2006年6月11日
ムツゴロウさんこと畑正憲さんを東京ムツゴロウ動物王国に訪ねて今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは畑正憲さんです。ムツゴロウさんこと作家の「畑 正憲(はた・まさのり)」さんを「東京ムツゴロウ動物王国」に訪ね、もうすぐオープン2周年を迎える王国のことや、動物と心を通わせるムツさん流のコツなどをうかがいます。 乗馬で心の自由度を学ぶ
●私たちは東京あきる野市にあります東京ムツゴロウ動物王国に来ています。私、ここに来たのは初めてなんですが、北海道からこちらに移られてから2年も経つんですね。 「そうです。月日が経つのは早いですね」 ●2004年の7月に東京ムツゴロウ動物王国はオープンしたわけですけど、そもそも東京にムツゴロウ王国を持ってきちゃおうと思ったキッカケはなんだったんですか? 「最初は千葉の流山だったんですよ。で、僕が最初にそこへ連れていかれまして、広い場所だったんです。それで、『ここで何かをする時にアドバイザーになってくれないか?』って言われたんですね。それで僕は『これは面白い!』と思ったんです。千葉は東京の台所ですからね。現在、私は農業をすごく憂慮していまして、農業というのは農家という芯があって、その周辺の人達に食べてもらうということで成り立つものがいちばんいいと思っているんですね。こういうのはグローバル化すると大資本が入ってきて、巨大農場になるんですね。そうすると、私の立場から言うと、品種の問題がたくさん出てくるんですよ。品種というのは無限母集団、つまりたくさんの同じ品種があって、それが交配して出て来た子供は健全なんです。人間が品種を作るとひとつでしょ。それからどんどん増やしていくと、ひとつから増えるわけですからとても怖いことなんです。血族結婚になるわけですから、遺伝子情報を最終的にはゼロにする繁殖方法なんです。ですから、3年、5年、10年と経っていくと、どんどん薄くなっていくわけですよ。だから、僕はそういう面では農業というのは大きくしちゃいけない。そして、ひとりの人間が自分の目が届く範囲の中で野菜でもなんでも作っていく。それが、一番正しいやり方だと思っていたから、そこを見た途端に、『野菜をたくさん作って、そこへ東京の人に来てもらって、流山だけじゃなくて、ネットワークを作って、農業のための施設にしませんか?』って言ったんですよ。そうしたら、企画を立てた方が『それじゃインパクトが足りません! 移ってきて下さいよ!』って言うんですよ(笑)。で、私も年取っていましたし、だんだん動けなくなるということを考えていましたから『いいですね!』って言ったんですよ。『馬が走れるような場所を作ってくれたら、ウチから行きますよ』って言ったのが流山の案だったんですよ。それが、どんどんねじ曲がりまして(笑)、ついにここまでになっちゃったんです。私は千葉に行きたかったんです」 ●この東京ムツゴロウ動物王国でも、乗馬が楽しめるんですよね? 「はい。これは、子供達に是非とも動物と心のコミュニケーションを取ることを学んで欲しいという意図があるんですね。で、普通、学校や両親から『動物はかわいがらなきゃいけないよ』、『動物を愛しなさい』と習いますよね。例えば、向こうから猫が来ると、『いい子ねー。よしよし』って言って抱いて撫でてあげますね。向こうから犬が来ると『よしよし』って抱いてあげますね。そういうことをまず学ぶんです。ところが馬の場合は、これでは馬は動かんのです。もうひとつ、大切な愛があるんです。それは、馬を叱ることです。相手の心の上に乗っかることです。『よしよし』じゃダメなんです。『この野郎! 一緒に仕事するぞ、こら!』っていう激しい気持ちも愛の一部なんですね。そういうものを相手に伝えなきゃいけない。で、そういう激しい部分を絶対に子供達は前に出さなきゃいけないんですね。それを学ぶのには馬が一番いいんですね。『いい子だねー。よしよし』っていうのが動物と遊ぶとか、動物とコミュニケーションを取ることだと勘違いしている。それは入口です。どうして『一緒に遊ぶぞ、この野郎!』、『さぁ、駆けるぞ!』、『お前、あっちまで行こうぜー!』って言って、どうして激しい気持ちにならないんだろう。だから、そういう面で心の自由度がないんですね。馬の場合はそれがないと乗れませんから。馬が動きませんから。それを乗馬で自ずと分かってもらう。そうすると、友達と付き合うときでも、声の使い方や体の使い方が違ってくるんですね。それが、動物としての人間生活にとっては、とても大切なことだと思っています」 五感を使って外界を学ばせよう●今年3月にムツゴロウさんが出された本が『人という動物と分かりあう』というタイトルなんですが、その中に「善意のネグレクション」という言葉があって非常に興味深く話を読ませていただいたんですが、この「善意のネグレクション」というのをご説明していただけますか?
