2007年3月4日
写真家・藤原幸一さんの「南極がこわれる」今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは藤原幸一さんです。テレビ番組でも活躍されている写真家の藤原幸一さんをお迎えし、温暖化の影響で深刻な事態に陥っている南極の現状や、ゴミ問題についてうかがいます。 南極が壊れかけている!?●今日は藤原さんの事務所のほうにお邪魔をしていますが、周りには素敵なお写真がたくさん飾ってあります。今日、お話をうかがいたいのは、去年の夏に出された「南極がこわれる」というご本についてなんですけど、南極が壊れかけているんですか? 「ええ、そうですね。南極大陸に一歩を印したのはおそらく1995年だったと思うんですね。で、それからは色々チャンスがあってほぼ毎年南極に通うことがあって、計11回通ったんです。で、基地滞在を2回しまして、2000年を過ぎる辺りから行く度に景色が変わっていったんですね。『なにか、とんでもないことが起きている』という気がしてきたんですね。で、この小さな写真集でなかなか全ての写真を見ていただくことができなかったんですけど、1つ分かりやすい写真として、一面緑の南極の写真があるんですね。ペンギンが写っていなければ、『これはカナダかなぁ』とかって思ってしまう写真ですよね」 ●そうですよね。私はイギリス北部の大地かなと思いました。 「そうですよね。スコットランドの夏みたいな感じで。一面緑で『これじゃ、まるでゴルフ場じゃん!』みたいな風景がものすごく広がってきたんですね。日本もそうですけど、暖かいときもあれば寒いときもあるので、気温の上下を繰り返してのことだっていう意識はあるんですけど、それでも基地の人と一緒にご飯を食べて話していると、20年同じ基地に勤務していて、数年戻ってはまた帰ってきてっていうことを繰り返しているんですけど、『ここ(南極)の温暖化は半端ではない』と言うんですね。で、『今年暖かいのは偶然ではない』という表現もしていました。で、氷が溶けて夏場だけ地表が現れます。それが南極だと全国土の3%から5%のエリアだけ土が現れてくれる。その土を目指してアデリーペンギンなんかは春に南極に帰ってきて子育てをするんですけど、その土のエリアが今一気に広がって、ちょっと太陽がさんさんと降り注ぐと、すぐ緑になっていくっていうエリアが異常に増えたんですね。細かく見れば芝生ではないんですよ。それはコケだったり、地衣類というコケに近い生き物なんですけど、そういったものが広がって、困ったのはペンギンなんですよ。南極のペンギンたちの進化は寒いところ向けの進化なので、さらさらした雪はOKなんですよ。パッと降ってブリザードが雪も持っていってしまうみたいなことで進化している。今はみぞれが降るようになってしまったわけですよ。みぞれは、親達はまだいいんだけど、ヒナたちの羽毛には染み込むんですよ。だから、ヒナは寒さで死んでいくんですよね。温暖化なのに雨が降るから体感温度としては実は寒いんです。みんな屋根の下で子育てをしているわけではないのでね。それと、上の氷河が溶けてくるのでだんだん鉄砲水が流れてきたりするんですよ。で、ペンギンたちは何もないので小石で巣を作るんですね。だけど、鉄砲水で巣は流されて卵は死んでしまう。実は温暖化になって冷たさを味わっているのはペンギンなんですね」 ●これらの全ての問題の一番の原因はやっぱり温暖化なんですよね? 「そうですね。今、分かりやすいように温暖化のことを話していますが、そこにはオゾンホールの深刻な問題も絡んでいたりして、そこは私達人間の石油文明が犯してきた功罪ですよね。あと、私達がこの文明国にいて、石油文明で出している排気ガス、今、二酸化炭素の問題も大きくなっているわけですけど、地球というのはグルグル回っているので、大気が本当に短い期間、3日間から5日間くらいで両極に到達してしまうんですね。ですから、南極と北極ってすごく遠いイメージだけど、地球規模で見れば非常にあっという間の出来事で、ここでタバコを吸ったり、ビニールを燃やしてしまったっていうのは下手すると、一週間後には南極に表れているって思ってもらってもいいくらい地球は小さい。なので、南極のペンギンもそうなんだけど、北極のアザラシとか、みなさんご存知のクジラとかシャチとかの脂肪層をとれば、脂肪層の中に環境ホルモンのPCBとかDDTも出るんですよね。