2007年10月7日

ノンフィクション・ライターの千葉望さんオススメの「陰暦暮らし」

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは千葉望さんです。
千葉望さん

 「陰暦暮らし」の著者、ノンフィクション・ライターの千葉望(ちば・のぞみ)さんをお迎えし、季節のうつろいを感じて暮らすには、昔の暦を参考にするほうが良いというお話などうかがいます。

新暦だと行事がずれてしまう

●千葉さんは6月にランダムハウス講談社から「陰暦暮らし」というご本を出されていらっしゃるんですけど、陰暦っていうのは今の暦と違って、旧暦のことなんですよね。

「はい。正式にいうと、太陰太陽暦が旧暦っていうことらしいんですけど、私も暦の専門家ではないので、今は新暦で、それに対する旧暦という言い方をしています。日本は明治5年に新暦に変わりました」

●そして、このご本では「陰暦暮らし」っていうことで、陰暦で暮らすことについて書いてあるのですが、詳しく説明していただけますか?

『陰暦暮らし』

「はい。私も生まれてからずっと新暦で暮らしているわけなんですけど、それだけだと日本の伝統的な文化とか行事を理解するときにどうしてもずれが出てきて、気持ちが悪いなぁと思うようになったんですね。じゃあ、そういう行事なんかを陰暦の考え方で見直してみると、何か見えてくるかもしれないと思って、色々な旅をしながら考えてみたら、皮膚感覚ではそっちの方がしっくり来ることが多くて、やっぱり日本の自然にはこちらのほうが合っているかなと思ったんですね。グローバル時代ですから、世界とうまく付き合うには新暦もちゃんとやっていかなくちゃならないので、両方うまく取り入れるといいんじゃないかなという気持ちでこの『陰暦暮らし』っていう本を書いてみました」

●新暦の暦の違和感って、何がキッカケで感じられるようになったんですか?

「子供の頃は違和感を感じたことはあまりなかったんですが、一番の理由としてはお茶をはじめてからですね。私は10年くらい前に表千家の茶道を習いはじめたんですけど、行事が新暦に変わっているものが多いんです。例えば、9月9日、新暦の日のお稽古日っていうのは菊のしつらえになっていて、重陽っていうお菓子も出て、本来はいい気分のはずなんですけど、汗だくだくで暑いんです(笑)。菊は全然咲いていないですし、萩も咲いていないし、東京なんか本当に暑かったですよね。着物で行くとあせもができるくらい。だけど、本来であれば、もっとさわやかな季節に菊の節句ってあったはずじゃないかなって、習い始めた最初の年から思ったんですね。それで見ると、旧暦でいう9月9日っていうのは1ヵ月くらい前なんです。で、これはおかしいじゃないのってことで、ずらして考えていくと、随分しっくりくることがあるなぁと気づいたのが最初だと思います」

●もともと千葉さんは岩手のご出身で、ご実家がお寺だそうですね。その辺からも、幼い頃に自然の中で遊んだり、お寺さんでの行事だったり、大人になって陰暦を意識し始めてから、ちょっと違うなぁって感じることも増えていったんじゃないですか?

「そうですね。岩手や北東北なんかだと、行事を月遅れでやることが多いんですね。お正月や大晦日っていうのは仕方がないので新暦でやるんですけど、旧正月っていうのもありますし、お盆も月遅れなんです。ですから、比較的違和感を感じずに済むことではあったんですね。それから、七夕なんかも新暦ではなくて月遅れで、8月のはじめにやるのであまり雨も降らないし、天の川もよく見えるということで、割とずれを感じずに生きてきたっていう人間だったと思いますね。東京に来ると、あまりに環境が違いますから、ずれているんだかずれていないんだかよく分からないということで(笑)、時が過ぎてお茶をはじめるにいたって、ハッとなったっていう感じですね」

新暦と旧暦では1ヶ月以上暦が違う

●実は、9月9日がこの番組の放送日だったので、「今日は重陽の節句で・・・」ってお話をさせていただいて、私もそのときに「菊はちょっとまだ咲いていないんじゃない?」って言っていたんですけど、今年は陰暦だと、いつくらいが重陽の節句なんですか?

