2007年9月9日
ミュージシャン/蔵人の、かの香織さんを迎えて今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストはかの香織さんです。ベスト・アルバム『エンジェル・ソングス~ザ・ベリーベスト オブ かの香織~』が好評の、ミュージシャンで蔵人の顔を持つ、かの香織さんをお迎えし、お酒造りの奥深さや、かのさんお勧めのシンプルでオーガニックなお料理のことなどうかがいます。 全てに感謝しての酒造り●かのさんは6月に『エンジェル・ソングス~ザ・ベリーベスト オブ かの香織~』というベスト・アルバムをリリースされましたが、これはどういうベスト盤なんですか? 「2枚組のベスト・アルバムで、私が自ら過去10枚くらいのアルバムから、自分でピックアップして、水色のディスクとピンクのディスクに振り分けたんですね。ピンクの方はラヴ感がいっぱいのものになっていて、水色のほうはシングル・カットしたわけじゃないんですけど、作り手として皆さんに聴いてもらいたいなというものを、独断と偏見で選んでまとめて、1曲1曲自分でライナーノーツを書きました。『こういう気持ちで作った』とか、『こんな状態でこうだったよねー』とか、ブックレットも自分で手作りで、割とハンドメイドということで作ったベスト・アルバムなんです」 ●かのさんは音楽だけではなくて、お料理の本も出していらっしゃいますし、お酒造りもなさっているそうですね。 「そうなんです」 ●ここで、お酒造りのお話をうかがいたいのですが、蔵人として泉薫子さんというお名前で活動されているそうですね。 「はい」 ●杜氏っていうのは聞いたことがあるんですけど、杜氏さんと蔵人さんって違うんですか? 「違うんですよ。日本の古くて伝統的な蔵の中で、おいしい日本酒をじっくり醸す。この中で、お酒造りをしている人たちを蔵人って呼ぶんですけど、その中の長となる人、大工さんでいえば棟梁ですよね。棟梁を杜氏さんっていって、杜氏さんには地方によって南部杜氏とか、能登杜氏とか、呼び方も色々変わるんだけど、きちんとした経験と修行を積まれてきた方の1人を杜氏さんっていうので、私なんかはまだまだそんなレベルには程遠いんですけど、お酒造りに関わって、蔵人として冬のある一定期間を全ての自分の活動をシャットアウトして、お酒造りをしているんです」 ●よくミュージシャンの人って曲作りで一定の時期、こもって曲作りをしている人もいるんですけど、それとはまた違う時期に音楽も全くシャットアウトするかのように、お酒造りをするのって大変じゃないですか? 「結局、ものづくりをしているっていう感覚に変わりはないんですよね。で、お酒造りって『日本文化の昔からの世界』とか、『堅い』とか、『男の世界』ってイメージがあるんだけど、やっぱりいざ蔵に入ると、職人さんたちはものづくりの集団なんですよ。だから、私が蔵に入って酒造りをする前に想像していたのと全然違って、みんなもっともっとイマジネーションの文化の世界だし、そういうところで音楽作りをずっとしてきた私と、垣根はそんなになかったですね。ものづくりをするクリエイター同士で、老いも若きも男も女も関係なく、『今日、こういうものが生まれてきたねー!』っていう喜びの種類って、『よくぞ生まれてきた!』っていうたった1つなんですね。音楽も生まれてくるときの感覚って、曲作りをする人も歌う人もそうだと思うけど、クリエイティブに生まれてきたものに対して『ありがとう』って頭を下げたくなる瞬間って必ずあるわけなんだけど、お酒造りをする職人さんたちも同じで、感謝をするんですよね。それは、お酒も命がありますから、生まれてきた命のあるものに感謝というのもあるし、お酒を作る過程の中で原料となったお米を作った人、お米という植物に対して、お米という植物に対してのもっと深いところでは、その日の天気、毎日の天気、お天道様だとか、雨粒の1つ1つに感謝、土に感謝、全てに感謝するっていうところはすごく共感できるんですよね」 お酒は魔法のしずく●元々、かのさんのご実家がお酒造りをなさっていたそうですね。 「そうなんです」 ●では、小さい頃から蔵にはなじみがあったんですね。 「ありすぎるくらいありますね(笑)。必ず今日の酒造りに感謝で、一本締めで一日が終わり(笑)、朝、目を覚ますときは蔵のほうから酒造りの仕込みの歌が聞こえてきて、それを目覚まし代わりに起きていましたからね」 ●かのさんのご本で読んだんですけど、蔵に入ると蔵は和ですから、和を乱さないようにって杜氏さんに言われたそうですね。 「そうですね。和っていう字はすごいですよね。和やかって読み方もできるし、和の文化の和でもありますもんね。和を乱さないようにしましょうって小学校の頃によく言われていたんだけど、それは協調性でみんなと同じ意見にすることが和だって私はずっと思っていたの。