で、ダイオキシンとかの量を見ると、東京湾で一番汚染されているだろうといわれているドブネズミ以上の値が出るんですよ。あんなに人がいないところなのに。今、一気に北極の話もしていますが、極っていうのは地球の流れで大気が集まってしまう非常に怖い場所でもあるんですね」 ミステリーなペンギンの生態●藤原さんが去年の夏に出された「南極がこわれる」というご本の主役はアデリーペンギンなんですけど、だんだん緑が増えて雪の積もっていない場所があるっていうことは、ペンギンたちがコロニーを作りやすい環境が出来ちゃっているのかなぁという気がするんですけど、そうとは言えないんですか? 「その緑を食べるわけではないので、緑とペンギンの生態はあまり関係ないんですね。氷が溶けて、アデリーペンギンが棲めそうな平らな土地が増えるというのはYESかもしれない。雪の上では繁殖しませんからね。氷が溶けて平らな場所ができるという点では可能性がありますね。でも、土地だけで繁殖が決まるわけではなくて、彼らはヒナを育てるために毎日漁に出ます。で今、温暖化で海水温が上がっています。そうすると、プランクトンの組成が変わっていきます。そうすると、ペンギンが目指す魚の種類が変わったり、プランクトンが移動すれば、いつもの魚場が移動するという可能性が出てきているわけですね。例えば、倍の距離になれば、アデリーペンギンは移動だけで倍のエネルギーが必要になります。そうすうると、戻ってきたときにヒナに与える餌の量が減ってくる。エネルギー換算ですからね。普段だと餌が豊富だったら毎年2羽育てられるんですが、もしかすると温暖化のせいで1羽になり、あまりにも遠くなってそこの繁殖地をあきらめてしまうという可能性も出てくるんですね」 ●ペンギンは、基本的には同じ場所に戻って繁殖をするんですよね? 「帰巣本能が激しいですし、一夫一妻制で絆も深いので、戻ってきたら全く同じ場所に巣を作っている可能性はありますよね。見ていて、それくらい意固地です。彼らの営巣地が一見、土の上に見えているんですけど、本当は永久凍土の上で子育てをしていて、実は土の上ではなく、中は氷だったんですね。だから、ひび割れが始まるんですよね。3日間で崩落していくんですよ」 ●そんなにいきなり!? 「いきなり。ひびが入って次の日に行くともう30センチくらいになっていて、2日目くらいには跨げたんだけど、3日目にはもう跨げない」 ●となると、そのひびのすぐ側で子育てをしていたら、子供たちは確実に落っこちちゃいますよね? 「落っこちちゃうんですよ」 ●でもそうやって、ヒナが落っこちてしまって、それを仮に親が発見できたとしても、助け出せるような状態ではないですよね? 「そうですね。だから、僕らも基地の人達と一緒にまずヒナを救助した。これはもう絶対に死んでしまうから。で、避難して2メートルくらい離れた平らなところにポンと置いたんですよ。それで、親は戻ってくるかなと思っていたんだけど、親は絶対に戻ってこない。ペンギンの親はヒナに固執するわけではなくて、場所に固執するの。だから、見ていると、傾いた土地にいて、ひたすらヒナを待っている状況に入るの。で、ちなみに親を捕まえてヒナの側に連れて行ったのね。そうしたら、ヒナに関心なんか一切示さず、土地に戻ったんですよ。これはちょっと意外だった。で、次の手は成功したんです。最後まで成功したかはクエスチョンですけどね。隣に50万羽という大きなペンギンのコロニーがあって、中には普段、2羽育てているけど、空にはトウゾクカモメだ、海にはシャチだとか常に自然界の敵がいっぱいいるので、巣を見ると1羽しか抱いていないペアもいるわけですよ。そうすると、1羽空いているじゃないですか。だから、同じくらいのサイズの子を私達が勝手に里親だといって(笑)、無理矢理押し込んだんですよ。そうしたら、受け入れたんですね。つついて追い出すかと思ったら、ちゃんとおなかに抱いてOKでしたね」 ●「自分の子」に執着しているわけではない? 「いや、でもミステリーですよ。ペンギンは奥が深いんです(笑)。生まれてひと月くらい経つと、ヒナだけで幼稚園を作るんですよ。その幼稚園にヒナだけの固まりが出来る。私達から見れば一切、見分け不可能(笑)。全部同じに見える(笑)。違うのは大きさだけ。でも、親は自分のヒナを見分けるんですね。それは声で鳴き交わして『あ、ウチの子だ!』っていって聞き分けているんですよ。それくらいの繊細さを持ち合わせているのに、里親を引き受けちゃったんですよ。それで、『この生き物、奥深い!』