2006年2月5日

装丁家/エッセイスト・荒川じんぺいさんの「森と洞窟」

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは荒川じんぺいさんです。
荒川じんぺいさん

 八ケ岳山麓に住む、装丁家でエッセイストの「荒川じんぺい」さんをお迎えし、山里の暮らしがヒントになった初めての子ども向け小説『夏の洞窟』のことや、自然と向き合う生活についてうかがいます。

八ケ岳の古代人の生活にインスパイアされました

『夏の洞窟』

●今は八ケ岳山麓に暮らす荒川さんがこの度、『夏の洞窟』という小説をくもん出版から出されました。これは子供も読める小説なんですよね?

「そうです。これは小学6年生の子供達が自分達の暮らす土地の背後にある八ケ岳の森に入っていって、ある日突然、事件に遭遇するというところから飛躍してしまうんですけどね」

●この小説を書かれたキッカケというのはなんだったんですか?

「八ケ岳山麓っていうのは、古代人の人達の集落がたくさんあるんですね。で、そういうのを見ているうちに、『自分も縄文時代のような暮らしができたらなぁ』っていう憧れを持ってしまって、そういう視点で八ケ岳山麓を歩いていますと、『これで小説が書きたいな』という思いが沸き上がってくるんですね。妄想がどんどん膨らんでいくと、確かに縄文時代については研究者がたくさんいるんだけど、研究された方々の内容よりも僕の妄想のほうが飛躍してしまって(笑)、これはもうエッセイで書けないと。すると、小説で書くしかないですよね(笑)。この『夏の洞窟』の中に出てくる縄文人らしき人達の暮らしぶりっていうのは、かなり僕の私観が入っている暮らしぶりですよね」

●そうですね。完全な荒川さんのイマジネーションの世界。

「実際、八ケ岳を歩いていて、その洞窟に出会ったとき、これ実際にある洞窟なんですよ」

●『夏の洞窟』の設定となっている洞窟ですね。

「はい。子供達が事件に遭遇した場所ですね。その洞窟を何回か訪ねているうちに、『もう、ここしかない』と思ったんですね」

●そういうのは、荒川さんがずっと八ケ岳に住んでいて、森の中を自分の庭として歩いている中でイマジネーションが膨らんでいって、偶然、洞窟と遭遇したんですか?

「本当に一部の人にしか知られていないような、登山家だけが知っているような洞窟なんですね」

●まさに小説に出てくる洞窟そのものなんですね。

「そうです。ただ、あまり知られてしまうと困るので(笑)、その辺はぼかして表現してますけどね。興味のある方は、この本を読んで探して行ってみて下さい。そんなに険しいところじゃないですし、そこでキャンプをしたら最高ですよ」

●楽しそう! これはあくまで小説ですから、子供達はおじいさんからその洞窟の在り処を聞くんですけど、その通りにとは限らないんですよね?

「ちょっと迷路風にしてあります(笑)」

●その辺がヒントになりながら、フリントストーンも探検隊で行ってみようかしら。

「今年の夏でもやりますか?(笑)」

●では、後ろから荒川さんについてきていただいて、洞窟探しを・・・。

「僕、その洞窟に出会ったときは感動しましたよ。その洞窟で『今晩泊まるかどうか』って迷ったのね(笑)。で、なんの道具も持っていかなかったんだけど、その洞窟を回り込んで上に斜面を登っていったら、夕陽が南アルプスに沈んでいったんですね。その時の光景を見ていたら、どんどんイメージが膨らんでしまったという感じなんです。それまで、縄文というものをヒントに小説を書きたいなぁと思っていたけども、その時に『これで出来た!』と思いましたね」

命の尊さを感じて欲しい

荒川じんぺいさん

●この小説をあえて子供達を主人公にして、子供達にも読んでもらいたいと思ったのはどんな理由からだったんですか?

