2008年3月2日
身近な自然を知り、自然と親しむ「生きもの地図」
今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは浜口哲一さんです。 |
平塚市博物館の館長、浜口哲一(はまぐち・てついち)さんをお迎えし、地域の身近な生きものを調べ、地図にする方法やそのコツ、そして生きものの地図を作ることで見えてくることなどうかがいます。
●はじめまして、よろしくお願いします。先日、「生きもの地図をつくろう」という本を出された浜口さん。まず、私たちが注目したのが生きもの地図なんですけど、これはどういったものかをご説明いただけますか?
「はい。生きものっていうのは動植物っていうことなんですが、動植物の図鑑を見ると、中に分布図という地図が入っていることがありますね。例えば、日本地図の中でその種類はどこにいるのかっていうことが書いてあるんですが、私が作っている生きもの地図っていうのは、それとはちょっと違っていて、もう少し細かくそれぞれの種類が具体的にどの地点にいたかっていうのを、きちんと地図の上に示したような地図のことを生きもの地図と呼ぼうじゃないかというふうに考えているんです」
●一般的な分布図よりももっと細かくて、生きもの地図を見れば「あのポストの、あの辺」ってところまで分かっちゃうんですね。
「そうです。街の中にはスズメがいっぱいいますけど、その町のどこにスズメがいるんだろうかってところまで1つ1つ記録した地図を作ってみると、そこから何か読み取れることがあるんじゃないかと思い、そこで名前をつけたのが生きもの地図なんですね」
●浜口さんは平塚市博物館の生物担当の学芸員もやっていらして、「みんなで調べよう」という行事もやっていらっしゃるそうですが、その行事がこの生きもの地図へと繋がっていったのでしょうか?
「そうですね。平塚の博物館ができたのが1976年ですので、大体30年くらいの歴史があるんですね。で、開館してから3年くらい経ったときに、それまで自然の観察会をやっていたんですが、もう少しみなさんの力を合わせて、何か調べることができないかと考えまして、タンポポの地図をつくろうじゃないかと呼びかけたんですね。で、それを呼びかけるにあたって、『みんなで調べよう』って行事の名前をつけたんです。それで、みんなで集まって平塚のタンポポの地図を作ってみたら、なかなか面白いということで、それ以来、色々な生きものについてみなさんと地図作りをやっていまして、そのことが今回の本の大きな発想の基になっています」
●この生きもの地図って、たくさんの人が集まって作るというところにも意義や面白さがあるんですか?
「そうですね。どんな生きものについて調べるかにもよるんですけど、1人でできる範囲ってあると思うんですね。この本ではまず小中学校の学区を調べてみませんかっていう呼びかけをしているんですが、おそらくそれであれば1人、2人とか家族で調べることができると思うんですね。だけど、1つの町について調べてみようとか、1つの県について調べてみようっていうことになると、大勢で集まって同じやり方を共有して調べるということが必要になってくると思うんですね」
●色々な形で楽しみながら作れるのが生きもの地図なんですね。
「そうですね。地図を作る一番の利点っていうのは、とにかく現地を歩いてみないといけないということなんですね。で、みなさん方もそれぞれ住んでいらっしゃるところに小中学校があって、学区というのがあると思うんですけど、それをくまなく歩いたことのある方って少ないんじゃないかと思うんですよ。それが、目的を決めてずっと歩いてみると、目的とした生きものについても分かるんですけど、それ以外に結構色々な発見があって、それもとても楽しいことじゃないかなと思うんですね」
●しかも、歩くことによって健康にもいいし、生きもの地図を作ることによって色々な利点があるんですね。
●生きもの地図の実際の作り方をうかがっていきたいと思いますが、まず、生きもの地図を作るにあたり、その動植物について詳しく知っている必要性っていうのはどの程度あるんですか?