「これの一番分かりやすい例は、子供を育てるでしょ。子供を育てるときに危険にさらさないで、全部親である自分が面倒見る。『それ、危ないからダメ!』、『表へ行って遊ぶと、知らない人が来て誘拐されるからダメ!』、『そこはコンセントがあって危ないから、真ん中に来て遊びなさい』って言ってしまうこと。幼い生命っていうのは、犬も人間もみんなそうですけど、自分の知覚で外界を知りたいんです。五感を使って外界を知りたいんです。ハイハイするときからそうです。ずっと這っていって、部屋の隅に段ボールがあったら、それにつかまって歩こうとして、段ボールがガラガラッと倒れて『ふぅー!』っとなって身を引くわけです。幼い子供ほど、臆病なんです。それで、怖いとか、危ないっていうのは命自身が持っているんです。で、そういうことを貯めていくことが心ができるということなんです。それで、『あれもしちゃいけない。これもダメ』って全部、遮へい幕を作るでしょ。すると、五感を使っての外界知覚ができなくなる。僕はこれを善意のネグレクションっていっているんですね。ネグレクションっていうのは虐待から来たんです。虐待の場合は、親が子供を叩いたり、タバコの火を押し当てたり色々な虐待があります。でも、その中で子供に一番影響が深いのが無視することです。ひどい例がいっぱいあるんですよ。ガレージに閉じこめて、あのコンクリートの空間に自分がいないときは放っておく。そうすると子供の脳は五感を使わないから発達が悪くなってくるんですね。そうすると大きくなって色々な問題がたくさん起こってきます。
抑制作用を作っていくことが、子供を育てること●つい先頃、『人という動物と分かりあう』というご本を出されたムツゴロウさんなんですけど、子供達の五感を発達させるためにも自然と触れたり、生き物達と触れることというのはとってもいいことなんですよね?
「これは、生き物に限らないで下さい。なんでもいいんです。子供にとりましては、落ちているゴミ、それから部屋の隅に積まれている得体の知れないゴミ、そういったものまで、ある冒険の世界なんですね。それをひとつ触るたびに、脳は非常に大きな発育をしていくんですね。この本にも書きましたけど、カナダの実験なんですけど、犬の子を無刺激の部屋で育てたんですね。そうすると、痛覚さえ失ったんですね。子供だって親が過保護ですと痛いという感覚を学ぶことが出来ないんです。痛いという感覚は遺伝によって私たちの体に伝わって感じることが出来るんですけど、発達の段階でそれは非常に社会的なものになるんですね。例えば友達と握手をする。でも、手は握りつぶさないですよね。相手が快感を覚える強さで握る。それが、痛みの感覚の学習ですね。そういう学ばなきゃいけないことが数えきれないほどあるんですね。だから、そういうものを学んで、脳は必要なものを作っていくし、それと同時に抑制をしていくんですね。で、大脳の一番大切な要素は抑制なんです。私は今、あなたと対面しています。いきなり拳でぶん殴らないでしょ。あなたがいかにセクシーであろうとも、つかみ掛からないし、抱きつかない。これは、私の脳の中に抑制作用があるからです。で、そういう抑制作用を作っていくことが、子供を育てるということなんです。ですから、この抑制作用は隔てることでは出来ないんです。実際にその子が味わっていって初めて出来ていくものなんですね。
●馬も同じですか? 「同じです。私のところの馬は絶対に蹴らないです。だから、北海道の僕のところに馬が100頭くらいいますけど、100頭が集まってきますね。押し合いへし合いします。で、私がその中に入っていきます。絶対に何もしません」 ●それはムツゴロウさんだからですか? 「いいえ。これは、馬の心をどう育てるかというのが基本ですね。だから、例えば馬に浣腸しなければいけないときがあるんです。ここ(東京)でも1回あったんですけど、そのときに馬が蹴らないように普通は枠場というのに馬を入れて固定しちゃうんです。それでお尻の穴に腕を突っ込むんですけど、私の場合をそれを何十回とやって来ましたけど、どの馬も枠場に入れたことはありません。馬に話しかけるんです。『いいかい? 今、お前は腹が痛いだろう。俺、浣腸するよ。何でもないからね、これをやるとよくなるよ』って言って、馬のお尻にほっぺたを付けて触りながら『いいかい? 今からやるよ』って言って、ズブーッとお尻にホースを入れて浣腸するんですよ。1回も蹴られたことありません」 ペットを飼うということは、一緒に生きること