千葉望さん

「10月15日くらいですね。新暦の9月9日に比べると大分爽やかじゃないですか」

●風が違いますもんね。

「空も高いし、澄んでくるし、ちょっとひんやりした空気もあって、菊酒なんかいただくといいですね」

●いいですねー! この番組をやらせていただいていて、色々とご紹介させていただいていると、七夕なんて気の毒なくらいに織姫も彦星も毎年会えていないですもんね。千葉さんの「陰暦暮らし」っていうご本には、千葉さんが疑問に思うような事柄が紹介されていて、読んでいて私もすごく感じたのが、年末の赤穂浪士。

「12月14日ですね」

●大体、毎年暮れになると、2時間ドラマとかで必ずやっていますよね。

「山鹿流陣太鼓が聞こえるような・・・(笑)」

●雪の場面とかあっても、「今、12月に雪は降らないでしょ!」とかって思っていました。

「確かに今、温暖化が進んでいるとか、江戸と今の時代で天候が違うっていうのは当然あると思うんですけど、それにしても違いすぎますよね。それなのに実際は12月14日になると尾張に行かれる方が何万人といらっしゃる。それは、ゆかしいことだと思うんですけど、あんなに日が短いときじゃなかったんだよっていうことを、声を大にして申し上げたいんですよね」

●「陰暦暮らし」を読んでいただくと分かるんですけど、新暦と旧暦とでは1ヵ月くらいのずれがあるんですね。

「今年はでいうと、1ヵ月とちょっとずれがありますね」

●新暦の現代に置き換えてみると、すごく状況が分かりやすいですよね。赤穂浪士の討ち入りに限らず、様々なことが変わってきていますよね。

「そうですね。討ち入りなんかの場合でも、吉良上野介義央の首をとって、泉岳寺まで運んでいくときにだんだん夜が明けていくわけですね。それを浅野内匠頭長矩の墓前にお供えして、梅の香りがするっていう俳句を詠んだ浪士がいるんですけど、12月の半ばだから梅は咲いていないわけですよ。で、夜も明けていないっていうことなので、これはちょっと違うかなぁと思いますね」

●でも、そう考えると、陰暦の出来事を新暦に変えてしまうと、今は祭日がハッピーマンデーっていわれるようになって、本来の日と変わってしまうのと同じように、本来の日じゃないですもんね。

「本来の日じゃないですね。行事で言うと、成人式がハッピーマンデーのセットにされちゃいましたよね。1月の第2週ですよね。本来は1月15日が元服の日だったから、それにちなんで成人式が新暦だけど1月15日だったらしいんですね。でも、そのいわれ自体がなくなってしまうような3連休になってしまったので、ますますわけが分からなくなっちゃいましたね」

●本来の持つ意味が変わってしまっているんですね。

「そういうことは随分あると思います」

●そうすると、今言っていた成人の日に関しては、成人になるっていう心構え自体も、意識の部分でも変わってしまいますよね。

「そうですよね。昔は武家の男の子だと、前髪立ちだったわけですけど、その前髪を落として、1人前の男の武士だということで、名前を変えて元服したわけです。その引き締まる覚悟みたいなものがものすごくあったと思うんですね。それにならって成人式にしたんだと思うんですが、忘れていますよね。忘れているというより、知らない方が多いと思いますけどね。『本当はそういういわれがあったんだよ』と言うと、これからの新成人の方は『へぇー』っていうことになるんじゃないですか」

●逆に今となってはハッピーマンデーになってしまったから、なぜ祭日になったのかっていう部分をちゃんと伝えていかなくちゃならないですね。

「変えて、3連休を多くして経済を刺激したいっていう狙いですよね。それだけでやってくと、いわれ自体を知らないで、どんどん動かそうっていうのが為政者の側にも増えていくと、情緒とか伝統っていうものと離れていってしまいますよね。復興主義っていうことじゃなくて、そういう面を大事にする必要があるかなっていう気がしますね」

