2008年7月20日
木版画展「命の森」を開催中の版画家・名嘉睦稔さんをゲストに迎えて今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンは、名嘉睦稔さんのインタビューです。ダイナミックかつ繊細な作品群で私たちを魅了する奇跡の版画家・名嘉睦稔さんをお迎えし、現在開催中の版画展「命の森」や沖縄の自然のことなどうかがいます。 絵は見る人のもの●現在、私たちは明治神宮内の文化館・宝物展示室で行なわれている、名嘉睦稔さんの木版画展「命の森」の会場に来ています。周りには睦稔さんの素晴らしい絵がぐわーっと迫ってくる勢いで展示してあるわけなんですけど、この「命の森」は2部制で、現在、8月17日まで行なわれているのが「陸の森」で、そのあと8月23日から9月28日まで行なわれるのが「海の森」だということで、2つの森が展示されているんですね。 「海の森とは、海の植物と共生して森を作っているサンゴのことですね」
●今回の版画展では新作もありまして、「桜乃花滝(さくらのはなたき)」と「梅乃花滝」。桜のほうはピンク色が多く、梅の方が花の後ろにある緑や空の色がたくさんあって、下のほうが黄色もあり、私は「梅乃花滝」のほうでマイ・ウグイスを勝手に2ヶ所で発見しました(笑)。 「いたね(笑)。エイミーさんがそう言うから、僕も追っかけて見ていたら本当にそう見えてしまうんだよね」 ●でしょ?(笑) 「(笑)。僕は描いた当事者ってことになっているから、こういうことを言ってはいけないんだけど、僕も絵を見て楽しむ権利を持っているし、僕の場合、絵ってできるだけ考えずにやろうと思っているから、そこに出てくるときに自分でも思いがけないものが出たりしてね。絵って見る人のものだし、絵を通して自分の心を見ているようなものだと思う。だから、その人の絵になってしまうわけだよね。そこで、エイミーさんが発見したものがそうだとすると、それは間違いなくそうだし、僕が見てもそうなってしまったりって影響もあるけど、それは間違いなく見る人のものだから、見る人によって、下手したらそこに龍がいるかもしれないし・・・」
●あとで、探そう!(笑) みなさんもお越しいただいたら是非、じっくりとチェックしていただきたいと思いますが、さらにすごいのが、会場に入ると突き当たりに幅一面に10メートルちょっと、縦1メートル80センチ以上の大版画が展示してあります。 「これは、『節気慈風(せっきじふう)』というんですけど、24節気、つまり1年間の風をつかまえてみようという感じだったんだよね。随分昔の作品なので、僕も久しぶりに会いますね。時が経つほど、自分が書いた感覚が薄れてしまうっていうのがあるんだけど、自分で見ていて発見して『あっ、そうだった!』って自分の記憶の発見をしているようなところもあって、見ていて楽しいんですけど、結局、書く絵っていうのも、そのときそのときの1回ポッキリの出会いみたいなものだなぁと、この絵を見ていると思いますね。いやしかし、よく書いたよなぁと思いますね(笑)。いつも書いたあとから思うんですよ」 視点を変えれば、ビル群と森は同じ存在●「命の森」というタイトルはどういう思いでつけられたんですか?