●子育てをする上で気を付けるべき点を教えていただけますか? 「人間の生活はどんどん変質していると思うので、その親達の変質が子供達に直に伝わること、これが今、私が非常に恐怖しているところなんですね。親達が走らない、跳ばない、泳がない、味わわない。例えば、ここにカツオが1匹いたとします。新鮮です。スーッと開きます。中から赤い身が出てきます。その赤い身を見て『うわぁ、おいしそうだ!』って言って体が震えない。こういう親達の思考とか生活態度とか感性が今、鈍っている。その鈍っているところが子供に直に出てきているという点が私は非常に恐怖しています。いつも牛肉や豚肉を食べている人が、いきなり『ムツゴロウさんは動物を殺せますか?』って聞いてくるんですよ。で、『おう、殺せるよ』って答えると、『あんなにかわいがっているのに、どうして殺せるんですか?』って言うんですよ。食べる牛肉と、生きている野原の牛と繋がっていないんですよ。野原から一頭の牛が命をなくしてここまで来てくれている。で、殺すのに首を切ったときの血とか、あの目つきの裏返った目とか、だんだん冷めていく体温とか、そんな汚いことを全部除いている。本当につらい世の中だと思います。本当につらいです。死ということ、命ということの区別があまりつかなくなるわけですね。もう、感覚的に死さえ認識できなくなっている。これはとても怖いと思います」 ●では一体、どうするのがいいでしょうか? 「野育てにするとか、出きるだけ生きているものに触ってもらうことでしょうね。だから、馬にもどんどん乗ってもらう。で、怖いということ、馬がきちんと走ってくれたときの快感、感謝、そういうものを全部自分の体の中に入れていくことが大切だと思いますね」 ●一番身近に触れ合える動物に犬や猫などを始めとしたペットがおりますが、これから飼おうとしている方達にアドバイスはありますか? 「僕はいつも『苦労して下さい』って言っているんです。それと、『マニュアルで捕まえないで下さい』って言いますね。目の前にカワイイ子犬がいたら、まるごと『お前よく来たな! かわいいな。よし、一緒に生きよう!』って、これで充分です。それから、爪が伸びたり、病気をしたり、トイレのしつけが出来なかったりして苦労するでしょ。その苦労も面白いじゃないですか。それを人任せにしないで、自分の体で味わっていくことが、生きているということですから。犬を1年育てると、そこには自分が反映して変えた、他では存在しえなかった生命体が出来ているんです。それがペットを飼うという意味なんです。一緒に生きるということですから、そういった経験をたくさんするといいと思います」 ●今日はどうもありがとうございました。 「どうも失礼しました。楽しかったです」 ●こちらこそ。 |
■“ムツゴロウ”さんこと、作家「畑 正憲」さん情報
『人という動物と分かりあう』
『ムツゴロウ世界動物紀行』文庫化 ■『東京ムツゴロウ動物王国』東京・あきる野市にある「東京ムツゴロウ動物王国」では、ゲートをくぐった瞬間から至るところで犬やネコたちに会えるのはもちろん、スポーツドッグショーや運動会など、様々なプログラムを用意。また、「馬の丘」というエリアで行なわれている「乗馬教室」では、ひき綱なしの“王国流”の乗馬を楽しむことができる。
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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」
M1. THE MASTER / THE DOOBIE BROTHERS
M2. FOR THE CHILDREN / TIMOTHY B. SCHMIT
M3. CAN YOU FEEL / TAXIRIDE
ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」
M4. OPEN YOUR WINDOW/ HARRY NILSSON
M5. MOTHER NATURE'S SON / JOHN DENVER
M6. STRAIGHT FROM THE HEART / BRYAN ADAMS
M7. OPEN ARMS / JOURNEY
油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」
エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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