2006年7月30日
ケアリイ・レイシェルの「ハワイと伝統文化と音楽」今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストはケアリイ・レイシェルさんです。ハワイ民族のアイデンティティーを強く持ったアーティストとして尊敬されている、「ケアリイ・レイシェル」をゲストにお迎えし、自然と深い繋がりを持つハワイの人々の歌や、チャントなどについてうかがいます。 人を自然に例えて歌う●今週はハワイの国民的アーティスト「ケアリイ・レイシェル」をゲストにお送りしていくわけですが、6月21日に発売された彼の最新アルバムは、歌とチャントがそれぞれのCDに収録されている2枚組のベスト・アルバム。なぜ、このような形のアルバムを発表したんですか? 「音楽業界で10年以上やってきて、何枚かのアルバムもリリースしてきたけど、実はハワイでは今までベスト・アルバムを出していなかったんだ。だからそろそろベストを発表してもいいんじゃないかって思って、僕自身が選曲も曲順も決めたんだ。つまりこのアルバムはこれまでの11、12年間の集大成なんだよ。それで、これまで色んなアルバムに収録してきたチャントだけを集めて1枚のCDにまとめてみたんだ。その方がチャントが好きな人も嫌いな人も聴きやすいでしょ? そしてもう1枚のCDには僕が大好きな曲ばかりを収録したんだ。つまり、このベストでは、チャントでも歌でも聴きたい方をみんなが選んで聴けるっていうわけなのさ」 ●日本でも“花鳥風月”という言葉がありますが、ケアリイの歌の歌詞を見てみると、自然をテーマにしたものがたくさんありますよね。ケアリイを含めて、ハワイの人たちが好んで書いているテーマはあるんですか?
「一番歌われているテーマは“愛”じゃないかな。一言で“愛”といっても、色々な次元の愛、故郷に対する愛、家族や部族に対する愛。それから自分を取り巻く環境や地域に対する愛。そのすべてが愛と誇りに満ちているんだ。だから、それらについて歌うということは、それらに敬意を表していることになるんだよ。あと、人を自然に例える場合も多いんだ。ハワイの考え方では、人について直接的に唄わないんだ。だから多くの場合、女性は木々に咲く花に例えられるんだ。例えば、細くてセクシーな女性は、ちょっと華奢な花に例える。同じくらい美しくて、香りもいいけど、あまりボリュームがないっていうことでね(笑)。反対にもうちょっと太めの女性は、その人に合った花や木に例えるんだよ。大きかろうが、小さかろうが、太かろうが、細かろうが体型なんてどうでもいいんだ。大切なのはそこに愛があるということなんだよ。
●ケアリイの2枚組ベスト、『カマヒヴァ~ベスト・コレクション・ワン』に収録されている曲の中には、ケアリイのお母さんを「マウナレオ」という山に例えた歌があるんですが、なぜお母さんを花ではなく山に例えたんですか? 「ハワイの山はいくつかを除くと、1000メートルに満たないくらいで、あまり高くないんだ。僕が住んでいた場所にはマウナレオっていう山があるんだけど、母をその山に例えたのは、山はとても強くて、どんなことが起きてもその場を動くことなく、どっしりと構えている。僕にとっての母はまさにそんな存在だったんだ。もう一つの理由は、人々は山に守られるように、その麓に暮らすことが多いでしょ? つまり子供にとって親というのは、山のような存在なんだよ。例え40、50歳になって独立していたとしても、親は親なのさ。だからそんな僕の大切な親である母のイメージは、女性らしさや美しさより、家族を束ねる力強さの方が相応しいと思ったのさ」 ハワイではかわいい子に「ブサイクだね」と声をかける!?●先ほどケアリイは、ハワイの歌では人も自然に例えて歌われると話してくれましたが、歌に限らず名前も自然からとっているそうですね。 「赤ちゃんが生まれた時、伝統的なハワイの家ではその子のためのチャントが作られるんだけど、その時、その子は自然の何かに例えられるんだ。つまり赤ちゃんはまだ人格が形成されていないし、どんな人間になるかわからないけど、幼い頃に形容詞を与え、自然の特性を持たせることによって、そう育って欲しいという願いを込めるわけなんだよ」 ●ケアリイはどんな名前をもらったんですか?
「僕? 僕のハワイアン・ネームは生まれた時に付けられたんだ。ケアリイはショート・バージョンで、フル・ネームは、ケアリイ・ナニ・アイモク・オカレニっていうんだよ。『ケアリイ』はチーフっていう意味で、偉そうに言うわけじゃないんだけど(笑)、僕が付けたわけじゃないからなぁ。とにかく、ケアリイ・ナニ・アイモク・オカレニっていうのは“天国のような土地を治めるハンサムなチーフ”っていう意味なんだ。母がなぜこの名前をつけたのかは分からないけど、家族を守り、正しい生き方をして、少しでもその思いに応えたいって思っているよ。
●日本でも同じように“言霊”が信じられていたり、子供の名前に願いを込めることも多いんですね。ただ、アメリカのネイティヴの人々などは、子供が幼いうちは悪魔に見初められないように、わざと変な名前を付けるそうですが、ハワイにも同じような習慣ってあるんですか?
