2006年1月22日
「JFS」のマネージャー・小林一紀さんと
今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは小林一紀さんと石田秀輝さんです。 |
非営利団体「ジャパン・フォー・サステナビリティ」のマネージャー「小林一紀(かずのり)」さんと、東北大学・教授の「石田秀輝(ひでき)」さんをお迎えし、生き物に学び、真似る技術「バイオミミクリ」のことなどうかがいます。以前、「小林」さんにうかがった「バイオミミクリ」がさらに発展しているそうで、今回はその後の状況と、より具体的な研究のことなどもうかがいます。
●ご無沙汰しております。小林さんとは前回、去年の10月にお話を伺いましたが、その時にお名前が出た方を今日は、連れてきていただきました。小林さんの方からご紹介いただけますか?
小林さん「はい。東北大学・大学院・環境科学研究科・教授の石田秀輝さんです」
●石田さん、よろしくお願い致します。
石田さん「よろしくお願い致します」
●石田さんご自身は、バイオミミクリというのはいつ頃から研究されていたんですか?
石田さん「バイオミミクリの言葉の定義はあとにして、自然というもので物を作ろう、自然の循環を考えて物を作ろうということは、1997年くらいから本格的に始めました。考え方そのものは『焼かないで焼物を作ろう』だとか、そういうことは80年代の終わり頃からずっと始めていて、自分の頭の中でそういう考え方がひとつにまとまったのは1997年くらいなので、10年近くなります。長いですよね(笑)」
●(笑)。実は、私たちもバイオミミクリという言葉を去年、初めて小林さんから伺って目から鱗だったんですね。生物から学び、真似る「まねび」という言葉がその時に出たんですけど、確かに今までそういう発想はあったのが、言葉としてバイオミミクリと聞くと、より一層分かりやすいですよね。石田さんはこのバイオミミクリだけじゃなくて、ネイチャーテクノロジーというものに取り組んでいらっしゃると伺ったんですが、バイオミミクリとネイチャーテクノロジーの違いを教えていただけますか?
石田さん「難しいですね(笑)。分かりやすく言うと、バイオミミクリっていうのは自然の生態系を真似るというよりは、『まねび』っていうのはいい言葉ですけど、そこから学んでいきましょうというものです。それから、もうひとつそれと対になるものに、ジオミミクリっていうのがありまして、ジオっていうのは地球の大きくてダイナミックな循環、例えば火山が噴火するだとか、プレートが動くだとか、そういう海から下のもの、そういう自然の大きな動き方っていうのも、学ばなければいけない。これをジオミミクリといいます。このふたつを合わせてネイチャーミミクリと僕は呼んでいます。まず、そこにひとつ、ネイチャーミミクリという考え方がある。で、ミミッキングというのは英語で『真似る』、『模倣する』といった意味なんですけど、これは自然というものから学ぶことがメインなわけですね。だから、言い換えるとそこでサイエンスをして、自然というのを学んでいきましょうというものなんです。学んだものが全て、我々の生活に役立つかというとそんなことはない。その中から僕達としては、生活の中に持ち込んで革新的にエネルギーが少なくなるだとか、資源が少なくなるだとか、結果として僕達が新しい価値観を持った暮らし方ができるとか、そういうものに変えなきゃいけない。そういうネイチャーミミクリをリ・デザインをして、テクノロジーとして作り替えることをネイチャーテクノロジー、ネイチャーテックというふうに呼んでいます」
●なるほどね。バイオはネイチャーミミクリの中に入っている一部なんですね。
石田さん「そのように私は定義しております」
●で、ネイチャーテクノロジーはそれらが私たちの生活にどうデザインするかという部分なんですね。だから、私たちに直接関係してくる部分、という解釈で間違いはないですよね?(笑)
石田さん「間違いないですね(笑)。そうしなければいけない」
●小林さん、去年スタートしたバイオミミクリ・プロジェクトが、もうすでにネイチャ-ミミクリからネイチャーテクノロジー・プロジェクトにまで進化し、2006年はこれでいく! といった感じですね(笑)。
小林さん「『これで突き進む!』といった感じです(笑)」
●ネイチャーテック・プロジェクトがさらに進んでいく2006年なんですが、もうすでに行なわれているネイチャーテックの実例を教えていただけますか?