「私が今回、この本の中で紹介したのは『春にタンポポを調べたらどうですか?』、『梅雨時にカエルについて調べたらどうですか?』、『夏はセミが面白いですよ』、『秋は鳴く虫について調べたらどうですか?』、『冬は鳥、どうですか?』っていう提案をしているんですね。それで、初めてこういうことをやろうっていう方には、『“鳴く虫”って言われても、あまり馴染みがないよ』っていう方も多いと思うんですけど、例えば、春に咲くタンポポということであれば、誰でもこの植物がタンポポだっていうことは大体分かると思うんですね。で、この本を見ていただいて、細かい見分けっていうのを頭に入れておくと、それが元になって面白い地図ができてくるので、ほとんど予備知識がない方でも取り組めるテーマはあると思います」
●あとは、やっていくうちにそのテーマについてどんどん詳しくなって、最終的にはエキスパートにもなれちゃうってことなんですね。3月は春ということで、タンポポをテーマにした生きもの地図作りのコツを教えていただきたいのですが、まず、探す範囲としては自分の家の近くだったり、学区っていうのがベターですか?
「そうですね。そのくらいが手頃かなと思います。あと、あまり狭い範囲だと環境の変化がないので、どこも同じだっていう結論になってしまって、あまり面白味がないだろうと思うんですね。ですから、できれば住宅地もあって、畑や田んぼもあって、ちょっと山のほうもあるっていうところに調べる範囲を設定できると、環境による違いっていうのも見ていくことができると思うんですね」
●それでも、くまなく歩いたことのある方は少ないと思うので、まず用意しなくちゃいけないものとしては地図ですよね?
「そうですね」
●その地図に書き込んでいくということですか?
「そうです。普通、みなさんがよく使っていらっしゃるのは、道路地図とか住宅地図っていうようなものだと思うんですが、そういうものは住所とかお店なんかの位置を調べるにはいいんですけど、土地の使い方とか等高線が出ていないので、生きもの地図にはちょっと不向きなんですね。それで、理想をいえば地図の縮尺でいうと、1万分の1くらいの、普通、我々が普段使っている地図よりも拡大したような地形図があると非常に使いやすいんですね。それをどこで手に入れたらいいかというと、どこの市町村でもその市町村の1万分の1くらいの地形図というのを作っていらっしゃるので、役所に行くとそれを買うことができますから、まず、それから用意をしていただくといいと思います」
●それを、さらに部分部分に分けて拡大コピーをして持っておくと書き込みもしやすそうですね。
「そうですね。1万分の1くらいの地図であれば、2倍くらいに拡大して、それをバインダーに挟んで持ち歩くと、色々な情報を書き込むのに便利ですね」
●タンポポって私は西洋タンポポと関東タンポポの2種類くらいしか知らないんですけど、他にもタンポポの種類ってあるんですよね。
「はい。とりあえず、一番肝心なことは、関東地方であれば西洋タンポポと関東タンポポが見分けられれば、第一段階としてそれでいいんですね。結構面白い地図ができると思うんですよ。で、さらに一歩進んでやってみようという方は、普通、西洋タンポポとまとめて呼ばれている種類の中にも、西洋タンポポという種類とアカミタンポポというもう1種類の別の種類が混ざっているんですね。それは、タンポポが綿毛になったときの実の色を見ないといけないので、ちょっと難しくなるんですけど、それを手がかりにしていただくと、西洋タンポポ、アカミタンポポ、関東タンポポっていう3種類が、どういうふうに環境のところにあるかという比較が地図の上でできてくるんですね」
●それを書き込んでいくだけでいいんですか?
