2006年4月16日

「宇宙とは未来の可能性を開く扉」
 ~宇宙飛行士・野口聡一さんを迎えて

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは野口聡一さんです。
野口聡一さん

 宇宙航空研究開発機構/JAXAの宇宙飛行士「野口聡一」さん。ご存じのように「野口」さんは去年の夏、宇宙で大活躍されましたが、ここで「野口」さんの活動を簡単におさらいしておきましょう。

 「野口 宇宙飛行士」等7人のクルーを乗せたスペースシャトル「ディスカバリー号」は、家族や友人、関係者など沢山の人が見守る中、昨年の夏、日本時間、7月26日の午後11時39分に、フロリダ州NASAケネディ宇宙センターから打ち上げられました。このフライトで「野口」さんは、搭乗運用技術のミッション・スペシャリストとして、また、合計3回の船外活動の責任者として、熱防護システムの修理やタイルの隙間を埋める作業など、重要な役割を務められ、大きな成果をあげられました。そんな「野口」さんに宇宙で感じたことや国際宇宙ステーション(ISS)のことなどうかがいます。

宇宙から見た地球には命の輝きがある

スペースシャトル「ディスカバリー号」
7人のクルー

●去年のミッションからは大分、時間が経ちましたが、今、振り返ってみてどうですか?

「7ヶ月くらい経ちますが、意外に、宇宙で見たものや感じたことって、強烈さが褪せないものだなぁと感じました。何日目に何したとかっていうのはだんだん忘れつつあるんだけど(笑)、例えば、宇宙から見た地球の光とか、海の色とかっていうのはなかなか忘れないものだなと思いましたね」

●宇宙に出る前に訓練やシミュレーションを通してイメージしていたものと、実際に宇宙に行った時とではギャップとか違いってあったんですか?

「自分の体はもちろん、物も無重力で浮く感じっていうのは、地上では体験出来ないなと改めて思いましたね。打ち上げから8分30秒でいきなり無重力になるんですけど、その瞬間にケーブルとか膝に置いてあった鉛筆とかがブワブワ浮き始めるわけですよ。その瞬間に『これまでに思っていた場所と違うんだなぁ』って思いました。想像を絶するっていう言葉があるけど、地上での経験の延長にある世界ではないんだなと感じましたね」

●私なんかは本当にイメージでしかないんですけど、そういう所に行って無重力になったときに、胃がフワって上がる感じがしたり、体調がいつもと違って感じられるのかなって思ったんですが、実際はどうなんですか?

「なんとなく胃が口の近くにくるような感じはあるよね(笑)。あと、血が頭に上るって言うじゃない? そういう感じがスッときましたね。体の中の血液が頭の方に来るわけじゃないんですけど、足の方に引かれていたものが、全身に均等に行き渡るんです。でも、普段より頭に来ている血が多いかなっていうのは感じました」

●そういうので体調を崩されたりっていうのはなかったんですか?

「いわゆる宇宙酔いっていう言い方をしますけど、最初の1日2日、調子が悪いっていうのは程度の差はあれ、大体経験するんですけど、僕の場合には幸い気持ち悪くなったりはしなかったんだけど、最初は食欲があまりなかったりとか、なんとなく鼻が詰まる感じといった、風邪の初期症状のような、普段と違うなっていう感じはありましたね。すぐ慣れちゃうんですけど、最初の24時間くらいっていうのは、地上の体とは変わっているなっていう感じはありましたね」

●今、24時間という言葉を使ってらっしゃいましたけど、以前、JAXAの宇宙飛行士の古川聡さんに国際宇宙ステーション/ISSについてお話をうかがったときに、「1秒間に約8キロのスピードで地球を回っているので、大体90分で地球を一周する。だから1日に何度も朝と夜を経験するんだ」ってうかがったんですね。そういう状況の中で24時間っていう時間の感覚ってどうなんですか?

「逆に言うと、日の出、日の入りっていう時間に余りこだわらなくなりますね。例えば、普段生活していても曇りになったり、日が射して来たりってことはあるでしょ。それが、極端になったような、90分おきに真っ暗な世界と、お昼の世界が来るというだけのことであって、1日に16回日の出があるとか、あまりそれにこだわることはなかったですね。船外活動になると別ですけどね。外に出ている間は昼と夜とでは周りの景色が全然違うので、否が応でも『あと何分で昼になるのかなぁ』とか意識していますけど、宇宙船の中にいるときには意外に気にならないですね」

●船外活動をされるときって本当に真っ暗の中で作業をされるんですよね?