「結局、僕ら人間は植物の寄生虫じゃないかと思うのよね。植物が存在していることによって、酸素を呼吸できる。それだけではなくて、様々なことが植物と交換することによって、動物達は種の存続ができている。これは太古の昔からの、地球創世期以来の約束事だと思うんですよ。そのことを僕らは理屈では知っているのに、感覚的には随分粗末にしているなぁって思い続けているんだけど、そのことを僕は僕でテーマを設けてやっているわけじゃないので、日常的に描いているのを類別すると、結果的に『海の森』と『山の森』になったということなんだよね。そういうことを今、声を大にして言うというよりは日常的に言っているんですけど、この頃、みんな温暖化とか言って、本当に大変なことになるかもしれないしね。でも、人間の英知を信じなきゃいけないから、僕も言うよって感じで(笑)、言うよっていうか絵が言っているから僕が改めて言うわけじゃないんだけど(笑)、そういう気持ちで日常、絵を描いているんだなって自分で発見するわけだけど、それをそのままみなさんには見てもらって、みなさんの内にある気持ちを喚起させるちょっとした手助けになるのかなと。ま、楽しんでもらえればそれでいいんだけどね」 ●そして、この場所が明治神宮内ということで、駅から緑の中を歩いてきたんですけど、会場前の駐車場のところに出た瞬間に空気がもわっと変わって、森や樹木のすごさを実感しました。 「そこの現場に自分の体を置けば、どんな人でも感じることなんだろうね。それくらい植物が持っている力、樹木が持っている力ってすごいし、ここはまさにそれが集まっている場所で、東京という大都会の中では少ないよね。この存在があることの重要さっていうのを、東京に住んでいる人たちにもっと体感してほしいよね」 ●今回の版画展の「陸の森」の展示の中に「森を登る月」っていう作品がありまして、これはまさに都会のジャングルといえる高層ビルに艶やかな光がピカピカっとあって、その下のほうを鳥達が渡っていて、上のほうにお月様が顔を出しているという、まさに東京を象徴している1枚だなと感じました。
「ビル群は視点を変えれば森と同じ存在だと思うんだよね。かつて僕らがコンクリート・ジャングルを表現するときに、猛獣が棲んでいて、弱肉強食の世界を表現するのに類似するような感覚でジャングルと言ったけど、ジャングルというのは過酷で競争している状態を暗示しているように思うのよね。建物そのものは人工的に作っているので、僕達はいつも人工と対比して、自然というものを語るときに都会の対立する存在だと考えてきたけど、その考えをやめなきゃいけないと思うの。そうじゃないと、都会は人の住むところではないって平気で言ってしまうしね。ジャングルそのものだと言うけど、競争するジャングルに例えるんじゃなくて、森というような言い方をしてほしいのね。僕にはそう見えるのよ。いわゆるシロアリの塚とほとんど変わらないことで、人間という種のコロニーだと思うのよ。そういうふうに理解することによって、『僕らの都会は自然ではない』という言い方をどけておく。コミュニケーションの方法としてはそういう言い方も必要かも知れないけど、今、僕達自身の存在を捉えるときに、片時も自然と対立する存在ではないんだよね。自らの体が全くの大自然だし、それをみんなで忘れる作用を社会活動の中で僕達全体でやっているようなところがあってさ。でも、忘れようと忘れまいと、それだけは間違いなく運行しているんだよね。そういう考え方を変えることによって都会が、あるいはコンクリートのところがヒート・アイランドといわれて大変難しいところにきているけど、そういうことを含めて、自分達が住むところだ、自然だということを理解すれば、解決方法が出てくると思うよね。
サンゴの生き方に、人々の生き方のヒントが隠されている●今年は国際サンゴ礁年ですが、睦稔さんは「国際サンゴ礁年2008」のポスターも手がけていらっしゃるそうですね。
「僕らの日常の中にあって関わるサンゴだし、海によく行くので、サンゴを目にするたびに心を痛めているんだけど、そのことを世界的にも自覚しようということで、サンゴ礁年というのを設けて、それで、ポスターの仕事をさせてもらえるっていうのは光栄なことですね。本当に海のサンゴの存在って重要だから、沖縄なんて重要どころの話じゃなくて本当に密接な関係があるから、直接的にそのことを感じているんだけどね。サンゴの生えていないところも、地球全体の構造の中でちゃんとサンゴの位置があって、サンゴが及ぼしている効用っていうのはすごく大きなものがあるのね。サンゴっていうのは植物のおかげで生きているんだけど、1998年に白化現象という現象が起きまして、サンゴが褐虫草(かっちゅうそう)という共生している藻があるんだけど、温度が高くなると褐虫草が逃げ出してしまうんだよね。共生しているんだから、暑さにも両方で頑張ればいいんだけど、藻は逃げてしまうんだよね。藻が逃げることによって、光合成が行なわれなくなる。光合成が行なわれなくなることによって、サンゴと分け合っていた食物が途絶えてしまうから、サンゴが飢え死にしてしまうんだよね。そして、サンゴが真っ白になっちゃう。白いサンゴっていうのは非常に怖い状態なのよ。見ると、一見ロマンチックでキレイに見えるけど、サンゴが白いっていうのは死んでいる状態を象徴しているのね。そのあと、サンゴが生きるために復活していく作用をするわけだけど、ある程度大きくなったらまた白化したりね。で、どういうわけかサンゴそのものが沖縄ではかつてのような生育の仕方をしていないんだよね。それが北上している。種子島とか和歌山県の辺りに繁茂しているということなんだけど、地球全体の異変が及ぼす影響ではないかと思えるような気がするんだよね。