「これは、僕なんかの子供時代にも戻るんですけど、僕らっていうのは学校の帰り道に道草をしながら、自然と接してきて育ったという思いがあるんですね。でも、今の子供達っていうのは本当に色々な事件があって、凶悪な部分があって、寄り道っていうのが一切許されなくなってきたでしょ。なので、『学校の帰り道に寄り道しなさい』とは言わないけれども、休みの時なんかはなるべく自然と接して、そういう中での、昆虫1つでもいいから命というものを実際に感じて欲しいなぁと思ったのね」

●男の子2人、女の子1人の3人が主人公なんですけど、女の子がよく知っているんです! リーダーのように頼もしい女の子なんですけど、彼女が小説の中であらゆる場面で出す知恵みたいなもの、例えば「キノコを拾って食べようよ!」っていう時も、「このキノコは食べられるけど、ここがこうだと食べられないって習ったよ」って言ったりとか、ちょっとした知恵を、読んでいる人も学べますね。

「そういう比較して選択するっていうのは、キノコ採りっていうのは特にそうなんですが、コツさえ覚えればそんなに難しいことじゃないの。だから、一生懸命図鑑を見なきゃキノコを識別できないと思われがちだけど、そんなことないんです。ちょっとした違いで識別できるんです。植物でもそうなんですよ。例えば、木の実、木の肌の違いをちょっと知っているだけで識別できるんです。それが、観察の大切さだと思っているし、日常の中でそういうところに教えられたり、それを気が付いたりといったことが、命の尊さとかまで結びついてくれるんじゃないかなと僕は思っているんですけどね」

●これらの知恵というのは荒川さん自身も興味をもって調べたりとか、地元の人達に教わったりとかして、培ってきたものなんですか?

「僕なんかは子供の時に教わったもの、八ケ岳に暮らすようになってから地元の人に教わったもの、そっちのほうが多いですね。図鑑でっていうとなかなか判別できなかったりしますね。八ケ岳に住んでから、地元の子供達と一緒になって遊んだりするんだけど、子供達が実によく知っているわけですよ」

●「さすがジモティー!」って感じなんですね(笑)。

「そうそう(笑)」

●『夏の洞窟』の中で非常に面白いなと思ったのが、たくさん歌が出てきますよね。色々な場面で、しかも不思議な言葉の歌が出てきます。「何語なんだろう?」と思うような歌がたくさん出てくるんですけど、これはどういうところからヒントを得たんですか?

「暮らしの中のリズムの根本には歌があると思うし、気分のいい時にはつい鼻歌が出てくると思うし、中には歌詞が分かっていなくても、自分で作詞しちゃってる人もいるだろうし、そういうのは心や体の中がいい気分になっているときだと思うのね。だから、子供達にいい気分の心持ちを表現したいなと思って歌を取り入れたんです。だから、焚き火の中の集会の時、古代の女性が歌を歌うときに鳥の鳴き声風の歌を歌わせたんですけどね」

●でも実は、この中の子供達が歌っている曲はヒントとなっているメロディーがあるんですよね?

「それは、年甲斐もない歌をCDで買ってきて聴いてみたりしたんだけどね(笑)」

●私、バラしちゃいますよ!(笑)

「どうぞどうぞ(笑)」

●ORANGE RANGE、CHEMISTRY、森山直太朗さんとか、これらの歌をヒントに書いたそうですが、これらは近所の子供が歌っていたり、テレビやラジオで流れているのを聴いてヒントを得て、歌詞はご自身で作られたんですね。みなさんも曲を当てはめながら、歌いながら(笑)、『夏の洞窟』を読んでいただきたいと思います。

現代にも息づく、縄文時代の技法

●設定がずっと森の中になっているじゃないですか。そうすると、森の中でも時代が変わるんですが、森ってすごく豊かなんだなって感じました。そして、森の中だけでも全然生きていけるんですね。

