2008年7月13日
GANGA ZUMBAの宮沢和史さんが語る「ブラジルの魅力」今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンは、宮沢和史さんのインタビューです。現在、GANGA ZUMBAで活躍中の宮沢和史さんをお迎えし、すっかりはまっているブラジルの自然や人々についてうかがいます。 今年はブラジル移民100周年、日伯友好100周年●今年はブラジル移民100周年なんですが、宮沢さんご自身、ブラジルはかなり思い入れのある場所だそうで、何度も通われているそうですね。 「そうですね。最初に行ってから14年くらいになりますね。行けば行くほど『でかいなぁ』っていうことを実感していまして、とにかく把握しきれないほどの大きさなんですね。それが何回も通わせる要因じゃないですかね。町によっても全然違いますし、距離も離れていますし、世界中からの移民と、もともと住んでいらっしゃる原住民の方と、アフリカから来たたくさんの人で成り立っているんですけど、町が生まれた歴史によって、文化も人口の比率も全然違うわけですよ。アフリカから強制的に連れてこられた人が最初に入港した港は、今でもアフロ文化が濃いですし、アマゾンの河口のベレンというところは、もともといた原住民の方と、そこに入植したポルトガルの人たちとのミックスした文化があったり。サンパウロは東京以上に大都会ですから、色々な人がいますし、とにかく行けば行くほど分からなくなるっていうところが魅力ですかね(笑)」 ●そんな中で日本人がブラジルに移民してから100年経つということで、同じ日本人が住んでいるブラジルというのは、ほかとは違う親しみやすさとか、空気感の違いってあるんですか? 「日系の方が多く集まっているパラナ州、サンパウロ州をはじめ、ブラジル全土でいうと、日系人が140万人いるんですね。今は5世の方までいらっしゃいます。ですから、特にサンパウロなんかでは日系人の力というものが、ブラジル社会ではなくてはならない1つの社会なんですね。ですから、そういうところへ僕達が行くと、ブラジルの人たちは日本人のことをよく知っているし、移民の方々が築き上げた信用と、友好関係っていうのが母体にあったところに僕らが行っているんですね。非常に旅がしやすいですし、信用してくれるんですね。ブラジルには日本人とはゆかりのない町もたくさんあって、僕はそういうところへはまだ行ったことがないんですけど、僕が行った限りは日本人の足跡を見ないところはあまりないですね。どこかに日本人のゆかりがあったりしますね」 ●そんな中で6月18日に発売されたシングル、そして同名の単行本が「足跡のない道」というタイトルということで、単行本は宮沢さんがブラジルに行かれて、日系の方たちとのお話が綴られたものなんですか? 「そうですね。今年1月にカメラマンの中川正子さんと一緒にブラジルへ行きまして、日系人とゆかりのある町を訪ねて回って、日系の方々にお会いしてお話をうかがおうっていう旅をしたんですね。それを1冊にまとめた本です」 ●あちらでお年寄りの方などにお話をうかがうと、思うこともたくさんあったんじゃないですか?
