2007年11月4日
「ディセンション~自らを下げる」著者
今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは、中里尚雄さんです。 |
プロウィンドサーファーで海洋冒険家の中里尚雄さんをお迎えし、海が教えてくれたことや、来年春に予定している海洋横断のことなどうかがいます。
●中里さんは16歳のときに単身ハワイのマウイ島に移住なさって、プロのウィンドサーファーとして輝かしい成績を残して、1993年に競技の世界を引退されたんですよね。
「はい。当時、住んでいたハワイを引き揚げて日本に越してきました」
●でも、5年後の1998年にはマウイの大波、通称「ジョーズ」に挑戦するために再びハワイに戻られるんですが、この頃から波に乗るという行為は変わらないものの、競技の世界というよりは冒険の世界の方にマインドがいっているのかなと感じました。
「そうですね。競技プラス冒険ですね。実は、復帰した後のほうがいい成績を残しているんですよね」
●今、分析してみて、ご自分ではなぜだと思いますか?
「やっぱり、開き直れたっていうのが大きかったんじゃないかと思いますね。5年間のブランクってすごく大きかったので、その間、若い選手とかいっぱい出ているんですよ。で、大会に出るときは『負けて当然』というつもりで出ていたので、あとは意識の持っていき方ですよね。ちょっとした戦い方があって、それがいい結果を生んだんだと思います」
●そして、15メートルにも及ぶ世界最大の大波「ジョーズ」。15メートルっていうと大体5階建てビルくらいですか?
「そうですね。4~5階でしょうかね」
●想像もつかないんですが、目の前にするとどんな感じなんですか?
「『ジョーズ』って言葉が出るだけで心臓が痛くなっちゃいますね。胸が苦しくなります。正直言って、ただ怖いだけです」
●でも、それをウィンドと普通のサーフボードの両方で成功されたわけじゃないですか。音とかってするんですか?
「すごい音がしているんですよ。爆音で、乗っている間は何も覚えていないんですよ。記憶にないんです。過去に2種目で20回乗っていますけど、1回も覚えていないんです。そこまで2人1組でマリンジェットっていう船で行くんですけど、ジョーズを目の前にしたら、最初に爆音を耳にするんですね。で、あとは雪崩みたいな波を見て、血の気が引いて『やめようかな』って思うくらいの気持ちになるんですよね」
●でも、ジョーズと向き合ってからって何か変わりましたか?
「ますます分からなくなったっていうのが答えですね。本当は自然の奥をもっと知りたいっていう気持ちがあったんです。あとは好奇心だとか、その頃は達成感だとかを自分の中で興味本位にっていうのが、冒険の最初のステップってみんなそうだと思うんですけど、それに心を合わせて自分が挑んだんですね。で、乗ってみたら、自然は本当にただ深いだけで、いまだに答えが分からないんですよね。20回乗ってもいまだに答えが分からないから、答えを求めにまた向かってしまうっていうところがあると思うんです。自然はあまりにも深いっていう答えは出ましたけど、だけど、それが一体なんなのかっていうのは、いまだに自分も分からないですね」
●海自体に対する気持ちは変わりましたか?
「変わりましたね。これは、年相応にそういう気持ちが湧いてきたのかもしれないですけど、ま、ジョーズに入ってからかなぁ。もっと自然をリスペクトするというか、感謝する気持ちがものすごく深くなりましたね。深みが増してきたというか・・・」
●自然の深さを知ると、自然とその相手に対して気持ちも深くなっていくというところもあるのかもしれないですね。
「あるかもしれないですね。『ジョーズ』の波に2回ほど巻かれたことがあるんですけど、本当に苦しいんですよね。洗濯機に回されるどころじゃない、なんて表現していいのか分からないけど、上下は全然分からないし、手足の関節がもぎ取れるんじゃないかっていうような水圧がかかるんですよ。中には巻かれているだけで気絶しちゃう方もいらっしゃって、それほど肉離れだとかの危険もあるんですね。でも、その分、出てきたときの命のありがたみっていうのがもっとわかるようになるから、そこで助けてくれたのも海だし、感謝の気持ちっていうのはもっと深くなりますよね」