って思ったんですよ」 ●藤原さん達が預けた里子が声を発するようになったときに、里親たちがその子に餌をあげてくれるかどうかっていうのも心配ですね。 「そうなんだよね。まだ抱いている段階で幼稚園に参加していないので、その段階から鳴いて『餌くれ』って始まりますよね。そこで親がOKを出してくれれば、幼稚園にいっても同じ声なので大丈夫だとは思うんだけど、永久凍土の崩壊は私が基地を去ったあとも進んでいったでしょうから、まさしく受難ですよね。おそらく何千年もそんなことが起きないできたはずですよね。だから、繁殖率の低下はもう免れないし、どこかの段階で大移動の決断とか、50万羽がもっと寒いほうに移動するという決断も必要になってくるのかもしれませんよね」 人間が南極に残した負の遺産●南極というと、各国の基地の存在を抜きには語れないわけですが、そうなるとクローズアップされるのがゴミ問題ですよね。 「そうなんですよ。人間は100年以上前に南極に行きました。そうしたら基地を作るにあたって、きっと船をちゃんと泊められて、建物が建てられて、平らで、水辺に近いところを選びましたよね。そこは間違いなくペンギンも大好きな場所です。基地の隣にペンギンの大きなコロニーが残っている場所がありますから、それがひとつの証拠ですよね。結局、ゴミ捨て場の影響を受けて、写真集でも表現しているんですが、怪我をしてみたり、そこを通らなければコロニーへ向かえない場所もあったりして、非常に困難を強いられていますよね。で、厳密に見れば土壌が汚染されたり、乾電池がそのまま焼いて捨てられていたり、ドラム缶が腐食して燃料が流れ出していたり、そういった土地でペンギンは子育てを続けざるを得ないという現状がありますよね」 ●南極って基地の人達しかいないですよね。きっと、その人達が毎回帰るたびにゴミを持ち帰っていればそういう問題にはならなかったんでしょうね。 「いいポイントですよね。確かにそうするべきでしたね。ただ、持ち帰るコスト、持ち帰ってからのコスト、そういう予算ということを考えれば、基地はギリギリのところで維持してきたというのも事実なんですね」 ●藤原さんのご本を見ていると、裏山の不法投棄現場を見るかのように、大きなものも捨ててあるじゃないですか。そこに色々なワイヤーや針金が出ていて、その横のゴツゴツした岩場にアデリーペンギンが立っている姿を見ると、「これは、明らかに南極じゃないでしょ!」って思ってしまうんですけど(苦笑)、これが南極の現状なんですよね? 「そうですね。全てが同じとは言いませんけど、ゴミが存在するということは全て一緒ですね。このゴミの多さにはビックリしますね。で、日本も基地を持っています。有名な昭和基地です。そこも、大変な量の過去のゴミを抱えています。日本の場合はなんとか『持ち帰ろう』という指針は打ち出していますけど、現実は南極観測船は一往復しかしませんから、それで持って帰ることが出来るゴミの量っていうのは限られていますよね。しかも、1998年くらいから南極条約で、南極に携わっている国が集まって、その年のゴミは持ち帰ろうと批准したんですね。ですから、毎年持って行っているゴミ、それは缶だったりペットボトルだったり色々ありますが、それをダウンサイズしたりして、燃やしたものは灰も全て持ち帰ることになっているんですね。そのゴミだけでも大変な量があるわけです。で、空いた隙間に過去50年の下手すると1000トンくらいあるゴミの一部を積もうといっても高が知れていますよね」 ●放置した期間が50年っていうのは長すぎましたね。
「素晴らしい研究をしてきたということだけが前面に出されて、それがプロパガンダの先頭に来て、こういう負の遺産のことを全く語られてこなかったのはフェアじゃないなと思うんですね。ただ、私も書かせてもらいましたけど、南極は国境のない国なんですよ。だったら、いろいろな国が集結して、南極のゴミを持ち帰ろうっていった場合、機構的に助け合うことが非常にしやすい場所でもあるんです。で、大都市があるわけでもない。日本の不法投棄のゴミの量に比べれば、南極のゴミは少ないほうかもしれない。だったら、やり切れる量なんですよ。で今、1998年からゴミは増えていないことになっているので、目標も定めやすいし、そういう面で国際協力で持ち帰ってみたらどうかと私は思っているんですね。
