2008年11月23日
北極圏での環境調査プロジェクトを進める山崎哲秀さんにきく
今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンは山崎哲秀さんのインタビューです。 |
今週のゲストは、犬ぞりによる北極圏・環境調査プロジェクトを進める、山崎哲秀(やまざき・てつひで)さんです。山崎さんは1988年から北極圏をベースに、徒歩や犬ぞりによる冒険を続け、2006年からは個人による北極圏の環境調査を行なってらっしゃいます。
現在は、次の調査に向けての準備のため、カナダのヌナブット州にあるレゾリュート・ベイという街に滞在している山崎さんですが、先日、出発前にこの北極圏・環境調査を始めたいきさつなど、色々とお話をうかがうことができたので、今週はその時の模様をお送りします。
●はじめまして、よろしくお願いします。早速ですが、北極圏環境調査プロジェクトについて教えていただけますか?
「まず、プロジェクト名がアバンナット(AVANGNAQ)というんですけど、アバンナットという言葉はグリーンランド北部のイヌイットの人たちの言葉で『北から吹く強い風』ということを意味するんです。いわゆるブリザードのことですね。すごく響きがよかったので、そのままプロジェクト名にしました。これは、2006年から2015年の10年間計画で進めている計画なんですけど、現在、北極なんかでも温暖化とか、環境問題で騒がれていますよね。そういったことへの取り組みをやっていこうという調査です」
●これは、山崎さん個人としてやっていらっしゃるものなんですか?
「そうです。今はまだ個人で進めていっているんですけど、展開的にはもう少し大きくしていきたいなと思っています」
●こういう環境調査のプロジェクトとかって、国だったり、専門団体が大々的にやるというイメージがあるんですが、そもそも、始められたきっかけってなんだったんですか?
「これまで公的機関のもと、こういう観測や調査ってされてきたと思うんですけど、20年間ずっと北極に通い続けてきて、大好きな北極が温暖化とか、環境の問題が騒がれるようになって、現場にいる当事者としては、何かひとつ、環境問題の取り組みに貢献したいなと思って、それから計画をたてたのがきっかけだったんです」
●このプロジェクトは、2006年からということで、もう2年経ったんですね。
「そうですね。2シーズン終わりました」
●今のところ、どの辺を調査してこられたんですか?
「2006年から2008年のふた冬、2シーズンかけてグリーンランド北部を中心に活動を続けてきたんですけど、実際はもっと移動をして、カナダのもっと先のアラスカのほうまで行っている予定だったんですけど(笑)、色々アクシデントがあって、犬ぞりを流されたこともひとつですし、今シーズンが4月から5月にかけて、グリーンランドからカナダに渡る海峡が凍らなくて渡れなかったり、なかなか思うように進めていないんですよね。まだ、グリーンランドの北部に留まっているんですけど、現在、犬達はカナダにいるんですね。今シーズンからはカナダのほうで集中的に活動を続けていきたいなと思っています」
●このプロジェクトの環境調査では、具体的にはどんなものを調査されているんですか?
「まずは、極地研究所の人たちから観測課題というのをいただいているんですけど、海氷の観測だったり、雪のサンプリングといったデータ収集がひとつと、あと現地に住んでいるイヌイット達があちこちにいますけど、そういった人たちに、過去と現在はどれくらい変わってきたのかという聞き取り調査と、彼らは今どういった生活をしているのだろうといったことを目的にやっています」
●今のところ、イヌイットの人たちからうかがった中で、一番大きいのって氷が解けている率が高くなっているっていうことですか?
「そうですね。彼らはグリーンランドからカナダへ犬ぞりで自由に行き来していたわけなんですけど、それがここ5年ほどは誰も行き来できなくなってしまったくらい、海氷の状態は悪くなっているっていう話をしていますね。漁師の人たちは海なり、海氷の上に出て狩りをしなければいけませんし、活動期間が短くなってきたので、自分たちが食べるものも間に合わなくなるでしょうし、こういった感じで続いていくんだったら、生活にも響いてしまうかもしれませんね」
●20年前に初めて北極圏に足を踏み入れた山崎さんなんですけど、初めて行った北極圏のイメージはどうでしたか?
「最初に行ったのが夏だったんですね。太陽が1日中昇っている白夜のときで、暖かくてすごくきれいだったんですね。で、沿岸沿いは植物や草花が緑に茂っていて、すごくきれいな場所だったんです。北極ウサギが飛び跳ねて、シカが草を食べていたりって印象だったんですけど、打ちのめされたのが、次の年、22歳のときに真冬のグリーンランドを訪れたんですね。そのときにマイナス37度という寒さを体験しまして、恐怖を感じたんですね。『いきなりは絶対、できない』と思って、恐怖で逃げ帰ってきたのが最初の北極のスタートだったんですね」
●マイナス37度って想像もつかない寒さですよね。
「北海道辺りでトレーニングをしていったらよかったんでしょうけど、何も考えずに『行きたい』という気持ちだけで行きましたから、その中ではブリザード、強い風も吹きますし、いざテントとか張ってみたら、『うわ! 怖っ!』って思いましたね。怖いっていう恐怖心が先立ちましたね」
●息もできないですよね?