「すごく日本人に見えるんですよ。もちろん、日系人といってもブラジルの人ですけどね。ブラジル人というのも地球上から集まっている人たちですからハッキリしませんけど、血も混ざっていますし、パッと見たところブラジル人にしか見えないけれど、日系の血が入っているという人まで裾野が広くて、1世、2世の方々とお話をすると、とても日本人っぽいんですよ。もしかしたら、それは僕らが近頃忘れてしまっている本来の日本人らしさがあるなって感じるんですよね。日系移民の方々というのは、すごく苦労をされた方が多いんですね。もともとは、ブラジルに行けば、コーヒーという豆がなって、それを収穫すれば1年くらいでお金持ちになって、で、日本に帰ってきて、故郷に錦を飾ることができますよっていう広告を信じて、みんな行ったわけですけど、行ってみたら現実は全然そうではなくて、大農場でただ労働者として働かされるような運命だった人も多いですし、そこから逃げ出したりして亡くなられた方、マラリアにやられた方、色々な形で亡くなられた方も多い中で、そこを100年間頑張ってきた心の中のモチベーションとして、俺たち私たちは日本人として、勤勉で嘘をつかずに、みんなで力を合わせて、どんな困難でも乗り越えていこうっていうのがモチベーションだったんじゃないかなって、お話をうかがっていてすごく感じるんですね。それが僕が最近忘れている部分かなぁと。
●そんな思いが「足跡のない道」には込められているんですね。 「そうですね。日伯友好100年、日系移民100年と捉えると非常に大きくて、僕も曲を作るときに『どうしよう!?』と最初は悩んだんですけど、ある2人の物語みたいなところに小さくスポットを当てて曲を作ったら、もしかしたら逆に大きな歌になるかなぁと思って作ったんですね。これも、100年の歩みっていうことを歌いながらも、今言ったようなこれから、未来は僕達にとって足跡がないわけですから、そこをどう歩いていくかというような歌にも聞こえたらいいですけどね」 地球とはかけがえのないもの●ブラジルというと日本との関わりも非常に深いですけど、それは人というだけではなく、自然という意味でもブラジルには、地球の肺といわれるアマゾンの森林があるじゃないですか。以前、宮沢さんが宇宙飛行士の野口聡一さんとお話をしているときに、『明るいところ、東京とか大都市は夜中でも煌々と明かりが照っているので、きれいにアウト・ラインが見える。逆に写真上でアマゾンのように森林が伐採されているところっていうのも、すごく広がっているのが宇宙から見るとよく分かる』というようなお話をされていましたけど、実際に私も宮沢さんも宇宙から見たことはありませんが(笑)、写真を通して見たときってどのように感じられましたか?
「やっぱり、かけがえがないっていうことですよね。僕らは地球というところからいくら離れようと思っても、いくらジャンプしても1秒後には地球に戻ってくるくらい、地球と同化しているわけじゃないですか。俯瞰から見ると、俺はここでしか生きられないんだなぁっていうのをすごく感じました。足を地に着けて生きていると、あまり気にならないことも、ショックでしたね。アマゾンの森林の伐採であるとか、東京やニューヨークなんかの、こんなにエネルギーを消費しなくてもいいだろうっていうくらい煌々と宇宙から見ても照らされている状況とか、僕らが住めるのはここしかないんだっていうことをすごく感じました。
●「ある意味、住みづらい」っておっしゃっていましたけど、住みづらさを快適にしようと、人間が浅知恵でやればやるほど、さらに住みづらい環境を自ら招いてしまっているようなところもありますよね。 「快適に住める場所がもし、限られているとするならば、それをさらに我々が住みづらく限られたものにしていっているわけですよね。それは、問題ですよね」 ●やっぱり、人間って愚かな生きものなんでしょうか? 「僕もそのような質問を宇宙飛行士の野口さんにしたんですよ。前に『マトリックス』っていう映画で、コンピューターのAIが生身の人間に言うんですよ。『僕達コンピューターからすれば、君達は哺乳類だと思っていたけど、我々の調査によるとどうやら違うようだ』と。『君達は勝手に繁殖ばっかりして、繁殖する場所を広げようとしていく。これじゃ、ウイルスじゃないか。君達はウイルスと同じ生態だね』ってコンピューターから人間が言われるっていうシーンがあって、ドキッとしたんですよ。確かにそうだなぁと。ほかの生き物っていうのは考えたり、淘汰したりしてバランスを保とうとしますよね。我々はどんどん広がる一方で、って考えたときに『ウイルスっぽくもあり、悪性のガン細胞とも言い換えられるんですが、野口さんどうお考えですか?』ってきいたら、『確かにそうではあるけれども、それを何とかよくしようという能力も人間にはある』と。『ですから、僕は人間っていうのは地球の脳だと考える』とすごくポジティブなことをおっしゃられたんですね。良くするも悪くするも我々次第ですから。どっちを望んでいるかっていったら、良くなるほうに決まっているんだからっていうことですよね」 ブラジルの「偉大なるとめさん」●宮沢さんは実際にブラジルに行かれたわけですけど、私たちが日本でアマゾンの森林って考えると、海の向こうのすごく遠い、地球の反対側というイメージしかないので、どうも繋がっている感っていうのが具体的に感じにくいじゃないですか。でも、実際に現地にいると、「今、歩いている土地の先には森林があって・・・」っていうことを考えると思うんですが、ブラジルに行かれたときっていうのはアマゾンの森林とか、自然破壊っていうのを目にしたり、耳にしたりしましたか?