●中里さんが今年出された本「ディセンション~自らを下げる」っていう本の中に「砂浜はいってらっしゃい、おかえりなさいが聞こえる場所だ」っていうふうに書いてあって、今のお話をうかがっていると、『頑張ってこい!』って砂浜に後押しされて、海に入っていき、命からがらでも出てきたときに「おかえりー」って言ってくれるのが砂浜って、すごく光景が浮かんできちゃいました。
「そうですよね。人間が生まれた場所っていうのが海であるし、魂の起源する場所でもあるんですよね。だから海は答えを全部知っていて、心を空にして対話が出来るようにパイプを繋いで、そこに自分が心を合わせば、海からのメッセージとして、何か答えが返ってくるんですよね。なので、海に入る前には必ず感謝の気持ちを伝えて、お礼を言って『神聖な場所に入らせていただきます。ありがとうございます』とお礼を言ってから入るんですね。で、海から上がってきたら『無事でいれましたことと、この素晴らしい空間をありがとうございました』とお礼を言います。そういう対話が昔はあったと思うんですけど、今は人々に忘れ去られちゃって、それがいつの間にかおごりとなってゴミを捨てたり、花火を捨てたり、タバコを捨てたりっていう姿を見ているので、ちょっと悲しくなっています」
●中里さんは2003年に大きな交通事故に遭って、再起不能といわれたにもかかわらず、わずか4ヶ月で復活したそうですね。
「そうなんですよ。退院したのは4ヶ月で、そのあとのリハビリは長かったですけどね。でも、歩けるようになって本当によかったですよ。今は走れるし、波にも乗れるし。ビックリしましたね」
●入院したときって肉体的だけじゃなくて、経済的にも精神的にもどん底に落ちるじゃないですか。
「どん底ですね。日本に引き揚げてからもう1回、ハワイで出直したときもお金がなくて、当時、結婚していた奥さんと2人でいちからやっていこうという気持ちで渡って、死に物狂いでトレーニングして、それでまたいい成績残して、スポンサーもついて、ジョーズにも乗れて、世間が認めてくれて世界ランカーっていう肩書きと、冒険家っていう肩書きをいただいたのに、全てが順調にいっている中でいきなりの事故だったので、ビックリしましたよね。まさか、自分がこうなるなんて思っていなかったし、お医者さんから手術した翌日には『君には申し訳ないけど、歩けるようになる確率は50パーセントなんだ』って悲しい顔をして言われて、その担当医がたまたまサーファーだったので、プロに復帰するっていう意味を分かってくれるんですよね。だけど、『プロの復帰はもう諦めたほうがいい』と。『ましてや、僕はジョーズという場所がよく分かるから言うけど、それはもう考えないほうがいい』と言うわけですよ。それを聞いて人前で泣くっていうことはないですけど、さすがに泣いちゃいましたね。自分の動かない足を見て、触っても他人の足を触っているみたいで、全然神経が通っていないんですよ。おそらく針を刺したら血が出るけど痛くないんですよね」
●そんな状況からリハビリを経てカムバックするまで、何が支えになっていたんですか?
「ただ復帰したいという思いですね。これに尽きます。だから、医者がなんて言おうが、やっていないから分からないじゃないですか。自分は知識よりも体験を通して学んできたことがいっぱいあるんですね。僕が16歳でハワイに渡るときも、塾の先生、学校の先生、周りの大人、みんな止めました。『そんなのダメだよ。逃げているだけだ』、『そのあと、プロになれなかったらどうするんだ?』、『選手として終わったらどうするんだ?』って心配してくれましたけど、僕はその思いだけで行ったんですね。自分の思いを貫き通すっていう生き方をしているので、まずは自分にそれを乗り越える経験を与えなければいけない。だから、医者が言うことはあまり聞かないようにして、40分で済むリハビリを1日6時間やったんですね。もちろん歩けないからイメージ・トレーニングから始まって、大したことをやっていないんだけど、それでも足を動かすと痛いから、とにかく死に物狂いでしたね。もう、壁につかまって、杖つきながら、人に支えられながら、スクワットをやったりして、貧血になって倒れても、まだ続けるという感じで、医者も『いい加減にやめてくれ!』って何度も止めにきましたけどね(笑)。それでも、それを乗り越えて今の自分があるんじゃないでしょうかね」
●中里さんはその後、NPO水人(すいじん)サポーターズという団体も発足させていますよね。これはどういう団体なんですか?
