2006年10月15日

サバイバル登山家・服部文祥さんが語る「自然」と「山登り」

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは服部文祥さんです。
指がかかるところがあれば、
いつでもどこでも懸垂トレーニング!?
服部文祥さん

 登山の世界でも異彩を放つ、サバイバル登山家の服部文祥(はっとり・ぶんしょう)さんをゲストに、極力、装備を持たず、食料も山の恵みを採取しながら挑む、たった一人の山歩きについてうかがいます。

装備も食料も極力持たずに行なう「サバイバル登山」

●服部さんはいろいろなタイプの登山をされていて、オールラウンドの登山家なんですが、この春出た本のタイトルが『サバイバル登山家』。それを見て、「『サバイバル登山家』って何なんだ!?」っていうところからまずお聞きしたいと思います(笑)。

「簡単に言えば、装備と食料をできるだけ持っていかないで山登りをしようということなんですけど、メインになっているのがフリークライミング思想というものなんですよ。現代文明を何でも使ってとにかく山頂まで行けばいいっていうのが登山なわけですよね、道具を使うことでどんなところでも登れてしまうんじゃないかっていうふうに感じる人たちがいる。でも『それはちょっとおかしいんじゃないか』、『本当に自分が持っている力だけで山に登ることが登山なんじゃないか』っていう考え方がフリークライミングなんですけど、それを凝縮して自分の手足だけで岩登りをするというものです。僕はフリークライミングを大分やったんですが、やりながらも考えに共感して、それを日本の登山、日本の大きな山塊に当てはめたらどうなるんだろうなぁっていうことを考えていたんですね。で、そのときに町で加工された登山用の食料っていうのがありますよね?」

●今は、非常食にもなるというものですよね。

「そうですね。だから今、みなさんに何かあったらすぐに食べられると思うんですけど、軽くて栄養価が高くて、すぐにできておいしくないというものなんですが(笑)、そういうものを持ち上げたり、道具がすごく便利になっています。何でも軽くなっていますし、ゴアテックスなんていうものはみなさんの生活の中にも入ってきていますし、そういうものを駆使すれば、山でもかなり快適に過ごせるんですよね。で、そういうのではなく、フリークライミング的に自分の力だけで大きな山塊を登ってみたいという風に考えて、それでも必要不可欠な装備はいくつか持っていきますし、食料も米と調味料は持っていくわけですけど、それだけで山に登ってみたいなと思ったんですね。で、電池で動くものはやめよう、テントもマットもなしで行こうという感じで始めました」

●それはいつぐらいに始まったんですか?

「1999年からですね。キッカケは1996年なんですけど、K2というヒマラヤの大きな山にいて、その山頂を踏んできたんですけど、そのときに地元の人たちに1週間、ベースキャンプまで荷物を運んでもらって、ポーターが300人くらいいたんですね。その人たちが1日400円で20キロほどの荷物を8時間ほど背負って動いて、1週間かけてベースキャンプに入るんですが、なんかズルをしているなという思いがあったんですね。で、山に登りに来て山頂に立ったのは自分なんだけど、おそらく彼らのほうが強いんじゃないかって思ったんですね。自然の中で生きていくということでは彼らのほうが強いんじゃないかって。K2の山頂には立ったけど、『何か違うなぁ』と思いながら次はフリークライミングをやってみようと思って始めて、2シーズンほどかなり本格的にやって、食料と装備を持たずに山に入ってみようと思い立って行ったという感じなんです」

●サバイバル登山で持っていくものを教えていただけますか?

「結構ありますよ。ライター、タープ、薄いシュラフ、着ていくものと夜、寝るときに着る乾いたもの。ナイフ、ろうそく、コンパス、先ほど言った調味料と米、あとは釣具、何でも縛れるようなロープやビニール袋、そんな感じですね」

●以上のものを最低限必要なものとして山に入られたわけですけど、思惑通りに進んだんですか?

「進みませんでしたね(笑)。あまりイワナが釣れなかったんですよね。あと、食べ物に関しても山菜やきのこに関する知識がない状態で、フキとその辺のものをちょこちょこ食べて(笑)、あとはご飯を食べていました。でも、そのご飯というのも11日間の予定で行ったんですけど、米は5合しか持って行かなかったんですね。だから、一食0.2合とか、ひとすくいだけという感じでしたね」

●それってかなり少ないですよね!