「昔はあったよ。その昔、子供が生まれた時は、まず臨時の名前を付けていたんだ。ただその名前っていうのは、“クサイ”とか“ブサイク”といったひどい名前ばかりだったんだよ。それで、子供が5歳から8歳くらいになって、ある程度、魂が成長した時初めて正式な名前が授けられたんだ。
役割によって様々なチャントがある●6月21日に発売されたケアリイの最新作『カマヒヴァ~ベスト・コレクション・ワン』は、ケアリイ自身の選曲によって、歌とチャントがそれぞれ1枚ずつのCDに収められた2枚組のベスト・アルバムなんですが、チャントといえば“祈りの歌”というイメージが強いですよね。日本でも歌の起源は、自然界の八百よろずの神々に捧げる“祈り”ですが、ハワイのチャントにはどういった意味、役割があるんですか?
「ハワイのチャントは事柄によって違うし、その重要性という意味では、色んなレベルがあるんだ。例えば、朝起きたらまずは太陽を迎えるチャント、そして、その日一日が良い日になるようにと神様に祈りのチャントを捧げるんだ。その他にも職業別のワーキング・チャントがあるし、農業や漁業といった職業別にチャントを捧げる神様も違ってくる。それから、人間関係におけるチャントもあるんだよ。例えば、誰かの家を訪ねて行く際、家にはドアも呼び鈴もないから、ちょっと離れた所から、自分は誰々で、外は寒いし、腹は減っているし、とても疲れたから家に入れてくれ、って感じのチャントを歌いながら近づいて行くんだ。それでもし先方がチャントを歌い返してこなければ、それは、相手が留守か、来て欲しくないっていう意味だから、家に行ってはダメなんだ。
●島に対してチャントを捧げるのはわかるんですが、物言わぬ島が上陸の許可を出しているのかどうか、どうやって判断するんですか? 「一か八かの賭けかな(笑)。何らかのサインを探すんだよ。例えば行ってはいけない場合は、カヌーが不自然に揺れたり、サメがぶつかってきたりすることもあるんだ。それに、時には島の長老が島に代わってウェルカム・チャントを歌ってくれることもあるんだ。でも、こういったチャントはその場で即興で作るもので、もっと大切なチャント、例えば、カヌーも人間と同じ生きものだから、カヌーに成り代わって歌うチャントは、決められたものを暗記しなければならないし、偉大なる神々への大切なチャントもある。いずれにせよ、ハワイや日本のように伝統を重んじる古い文化を持った国々には、共通点がたくさんあるんじゃないかな。特に口述に関することでは似ていると思うよ」 過去と未来をつなぐ、お年寄りとの交流●伝統や家族をとても大切にしているケアリイは、2000年に亡くなったおばあちゃんからも多くを学んだそうですね。
「祖母のことはほとんど毎日考えているよ。人は、若い頃は遊びや酒に夢中になっているけど、年を取るにつれて、だんだん周りの環境や社会の変化を感じるようになって、昔を懐かしむものなんだよね。僕の場合は、他の従兄弟たちがみんな違う島に住んでいたから、唯一マウイでおばあちゃんと一緒に暮らした思い出があるんだ。そういう意味では甘やかされて育ったっていえるかもしれないね。でも当時、おばあちゃんはまだ若くて元気だったからよく一緒に釣りをしに行ったんだよ。何を話したわけでもないけど、ただ一緒にいれたことが今ではとてもいい思い出として残っているんだ。というのも、僕より若い従兄弟たちはおばあちゃんとそういうときを過ごした経験がないからね。だから僕は彼らが知らないおばあちゃんの話をしたり、歌にして聴かせてあげるんだ。そうすることで、肉体的にはもうこの世にいないおばあちゃんとみんなが繋がりを持てるからね。
●日本ではおじいちゃんやおばあちゃんとの繋がりがどんどん薄れてきていますが、それについてはどう思いますか? 「先人たちの知恵を後世に引き継ぐためには、なるべく子供たちにおじいちゃんやおばあちゃんたちと過ごす時間を与えてあげることが大切だと思うな。前の世代から次の世代への繋がりを保つためには、一緒に過ごす時間を設けるのが一番だと思う。ただ簡単なことではないと思うよ。時間を割かなければならないこともあるだろうし、その価値を見出せなければ、きっとやらないだろうからね。ただ、もし先人たちと繋がっていたいと思うのなら、自分のおじいちゃん、おばあちゃんに限らず、お年寄りと接点を持つといいんじゃないかな。ハワイではホームなどでボランティアをする若い人たちもけっこういるんだ。血縁関係はないかもしれないけど、過去との繋がりは持てるからね。というのも、一度繋がりを絶ってしまったら二度と過去とは繋がれないし、未来にも繋げられないんだ。つまりいずれ年をとっても、次の世代に伝えられることがない。先人の知恵が途絶えてしまうということなんだよ。だから過去と未来を繋げるには、今話した方法が一番なんじゃないかな」 ●今日はどうもありがとうございました。 ■このほかのケアリイ・レイシェルさんのインタビューもご覧ください。
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■ハワイの国民的アーティスト「ケアリイ・レイシェル」さん情報
2枚組ベスト・アルバム
『kukahi 2006ジャパン・ツアー』
・ケアリイ・レイシェルさんのHP:http://www.kealiireichel.com/
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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」
M1. THE BOAT THAT NEVER ENDS / KEALI'I REICHEL
M2. MAUNALEO / KEALI'I REICHEL
M3. KAWAIPUNAHELE / KEALI'I REICHEL
油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」
ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」
M4. GAIA / 喜多郎
M5. LEI HALI'A / KEALI'I REICHEL
M6. IPO LEI MOMI / KEALI'I REICHEL
M7. KA NOHONA PILI KAI / KEALI'I REICHEL
エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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