「うん。これは実際、狩りをして獣を捕ったりということまですれば、もっとタンパク質も豊富になってくるでしょうけど、僕らはそこまでしません。せいぜい、山菜、木の実、キノコ止まりなんだけど、料理法も焚き火1つあれば色々な料理が出来ます。実際、僕自身も調理道具を持たないで、焚き火だけで焼く、煮る、蒸すという調理の仕方で、しかも森の中の石や竹を使ったり、葉っぱを使ったりして、それを調理道具として料理をしたことありますけど、意外と出来るんですよ。実際に縄文遺跡の中で見ていると、磨製石器という木の実や種を粉にする挽き石みたいなものがたくさん出ているんですね。そうすると、粉にして、それを練ってお団子にしたりっていうと、今度はまた食生活が豊かになってくるわけね。例えば、荏胡麻(えごま)っていうゴマ、実際に八ケ岳辺りの農家で作られているんだけど、古代から荏胡麻なんていうのは粉の繋ぎとして使われてきたんですね。どんぐりだけを粉にしたりすると、どうしてもパサパサになるから、そういう油っ気のあるものを一緒に混ぜあわせてこねると、団子になりやすいとかね。それを石の上で平べったくして焼いたりすると、インドのナンみたいな感じで薄いパンみたいになるわけでしょ。すると食べやすいし、保存も利くしっていうね。そういうことを見ていくと、森の中で収穫できる木の実やそういうものっていうのが、食生活のかなりの部分を占めていることが分かりますよね」

●本を読んでいて、いわゆる先人、縄文の人達の生活を思わせるものが出てくるんですけど、もしかしたら読み方次第では現代のサバイバル術の参考になるようなものもたくさんありました。

「実際、今の食生活の中に縄文から続いている技法が、そのまま残っているっていうのがいっぱいあるんですよ。だから、そういうことを知っておけば、少々のサバイバル時にも応用出来るんですよね」

●最近は、キャンプ場も至れり尽くせりのところが多いじゃないですか。この小説をお子さんと親御さんが一緒に読んで、もうちょっとワイルドなキャンプを楽しんでみるのもいいのかなと思いました。

「そうですね。僕らっていうのはどちらかというと、物のないときに育っていますから、逆にそういう知恵を働かせたキャンプというのをしていたんですが、どんどん『これ便利。あれ便利』でそういう物をキャンプに持っていく、またそういうのも開発されたりして、キャンプをする意味合いっていうのがどんどん薄れていってしまう、感動がどんどん薄れてしまうという気がします。ですから、最小限の道具しか持たないで、山へ入って、枯れ葉の上でもいいし、草の上でもいいから横になってみる。そうすると、もっと感動が違ってくると思うのね」

●この『夏の洞窟』という小説を通して、荒川さんが読む人に一番伝えたいことっていうのは、その自然との触れ合いという部分ですか?

「そうです。逆に、夜の森のなんと賑やかなことか。風の音とか色々な音で賑やかです。鳥達の声も聞こえるし、例えば、キジであったり、小さな鳥なんかでも、夜歩いているんですよ。鳥にはホッピングという飛び方、ウォーキングという飛び方とかありますけど、ウォーキングの歩き方をするような鳥なんか、人が歩いてくるような音がするのね。本の中にもそんな話が出てきますけどね」

●ちょっと怖いような、ドキドキワクワク楽しいような感じですね。五感を働かせて森の中に入っていくといいんですね。

「自分の森」の定義とは?

●荒川さんは一番最初の1995年にお話をうかがったときから、「自分の森」っていうのをずっと提唱してらっしゃいますが、改めて定義を教えていただけますか?