「そうですね。もちろんお腹は減ります。で、体がだるくなってきて、熱っぽいような感じになってくるんですよね。それでも、あまりに気にしないってわけにはいかないんですけど(笑)、1つ言えるのが、日本の山はその気になれば、どこにいても1日で降りられるんですよね。だから、本格的にヤバイなと思ったら、それこそぶっ通して8時間歩けば、どこか人がいるところに着くので、そういう保険みたいなものもあって、それが精神的な支えでしたね」

サバイバル登山で一番つらいことは!?

服部文祥さん

●服部さんは命をかけて山に入ろうと思ったならば、あらかじめ研究してから行こうとは思わなかったんですか?(笑)

「もちろん研究はしましたし(笑)、研究が追いつかなくて、一番最初はしっかりした図鑑も持って行きました。何かを見つけてはパラパラ図鑑を見て、図鑑とは全く同じではないので、『うーん』とうなりながらちょっと食べてみるっていうことが最初のうちはありました。そういうのがうまい人達って、『よし! ウドを探そう!』って言って、ウドを探すわけじゃなくて、常に頭の中にそれなりのシルエットと、どういうシチュエーションで生えているかっていうデータが頭の中にあって、歩きながら目の端っこでそういうものを見ているんですよね。で、歩いていて『あっ、ウドがあった!』みたいな感じで見つけているんですね。僕はそういう意味では能力が低かったですね。最初のうちはフキしか食べていませんでしたから(笑)」

●(笑)。調理法といっても限られているわけですよね。

「そうですね。基本的になんでもあまりいじらない方なんですね。生で食べる、焼く、煮るくらいで、素材の味を活かしたものが好きなので、そういう意味では別にトマトケチャップ味じゃなくっても全然気にならないので(笑)、塩コショウとしょう油くらいがあれば問題ないですね」

●草や魚以外に鳥や獣を獲ったり食べたりはしなかったんですか?

「日本の法律に狩猟の法律があって、獣や鳥は基本的に狩猟のシーズンに狩猟の免許を持っている人しか獲ってはいけないというふうになっているんです。でも、それも詳しく言うと色々あって、パチンコで獲る事に関しては何の記述もないんですよ。だから、パチンコで獲るのはОKなんですけどね。個人的には先シーズンから狩猟も始めていて、トライはしました。結局、効率の問題なんですよね。カモシカは食べちゃいけないことになっていますけど、もし、目の前の岩からカモシカなりシカが落ちてきたりしたら、その場で解体して食べたいなとは思いますけど、自分から道具を持っていくっていうのは登山の方法論としては、まだかなという感じですね」

●最初のうち、サバイバル登山で一番つらかったことはなんですか?

「全体的につらいのは蚊です。害虫がつらいですね。昼に出てくるアブなり、ヒルなりっていうのはある程度対処できるんですよ。夜、寝ているときに来るやぶ蚊は、網をかぶって寝たりはするんですけど、寝ているうちに網が顔にペトッてくっついたら、ほっぺたが蚊に全部やられいているっていう感じになります。それはすごい状況になります」

●モスキート・ネットをかぶっていても、横になるっていうことはペタッとくっついちゃうわけですもんね。

「帽子をかぶって、帽子のつばで空間を作って、うまくやっているんですけど、プーンという音を聞きながら『どこかに行ってくれ!』って思いながら寝るんですが、やぱりどうしても、下の唇だけついていたりすると、下の唇だけがタラコのようになったりとかします(笑)。だから本当に蚊だけはつらいですね」

●生き物にとって何がつらいって、かゆさっていうのがつらいんですね。

「かいて、どうしてもかき崩しちゃいますからね。焚き火をしながら下を見ていて、しゃがんでいるじゃないですか。すると、右を見たら20匹、左を見たら20匹っていう感じで蚊柱状態になっちゃうんですね。季節によってはそういうこともあるんですよ。それが一番つらいですね」

●サバイバル登山に限らずなんですけど、焚き火って食事も含めて重要じゃないですか。で、パッと考えると、雨が降っているときとか台風のときって、火がつかないんじゃないですか?