動いている絵を留めるような感覚●明治神宮の森でほぼ9月いっぱいまで展示会が行なわれて、本当にお忙しいと思うんですが、この先のご予定を教えていただけますか? 「こういう作品を描いているぞー」とか、「こういうところに行くぞー」っていうのはありますか?(笑)
「僕はただ『沖縄にいて、絵を描いているぞー』なんだけどね(笑)」 ●(笑)。睦稔さんって普段どういうふうに過ごしているのかが、あまり見えないですよね(笑)。 「(笑)。結構、僕、思わぬ人に発見されたりするんだよね。とりあえず、物を作っている連中が集っているステーションっていうか、会社みたいなものが沖縄にあって、基本的に日々そこに出勤しなさいってことになっているんだけど、『真面目に出勤します』と言いつつ、大体横道にそれて、小さい頃から道草を食う癖が直らなくてね(笑)。この頃は数年来諦められているんですけど(笑)、どこか寄り道して、寄り道したところで入り込んでハマってしまって、また絵を書く時間が少なくなってしまったとぶつくさ言いながら、描き始めると無我夢中で何がなんだか分からなくて、人との約束を忘れて、人間失格と言われたりして・・・(笑)」 ●(笑)。睦稔さんって版画を描かれるときに、まずお祈りしてから墨でシャシャシャっと、丸とか三角とか線であたりをつけて、いきなり彫っちゃうんですよね。前に、ガイアシンフォニーの龍村仁監督とお話していて、「声がかけられる状態じゃないよね。怖い顔をしているよね」って言っていたんですけど(笑)、一心不乱で彫って、それに墨を塗って、逆さ向きに描いているから、紙に写して初めて分かるものですよね。そこで、睦稔さんご自身も細かく何を彫ったか初めて冷静に見られるんですよね。 「そうだね。そのときによく見えているというか、それまではおぼろげな感覚的なものを追いかけている感じかな。絵って動いているんですよ。わらわらわらって渦巻いて、水の渦巻きのように流れていて、そのときそのときに絵がどんどん変化をしていく。だから、『こんな感じだったな』と思ったときに、たち現れている絵をできるだけ速やかにやらないと、雲が変化していくみたいに変わっていくから、変化をしていくある一定のところを抑えるためにマーキングするというか、ピンセットで絵を留めるみたいな。自分でもよく分からないんだけど、ピンセットみたいな効果のある“よごし”があるんだよね。これを、ガーッと彫っていくと、“よごし”のポイントでざっと繋がっているから、ある一定のスピードだとそれが留まる確率が高い。考えたり、ちょっとスピードが遅かったりすると、変わっているから、それはそのときで変わっているものを描いちゃうくらいの、ゆだねる気分でやればいいんだけど、いつもできるだけ見えたものを描こうとするんだよね。
●いいと思います! 睦稔さんは芸術家ですから、見ている人たちが睦稔さんの版画を見て、「睦稔さんはこういうものを見たんだな、感じたんだな」と勝手に解釈して、それぞれがそれぞれの中にテーマを作ればいいんですよね。 「そうそう。絵を見て感動して、感動するというのは自分の気持ちを代弁していると思うので、そのときは自分の気持ちと同じところにいたんだなぁくらいに思ってくれるとありがたいね。それは僕がとても都合がいい(笑)。道草しても弁解の理由があるから(笑)」 ●(笑)。この先もそういう感じで絵を描いて、彫られていくと思うので、私たちも勝手に解釈をさせていただきたいと思います(笑)。今日はどうもありがとうございました。 このほかの名嘉睦稔さんのインタビューもご覧ください。
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AMY'S MONOLOGUE~エイミーのひと言~
私は睦稔さんの大ファンで、実は自宅の寝室には人魚と龍が描かれた睦稔さんの作品があるんです!
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版画家・名嘉睦稔さん情報木版画展『命の森』
会期:第1部「陸の森」は8月17日(日)まで
尚、8月17日(日)、午後1時30分~3時30分まで、睦稔さんや龍村監督ほかを迎えたトークライヴと、映画『地球交響曲/ガイアシンフォニー』の第四番から、睦稔さんが出演したパートの上映も行なわれる。詳細は名嘉睦稔さんのオフィシャル・サイト「ボクネンズ・ワールド」をご覧下さい。 「ボクネンズ・ワールド」:http://www.bokunen.com/ TINGARAニュー・アルバム紹介『組曲~命の森~』
TINGARAのホームページ:http://www.tingara.com/ |
オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」
M1. PEACEFUL EASY FEELING / EAGLES
M2. 精霊の森 / TINGARA
M3. I'M LIKE A BIRD / NELLY FURTADO
ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」
油井昌由樹ライフスタイル・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」
M4. 青の楽園 / TINGARA
M5. HOW DOES IT FEEL / TOTO
エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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