2006年4月30日

NHK小林達彦チーフ・ディレクターの「野生動物の魅力」

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは小林達彦さんです。
小林達彦さん

 NHKで20年近く自然番組を手掛けている番組制作局・科学環境部チーフ・ディレクターの「小林達彦」さんをお迎えし、世界で初めて撮影に成功した幻のアムールヒョウや、野生パンダの撮影エピソードなどうかがいます。

幻のヒョウを捉えた瞬間

『アムールヒョウが絶滅する日』

●小林さんは今までにも色々な動物達の声を聞いたこられたと思うんですけど、その中でも特に思い入れの強い動物というのがアムールヒョウだそうで、去年、『アムールヒョウが絶滅する日』という本を経済界という出版社から出してらっしゃいますが、このアムールヒョウにすごい思い入れがあるそうですね。

「そうなんです。随分前にさかのぼるんですけど、1990年にシベリアを横断するという取材旅行の時に、たまたま立ち寄ったウスリースクっていう田舎の街があるんですけど、そこに小さい博物館がありまして、その博物館に虎よりも少し小さくて、斑点のついた動物が鎮座していたんです。よく見ると、紛れもなくヒョウなんですよ。それで、僕はたくさん写真を撮りまして、『こういう生き物が隣の知らない国にいるんだ』と思いまして、その取材が終わって日本に戻っても、自分の頭の中では『なんとかして野生の状態で様子を撮ることが出来ないかな』とずっと思い続けていたんです。その時の印象が相当強くあったので、これをずっとやり続けていこうという気持ちになったんだと思いますね」

●小林さんはアムールヒョウの撮影に世界で初めて成功されたそうですね。

「そうです。ロシアの写真家のユーリー(・シブネフ)さんという方が継続して30年間ずっとスチール・カメラで写真を撮られてきたんですけど、ムービーのカメラで撮影したのは僕らが初めてだと思いますね。もともと、ネコ科の動物っていうのは非常に神経が細やかで警戒心が強くて、なかなか人の前に姿を現さないんですよ。なので、ユーリーさんから『君たち無理だよ。諦めたほうがいい』と言われたんですけど、今さら帰るわけにもいかないし、『なんとかワン・カットでも撮って帰るしかないんじゃん』っていう話になりまして(笑)、もう1度、夜にこっそりユーリーさんの家に行って、『どうしても撮りたいので、頼むから他に方法がないか教えて欲しい』とお願いしたら、『ヒョウのよく来る場所に家でも建てるか』っておっしゃったんですね。でも、自然保護区の中に家を建てるわけにいかないじゃないですか(笑)。なので、『それは無理だ』と言ったら、『じゃ、木の上にテントでも張って、そこで待ってみるか』ということを冗談でおっしゃったんですね。それが僕とカメラマンには冗談に聞こえなくて(笑)、『なるほど。それはいいアイディアですね!』ってことになったんですね。そして、保護区の中で1番ヒョウが頻繁に通る、ある種、ヒョウの交差点のような場所がありまして、その近くにいっちょ作ってみるかということになって、20メートルくらいある高い木の上に土台を組んで、その上に撮影用のテントを張りましたよ。で、張ったはいいけれども、『我々はここに何日間いるのかね?』って言ったら、『撮れるまで帰らないんだろう。それまでずっとそこにいればいいじゃん』と言われまして、結局、マイナス30℃で夜も寒いし、食料だって何ヶ月分も運べないので、一週間が限度だろうと私たちは思って、寝袋も用意して待ったんですよ。で、何日も何日も待ちまして、一週間が過ぎて、朝起きたらそこにヒョウがいるんですよ! 僕もカメラマンもビックリしまして、体が凍りましたね(笑)。それで、余すところなくわずか40分くらいの間の、テントの前にヒョウがいた瞬間を逃さずに撮りまして、で、カメラマンが言うんですよ。『俺、ファインダーを見てるんだけど、ヒョウもこっちを見てるんだよ。あいつ分かってるよ。俺たちがここにいることも見えてる。何か言いたいんじゃないの』と。『人間のおかげでこういうことになっちゃたんだ』ということを言いたかったんじゃないかなって、今になって思うんですよね。なので、今まで頑張っても撮れなかったのが、僕達みたいな旅人が行っただけで撮れたっていうのは、そういうことを言いたかったからじゃないのかなって、考え方次第かも知れませんが、僕達は考えたんですよね。で、これは何か背景があるに違いないと思って、単純に生態だけを撮るんじゃなくて、彼らの置かれた状況っていうのを取材してみようということになって分かってきたのが、今、30頭から40頭くらいの数しかいないっていうことと、様々な絶滅の危機に瀕している理由があるんだっていうことが徐々に分かってきたんですよ。でも、あの時に見たヒョウの眼差しっていうのが忘れられなくて、射るような目っていうか、瞳の部分だけがグワーッと飛んできたような感じで、私たちも一瞬、凍りましたね。完璧にフリーズしたっていうんでしょうかね」