「タープをかぶせて、雨が直接火に当たらないようにすれば火は起こせます。で、台風の時っていうのも、僕が泊まるのは基本的に谷間なので、増水すれば危ないんですが、増水しない程度の谷にタープを張って、その下で焚き火を起こせば、台風でも谷間にはそれほど風は入らないので、起こせます。長く雨が降ったりして、薪なんかが濡れているときでも、立ち枯れの木っていうものがあるんですよ。あとは、地面にくっついていないような枝なんかを持ってきて、最初の種火を作るのを、乾いた薪を集めてしっかり作ってやれば、あとは濡れている薪も燃えていくので、それほど難しいことじゃないです。僕もサバイバルのスタイルでこれまで100泊とか200泊くらい山に泊まってきましたけど、火が起きなくて困ったっていうことは一度もないので、そんなに難しいことではありません。
 で、時計も持っていかないんですよ。だから時間が分からないんですけど、これはすぐに慣れます。誰でもすぐに慣れると思います。あとは体の中にも体内時計はありますし、太陽を見て大体何時くらいだなっていうのは分かるんですよ。電池製品とか燃料がなかったら困るんじゃないかなって普通の人が考えるようなものは、それほど気にならないですね。逆になくて困るのは、防水を可能にしてくれるビニール袋。そして、あってこれは素晴らしいと思うのが、しなやかで丈夫で細くて軽いロープですね。これはすごい文明品だと思います」

サバイバル登山は誰にでもできる!

●服部さんの最近のサバイバル登山はどんな感じなのか説明していただけますか? 持ち物は大して変わっていませんか?

「変わっていないですね。調味料に関してはどんどん妥協しているというか(笑)、種類が増えていますけど、基本的には変わっていないですね。ただ、道具そのものは洗練されていってますけどね。最初のうちはナタを持っていたんですよ。『これがサバイバルだ!』みたいな(笑)。でも、ナタを持つよりも、よく切れる小さな包丁とのこぎりを持つ方が機能的なんですね。そういう感じで変わってきましたし、釣具もえさ釣りから毛ばり釣りに変わっていったので、そういう意味ではマイナーチェンジしましたけど、ほとんど変わっていない感じですね。
 で、最寄り駅から行きたい山の沢に向かうわけですけど、登山道や山小屋は極力使わないということを考えているので、山への登行路は沢になるんですね。藪をこいで行ってもいいんですけど、水があって、イワナがいて、山菜が採れるということで、いろいろな意味で沢を使って山に入ります。で、一晩過ごして、朝からどういう行動をするかというと、まず起きます。それはなぜか知らないけど目が覚めます(笑)。で、焚き火を起こしたり、起こしなおしたり、もしくは天気がいい場合は焚き火をかなり大きく作って、その横で寝ているんですよ。それが結構、気持ちいいんですよね。星を見ながら寝るという感じで。で、その焚き火をもう1回安定させて、お茶を沸かして、お茶を飲み、米を炊くなら米を炊きますし、前の晩に食べた米が残っていたら、それをちょっと暖めて、入山のときから採れているものがなんらかあれば、それをあわせて食べて、採れていなかったら塩でもかけて食べて、大体1時間か1時間半位でバーッと用意して、すぐ出発します。時計はないんですけど、7時くらいには出発していると思います。
 僕は最初のうちは休まないで3時間か4時間くらいバーッと目標のルートを登っていって、少し疲れたなぁっていう頃からちょこちょこ休んだり、目に付く山菜でそのまま食べられるものがあったら口に運びながら、昼過ぎたかなぁってあたりから、その日泊まる場所を考えるか地図で検討して、『ちょっとここまで行っちゃおうか』とか、『こっちの沢のほうがイワナが釣れるんじゃないか』とか、そういうことを色々と検討しながら泊まる場所を決めて、着いたら、最近はまず焚き火を起こしちゃいますね。で、そこからイワナを釣りにいったり、山菜を探してみたりとか、で、タープを張って寝床を整えて、また夕食の準備を始めるっていう感じです」

●サバイバル登山を始められてから、普段の生活で変わったことってありますか?

「あまりないですかね。というか、そういう生活をしたいなという思いが子供の頃からあったと思うんです。誰でも自給自足に憧れるっていうこともあるかと思うんですけど、もちろん僕もあるんですね。そういう意味では、生活そのものをサバイバル登山にすることはできませんけど、そういうふうにしたいなという意志は持っているつもりで、僕、いわゆる現代人と昔の人の間にボーダーラインをひかないっていうか、そういう考えには否定的なんですよ。同じ人間なんじゃないかって常に思っているんですよ。だから、サバイバル登山も誰でもできると思いますし、やらなきゃいけなくなったらみんなやると思います。そういう意味ではすごいことだとか特別だっていうふうには思っていないし、言いたくもないっていうところはありますね」