「次世代に繋ぐっていうのが僕のテーマなので、今まで体験してきた自然とか、そういうものを通して子供達をサポートする心の情操教育じゃないですけど、そういうのを教えていきたいなと思って立ち上げました」
●「すいじん」ってパソコンなんかで変換すると、「水神」って出てしまうんですけど、この場合の「すいじん」は「水人」で、英語でいうWATER MANになるんですよね。
「そうなんです。あまりにも今、子供がゲーム世代になっちゃっているじゃないですか。ゲームを持っていないと仲間はずれにされたりとか、ついていけなかったりしますからね。大事な自然と接する場というのを失っていますから、自然を通して学べるものっていうのを教えていきたいんですよね」
●これも、事故に遭っても命が助かった、今生きている自分のすべきことの1つとしてやられているんですか?
「はい。僕が伝えなきゃいけない大事なお役目ですね」
●NPO水人サポーターズでは、子供向けの海の教室を各地で開催されているそうですが、どういうことをやっていらっしゃるんですか?
「夏になると、年に5回から8回くらい、サーフィンとかウィンドサーフィンの競技種目を体験させてあげるんです。で、あくまでも技術を教えるんじゃなくて、体験なので、自然を学んでもらうっていうイベントなんですね」
●小さい子って、波に乗れなくても海に入るだけで表情って変わっていきますもんね。
「変わっていくんですよー。最初できなくて緊張していた子供も、子供って早いからすぐにできるようになるんですよね。あっという間で、大人よりも全然早いんですよ。大体60人来るんですけど、大体1回のイベントで乗れるようになります。幼稚園の年長から小学生、もしくは中学生まで」
●私も小さい頃、そんな教室があればなー(笑)。
「(笑)。来る前と終わったあとでは瞳の輝きが全然違うんですよ。一番ビックリするのは親御さんですよね。『家で見せない笑顔が、瞳がある! これは何ですか!?』って聞きに来るんですよ」
●それはテレビゲームをやっているだけじゃ見られない笑顔ですよね。
「本来の瞳を取り戻せるんですよ。地球の息遣いと呼吸を合わせることが出来るようになるんですよね」
●同時にビーチクリーンもやっていらっしゃるそうですが、子供達の教室を通しても、クリーンナップについて教えていらっしゃるんですか?
「そうです。基本中の基本ですよね。礼節っていう言葉を大人も忘れているので、悲しいのが大人たちがポイポイゴミを捨てちゃうじゃないですか。それを見た子供っていうのは、正しいものだと思って真似しちゃうんですよ。だけど、本来なら土が出ていなくちゃいけない地球の息遣いをアスファルトで止めちゃったり、ビルを建てたりとか、そういう破壊っていうのは止められないですけど、自然って生きているから満ち潮もあれば引き潮もあるし、夏もあれば冬もある。こういう流れ、リズムっていうのがあるから、そう生きているところにポイって捨てるなんて、親に対してゴミを投げるのと一緒なんですよね。それに礼節っていうのが欠けちゃっているから、それを教えたいんですよね。人間によって作られたペットボトルのふたなどのプラスチックのゴミが一番多くて、次にタバコが多いんですけど、それを人間の手で拾ってあげるっていう作業がどれだけ大事かっていうのを、動物で例えた紙芝居で教えてあげるんですよね。みんな食いついて見ていくんですよ。動物達がゴミを餌と間違って食べて、お腹に溜まって、ご飯を食べなくなってやがて死んでしまうっていう本当の話なんですけどね」
●もちろん、ゴミ問題もそうなんですけど、砂浜などの浸食の問題も色々あるじゃないですか。ご本の中で「海の侵食は人間の欲の秤を表しているのではないか」っていうふうに書かれていて、「そうかもしれないなぁ」ってすごく感じました。
「欲がそのまま現れているだけですね。いい加減、母なる海も限界がくると思うんですよね」
●中里さんの水人流の生き方っていうのはどういうものなんですか?
「言葉にするのは難しいですけど、今、41年生きている中で『ディセンション~自らを下げる』っていう本を出しましたけど、今の自分の答えがディセンション(Descention)っていう言葉なんですね。これはどういう意味かというと、自分を下げるとか、自らを落とすわけですね。今、この反対の言葉にアセンション(Ascension)っていう言葉があるんですけど、やたらみんなアセンションしたがって、僕もアセンションしていた1人なんですけど、やたら見栄を張って、色々な物であったり、執着があって、それを人に見せびらかしたり、それに自分の満足を見つけて、欲を満たしていたりするんですけど、そこだけに生きてしまって本当にいいのかなっていう疑問がこの塾を通していっぱい出てきたんですね。そうじゃなくて自分を下げなきゃいけない部分も出てくるだろうと。下げると自分の正直な本音が出てくるんですよね。地球と心を合わすと正しい道が開けてくると思うんですよね。僕はよく、『海に入らなくてもいいから、砂浜に足を運んでくれ』って言うんだけど、それによって自分の中に溜まった欲や余分なものを、1回キレイに流すことができるんですよね。特に波に入ったら余計クリアになって空っぽになりますけど、空っぽになったところに本当の地球に合わす心っていうのが生まれてくるので、そういう提唱をよくしています」
●中里さんは来年の春に「黒潮海流・夢の桜海洋横断」というものに挑戦するそうですが、これはどういうものなんですか?