地球が豊かな星になったのは南極があったから●この本「南極がこわれる」はアデリーペンギンを主役とした、私達人間に対するメッセージなんですね。 「そうですね。ペンギンたちの実情を見て、『この子達を救えないようだったら、もしくはこのゴミを解決できないようだったら、人間がずっと美徳と思って進めてきた文明なんて、何の意味があるの?』ってことですよね。地球にもすごい自然がある。でも、南極はただ氷の大陸で存在しているわけではなく、この生態系や気候も含めて、大きな役目があるんだっていうことを痛切に思いましたよ。だから、それはそのままでいてもらいたい。で、地球がこんなに水が豊かで、緑が多くて生き物もたくさんいる豊かな星になってくれたのは南極があるからですよね。南極が間違いなくクーラーの役割をしてくれています。もし、この南極がなければ水はとっくに気体として発散して、地球上は砂漠みたいな月状態で、生き物のかけらもなかったでしょうね。で、もう1つ、南極近海は冷たい海なので、深いところに冷たい水が沈んでいきますね。それで、北を目指します。で、それが赤道を越え北極に行き、また循環してだんだん温められて上に上がって、温かい水として南極に戻ってくるんですね。その大循環、大蛇行があるんですよ。これは豊かな栄養素をものすごく含んだ水の大蛇行なんですね。この蛇行の中で表層に上がってきたことによって、大量のプランクトンが発生して、魚達を養って、またクジラも養ってという、海の豊かさは南極なくしてはありえないんですね。で、温暖化はこの大蛇行を止めようともしているんですよ。これは恐ろしい話だと思う。南極は一見、ペンギンさん達だけで不毛の地に見えるんだけど、実はとてつもなく大事な担い手で、地球上の生き物のゆりかごのような母なる南極ということも随分勉強させられましたね。だから、この南極は守りきらないと半端なことじゃ済まなくなりますね」 ●藤原さんはweb上のプライベートな博物館で、「NATURE'S PLANET MUSEUM」というのもやっていらっしゃって、南極に限らず「地球がこわれる」という現状をまた番組でお話をうかがえればと思います。 「喜んで。是非、お願いしたところです。今年に限っていえば、ガラパゴスも付き合いが長くて20年来くらいで、本も幾つか出しているんですけど、この10年間でガラパゴスがいかに変わってしまったかということや、エルニーニョという特異な現象があの辺で起きて、世界中の気候に影響を及ぼして、今年もエルニーニョで日本も暖冬になってしまいましたよね。で、そのエルニーニョも2年から10年に1回は必ずやってくる現象で、おそらく何万年と続いてきた現象なんですけど、今、エルニーニョがおかしい。最近のエルニーニョはあの有名なウミイグアナを9割殺してみたり、ペンギンとかコバネウという飛べない鵜もいるんですが、外に逃げられないから7割方死んでみたり、今までではありえないことが起きているんですよ。それも地球の温暖化なんですよね」 ●その後日談も含めて是非、またお話をうかがえればと思います。今日はどうもありがとうございました。 |
■写真家・藤原幸一さん情報
『南極がこわれる』
公式ホームページ「NATURE'S PLANET MUSEUM」
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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」
M1. URGENT / FOREIGNER
M2. THE HORIZON HAS BEEN DEFEATED / JACK JOHNSON
M3. THE GROUND BENEATH HER FEET / U2
油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」
ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」
M4. トムソーヤの冒険 / 米倉千尋
M5. WHERE ARE WE RUNNIN' / LENNY KRAVITZ
M6. ALL OUR PAST TIMES / ERIC CLAPTON
M7. PARADISE LOST / DANNY TATE
エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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