここまでやってくるのに旅してきた距離があるわけです。だから、これからみなさんが食卓に向かうときに、食べ物ひとつひとつに札がついていて『何キロ』と考えるようにしてもらえたら嬉しいですね(笑)。日本は特にフード・マイレージが高いことで知られていて、世界でも断トツの1位なんですね。ということは、それだけすごいCO2を排出して、地球に非常に大きな負荷をかけているっていうことになっちゃうんですね」 ●この御本を見てみると、大きめのポトリで、アメリカ産のイチゴ5コで6.2ポトリ。 「そう。アメリカ産を国産のものに変えると、それだけで6.2ポトリ落とせるという意味なんですね。つまりCO2を620グラムも削減できる」 ●フード・マイレージが少なければ少ないほど、地元に近ければ近いほど、ポトリは減っていくということですよね? 「そうです。国産のもの、地元のもの、なるべく旬のものっていうふうにやっていくと、実はそっちの方が体にもいいし、新鮮でおいしいし、地球にもよいしっていうと悪いところがないわけですね」 ●一石、三、四鳥ぐらいになるわけですね。 2006年の合言葉は“LESS AND BETTER”●この本の中で私がもうひとつ気になったのが、これからの合言葉は“LESS AND BETTER”、「より少なく、よりよいものを」なんです。 「2006年の合言葉は“LESS AND BETTER”です。“LESS”っていうのは少ないの比較級で『より少なく』なんですね。“BETTER”っていうのは、“GOOD”の比較級でしょ。これが『よりよい』。より少ないことがよりいいこと。よりおいしいことっていうような意味になるわけですね。で、例えばどういうことかっていうと、地球に一番多く負荷を与えている食べ物の中に牛肉とか海老っていうものがあります。これは大量に牛肉を生産するために実は地球にものすごい負荷をかけているわけですね。で、実は大量生産をしようとすればするほど、どんどん質が落ちるわけです。薬品の投下も多くなりますしね。狭いところで牛を育てなければならないとか、異常なことが起こってくるわけですよね。鳥でも豚でも同じだと思います。だから、そういう肉を大量にっていうんじゃなくて、もっと少なくする。より少なくする。その代わりいいものを買おう。だって少なくした分のお金が浮くわけじゃないですか。その分、体にも良くて環境にもいいエコな商品を買っていく。そうすると、実は自分の体にも非常にいいですし、地球にも非常に優しい」 ●これは食ももちろんそうですけど、色々な意味でもこの“LESS AND BETTER”っていうのは通用しますよね。 「僕はそう思います。例えば、自分の家でも物をどんどん増やしていけば、実は家がどんどん狭くなっていくんですよね」 ●そうなんですよね! 暮れの掃除で実感しました。この1年でまたこんなに増えているわという・・・(笑)。 「あれをひとつひとつ引き算をしていくと、最初、ちょっと寂しいんだけど、実はその方が家が大きくなっていく」 ●そうか! 本来は大きいはずの家を自分達が狭くしちゃってるってことなんですね。 「お金をたくさん集めるために時間をどんどん縮める。これがファスト・ライフですよね。僕は考え方として一般に物を引き算して、幸せをちょっと増やそうと。僕、物をどんどん増やして行く先にしか、人間の幸せを考えられなくなっていた僕達っていうのは、とっても悲しい、寂しい状態なんじゃないかなと思うんです。どうでしょう? 今年の“LESS AND BETTER”」 ●MOREという言葉を使うのであれば、MOREポトリを落とすというほうに使うくらいにしていただいて・・・。 「そうそう。実はそうやって物を少なくして幸せの度合いを増やしていくでしょ。これ、地球が何より喜ぶんですよ。で、環境が良くなれば自分の楽しさや幸せが増えていく。ここで、GNHという言葉をどうしても出したくなっちゃうんですけど・・・」 ●そのGNHについては後ほど、じっくりとうかがいたいと思うんですけど、そんなGNHの話をうかがう前に今回、本『ハチドリのひとしずく いま、私にできること』の中にも書いていらっしゃいますアンニャ・ライトさんというシンガー・ソングライターの方がいらっしゃるんですが・・・。 「彼女は僕の親友で一緒にナマケモノ倶楽部を作ったりした世界的な環境運動家なんですけど、一緒にずっと活動してきています」 ●そんな彼女がとっても素敵なハチドリの歌を作って歌っていらっしゃるので、ここで聞いてみたいと思います。 (番組の放送ではここでアンニャ・ライトさんとハチドリの仲間たちによる『とべ、クリキンディ~ハチドリの歌』を聴いていただきました)