「そうですね。本当に真っ暗です。でも、ヘッドライトが付いているからね。ヘッドライトを点けて作業をするから手元は明るいんだけど、それ以外は本当に真っ暗ですね」

●それが、ある程度の時間作業をしていると、フワッと昼になるんですね。

「そうですね。日の出がやってきます。また日の出が早いんだよね。早いっていうのは、時間が早いんじゃなくて、真っ暗な世界から眩しくて目も開けられない世界に移るまでがほんの2、3分の差なので、ま、90分で地球を一周しているくらいですから早いんですけど(笑)、本当に移り変わりっていうのがドラスティックっていうか、真っ暗な世界からいきなり真昼に来たような変化はありましたね」

●過去に宇宙に出られた宇宙飛行士の方々が色々な言葉で「宇宙から見た地球」を表現してらっしゃいましたけど、野口さん的な言葉で言うと、宇宙から見た地球ってどうでした?

「眩いばかりの光と、圧倒的なリアリティって言うのかな。景色としての美しさももちろんあるんだけど、例えば、ガガーリンは『地球は青かった』って言ったけども、その青さが淡い青もあるし、すごく濃い青もあるし、深い青もあるし、エメラルド・グリーンのような珊瑚礁の辺りの緑もあるし、そういう時々刻々と場所と時間とによって変わっていく青なわけですよ。そういうのは命があるからこその変化だと思うんですよね。だから、それがリアリティであり、それが命の輝きであり、そういったものが手を伸ばせば届くようなところに、1つの天体として存在しているっていうのは強烈な体験でしたね」

いずれは宇宙からのジャム・セッション!?

宇宙空間で手を振る野口さん。ヘルメットに、カメラを手にしたロビンソン飛行士が映ってます。
船外の野口聡一さん

●野口さんは船外活動の責任者として活動されてきたわけですが、そんな船外活動の難しさってどんな点ですか?

野口聡一さん、3度目の船外活動中。
船外活動中の野口聡一さん

「船外活動は基本的に2人でやっているので、もちろん宇宙船の中から我々をサポートしてくれている飛行士もいるし、さらに言えば地上の管制センターの人達もサポートしてくれているんですけど、外に出ているのは2人なので、その2人のあうんの呼吸で動けるかどうかっていうのが大事になってきますよね。通信が途絶えてしまったり、何かあったときには相棒しか当てにならないので、本当にあうんの呼吸で相棒とチームワークを高めていかなきゃいけないので、それが一番難しかったですね。幸い、僕と相棒のロビンソン飛行士は4年ぐらい一緒に訓練して、あうんの呼吸で同じようなものの見方ができるところまで仕上げられたので、それは本当によかったと思いますね」

●今年は冬期オリンピックなどもありましたし、野口さんも「日本代表!」とか国を代表してという気持ちがあると思うんですけど、宇宙に出ると国とか国境って関係なくなっちゃうんじゃないですか?

「そうですね。そういう言い方もあるし、自分が日本の代表で行っているっていう感覚もあるんですよね。だから、人類の代表っていう言い方をしてしまえば、人類全体の活動の前に国なんて関係ないっていう意見もあるけれども、やっぱり日本は日本で頑張って国際宇宙ステーションっていう計画に参加して、人を送れるわけだから、世界全体で見て国際宇宙ステーションという舞台に代表選手を送れる国ってそうはないわけです。今回は私が幸いにして行きましたけど、僕以外の人が行っても誇りに思うでしょうし、行ったからには日本代表として頑張って欲しいなぁって思いますね。つい先日も、ワールド・ベースボール・クラシックで大活躍されていましたけど、そういうのを見ると嬉しいわけですよ。それに近いような感覚がありましたね」

船内の野口聡一さん。
左が共に船外活動をしたロビンソン飛行士。
右はパイロットのケリー飛行士。
船内の野口聡一さんとクルー

●宇宙にいる間はお忙しいスケジュールが組まれていると思うんですけど、オフの時間等はどういうふうにして過ごされているんですか?