「例えば、官有林という、いわゆる国有林であったり県有林であったり、そういう行政側が管理している森で、自分の歩ける範囲、1キロなら1キロ範囲でもいいし、4キロなら4キロ範囲でもいいので、そこに定期的に通って、そこを観察する。そして、そこの生態系ってものを理解してくれば、もうそこは自分の森だよと言っているんです。すると愛着も湧いてくるよと。それで、1年を通してそういうところへ通っていけば、それはもう自分の森だと宣言してしまおうよと。線引きはないけれどね」

●でも、それが一番お金がかからないし、手入れもせずにして自分の森が手に入るという(笑)。

『「自分の森」で元気になる』

「ただし、それには植物の知識であったり、木の名前ぐらいは最低限、知って欲しいし、森っていうものがどういう形で作られているかも知って欲しい。ということで、自分の森を持とうと言っています。これは『「自分の森」で元気になる』というタイトルで朝日新聞社の朝日文庫から本が出ていますけど、そのための解説本ですからバッチリです」

●それを読んでいただければ、「自分の森」の定義がより分かるんですね。逆に、今は寒い時期で森まで行くのも大変なので、地図の上で色々なところを検討し、シミュレーションをしたり、チェックをしながら、暖かくなってから実際に森に行くというのがいいですよね。

「そうですね。これは、僕なんかもそうなんですけど、冬は学習の時なんですよ。図鑑を見たりね。例えば、新宿御苑なんかにしても、色々な木があるでしょ。で、なかなか普段目に出来ないような木、代々木公園にしても、そういう公園の場合は幹に名札がついたりしているでしょ。すると、名前も覚えられるし、それと同じ木が郊外の森とか山すそに入っていくと、同じ地肌があるわけですよ。そうすと、それでまた1つ名前も覚えられるわけだからね。公園のこの時期っていうのは、広葉樹の場合は葉がないわけでしょ。そうすると、木の幹の肌で名札がついているから分かるわけね。葉が出てしまうと、葉のほうにばかり目がいって、葉の形で名前を覚えようとするわけですよ。それよりも、木の幹の地肌を触ったりするだけで、木の名前が覚えられると、どんな葉っぱの形であっても、後で結びつけることができるから、その方が覚えやすいですよ」

●じゃあ、今まさに学習の時として近場の公園に行くといいですね。私も今すぐ公園に行きたくなりました(笑)。私たちザ・フリントストーンはしばらく学習の場として知識を得て、『夏の洞窟』の洞窟を探しに夏ぐらいには探検隊で行きたいと思います。みなさんも『夏の洞窟』をご自身で探してみてください。

「そういう自然観察のヒントにはなってくれると思います」

●4月から新学期も始まるので、お子さんへのプレゼントとかにもピッタリだと思います。是非、この本は親子でご覧になっていただきたいですね。

「そうですね。お父さんお母さんに読んで欲しいなぁと思います」

●是非、みなさんで楽しんでいただければと思います。今日はどうもありがとうございました。


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■装丁家/エッセイスト/流木造形作家「荒川じんぺい」さん情報

小説『夏の洞窟』
くもん出版/定価1,470円
 「荒川じんぺい」さん初の書き下ろし小説。
 八ケ岳山麓に暮らす小学6年生の主人公3人が、夏休みの冒険でとんでもない事態に遭遇するという冒険もの。基本的には小学6年生から中学生といった児童向けになっているが、大人も充分楽しめる1冊。

『「自分の森」で元気になる』
朝日文庫/定価567円
 官有林を“自分の森”として定期的に歩き回り、山野草やキノコを食べたり、動物たちに出会って元気になるコツやトラブル対処法などをわかりやすく解説。

 尚、「荒川じんぺい」さんのホームぺージには、「荒川」さんのプロフィールや近況、そして自分の森の作り方などが詳しく掲載されているのでぜひご覧下さい。

・荒川じんぺいさんのHP:http://www.jinpei.com/

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. DREAM / FOREST FOR THE TREES

M2. 晴れたらいいね / DREAMS COME TRUE

M3. SING / CARPENTERS

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M4. ACROSS THE UNIVERSE / FIONA APPLE

M5. LIFE / DES'REE

M6. PRIMITIVE / ANNIE LENNOX

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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