●今、現在は物事全てが新暦で動く中、陰暦で物を考えるっていうのは、ある意味、難しいことにもなるかなって気がします。

「そうですね。シンプルに生きようと思ったら、新暦1本の方が楽は楽だと思うんですね。でも、シンプルばかりがいいかというとそうではなくて、やはり体の中を流れている月とか太陽の動きに従って生きているし、自然の一部なわけですよね。なので、そっちの声にも耳を傾けていないと、気持ちの悪いことになっちゃうんじゃないかという気がしますね。例えば、立秋が新暦の8月のはじめに来ますけど、『こんなに暑いのになぜ、立秋だ!?』って思われることもあると思うんです。これは、太陽の公転軌道を分割して24節気っていうのを割り出していくわけですけど、ちょうどのその立秋の頃になると、暑いんだけど陽の光がちょっと違うんですよね。角度が違うせいだと思うんですけど、なんとなく陽が短くなってきて、光の色が変わってきて、暑いけれども、アキアカネが東京でも飛んでいるように、さやかに秋の風情が感じられるわけなので、そういうものを見聞きする力っていうのを私達は潜在的に持っていると思うんですね。それを指し示してくれるんじゃないですかね」

着物は季節を先取りする

●千葉さんご自身、陰暦暮らしを考えて実行なさって、変わったことってありますか?

「以前よりも自然に耳を傾ける、見るっていう気持ちは強くなってきましたね。前はそういうことに対する関心よりも都会生活の楽しみの方が強かったんですけど、陰暦っていう1つの良さを得たことで、東京にも確実に生きている自然があるわけですから、そういうものに対する感性っていうのは鋭くなってきたんじゃないかなという気がします」

●それによって、精神的に変わったことってありますか?

「ゆとりができましたよね。前は仕事に追われていて、今だって追われてはいるんですけど(笑)、ちょっと月を見たり、今日はどういう日だったかなっていう本来の日に立ち返ってみると、今はこういうふうに宇宙が動いていて、農家の方々でいうと、こういうことをなさってということが分かったり、昔、こういう季節に何をしていたかってことに繋がりやすくなってくるんですよね。そういう知識がなくて、新暦の感覚で考えちゃうと、ずれができちゃうってこともありますので、古くて豊かなものと繋がりやすくなったっていうのは確実にいえると思います」

千葉望さん

●今日、千葉さんはお着物を着ていらっしゃったんですけど、着物を着るっていうことも、陰暦を意識し始めてから着る機会が増えたんですか?

「そうですね。お茶を習い始めて、できるだけお稽古に着物で行くように努力しているというのもあって着始めたんですけど、着物っていうのは季節をちょっとだけ先取りするといわれていますね。季節の先取りをするということは季節をよく知らないといけませんから、そういうことを知っていく楽しみっていうのは確実にもらったような気がしますね」

●日本人にとって陰暦の暮らし方っていうのは、合っているんでしょうか?

「そうですね。着物に関していえば、着るようになってから確実に合っていると思いますね。夏場だと風がよく通って涼しいようにできていますし、女性の場合だと大事なおなか周りが冷えないようにできていますし、何しろ素材が自然のものばかりなので、気持ちがいいんですよね。足袋を履いて草履を履いて街を歩いていると、足なんか全然痛くなりませんし、冷えませんし、まめができないんですよね」

●陰暦の暮らし自体はどうでしょうか?

「陰暦の元となる考え方っていうのは中国のモンスーン地帯から来ているんだと思うんですけど、やはり日本の気候と似通っていますよね。だから、欧米の北方文化の寒くて乾燥した地域とは感覚が違って当然だと思うんです。だから、私達が暮らしている土地に合った暦を体の中にもう1つ持っておくというのは、生活の中でも安定感が出ると思います」

●このあと、祭日などで陰暦暮らしが楽しめるものはありますか?

「お茶をやっているかただと、11月というのはお茶の正月といわれているんですね。それはなぜかというと、炉を使うんです。で、11月いっぱいまでは風炉といいまして、昔の火鉢のようなものがありましたけど、畳の上でお湯を沸かしてお茶をたてているわけですね」

●今でいうと卓上コンロでお湯を沸かしているような感じですね。

「はい。畳の切ってあるところにお釜がかけてあって、大分陽も短くなっていますよね。だから、お茶室っていうのは暗めなんですけど、その中で明々と炭の火が見えて温かくお湯が沸いて、そこで新茶を練っていただくという素晴らしい行事があります。お茶も新暦に大分、合わせているんですけど、いまだに11月に入ってからということなので、そういう意味では陰暦に近い感覚で楽しめる行事ではありますね。そのときに食べるお菓子も豕もちという大変おいしいお菓子が出ることになっています」

●和菓子屋さんに行くと、季節感がある和菓子がたくさん並びますよね。ふとした時間に和菓子屋さんをのぞくだけでもいいですよね。

「それは素晴らしいですよね。本当に老舗の店先なんかに行くと、とても綺麗でよくこんなものをお菓子にするなぁっていうようなものが並んでいますよね。洋菓子もおいしいものはいっぱいありますけど、季節感は和菓子に勝てないですね」

オススメは日めくりカレンダー!