「スペースシャトルの場合には本当に分刻みでスケジュールが詰まっているので、なかなかオフの時間がないんですけど、宇宙ステーションの場合には、例えば6ヶ月とかいたらその間にお休みの日っていうのが結構あるわけですよ。で、僕は窓から見る地球はいつまで見ても飽きないと思ったし、そういうのをゆっくり見ていたいなぁと思っていましたね。キーボードの演奏とかもちょっとやりましたけど、宇宙ステーションには、実はギターもあるんですよね。僕の船外活動の相棒のスティーブ・ロビンソンはギター・プレイヤーなので、宇宙ステーションでギターをジャンジャン弾いてました。そういうのを持っていくのは割と自由にできるところなので、そのうち、宇宙ステーションからジャム・セッションとかあるかもしれないですね」

●楽しそうですね! 今、戻られて、搭乗運用技術のスペシャリストとして、今後の課題などってありましたか?

「次は、できれば長期滞在で行きたいなと思うんですけど、宇宙ステーションでゆっくりじっくり無重力に浸って、地球の刻々と変わる姿を見たいなと思います。その上でスペースシャトルはアメリカ人クルーとのお仕事が中心なんですけど、国際宇宙ステーションはロシア、アメリカ、日本、ヨーロッパ、カナダっていう国が主に参加していて、その中でもロシアの比重が高くなるので、ロシア語の勉強もあるし、ロシアの宇宙船の理解にこれから注力していこうかなと思っております」

●学生の頃って勉強を好きな人ってあまりいないと思うんですよ。でも、自分が好きなことに向けてやっているときの勉強ってはかどったりとか、前向きに取り組めたりするじゃないですか。野口さんのロシア語も前向きに進んでいるんじゃないですか?

「そうですね。僕達の言い方で訓練って言っちゃうけど、それをすることで広がる世界とか、自分が出来ることっていうのが広がるわけじゃないですか。本当は学校の勉強もそうだと思うんだけどね。それがちょっと伝わりにくいから、やらされているっていうような感じで、つまんないと感じることが多いかも知れないけど、英語もそうだし、ロシア語もそうだし、それを身に付けることで広がる新しい可能性とか、自分の能力とか、そういったものがハッキリ見えてくると、勉強楽しいっていうか、訓練楽しいと思えるんじゃないでしょうかね」

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宇宙から見たオーロラ
宇宙から見たオーロラ

 ミッション・スペシャリストとして大活躍した「野口聡一」さん。ミッションの合間、8月4日には、出身中学の生徒さんたちと交信を行ない、子供たちからの質問に答えたり、最後には元気な子供たちからのエールを送られたり。また、フライト中に出身地である茅ヶ崎からライトアップでの応援もあったんですが、実は残念ながら天候不良の為、実際には見られなかったんだとか。でも「野口」さんは江ノ島や烏帽子岩など、宇宙から地元周辺の写真を沢山撮影されたそうです。

 そんな「野口」さんにとって、地球やご家族との繋がりを更に感じられる楽しみの一つは、ウェイクアップ・コール。実はスペースシャトルでは、宇宙飛行士の毎日の起床の音楽として、クルーにちなんだ曲が放送されるというのが、長年の習慣となっているそうで、「野口」さん用のウェイクアップ・ソングは、映画『となりのトトロ』のオープニング曲『さんぽ』のスペシャル・バージョン。「野口」さんのお子さんも含む「ヒューストン日本語補修校」の小学1年生の生徒さんたちによって録音されたものでした。“宇宙を楽しく散歩してください”という気持ちで歌ったという子供たちのとっても可愛らしい歌声を聴いて「野口」さんも嬉しそうに交信していました。

 さて、もう一つ「野口」さんが宇宙で楽しんだのは、様々な宇宙食。中でもスペース・ラムラーメンやカレーが美味しかったそうで、ロシア・モジュールに出かけた時に他のクルーと一緒に食べたり、お茶会を開いて羊羹なども食べたそうで、みんなにも大好評だったそうです。

 このように、楽しいこともあったようですが、打ち上げの延期や着陸地点の変更など、色々なトラブルもあった今回のミッションは、シャトルのクルーと地上との連携で様々な困難を乗り切り、大成功を収めたと高く評価されました。

船外の野口聡一さん

月に立つのが夢です

●宇宙飛行士として子供達にメッセージはありますか?