「そうです。書き込んでいくと自然と傾向が浮かび上がってくるんですよ。大体の感じでは街の中心部の舗装されているところで見られるのはアカミタンポポなんですね。で、もともと日本にあった関東タンポポは田畑が広がっているような、田園的なところへ行くと、関東タンポポが出てくると。西洋というのは割と中間的なところに多くて、駐車場のところとか、グラウンドとか、よく人間が使っているような環境のところに、西洋タンポポは多いという傾向が大体どこでも出てくるんですね。
タンポポの場合は、割と花もたくさん咲きますから、1ヶ所で見つかれば、花もあるし、実もあるってことで、そんなに何回も調べなくても大体の傾向っていうのが分かると思うんですよ。調べるには4月10日くらいからゴールデン・ウィーク明けぐらいまでが一番いい季節なんですね。ですから、ご家族でやってみようってことだったら、ゴールデン・ウィークのお休みのときにご近所を一回り調べられると、とても面白いんじゃないかなと思います」
●これは、長い時間をかけて日々観察していかなくてもできるんですね。
「そうです。とりあえず自分が調べたいと思う地域をくまなく一通り歩くっていうことですね。で、小中学校の学区であれば、大体3日とか4日、時間を使えば一通りのことは調べられると思うんですよね。むしろ、地図に調べてきたことを書き込んで、それをまとめるというところに少し時間を使ってみるといいかなと思います」
●お話をうかがっていると、力を入れて「よし!」ってやらなくても、気軽に自分の家の周りを散歩しながら記録をとっていくという感じで作れるのが、生きもの地図の気軽さでもあるのかなぁと思いました。
「そうですね。そう感じていただけるととても嬉しいんですけど、この本を出して、知り合いの小学校の先生に感想を聞かせていただいたんですね。そしたら、『これだったら学校でも簡単にできそうだよ』っておっしゃったんですね。で、自分たちの学校の学区について何かテーマを決めて調べると。で、その学区の中では東に住んでいる子もいれば、西に住んでいる子もいると。すると、みんなで調べる範囲を分担して、それを持ち寄ることで、例えばタンポポの地図が簡単にできるんじゃないかと。そういうことを授業でもやってみることが、もしかしたらできるかもしれないよっておっしゃっていただいたんですね。でも、そういう形で家族でもいいし、学校でもいいし、クラブ活動みたいなことでもいいと思うんですけど、まず調べる場所を決めて歩きまわって、地図を作るということをやっていただけると非常に嬉しく思います」
●各学区ごとでこういうことをやって、ある時みんなが集まって、その区や町で比較をしあうっていうのもやれたら楽しいですよね。
「そうですね。今回ご紹介した中で、タンポポについては色々な方たちが、各地で詳しく調べられているんですよ。ですから、首都圏全体でどんな感じかというのも、ある程度分かっているんですね。ですけど、カエルとかセミとか鳴く虫っていうことになってくると、狭い範囲で調べた例はいくつかあるんですけど、全体的な様子っていうのは全く分からないんですね。だから、参加してくださる方が大勢いらっしゃれば、そういうこともこれから調べていくことができるんじゃないかなと思います」
●また、タンポポとかセミの抜け殻のように視覚的にチェックするものもありますけど、カエルの鳴き声とか鳴く虫なんかは、聴覚という耳を使って「この鳴き声は○○ガエル」っていうふうにやると、違う音まで敏感にキャッチできるようになったりっていう面白さもあるのかなぁって思いました。
「そうですね。私達の身近なところっていうのは、意外に賑やかな動物がいるんですね。カエルもいるし、鳴く虫もいるし、鳥もよく鳴いていますよね。だけど、そういう野生の声に耳を傾ける方が少なくなっているんじゃないかなって気がするんですね。みなさん、音楽とかは好きなんだけど、ヘッドホンをつけて大音量で聴いていらっしゃって、野外のかすかな音に耳を傾けるっていうことがあまりないような気がするんですよ。それはすごく寂しいことなので、この地図作りの効果として、そういう自然の音に耳を傾けるっていう習慣を身につけていただけると、もっと嬉しいなと思います」
●このご本「生きもの地図をつくろう」で紹介されている以外にも、浜口さんご自身でこういう地図を作ってみたいとか、こういうのがあったら面白いなぁっていうのはありますか?
「今回、ご紹介したのは割と町の都市化が進んでいくと、だんだんいなくなるようなものが多いんですね。それ以外に例えば、空気が汚れてくると、いなくなってしまうような動植物ってあるんですね。例えば、古い桜の木なんかにウメノキゴケという簡単な体の作りの植物がついているんですよ。それは、大気汚染が進むとなくなってしまうということがわかっているんですけど、そういうものの地図を作ると、漠然とした都市化ということではなくて、もっと具体的に大気がどう汚れているかってことを示すような地図も作れるだろうと思うんですね。それから、また別の考えで、タンポポやカエルは割と身近な生きものですけど、非常に貴重な種類についても地図を作ってみるという考え方もあると思うんですね。そうして、地図がだんだんできてくると、その地区の中で特に大事な生きものがいる場所っていうのはどの辺なんだろうか、特に重点を置いて守っていかなければならない場所はどこかにあるのだろうかっていうことも読み取れる地図ができるんじゃないかと思うんですね。そういうことも将来的にはやっていきたいなと思っています」
●1976年に平塚市の博物館ができてから30年くらい経ちますが、浜口さんは「みんなで調べよう」というイベントもやっていらっしゃって、平塚あたりでこの30年間で一番ドラスティックに変わったなっていうのってどんなところがありますか?