●お送りしたのはアンニャ・ライトさんとハチドリの仲間たちの『とべ、クリキンディ~ハチドリの歌』でした。実はこれはライヴで行なわれたもので、バックのハチドリの仲間たちの中には辻さんも参加していらっしゃるんですよね? 「僕も、僕の娘も参加しています」 ●みんなが歌っているんですね。今年は是非、クリキンディに羽ばたいてもらいたいですね。 「そうですね。そして、クリキンディは実は私たちひとりひとりなんですね。だから、みなさんにも是非、ハチドリになっていただきたいなと思います」 国民総幸福量●先ほどちょっとお話にでましたが、GNHという聞きなれない言葉について教えていただけますか? 「これ、もうひとつの今年の合言葉。さっき“LESS AND BETTER”が出ましたけど、GNH。これでいきたいと思っているんです」 ●これはGROSS NATIONAL HAPPINESSの略で国民総幸福量という意味なんですよね。 「そう言うと難しそうですけどね(笑)。みなさんGNPって御存じですよね。GNPとかGDPっていって、それをいつも一喜一憂しながら僕達は見ているわけですけど、ある時にブータンというヒマラヤの小さな国に行ったんですね。そこは王国なんですけど、その王様が『ウチの国はGNPじゃなくてGNHだ』って言ったんですよ。先進国を中心に世界中がGNPを上げるために必死になっている。で、我が国(ブータン)を見てみると、『お金もそんなにないし、物もそんなにないけど、でも結構幸せそうだ。これはどうやって計るの? 幸せってお金や物だけじゃ計れないでしょ』という思いを込めて王様はGNHと言ったんですね。つまり、HはHAPPINESSですよね。国民の総幸福度こそが問題なんだというふうに言ったわけですよね」 ●これ、すごい言葉ですよね!
「最初は冗談だったと思うんですよ(笑)。オヤジギャグだったと思うんだけど(笑)、王様だから。下の人達がノートに書き取っちゃったりなんかして(笑)。『GNH! これを研究しなきゃ!』ってことで研究が始まりまして、今じゃ世界中で話題になってGNH国際会議とか開かれているんですよ。僕も早速、大学でGNH研究会というのを作ったんです(笑)。
●辻さんは何度か行ってらっしゃいますが、ブータンのGNHは、どういうところにHAPPINESSを感じられますか? 「例えば、ブータンでも携帯電話が入ったり、テレビが入ったり、非常にグロ-バル化の様相も街を中心に出てきているんですけど、でも、田舎なんかに行くでしょ。そうすると、人々はなんか満ち足りた感じなんですよね。基本的には自給型の農業を中心として、今でも日本の村がかつて持っていたような『結い』っていう助け合い、支え合いのシステムがしっかりしている。だから、お金がなかったり、保険に入っていなかったりするんだけど、ものすごい安心度。人々の心の中に安らぎが表れている。子供達も、よく『目が輝いている子供達』っていいますけど、本当にそうなんですよね。目が輝いて活き活きとして、それでいて非常に安らいでいる。不安や恐怖が見えないという風景が至るところにあるんですね。ひとつ、ブータンの風景の中で特に印象的なのは、祈祷旗、ブータンの言葉で『ダルシン』っていうんですけど、祈りの旗が至る所に立ってはためいているんですよ。で、この旗には経文、教典の祈りがビッシリと刷り込まれていて、風になびくたびに祈りが宇宙に向かって発信される」 ●風が運んでくれるんですね。 「そう。これがとにかく至る所に置いてあるわけですよ。人が寝ている間も旗がはためきながら、どんどん祈りや思いを世界に向けて発信している。これがブータン型のGNHのひとつかなぁって思いましたね。人間が幸せであるっていうのはそういうことだったのだなぁってことを思わされましたね」 HAPPINESSは伝染する●去年、辻さんがブータンに行った時は、一度、生徒さんも一緒に行かれたそうですね。
「9月に行きまして、とにかく普通の観光客がしないようなことを全部やってやろうということで、農家に民泊で止まったり、そこがちょうど収穫期だったので稲刈りもやりました。それから、ブータンは美しい国なのに、行くところ行くところプラスチックのゴミが散乱しちゃっているので、それをドンドン拾おうとゴミ拾いをしました。すると、向こうの人達も喜んでくれて環境大臣までやって来て、それが1局しかないテレビで放映されて、僕ら行くところ行くところで結構有名でね(笑)。