サバイバル登山は日本が生んだ登山スタイル

服部文祥さん

●世の中にはものが溢れていますが、

「まず、生きるっていうことがどういうことなのかを感じることが重要なんじゃないかと思うんですよ。必要なのは覚悟だと思うんです。自分がやる覚悟。環境にやさしいっていうことは、人間にはつらいことなんだと思うんですよ。省エネするんだったら、クーラーがかけられないから暑くなっちゃうし、自然をそのままにしておくんだったら、人間は狭いところで生活していけばいいことで、自分にその覚悟があるのかどうか。そのあたりがとても重要なんじゃないかって僕は思っていて、自分の生活は安穏としていて、食べ物が溢れていてっていうのをキープしながら、環境は守ってくださいっていうのはズルだと思いますし、登山者の中にも誰だって林道で山をぶった切ってしまうのはよくないって思っていると思うんですけど、登山者は林道を使って山を登っていますよね。そういうものを使わないで実際に山に登る覚悟が登山者にあるのかどうか。そういう意味で覚悟っていうものがとても重要だと思うんです。
 では、何が本当に必要か。僕は体験も非常に重要だと思います。例えば、イワナを自分で殺してみる。そういうことをやれば食べ物っていうものがなんなのかっていうことを意識できると思うんですよ。僕は自分の子供にはそういうことをしてもらいたいなと思っていますし、自分もそういう殺生というものに含まれる翳りみたいなものから目を背けたくないなと思っているんです」

●登山だけに限らず、自然とまず触れるところからでもいいから、入っていってもらいたいですよね。

「よく『大自然』って言うじゃないですか。でも、大自然と言うときに自分が住むところとは違う場所っていう意味で使うことが多いんですよね。でも、我々は地球でずっと生きてきた生物の一種類であって、その大自然っていうのが本来、生活する環境だったはずなのに、今では我々が生活する場所とは別の場所っていう言い方をするんですけど、自分が生活する場所とは違くなってしまった大自然の中に入ってみるっていうことは、色々な体験として重要だと思いますね。やっぱり怖いんですよ。怖くて不安だと思うんですけど、その怖さとか不安っていうものを、否定しないこと。肯定できるようになったらいいんじゃないかなと思いますね」

●これからもサバイバル登山は続けられますよね?

「はい。面白いので大分やりましたし、これからもやっていきたいと思っているんですけど、海外でやってみたいなという思いがあります。僕がやっていることっていうのは、昔、山で生活をしていた日本人が普通にやってきたことを登山の手段としているだけなんですよね。だから、大して新しいことでもないですし、すごいことでもないんですよ。それを登山の種類としているっていう意味で、新しい価値があるかなっていう気はするんですけど、我々の祖先の日本人が今までやってきたことなり、沢登りをする人たちがやってきたことっていうのは、山に触れるのにいいスタイルだと思うんですね。これは日本独特の遊びなんですけど、グローバル的に紹介していい登山だと思っているので、そういうものを日本から発信して、ひとつの登山のスタイルにしていきたいとまでは思わないですけど、そういうことを紹介できればなと思います」

●海外からのサバイバル登山を終えて帰られたら、番組でお土産話を聞かせていただければと思います。楽しみにしています。

「ありがとうございます」

●今日はどうもありがとうございました。


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■サバイバル登山家「服部文祥」さん情報

『サバイバル登山家』

『サバイバル登山家』
みすず書房/定価2,520円
 「生きようとする自分を経験すること、僕の登山のオリジナルは今でもそこにある」という「服部文祥」さんが現在行なっている登山は、極力、装備も食料も持たずに挑む、たったひとりの山歩き。南アルプスや日高山脈ではイワナや山菜で食いつなぎ、冬の黒部では豪雪と格闘。そんな体験を綴った山岳ノンフィクション。
  HPhttp://www.msz.co.jp/word/hattori/index.html

『サバイバル登山家』写真展 開催中!
 10月29日(日)まで、モンベルクラブ・グランベリーモール店サロン(南町田)では「服部」さんの写真展を開催中!
 イワナのさばき方や山菜の紹介の他、豪雪黒部での雪洞生活など、サバイバルの実践を写真で紹介。また、「服部」さんと一緒に山に登る山岳カメラマンの山岳写真も展示。
 尚、10月29日(日)の午後2時からはトークショーも行なわれます。入場は無料ですが、予約が必要です。
問い合わせ/予約:モンベルクラブ・グランベリーモール店
  TEL:042-788-3535
  HPhttp://www.montbell.com/japanese/shop/mbs_689975.html

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. THESE DAYS / THE JESUS & MARY CHAIN

M2. SURVIVAL / AMERICA

M3. TRIED AND TESTED / BRUCE COCKBURN

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M4. OPEN UP MY WINDOW / CHRISTOPHER CROSS

M5. WHAT ARE YOU GOING TO DO WITH YOUR LIFE? / ECHO & THE BUNNYMEN

M6. THE CLIMBER / NEIL FINN

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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