「この30年間での大きな変化っていいますと、いわゆる温暖化の影響かなぁって思うようなことっていうのは、30年前は西日本でしか見つからなかったような昆虫とか、そういうのがたくさん見つかるようになっているんですね。例えば、ツマグロヒョウモンというチョウチョがいまして、それは30年前ではまず平塚市内で見ることはないチョウチョだったのですが、今、街中でチョウチョが何匹見られるかっていうのを調べると、一番か二番くらい数が多い種類になっているんですよ。それだけ、ここ30年の間に増えてきたっていうことなんですね。同じような種類がいくつかいまして、そういうものも広い範囲の生きもの地図ができていれば、『2000年代にはこれくらいだったよ』、『2010年になったらもっと広い範囲に広がっているよ』、『確かに温暖化が進んでいるよ』ってことをハッキリ言える1つの根拠にもなってくると思うんですね。
温暖化っていいますと、南極の氷とか、割と普段の生活とはかけ離れたところで問題が起こっているという印象を持っていらっしゃる方って多いと思うんですけど、足元のところも変わってきているんですね。そのことを教えてくれるのが、身近なところにいる色々な動植物ではないかなと思います」
●生きもの地図を同じエリアで同じ月に毎年調べると、それだけでも年毎の変化が見られますよね。
「そうですね。そういう活かし方もあると思います」
●本当に色々な活かし方がこの生きもの地図にはあるんですね。例えば、小学校1年生から6年間ずっと同じものを調べていけば、中学のときにとてもいい課題としてレポートにすることもできるでしょうし、気軽にできるだけにみなさんに是非、自分の地域でやっていただきたいなと思います。
「本の中で実際に調べるときに、こんなことに気をつけたほうがいいよとか、多少ヒントになるようなことも紹介してありますから、是非、読んでいただいて、『じゃあ、自分が住んでいる地域ではこんなことを調べてみよう』ってやっていただく方が1人でも増えれば非常に嬉しいなと思っています」
●初めてやる方にとっては、これからはタンポポが一番オススメですか?
「はい。とっつきやすいと思います」
●浜口さんはこれからも、「みんなで調べよう」の一環として、生きもの地図作りを続けていかれるんですよね?
「はい。今までいくつかのことをやってきたのですが、これからも続けていきたいし、先ほどのお話にも出ていたのですが、20年~30前に調べたこととの比較というのも、これからもしていきたいなと思います」
●私も是非、家の近所でタンポポを観察して、生きもの地図を作ってみたいと思います。今度、お会いするときには私の地図を持って見せたいなと思います。
「楽しみにしています」
●今日はどうもありがとうございました。
AMY'S MONOLOGUE~エイミーのひと言~
誰でも気軽に作れる生きもの地図。身近な生きものの地図を作ることで、季節の移り変わりや環境の変化にも敏感になる。また、忙しい日々を送る中、身近な自然に目を向けたり、耳を傾けるような“ゆとり”が持てるようになるかもしれませんね。皆さんもご家族や仲間と一緒に、まずはこの春タンポポの生きもの地図作りにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。 |
■平塚市博物館の館長・浜口哲一さん情報新刊『生きもの地図をつくろう』
平塚市博物館・情報
・平塚市博物館のHP:http://www.hirahaku.jp/ |
オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」
M1. SAY IT AGAIN / MARIE DIGBY
M2. WITH A LITTLE HELP FROM MY FRIENDS
/ ROGER NICHOLS & THE SMALL CIRCLE OF FRIENDS M3. ダンデライオン~遅咲きのたんぽぽ~ / 松任谷由実
ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」
油井昌由樹ライフスタイル・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」
M4. OOH LA LA / FACES
M5. SEASON CYCLE / XTC
M6. EVERGREEN / BANK BAND
エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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