石田さん「ネイチャーテクノロジーとしての実例は極めてまだ少ないんですね。ネイチャーミミクリっていうところで色々なものが存在していて、『こういうものが我々の生活に使えるといいよね』っていうサンプルがすごく集まっています。だけど、このうちのどれが我々の生活を革新的に変えてくれるのか、何をリ・デザインすべきかになるとなかなか難しくて、これをこれからどうやって探すかというのも研究テーマですよね。
その中で、僕が今まで関与させてもらって作ってきたものには土を使った無電源のエアコンがあります。それから、カタツムリの殻のメカニズムを使って、汚れない、汚れても水ですぐ汚れが落ちるような新しい表面。あるいは、水の面白い性質を使って、水のいらないお風呂も作りたいと思っています。無電源のエアコンと汚れのつきにくい表面は具体的に形になっていますけど、そういうものがやっと少しずつ見えてきた。
で、こういうものは作ってもエネルギーは少なくて済むし、結果として、無電源エアコンだと材料や作るエネルギーももちろん少なくて、無電源ですから電気もかなり少なくて動きます。そういうものっていうのはまだあまり見つかっていないんですね。すごいのはいっぱいあるんだけど。ですから、それをどうやってリ・デザインをするかっていうのが大事で、ただの真似ではダメなんです。だから僕達はそこで始めて、産業革命以来、学んで使ってきた科学っていう力をフルに使って、それを知恵にしなきゃいけない。そういう時代だと思います」
●すごい世界に突入してますね! 今でも形としてある、カタツムリからヒントを得た汚れがつきにくい表面。以前、小林さんにお話を伺ったときは「学者じゃないので詳しいことは分からない」とおっしゃっていたので、詳しく教えていただきたいんですが(笑)、カタツムリの殻って汚れがつかないんですか?
石田さん「カタツムリの体もそうですし、例えば卵もそうなんです。卵ってみんなキレイに白いでしょ。今は洗っているからではなくて、昔、卵をとったことってあります?」
●あります。
石田さん「その時に鳥のウンチとかついているんだけど、ちょっと水で洗うとスポーンとキレイに取れて真っ白になるでしょ。同じような構造なんですね。実は、卵の殻もカタツムリもそうなんですけど、メカニズム的には違うんですけど、結果として表面のエネルギーをコントロールすれば、汚れに対して非常にポジティブに落とすことができる。ということがカタツムリの研究から分かってきました。
例えば、空気中でカタツムリの表面に油をつけます。油がつきます。ところが、それに水を1滴ポタッと落とすと、油が水を弾くんじゃなくて、カタツムリと油の間に水が入り込んでいきます。そして、油をポロッとはがす。そういう構造を持っているんです。つまり、カタツムリと油、カタツムリと水ではどっちが仲良しかっていったら、カタツムリと水の方が仲良しなんです。これは、カタツムリと水の表面エネルギーの差が、カタツムリと油より小さいんです。ですから、逆に材料の表面エネルギーをコントロールしてやれば、あるいは汚れの表面エネルギーが分かれば、材料の表面エネルギーをコントロールすることで、より水をつきやすくして間に入れるだとか、あるいはより水をつきにくくしてというようなコントロールができちゃうわけです。
大事なことは、そういうことがリ・デザインであって、カタツムリと全く同じ表面を作ることではないということなんです。我々はカタツムリの凄さっていうのを学ぶのがネイチャーミミクリですよね。それをそのまま模倣するのであれば、これはサイエンスから飛び出せない。我々にとって大事なことは、そこがどういうメカニズムで、我々の生活圏の中で使えるか、という形にどういう切り口でものを見るか、そしてデザインし直して、それのテクノロジーに持っていく。ですから、カタツムリにしても卵の殻にしても、表面エネルギーをコントロールするんだというのが見えた瞬間に、我々は新しい発想で表面を作ることができる。それがこれからの新しいテクノロジーのあり方だと思うんです。
今までは神に対する挑戦みたいに、自然にないものや、あっても僕達が知らないものをなんとかして作り上げるというのが、今までの科学技術といわれていたんです。でも、地球ができて46億年の間に色々な循環の中で出来上がった、自然の完璧な循環というものを科学の目で見て、技術としてリ・デザインをする。そういう新しい発想というのはまだ誰も触っていないので、もうワクワクドキドキする宝の山ですよ。それが環境に対してものすごくポジティブに働くなら、思いきってどんどんやるべきではないのかなと思っています。自然というドアをノックすると、そんな話が出てくるわけです」
●「これはどうしてなんだろう?」、「じゃあ、それをどうすればこうなるんだろう?」、「こういうことはできるんだろうか?」まで、クエスチョン・マークを続けていかないと、私たちの実際の生活に使えるようなテクノロジーまではいかないということなんですね。
石田さん「なかなか難しいですね。でも、できちゃうと『なぁーんだ、そんな事か』という感じでしょうね。自然は当たり前にやっているので。でも、僕達がそれを『なぁーんだ』というところまで見つけ出すトレーニングを今まで受けてないですよね。要するに色々な知識を知恵として使うというトレーニングが、今までの科学技術とは違う切り口でやらないとネイチャーテクノロジーは見えてこないので、そのトレーニングを受けていない。だから、その教育っていうシステムを同時に動かしていかなければいけないと思います」
●すでに実用されているバイオミミクリやネイチャーテクノロジーの実例を教えていただけますか? もしくはネイチャーテックに発展しえるなって思うものはありますか?