●連れていかれた学生さんたちの反応はどうでしたか? 「すごいです。彼らは『懐かしい』って言うんですよ。別にそういう田舎の風景を経験したわけじゃないんだけど、これは人間のどこかDNAの中に持っている懐かしさっていうんでしょうかね。とにかくブータンの人々の微笑みとか優しさにみんな参っていますよ。で、自分達もブータンの人々が作る祈祷旗や、ああいう祈る力を自分達も作りだそうっていうことで、今、日本に帰ってきてからも、色々な小さな儀礼を自分達で作りだしてやっていますよ」 ●ブータンのGNHって、国民総幸福量だけじゃなくって、そこを訪れるビジターたちにもHAPPINESSを与えちゃっているような感じがありますね。 「僕ね、HAPPINESSっていうのは伝染すると思うんですね。僕らも環境問題について考える時に思い出さなくちゃいけないのは、『このまま地球温暖化が進むとこんな悲惨なことが起こる』とか、『こんな悲しいことが起こる』という恐怖に駆られて何かをしようとするんじゃなくて、本来、環境を守るっていうのは僕達が楽しく、美しく、安らかに、おいしく生きていくための当たり前のことを取り戻そうっていうことだったんだって、発想をもう一度転換していきたいと思うんですよね。ハチドリが水の一滴を落とす。これは、実は楽しいことなんですよ。なぜかっていうと、楽しい世界を僕達が作るための一滴なわけですからね。本当に発想の転換だけだと思います。僕達には必要なノウハウもあれば、技術も知識も全部あるんですよね。だから、そこのちょっとした発想の転換だけだと思います」 ●2006年が始まりましたが、この1年、フリントストーンのリスナーを含め、私たちがどのように過ごしていくか、先ほど、キーワードとして“LESS AND BETTER”、“GROSS NATIONAL HAPPINESS”という言葉が挙げられました。 「そうですね。ひとりひとりがハチドリになる。そして、『自分に出来ることをしているだけ』っていうあの言葉ですよね。そもそも自分に出来ないことは出来ないわけですから。僕達は今まで、出来ないことばかり考えては、それが出来ない自分を責めたりしていた。でも、これからは自分に出来ることを、自分に与えられた場所で淡々とやっていく。楽しくやっていく。楽しいことをすることが世の中を良くするし、環境問題の解決っていうのはそこにしか道はないと思っています」 ●どうもありがとうございました。 ■このほかの辻 信一さんのインタビューもご覧ください。
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■明治学院大学教授「辻 信一」さん情報
『ライフスタイル・フォーラム』
『ハチドリのひとしずく~いま、私にできること』 尚、番組でも放送した「アンニャ・ライト」さんと仲間たちによるCD『とべ、クリキンディ~ハチドリの歌』は「ナマケモノ倶楽部」のホームページから購入できます。
「辻 信一」さん個人サイト:http://www.yukkurido.com/tsuji/index.html |
オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」
M1. A HAPPY NEW YEAR / 松任谷由実
M2. THINK FOR YOURSELF / THE BEATLES
M3. とべ、クリキンディ~ハチドリの歌 / アンニャ・ライト+ ハチドリの仲間たち
ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」
油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」
M4. GOODTIMES TOGETHER / CECILIO & KARONO
M5. PATCHES OF HAPPINESS / JULIA FORDHAM
M6. YES WE CAN / ARTISTS UNITED FOR NATURE
エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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