みんなと同じく足並み揃えて、とがらないように『そうだよねー』、『ですよねー』みたいな世界が和だと思っていたんですけど、酒造りをしてから、和っていう感覚がどんどん変わってきたんですよね」 ●どういうふうに変わったんですか? 「例えば、おいしいお酒を造って、自分達もものづくりに対して感謝して喜びたいし、飲んでくれる人に『うわぁ、幸せだなぁ』って思ってもらうのを目的にするためには、乱すものがあってはいけないという考え方になっていったんですね。そのためには、例えば、造っている最中に『あいつはどうだこうだ』って聞き苦しいようなことを言ったりして、美しいものを作りたいっていう思いに逆行するような要素のものを入れておくと、美しいものの丸く転がっている和の循環にイガイガしたものを入れるようなことになるから、いいものができなくなっちゃうんです。で、音楽は生き物ですけど、お酒も生き物ですから、それがすぐ味に出ちゃうんですね。音楽もバンドでもそうだけど、嫌な感じがあるとやりたくなくなっちゃうような、『今日なし!』みたいなこともいっぱいあるから、やっぱりこういうものを一緒に夢見て、こういうものを目指していこうねってみんなが合わさったときに、きれいな和ができるんですよね。いいものができる。これが和の最高の姿なんだなって思ったんですね」 ●全てのものづくりに限らずだと思うんですけど、人間社会で生きていくうえでも、そういられれば本当に幸せで平和な地球になるんでしょうね。 「そう! その気持ちがすごく大事で、その積み重ねが地球っていう丸い星にとっても、いいことがいっぱいあると思うの。最近、温暖化の話に胸が痛みますし、大変ですけど、あれも和を乱していることでおかしくなっていて、おのずと積み重ねで和を作っていくのを、みんなで蓄積していかないとダメなわけで、必ずどこにも和って存在するんだなって思うんですよ」 ●いろいろな意味で和を見つめ直さなくちゃいけないときなのかもしれませんね。 「そんな気がしますね」 ●循環という意味では、酒造りって、素材があって、お米があって、お水があって、蒸し終わったお水で熱湯消毒をして、また土に返して、それがまた雨になってっていう大きな循環があるって聞いたんですが、実際はいかがですか? 「そういう循環があるんです。お酒造りっていうのはよくできているもので、それこそ昔からある日本の文化の中での知恵なんですけど、結局、お酒造りで米を蒸す、大きなお釜で熱湯を沸かして、その蒸気で米を蒸してお酒造りになっていくわけでしょ。で、蒸し前に使う熱湯を、使い終わったら、木べらとかお酒造りに使った道具を、全部、熱湯消毒して、洗ったらお日様に干して、紫外線殺菌みたいなのをするんですね。で、道具を洗い終わった熱湯を土に返すんですね。だから、洗剤を使わないし、逆に洗剤より熱湯で殺菌したほうが、全て清潔っていう意味でもそうだし、土に返しても土も喜ぶし、『今日のは終わったの?』って土に言われるような気がするんですね(笑)。またお返ししたら雨になって、いずれやってくるものになったりして、その循環があるんですよね」 ●そのお話をインタビューで読ませていただいたときに、私達は「生きている」っていう感覚が欠けていますけど、使っているものや接しているもの全てに命があって、その全てをいとおしみながらとても大切に使って作り上げるのがお酒なんだなって感じました。 「そうだと思います。このラジオをお聴きの皆さんにも見直してほしいんですけど、日本酒ってお米からできている魔法のしずくなんですね。私達が常に浴びている日光と、雨をいただいて、最後にできる魔法のしずくなんですね。こういうのってもっと見直してほしいなぁって思いますね」 自然は細胞だから必ず復活する●蔵人・泉薫子さんという顔も持っていらっしゃるかのさんなんですけど、実は「素食が贅沢」というお料理の本も出されていて、とってもお役に立つようなレシピも満載で、「こういうのって素食っていうの?」っていうくらい贅沢だなって感じました。素材を非常に大切にしているお料理でもあるんですね。でも、あっという間にできそうなお料理ばかりですね。 「そうですね。私、料理人なわけではないので、趣味人として、料理が好きな人の1人として、1冊の本にまとめました。和食だけではなくて、例えば、インドのほうれん草のカレーとか、ただ野菜をガッチリ焼いて、うまい海塩をパシッとかけた焼きっぷりをご披露したりしています」 ●本の最初の方は素材の選び方とかが色々書いてあって、最初が色彩野菜のグリエっていう、旬の野菜をぶつ切りのようにしてオーブンでガンっと焼くだけっていうもので、これが本当においしそうなんですよね! 「(笑)」(嬉しそうなかのさん) ●土とお天道様とお水で育った野菜たちが、その素材の鮮やかな色と、ぎゅっと詰め込まれているおいしさを、「焼くだけで十分じゃん!」ってくらい、料理の原点を思い出させてくれるような一品でした。 