石田さん「それこそ山ほどありますよ(笑)」
●そのいくつかを教えて下さいよ(笑)。
石田さん「例えば、森の中に入る。すると、どうしてみんな心が休まるんだろう。マイナスイオンだとか色々な話が出ていますけど、例えば風だとか、音そのものがすごく心を優しくするんだっていうことが学術的に分かってきている。だから、森の中の木々がザワザワする音だとか、そういうものっていうのをキチッと解析できたら、我々は家の中でもすごく安心するようなものができるかもしれない。そしたら、面白いだろうなって思いますよね。
音に関してもっと突拍子ものでいうと、ゾウさん。ゾウさんもネイチャーテック研究会でいくつか出てきている話題なんですけど、ゾウっていうのは人間が聞こえないような低周波の音が聞こえるんですね。で、この間のスマトラ沖の地震の時にゾウはあっという間に岡の上に逃げちゃったそうなんですね。どうしてかっていうと、津波の時に発生する低周波の音は、津波の倍の速度で進むわけですね。それをゾウが聞いて逃げたのではないかといわれています。そういうのが分かると、あちこちの海底にたくさん埋めなくても、新しい検知システムとか、集音機で色々な予測ができるようなものが出来るかもしれない。
突拍子がないということでいうともっといっぱいあって、カマキリが卵を産む場所は次の年の積雪の一番高いところだとかね。僕が言うのはあまり正しくないのかもしれませんけど、興味という意味でいくと地球の振動が木に伝わって、その最大の振幅をしているところにカマキリは卵を産むんだと、それが次の年の積雪の一番大きなところだとか。そういうのが知識との関係でいうと、6週間先だとか3ヶ月先という気候予測ができるかもしれない。
そんな話があったり、バクテリアでいうと、水素を作るバクテリアを育てると、バクテリアが水素をどんどん作ってくれる。今、水素を作るのにすごく悩んでいますからね。そんな話をどんどんクリアにできるだろうとかね」
●小林さんどうします?(笑)
小林さん「うーん、無限にあるんですねぇ」
●笑っちゃうぐらいたくさんありますね(笑)。あまりにも色々ある中で、これまでの失敗から学ぶことも大事だと思います。当然そうなってしまうこともあり得ると思うんですね。間違った方向に進むことっていうのも、きっといくつかあるのかなと思うんです。これまであまりにも自然をねじ伏せようという方向で来ちゃってたじゃないですか。それが、自然の知識を学んで人間の知恵にして、さらに自然を痛めつける方向へ行く可能性も無きにしもあらずなんじゃないかなと思ったりしたんですけど、どうでしょうか?
石田さん「おっしゃられたことがまさに一番大事なことで、教育を並行してやらなきゃいけないっていうのはそこなんですね。自然っていうのはすごいですよね。その自然のすごさっていうのと、全く同じものを作っていこうとすると、ほとんど場合が猛烈なエネルギーを使ってしまうことになる。あるいは、DNAを変えてなんとかしなきゃいけないということになる。だから、一番大事なのは新しい倫理観ですね。それをテクノロジーとして、リ・デザインすべきなのかどうなのか。で、新しい倫理観の一番大事なところは、これが絶対だとはいいませんが、少なくともそれを作るとき、使うとき、革新的にエネルギーや資源を使わないんだということを前提にしたときだけ、きっと許されるだろう。僕はそれが大原則だと思っています。
で、例えばクモの糸っていうのは断面が1平方ミリメーターあれば、13トンくらいの重さが釣り上げられるんですよ。じゃあ、そのクモの糸をどうやって作るのか。それは例えば、理念を変えてヒツジのお乳から作りだそうっていう研究とかがどんどん進んでいるんですけど、研究として僕はNOではない。だけど、それを本当にテクノロジーとして我々が認めるかっていう時には、今、申し上げた倫理観っていうのが必ず必要になってくる。革新的にエネルギーや資源、あるいは地球の生物の多様性に対して負荷をかけない。その倫理観が抜けてしまうと、産業革命以来、今まで我々がやってきた過ちとはいわないけど、ある部分は違った方向に進んでしまって、結果として環境問題を起こしてしまったと同じ事を繰り返す。そこの倫理観というのはどういうふうに普及させて、どう実行するかというのが大切ですね。難しい倫理観ではないですけどね」
●以前、ネイティブ・アメリカンのお話を伺ったときに、彼らは昔、町内会で町長さん達が集まって議論をする時に、孫の代、ひ孫の代までのことを考えたうえでの結論を出していたそうなんです。すなわち、100年先ぐらいのことまで考えて、今どうすべきかということを考えていた。最近の私たちっていうのは目先のことばかりを考えすぎ、下手をすると10年先の事もあんまり考えてないのかなって思って、それは先ほどの倫理観でいったらまさしくNOですよね。