「アマゾンっていうのは本当に広いんですよ。で、そこに自分が行ったとしても、今、自分はアマゾンにいるんだっていうことも実感できないくらい広いんですよ。アマゾン川が目の前にありますが、それも何千キロと流れているうちの、ほんの何百メートルしか僕の視界には入っていないわけで。だから、伐採が非常に問題だというニュースも知っているし、宇宙から見てもそうだし。だけど、人間がちょっと考え方を変えたり、工夫をしたり、手を加えれば、再生する能力も半端じゃないっていうことも感じましたね。ものすごいマングローブが続いているところとかを見ると、アマゾンの底力っていうのを感じるんですよ。伐採するのは簡単ですし、木を切ってしまえばすぐ環境は破壊されていくけど、逆にちょっと手を加えれば、元に戻る可能性っていうのも秘めているなぁってすごく感じましたね。
●漁師さんたちが森を育てるっていう話がありましたけど、ブラジルでもアグロフォレストリーというのが実践されているとご本に書かれていましたが、これは実際にどういったものなのかを説明していただけますか? 「アマゾンの河口の一番大きな町がベレンという町なんですけど、そこから森の奥にセスナ機で30分から1時間くらい飛んだところにトメアスっていう小さな村がありまして、そこは日本人が入植して起こした村なんですよ。トメアスとは『偉大なるとめさん』という意味なんです。日本人が起こして、彼らは農業をやりたかったんだけど、なかなか試行錯誤でうまくいかなかったんですね。で、ある時、コショウですごく当てたんですけど、コショウの値段が急騰して、すごく生産量を誇る村になったんですね。その後、根が腐る病気とか、世界中でコショウを作るようになって値が落ちて、色々なことを試行錯誤して、今、行き着いたのがアグロフォレストリーという農法なんです。それは、単一作物を何年も同じ畑でやっていると、土がだんだん弱ってくるんですね。で、昔のブラジルのやり方だと、そこを焼いて土をよくしてってやっていたんですけど、それだとまた3年後に土が弱くなるので、次のところへ行って、また焼いてっていう焼畑農法をやっていたらしいんですけど、ブラジルは広いからいいですけど、さすがにそんな農法は生産的じゃないということに気付き、単一作物はお金に換える収穫物としては非常に合理的ですけど、土にとって、自然環境にとってはすごくプレッシャーをかけていると。ですから、農民達はもう1度、森を見ようと。で、森はどうしてあんなに生き生きしているか、それをここで再現したらいいじゃないかっていう考え方で、例えば背の高いアサイっていう実がなるヤシノキを植えたら、その横には日陰が好きな背の低い植物を植えたり、その隣には季節が異なって収穫できるものを植えたり、生態系みたいなものを畑の中に作ろうと。そうすると、人間があまり雑草を抜いたりしなくても、勝手に広葉樹からは葉っぱが落ちて、それが土になったりとか、隣の木が隣の木を育んだりとか、そういうことで勝手に実が実ってくれて、収穫は多少大変になるでしょうけど、季節ごとで、今はこれが獲れる、今はそれが獲れるっていう農法なんですけど、それが今、世界規模で注目されていて、僕もその畑を見に行ったんですけど、結構世界中から視察の方々がしょっちゅう来ているみたいですね」 ●今、お話をうかがっているだけでも、すごく自然のサイクルというか、理にかなっているし、きっと昔の人々っていうのは、自然になっている実だったり、ものをいただいて、生きてきたんでしょうから、それを改めて農法の1つとして取り入れるのは・・・。 「すごく未来的ですよね。単一作物だと、例えば、病気がきた、嵐がきたで全部ダメになってしまうことを考えたら、賭けみたいなものですよね。でも、例えば1つの植物がダメでも、また次の季節に実るものがそのときにはあるしっていう、そういう意味でも非常に利にかなっていますね」 ●これは、「偉大なるとめさん」の日本人の方達が考えたものなんですね。 