アムールヒョウを守るプロジェクト

小林達彦さん

●アムールヒョウが絶滅寸前っていうのは、今の感じでいくと種は保てそうなんですか?

「難しいですね。今、WWFっていう自然保護基金のロシア支部が、このヒョウを守るためにはどうしたらいいのかということに力を入れていまして、ロシアにいるヒョウっていうのが絶滅の危機に瀕している状況は依然として変わりはないんですけど、お隣の北朝鮮と中国にもアムールヒョウがいるんじゃないかと説が出始めたんです」

●陸続きですもんね。

「そうですね。もし、いるんだとすると、そこのヒョウとロシアのヒョウと交流させて、どうするのかは分かりません、捕まえるのかもしれませんけど、それによってシャッフル状態、交流をすることで、血がどんどん濃くなっていって血縁集団ばかりになるのを避けることができるんじゃないかという狙いらしいんです」

●そもそも、絶滅の危機に瀕してしまうくらいに減った原因って何なんですか?

「いくつかあるんですけど、ひとつは毛皮なんかを目的とする密猟です。人為的なものです。ふたつめは、中国との国境線に近いということで、割と中国人が密入国してきて、ヒョウの骨を漢方薬の材料にするらしいんですよ。何に効くのか僕には分かりませんけど、滋養強壮に良いらしくて、お酒に入れたりして飲むんでしょう。そういうことをやるために入ってきてはヒョウが減っていったということなんです。それから、みっつめは北朝鮮が今の韓国と戦争を始めたときに、ロシアと朝鮮と中国との国境線っていうのがまだ定かではなかったんですね。で、朝鮮戦争が始まったときに、そこに国境線を引いて柵を築いてしまったので、結局、ヒョウもヒョウの餌となる生き物たちも柵によって寸断されてしまったわけですね。行き来が出来ないんですね。それで、1991年にソビエトが崩壊してロシアになりました。市場経済になったので、とにかく外貨、お金を獲得しなければいけなくなって、お金を獲得するために森林伐採を始めちゃったんですね。で、木を切って韓国や、こともあろうに日本なんかにも売って、儲けようということになったんですね。で、もっと最悪なのが森に火を点ける人が現れたんですね。それは、結局、食べるものがなくなったんでしょう。お店に行ったって売ってないんですから。森に火を点けて山火事を起こして、シカやイノシシなど全部追いだして、それを捕って自分の家に持ち帰って食べようという人達が結構現れたんです。失業者が多い時代だったので、そういう地域っていうのは、そうせざるを得ない事情があったんだと思うんですけど、森に火を付けちゃったために、ほんの少し残っていた森も燃えてしまって、ヒョウもどんどん追われていっちゃったという状態で、今に至っているということなんです。
 それで、今、地元のロシアのWWFの人達がやろうとしているのは、大きくいってふたつあるんですね。先程言った、火を点けてしまう人達を生まないことですね。そこに雇用の場を与えたらどうだろうと。で、ヒョウが棲んでいる森の大半がモンゴリナラというナラの一種が生えていて、その木は山火事になっても根っこは残っていて、すごく強い植物なんですよ。だから、1回山火事にやられて数年経つと、山が全部モンゴリナラになってしまうんです。で、彼らが考えたのが、そのモンゴリナラを切って、それで家具を作ったらどうだろうと。つまり、家具会社をそこに設立して、家具を作って地元の人達をそこで雇用すると、一石二鳥ですよね。それを『モンゴリナラ・プロジェクト』っていうんですけど、それがまずひとつ。それからもうひとつが、自然発火で山火事になるかもしれないんですけど、山火事になったときにヒョウの森を守るための防火林を植林したらどうかというプロジェクトがあるんです。つまり、一番いい場所にヒョウの森を守るような形に植林をすると、おそらくいいんじゃないかと。このプロジェクトふたつを進めていて、もうひとつは成功するか分からないんですけど、北朝鮮と中国にひょっとすると、ヒョウがいるかもしれないという可能性を追求して、そこに各々森の回廊をつくろうと。これを『コリドール計画』っていっているんですけど、これを作ることで、今まで隔絶していたヒョウがひとつにまとめられるのではないかということをやろうとしているんですよね」