●カレンダーでよくルナ・カレンダーってありますけど、新暦と陰暦が同時に見られるようなカレンダーってあるんですか?

「あるんですよ。うちの田舎なんかはいまだにそれを使っているんですけど、石油屋さんが下さる日めくりカレンダーっていうのがありまして、日めくりだと陰暦の情報が入っているものが多いんですよね。今日は三隣亡ですといったことまで入っているんですけど、ああいう日めくりも固定的に人気があるらしくて売っていますよね。そういうのを使われるといいと思います。私も一時、月の形で暦っていうカレンダーを買ったことがあったんですけど、それ、実はあんまり陰暦の情報が細かく入っていなくて、実用的じゃなかったんですよね」

●あくまでお月様の形が載っているというカレンダーなんですね。

「そうですね。ですからオススメは古臭いように見える日めくりカレンダーが便利ですね。これからネットでも売り出されますし、大きな書店さんなんかでも扱っていますよね。そういうときに、できるだけ情報が入っているものを捜していただくといいかなと思います。あれは便利だと思います」

●陰暦暮らしについてもっと知りたくなった方はどうすればいいですか?

「最初に私の本を読んでいただいて(笑)、それ以外にはインターネットでも月や暦に関してのホームページがあったり、すごく便利なものができていますので、それをうまく生活に取り入れながら、『今日はどんな日だったかな?』って思いながら暮らすだけでも、道端に咲いている草を見たときにも、目が違ってくるんですよ。だから、どなたがやっていなくても、この季節には自分なりの行事をちょっとだけ楽しむ。あるいは、季節に合ったお菓子を自分のために買ってきて召し上がるっていうのもすごく楽しいんじゃないかって気がします」

●今度は、陰暦に合わせて外でお話をうかがったり、お手前をいただきながらどこかでお話をうかがえればと思います。今日はどうもありがとうございました。

AMY'S MONOLOGUE~エイミーのひと言~

 実は、放送日の2007年10月7日は、陰暦では8月27日、今年の重陽の節句(9月9日)は正確には10月19日だということです。こんなにズレてしまっていては季節感を感じることもできないですよね~。またお話の中にも出てきたハッピーマンデーに関しても、連休は嬉しいですが、日にちを替えてしまったら、その祝日の本来の意味が全くなくなってしまうのではないでしょうか。
 ちなみに、放送翌日、10月8日(月)は「体育の日」。でも本来「体育の日」は、昭和39年に開催された東京オリンピックの開会式の日(10月10日)を記念して昭和41年に設けられた祝日。記念日を替えてしまうというのはどうなんでしょうね~?

このページのトップへ

■ノンフィクション・ライター、千葉望さんの著書

陰暦暮らし
ランダムハウス講談社/定価1,680円
 まだ陰暦を使用していた時代に書かれた文献や、当時から行なわれている行事などを例にしながら、忘れかけている季節の移ろいを思い出させてくれる1冊。
 皆さんもぜひこの本を読んで、日本独特の自然を改めて見直してみてはいかがでしょうか。

このページのトップへ

オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. MOONLIGHT SHADOW / MIKE OLDFIELD

M2. BREAKAWAY / THE BEACH BOYS

M3. IN ANOTHER LIFE / XTC

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

M4. THE DRIFTER / ROGER NICHOLS & A SMALL CIRCLE OF FRIENDS

M5. SWEET SEASONS / CAROLE KING

M6. DAY AFTER DAY / BADFINGER

油井昌由樹ライフスタイル・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M7. DANCE WITH ME / ORLEANS

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
このページのトップへ

新着情報へ  今週のゲストトークへ  今までのゲストトーク・リストへ  イベント情報へ
今後の放送予定へ  地球の雑学へ  リンク集へ  ジジクリ写真館へ 

番組へのご意見・ご感想をメールでお寄せください。お待ちしています。

Copyright © UNITED PROJECTS LTD. All Rights Reserved.
photos Copyright © 1992-2007 Kenji Kurihara All Rights Reserved.