「カボチャの形状を考えただけで『うひょひょ』ってなりますもん(笑)。何でこんな形になって生まれてきたかなっていうくらいユニークですよね(笑)。『あんたねぇ・・・』って話しかけてしまいたくなるような色と形を楽しみながら(笑)、お酒をいただいて食べるっていうのもいいですよね。目で見るっていう感覚も楽しいし」 ●この本のレシピの基本になっているのが、ホールフード、カラフルフード、スローフード、プレシャスフードっていう4つのフードだそうですね。 「ええ。丸ごと全部、楽しくてワクワクするような彩りの野菜を焼いて、それを撮ったんですね。食べていて『おししいー』って心の底から思えるものが一番いいんだなぁって最近、特に思うんですね。私がある時期そうだったんだけど、『これってオーガニックなのかしら!?』って変に凝り固まらないで、体が喜ぶものを優先していくと、おのずと『有機野菜だったんだな。どうりで味が濃くておいしいわけだ』ってなるわけですね。そういう選び方をオススメしたいなぁと思ってまとめた1冊なんです」 ●お酒造りのところで、生み出したものに対して感謝するっていうお話があったじゃないですか。一般の私達は作っていないわけですから、そうやって精魂込めて作っていただいたものを食べて、「あー、うまい!」の一言に対する感謝とか、こんなにおいしいものを作ってくれた人たちに対して感謝することって大切ですよね。そして、こんなにおいしいものを飲み続けるためには、ゴミを川にポイ捨てしたらそれが海に行って、やがて雨になって降ってきたらおしまいなんだなっていうところまでイメージできると変わるのかなぁって気がします。 「うん、そう思います。食べる方も飲むほうも作るほうも想像力ですよね。ゴミを1つポイ捨てしたことによって、その影響が何年もかけてドワーッて広がっていくから、すごく怖いですよね。手付かずの川とかは土自体がひどくて、目に余るものがあるんですね。その一方で、この川を復活させようって頑張っているところもあって、みんなが頑張ってきれいにしようと思うと、シャケとかが戻ってきたりして、やるだけのことはあるんですよね。やっぱり自然って生き物だから、息を吹き返すんですよ。人間の肌荒れもそうですよね。肌が荒れちゃってガサガサになったときって、『一生こういう肌かもしれない』って思うじゃないですか。だけど、再生するっていう生き物の力があって、それが食べるものだとかつけるもので、一生懸命ケアしていくと、肌ってあの時最悪に荒れていた自分が思い出せないほど、ツルーンってなって再生しますよね。あれと同じで、生き物の1つ1つの自然っていうのは細胞でもあるから、時間と良くしたいって思う人がいればいるほど、必ず復活しますよ。その気持ちっていうのはすごく大切で、諦めてはいけないし、放っておくと悪化するので、急がなくちゃいけない」 ●この後、冬になると蔵に入る時期がやってくるわけですね。 「寒いですよー(笑)」 ●次のアルバムのご予定とかはあるんですか? 「今回、ベスト・アルバムで、とにかく全力投球したっていう部分もあって、新曲を入れたので、今、こう聴きたいっていう自分の音楽が作れたような気がするんですね。ですから、これから自分のニュー・アルバムを、スローフードならぬスローミュージックで作っていこうと思います(笑)。それがまとまったらアルバム作りに入っていくだろうし、ゆっくり自分のテンポでやっていきたいなって思います」 ●私達も楽しみにゆっくり待っていたいと思います。今日はどうもありがとうございました。 |
■ミュージシャン・かの香織さん情報
最新アルバム『angel songs~the very best of cano caoli~』
料理本『 素食が贅沢』
・かの香織さんのHP:http://www.caolina.net/ |
オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」
M1. BUILT TO LAST / MELEE
M2. BITTER SUMMER'S END~夏の終わりのキャンプファイヤー~ / かの香織
M3. 青い地球はてのひら / かの香織
油井昌由樹ライフスタイル・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」
M4. CRUEL TO BE KIND / NICK LOWE
M5. 金曜日のレストラン / かの香織
ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」
M6. SING / CARPENTERS
エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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