「これは、ウィンドサーフィンを使って、鹿児島って島があまりないようなイメージがあるかもしれませんが、実はいっぱい島があるんですね。沖縄に行くまで結構島がありまして、最南端は与論島かな。与論島から、沖永良部島、徳之島、奄美大島っていうのが有名ですけど、そこからトカラ列島っていうのがあるんですね。で、宝島だとか色々な島があるんですが、そこを通って最後、屋久島、桜島近郊湾に入るというルートで行きます」
●この「桜」は桜島の「桜」だったんですね。
「そうです。最後、桜島に到着したらそこに桜の苗を植えたいっていう夢があるんですよ。で、渡った島々でゴミを拾います。清掃活動をしてキレイになったら、代わりに1本ずつ桜を植えて、みんなの気持ちがそこに傾くように残していきたい」
●私は波のことってよく分からないんですけど、ルートだとか風とか潮流ってどうなんですか?
「黒潮が流れているので、下の沖縄のほうから鹿児島へ向かって、北上できるんですね。で、この潮に乗って島を渡っていくっていう考えですね」
●時間ってどれくらいかかるものなんですか?
「何も問題がなければ、それぞれ島に渡って、2週間で行けると思います」
●その間も各島まで、クリーン活動をなさるんですか?
「はい」
●これは、お1人で行かれるんですか?
「危ないので伴走船をつけてやります」
●これって、いわゆる冒険になるんですか?
「そうですね。冒険といえば冒険ですね。伴走船をつけていてもはぐれちゃうっていうことはよくあるし、1人で取り残されちゃうっていうこともあるので、GPSをつけて行きます」
●これをやろうと思われたキッカケってなんだったんですか?
「過去に色々な冒険をやっていて、ハワイ諸島横断とかもやっているんですけど、荒木汰久治君と日本から韓国までパドルボートで横断したこともあります。そういう自分のための挑戦っていう冒険だったんですけど、今度はディセンションですよね。これは、船もしくは飛行機を使えば誰でもできることなんですよね。だけど、地球のリズムに合わせて、地球の呼吸と合わせるっていう意味で、エンジンを使わないで、潮の流れと風を使って進むっていうことが大事なんですよね。そして、島々を渡っていくっていう、とても深い意味があると思うんです。で、到着して清掃活動することに子供達は腑に落ちる部分がすごくあると思うんですよね。すごく説得力があると思います」
●この番組は1度出演していただくと甘えてしまう番組なので、次回は是非、波の音を聞きながら、海岸で実際にビーチクリーンなんかしながら、お話をうかがえれば、ラジオを通して波のリズムがリスナーのみなさんにもさらに伝わるかなぁって勝手に思っております(笑)。
「素晴らしいですね! 是非是非」
●よろしくお願いします。今日はありがとうございました。
AMY'S MONOLOGUE~エイミーのひと言~
「答えはすべて海が知っている・・・」、「地球の息遣いと呼吸を合わせる・・・」、「砂浜の侵食は人間の欲の量りを表わしている・・・」。海の楽しさ、優しさ、厳しさ、恐ろしさを、身をもって体験し、また、生きていることの素晴らしさをも実感なさっている中里さんの言葉はどれもとても深く、心に響くものでした。そんな中里さんとお話ししていると、自然と私まで穏やかで優しい気分になってくる・・・。中里さんは海そのものなのかもしれませんね。 |
■プロウィンドサーファー/海洋冒険家・中里尚雄さん情報
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尚、「中里尚雄」さんの活動については「中里」さんの公式ホームページをご覧ください。
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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」
M1. I WILL FOLLOW / KIM RICHEY
M2. WE SAIL ON THE STORMY WATERS / GARY CLARK
M3. ADVICE FOR THE YOUNG AT HEART / TEARS FOR FEARS
ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」
M4. SAIL ON / COMMODORES
M5. I'LL REMEMBER / MADONNA
油井昌由樹ライフスタイル・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」
M6. 即興演奏(LIVE音源) / 近藤等則
エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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