「自分がやりたいことを真っすぐ見て、それに向けて毎日ちょっとずつでもいいから、進んでいってもらいたいですね。大きな夢っていうのはどうやっても急には叶わないわけですよね。ちょっとずつちょっとずつ積み上げていった先にしか、夢の実現っていうのはないから、中間段階を飛ばしていきなり成功するっていうのを夢見ずに、一歩一歩を地道に積み重ねていくことを考えて欲しいなぁと思います」

●幼いころの夢を忘れかけてしまっている大人たちへのメッセージはありますか?

「いくつになっても夢を追いかけるっていうのは大事ですよね。もちろん、子供と違って大人には生活があるから、そんなに夢ばかりを追いかけていられないっていうのも分かるんですけど、やりたいことがあって、それが実現する価値があることであらば、少しずつでも進んでいくことが大事だと思います」

●今のところ、2010年にISS/国際宇宙ステーションが完成する予定だということで、それが完成すると野口さんもそこで長期滞在ということもありえますね。

「そうですね。ただ、2010年に完成とはいえ、今すでに宇宙ステーションには人がずっと住んでいて、色々な活動をしているわけですよね。だから、最終的な完成予想図にはなっていないけれども、部分的に出来てきているので、僕も2010年を待たずに、例えばその前の、きぼう実験モジュール打ち上げの段階とか、最終的な完成の前の時点でまた飛べればいいなと思っています」

トーク中の野口聡一さん

●野口さんご自身にとっての夢は何ですか?

「まずは長期滞在に向けて一歩一歩訓練をしていきたいと思いますし、できたら、月にいつかは人間は戻ると思うので、アポロ計画から30年以上経っちゃいましたけど、きっとまた月面に人が立つ日がやってくると思うので、そのときにそのメンバーになれたらいいなと思いますね」

●最後に、野口さんにとって宇宙とは何ですか?

「宇宙っていうのは未来の可能性を開く扉であると思います。宇宙で人類の新しい可能性っていうのも生まれてくるんじゃないかと思っています」

●今日はどうもありがとうございました。


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■JAXAの宇宙飛行士「野口聡一」さん情報

『スィート・スィート・ホーム』

新刊『スィート・スィート・ホーム』
木楽舎/定価、1,200円
 宇宙飛行士になる夢を実現するまでの10年間の軌跡を綴った1冊。宇宙飛行士を支える人たちの興味深い話なども記載。

■『筑波宇宙センター』特別公開

 『きて!みて!宇宙がいっぱい』というキャッチフレーズのもと、「野口」さんも訓練を行なった「JAXA」の「筑波宇宙センター」が特別公開されます。普段、見ることのできない宇宙開発の施設や、最新の活動、プロジェクト内容などを紹介する他、遊びながら人工衛星を学ぶコーナーや、宇宙食のデモンストレーション、打ち上げ音響体験、水ロケット教室や、宇宙飛行士「向井千秋」さんによる『ミニミニ宇宙学校』(人数制限あり)など、盛り沢山のイベントを予定。

■「宇宙航空研究開発機構/JAXA」の公式ホームページ

 宇宙飛行士のことや国際宇宙ステーション(ISS)のこと、また、宇宙開発などについて詳しく知りたい方など、宇宙に興味のある方は見逃せない、とても充実したサイトです。今回、野口さんが行なったミッションの写真や映像は「JAXAデジタルアーカイブス」で見ることが出来ます。
HP:http://www.jaxa.jp/

「NASA」の公式ホームページ
 NASAのこちらのページでも、野口さんが行なったミッションの模様を見ることが出来ます。
HP:http://spaceflight.nasa.gov/gallery/images/shuttle/sts-114/ndxpage1.html

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. アポロ / ポルノグラフィティ

M2. STAR / EARTH, WIND & FIRE

M3. 世界に一つだけの花 / SMAP

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

M4. YOU'RE THE UNIVERSE / THE BRAND NEW HEAVIES

M5. GOOD DAY SUNSHINE / THE BEATLES

M6. ASTRONAUT / DAVID MEAD

油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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