石田さん「そうですね。ただ、それは今考えづらくなっているのは事実であって、色々なものに恵まれていて、コミュニティがなくても暮らしていけるっていうところがありますよね。だから、ここら辺について僕がハッキリ『こうだ!』と言うことは出来ないんですが、少なくとも循環型社会を作ろうと思うと、最初から大きな循環は出来ない。小さな循環が集まって、初めて大きな循環が出来る。ということになると、コミュニティは避けられない。じゃあ、コミュニティっていうのは一体どうなんですか。ネイティブ・アメリカンが作っていたコミュニティはよかった、だからネイティブ・アメリカンから学ぶことは出来るんですけど、同じコミュニティを作るというのは出来ないだろう。で、そういうところに知恵が欲しい。そのために今まで僕達、色々な失敗を繰り返してきたんじゃないかなと思っています」
●そろそろ新たなコミュニティを作って、知恵を発揮する時期が来ているんですね。
●小林さん、今後のジャパン・フォー・サステナビリティ及び、バイオミミクリ・プロジェクトの活動の展開を教えていただけますか?
小林さん「まず、自然のすごいところをたくさん集めてみようと思っています。で、それをホームページに載せて、まさにこのプロジェクトの一番大切なものは学びだと思っているので、そこに研究者が来て、研究者同士が学びあえる、子供達が学びあえる、そういう場作りをやろうと思って一緒に頑張っています」
●そういう意味で言ったら、まだまだ始まったばかりで、ベースの土固めをするのが2006年なんですね。まだまだということは先の長い、みんなに浸透し、みんなが知恵を使うまではどれぐらいかかりそうですか?
石田さん「これはずっと続く話ですよ。で、あちらこちらで大分、自然という話が出てきましたしね。昔は自然を学ぶなんて事をいうと、学問にならなかった時代が随分あったんですけど、今はそういうことがちゃんと受け入れられる時代になってきましたからね。そういう意味ではもうすでに予兆があって、我々はそれに上手に石を投げ込めば、輪は広がっていくっていう気持ちは自分でもっています。ただ、今おっしゃったように方向を誤らないようにやっていかなきゃいけない。そこのバランスをこれからどうやって作っていくかっていうことですね。具体的に『これがテクノロジーよ』っていうのをたくさん出したいですね」
●そうですね。あとはそれが出来るまでに、このままどんどん自然破壊が進まず、それも同時にストップする方向に向かいたいですね。じゃないと、学べる材料を自らの手でどんどん減らしていっているわけですから、そういう意味でもなるべく早いうちにたくさんの例を見せていただいて、これからもザ・フリントストーンはこのプロジェクトをずっと追っていきたいと思います。小林さんには期待しておりますし、石田先生も「これがネイチャーテクノロジーとして可能になったよ」というのがありましたら、番組にもどんどん知らせていただけたらと思います。今日はどうもありがとうございました。
■非営利団体「ジャパン・フォー・サステナビリティ」情報
「小林」さんがマネージャーを務める非営利団体「ジャパン・フォー・サステナビリティ」では、今年3月末までに「ネイチャーテック」の事例を、100を目標に集めてホームページに掲載する予定。
・非営利団体「ジャパン・フォー・サステナビリティ」のHP: ■東北大学の教授「石田秀輝」さん情報東北大学大学院・環境科学研究科の教授「石田秀輝」さんのホームページでは『自然のすごさ探検隊』というコーナーを儲け、「ネイチャーテック」の事例がいくつか紹介されている他、“あなたの見つけた自然のすごさ”を教えて欲しいということで、メールのアドレスも記載。皆さんもぜひ何か見つけてご連絡ください。 ・「石田秀輝」さんのHP:http://ehtp.kankyo.tohoku.ac.jp/ishida/ |
オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」
M1. LIKE MARVIN GAYE SAID (WHAT'S GOING ON) / SPEECH
M2. LEARN TO FLY / FOO FIGHTERS
M3. THE ANIMAL SONG / SAVAGE GARDEN
ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」
油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」
M4. LIFETIME / MAXWELL
M5. WONDERFUL WORLD / GONE TOMORROW
M6. CHANGE THE WORLD / ERIC CLAPTON
エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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