パンダがお粥を食べる!?

『誰も知らない野生のパンダ』

●小林さんはアムールヒョウ以外にもパンダについての御本も出してらっしゃいます。その本というのが経済界から出ている『誰も知らない野生のパンダ』。御本を読ませていただいて、番組も拝見させていただくと、野生のパンダって本当に違うなって感じたんですが、実際に野生の中で会ったときってどうでしたか?

「怖かったですね。自分自身もパンダを初めて見たのは、みなさんと同じで上野動物園だったんですけど、まず、タイヤで遊んでいなかった点が違いましたね(笑)。黒い目の縁っていうのは縁でありまして、目じゃないんですよ。あの奥に目があるんです。その目がすごく怖いんですよ。ジーッと見ている目つきを見たときに、『本当に野生の中で生きている生き物なんだな』って思いましたし、表情が豊かなんですよね」

●パンダって中国の宝物っていわれているんですよね?

「国家第1級の保護動物です」

●撮影するにはかなり大変なところにパンダは棲んでいるんですよね?

「そうですね。元々パンダは3500m~4000mくらいの山の、主に竹林に棲んでいるんですけど、みなさん、竹林っていうと想像がつかないと思うんですけど、一言で言うと危ないんですよ。針が山の斜面に刺さっている感じなんですよ」

●中国の竹っていうと、大きな竹っていうよりも笹っぽいんですよね?

「そうですね。割と細身なんです。それが山の斜面に密集していて、1回その中に入ると、『あれ? 俺、どこに来たんだっけ?』って分からなくなるくらいの深い竹の森なんです。その中に入って、傾斜も物凄くきつくて、1回その山に登って取材の拠点に戻ると、取材班達はものも言えないくらい疲れてしまいまして・・・(笑)」

●機材も重いですしね(笑)。

「ええ。機材も重いですし、毎日が登山の連続でそれを登らないと、パンダちゃんがいる場所には行き着けないものですから、行くしかないんですよね。でも、よく考えてみると、そういう場所だからこそパンダが生きていけるし、そういう場所も彼らにとっては何でもないんですよね。本当にすごいスピードで上がったり降りたりするんですよ。繁殖期になったりすると、オスとメス同士が割と戦ったり、噛みついたりするんですけど、怪我したパンダが民家のそばに来たりするんですよね。そうすると、村の人達は保護活動の影響もあってか、パンダちゃんに対しては非常に親切にして、自分の家で中国式のお粥を作ってパンダちゃんに与えるんですよ(笑)。そうするとパンダちゃんも『いやぁ、どうもどうも』って感じでそこで座ってお粥をおいしそうに食べるんですよ(笑)。僕もビックリしまして、『こういうことがあるのか』と思いましたね。
 中国っていうのは何千年の歴史を持っている場所ですから、長くゆったりとした時間の中で育まれていったものがあって、この百年間の間で人間は随分と文明を発展させて、科学的なものや文化、都市の開発などをしてきましたけど、あの辺のパンダと人の関わりっていうのは、永久に変わらないんじゃないかと僕は思うんですよね。それが結局、ちょっとしたことでパンダの数を増やすことができたんだと思うんです。つまり手を加えないということが、自然体で生きていくということが、パンダがこれからも生きていくための場を提供してくれるというか、まさに自然という言葉そのものですよね。そういうことを現地で学びましたね」

星を介して世界が繋がった感じがした

小林達彦さん

●小林さんは海外で深い自然の中だったり、貴重な生き物達を見ながら過ごしてらっしゃるじゃないですか。撮影を終えて、都内に戻ってらっしゃって、都会の空気というのはどうですか?