「そうですね」 9月にはフリー・ライヴを開催●今、お話をうかがっただけで、ブラジルには色彩、味、空気、人々と色々な意味で、曲を書くソングライターにとっては、インスピレーションが山ほどある場所だなって感じました。 「何よりも、人間が活き活きしていますね。貧しい人も非常に多い。しかも、犯罪や銃、ドラッグなど問題は山積みなんですけど、貧しい人にも非常に躍動感がありまして、人生を楽しんでいるし、そういうところに非常にエネルギーをもらうんですね」 ●これからもブラジル通いはまだまだ続きそうですか? 「まだ、行ったことのない町がいっぱいあるんですよ」 ●そんなところに行ったら、ますます分からなくなってしまうかもしれませんね(笑)。7月にはGANGA ZUMBAとしてブラジルでのツアーがあり、これからもブラジルに限らず、お出かけになると思うんですが、行ってみたいところ、今後やってみたいこと、ご予定などを教えていただけますか? 「予定としては7月のブラジル公演が終わりましたら、9月にブラジルからミュージシャンを呼んで、ライヴをやろうと。で、ブラジルには140万人の日系の方々がいるんですけど、逆にいえば、日本にもたくさんのブラジルの人たち、そして日系ブラジル人の人達がいるんですね。何十万という単位で。その人たちとも100周年を祝いたいなぁというのが僕の中にもあって、9月に横浜と愛知でフリー・ライヴをやろうと思っています。10,000 SAMBAって名付けているんですけど、それを考えています」 ●そんな音楽を通して、ブラジルと日本の100年の歴史を一緒にセレブレイトするというイベントが9月に行なわれるということで、是非、楽しみにしています。今日はどうもありがとうございました。 |
AMY'S MONOLOGUE~エイミーのひと言~
GANGA ZAMBAのシングル「足跡のない道」と宮沢和史さんの本『足跡のない道』が発売されたのは、日本からの移民船第一号「笠戸丸」がブラジルに到着した6月18日。「足跡のない道」という曲を聴いていると、100年前、見知らぬ地に足を踏み入れ、確かな道を切り開いてきた人々の足跡が、自分たちのせいだとはいえ、様々な環境問題に直面している今の私たちがこの先100年をどう進むべきなのかを考える上での、道しるべになるような気がしてきます。そしてダブルA面として収録されている「きみはみらい」を聴いていると、どんどん希望が湧いてくる・・・。まさによくできたカップリングです!(笑) |
宮沢和史さん & GANGA ZUMBA情報GANGA ZUMBAの最新シングル「足跡のない道」
宮沢和史さんの本『足跡のない道』
GANGA ZUMBAライヴ情報
GANGA ZUMBAのホームページ:http://www.gangazumba.jp/ |
オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」
M1. 風になりたい(GZ Ver.) / GANGA ZUMBA
M2. 足跡のない道 / GANGA ZUMBA
M3. RIVER SONG / BEBEL GILBERTO
M4. AQUI, OH! / TONINHO HORTA
M5. きみはみらい / GANGA ZUMBA
ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」
M6. FRAGILE / STING
油井昌由樹ライフスタイル・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」
エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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