「いい質問ですね。本当に大秘境で、って秘境っていうのは卑怯者の卑怯じゃないですよ(笑)。大秘境で取材をして戻ってくると、ホッとすることがあるんですよね。人の音が聞こえたり、ビルが見えたり、電車が通りすぎていったりというのに一時、安心するんですよ。『これが、人間なのか』と。社会の組織の中にいる人間なんだって感じるんです。でも、それも束の間で、それが1週間もするともうダメで(笑)、うるさくてしょうがなくてダメなんですよね。また、自然の中に入っていって、身を置いてきたいっていう気持ちになりますね。住んでいるのが東京なものですから、東京に戻ってきて思うのは、星を見るんですね。ヒョウのロケやパンダのロケに行っていた時も、空を見上げると同じように星があるんですよね。そういったときに東京に戻ってきてあのオリオン座を見る。『あ、あのオリオン座を同じ状態で、アムールヒョウやパンダもおそらく見ているんじゃないか。その下に彼らの暮らしもあるんじゃないか』と思った瞬間に、繋がったかなと思ったんですね。こういう状態で常に地球の中にいる生き物達、カナダのホッキョクグマだったり、バイカル湖のアザラシだったりするわけですけど、そういう生き物達が同じ地球の上に生きていて、それを自分も同じ地球の仲間として見ていて、星を仲立ちとして繋がっているみたいな気持ちがするんですよね。それで、『今は行けないけど、1ヶ月後に行くから待っててね』みたいな感じで(笑)、誓いを立てているという状況ですね」

●私たちはその星を見ながら、「もうすぐ小林さんが行って素敵な番組を作って、私たちはそれを見せてもらうからね」っていう気持ちで、これからは星を眺めたいと思います(笑)。小林さんは4月からNHKで新しい番組『ダーウィンが来た! 生き物の新伝説』というのがスタートしたんですよね。

「そうです。日曜日の時間帯になるんですけど、夜の7時半から総合テレビでの放送で、30分の番組なんですけど、これはまだ発掘されていない新しい伝説を紹介していくという番組です。大体、伝説っていうと語られているものを言い伝えていくっていう印象があるんですけど、新しい伝説がこの時点から始まるという、知らなかった動物の生態や不思議な世界というものを綴っていこうという番組がスタートしました」

●楽しく拝見させていただきます。また、面白いお話を番組に遊びに来ていただいて、うかがえればと思います。今日はどうもありがとうございました。


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■NHKのディレクター「小林達彦」さん情報

 NHKで『地球!ふしぎ大自然』や『NHKスペシャル』など、主に自然番組の制作を担当されている番組制作局・科学環境番組部のチーフ・ディレクター「小林達彦」さんの野生動物に関する2冊の本:

『アムールヒョウが絶滅する日』
経済界/定価、1,680円
 ロシアに30頭ほどしか生息していないアムールヒョウを世界で初めて映像に収めたときのエピソードなど、興味深い話が満載。

『誰も知らない野生のパンダ』
経済界/定価、1,680円
 私たちが動物園で見慣れているパンダの野生の姿やその生態などを詳しく綴った本。

番組『ダーウィンが来た!生きもの新伝説』
 4月から毎週、日曜の夜7時30分からNHKで放送されているこの番組は、伝説ともよべる、大自然に眠る驚きの物語を発掘しながら未来へと語り継ぐナチュラル・ヒストリー番組。
 「小林」さんが担当したシロクマの放送は6月11日(日)に予定されています。タイトルは『大接近!白くま 氷海(ひょうかい)を泳ぐ』。ぜひお見逃しなく!

・『ダーウィンが来た!』のHP:http://www.nhk.or.jp/darwin/

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. WILD WORLD / CAT STEVENS

M2. EYE IN THE SKY / ALAN PARSON'S PROJECT

M3. IN THE FOREST / VAN MORRISON

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M4. MAKING MOVIES / RICHARD JULIAN

M5. NATURALLY / KALAPANA

M6. HEAVEN IS A PLACE ON EARTH / BELINDA CARLISLE

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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