「そうですね。そういう中では行動しませんが、ブリザードが正面ついたら息できないですよね。そのときに『北極の厳しい自然を教えてくれる先生が必要だ』って思って訪れたのが、グリーンランド北部のシオラパルクという村だったんですけど、植村直己さんもそこで犬ぞりの訓練をされた場所で、そこに行ってイヌイットの人たちに、厳しい寒さの中で活動をする方法というのを学びました」
●その色々学んだ中で一番驚いたこと、感動したことって教えていただけますか?
「狩猟生活をしているんですね。アザラシを捕ったり、シロクマもいますし、ウサギ、キツネ、トナカイ、シカといったものを捕って生活しているという生命力の凄さに驚きましたね。しぶとさというか」
●確か、その捕った獲物を全て使い切るんですよね?
「無駄はありませんね。例えば、毛皮だったら防寒着になりますし、食べられるところは食べますし、あとは、犬ぞりをするので犬がいますから、残りは犬の餌になったりしますので、無駄は一切ないですね」
●そういうトレーニングをどれくらいしてから、今回のプロジェクトをスタートすることになったんですか?
「そこそこ動けるようになったかなぁっていうのが、10年経ったくらいですね。ちょうどそのとき、30歳くらいなんですけど、そのときに彼らに習って犬ぞりを始めたんですね」
●その10年間で北極圏の環境って、目に見える変化はありましたか?
「最初の10年までは分からなかったんですけど、20年間で見たらそれを凄く感じて、やはり、自分の体感なんですけど、20年前と比べたら暖かくなってきたんじゃないかと思いますね。あと、凍った海氷にテントを張って寝るんですけど、当時は安心して寝られたんですけど、最近は海氷が壊れたりして安定しないんですよ。怖くて張れないという状態なんですね。海氷の上でテントを張れなくなった、寝られなくなったというのは体感としての違いですね」
●その違いは大きいですよね!
「ええ。大きいと思います。彼らも実際、海氷の予測がつかないって言うんですね。『ここは安全だろうな』と思ったところが急に崩れて、一緒に流されたりすることもあるみたいで、予測がつかないって言っていますね」
●現地で長年ハンティングをしながら、生きてきた人たちですら、怖い環境になってきているんですね。
「そういうことですね。冬の間、海の氷が張って活動はできるんですけど、最近は活動できる期間っていうのが短くなったり、彼らの生活にも影響があるみたいですね」
●犬ぞりも10年くらいやっていらっしゃるということなんですけど、北極圏で活動する上での犬ぞりのメリットってどんなところなんですか?
「まず、スノーモービルと比べたら、排気ガスを出さなくて環境にもやさしいということもありますけど、壊れないというところも大きいですね(笑)。エンジンとかは壊れたりするんですけど、犬達はそう簡単に壊れないんですよね。イヌイットの人たちを見ていて、広い範囲で移動する手段としては、凄く理にかなっているなぁと思いましたね」
●山崎さんは何頭の犬で移動されているんですか?
「13~14頭のチームを組むんですけど、今、全部で14頭の犬がいます」
●その犬達は普段、イヌイットの人たちに預かってもらっているんですか?
「そうです。北部グリーンランドでしか、そり引き犬っていうのは手に入らないんですね。カナダ、アラスカではイヌイットの人たちの犬ぞり文化が崩壊して、スノーモービルになっているんですね。それで、北部グリーンランドで犬を集めるんですけど、日本に帰ってくるときは彼らに預かってもらったりしています」
●そもそも、山崎さんが北極圏に行くようになったきっかけってなんだったんですか?
「高校時代まで話がさかのぼります。高校に入学したはよかったんですけど、周りは受験戦争とかが繰り広げられる熾烈な場所だったんですね。そういった中に放り込まれて、周囲に流されている自分に疑問を感じた時期があったんですね。悩んでいた時期があって『俺の人生、これでいいのかなぁ』って思っていた高校一年生の終わりくらいに、冒険家の植村直己さんが遭難したというニュースが世間をにぎわせていまして、『どうして、この植村直巳さんっていう人はこんなに騒がれているのかな』って不思議に思っていたところ、本屋さんで植村さんの本を見つけたんですね。それで買って読んでみたところ、『うわぁ、すごいなぁ! 僕もやってみたい!』と思ったのが最初でしたね」
●高校生のときに読んだ植村さんの本が山崎さんの人生を変えたんですね。
「そうですね」
●まだ学生ということもあって、それから実際に北極に行くまでは何をされていたんですか?
「思ったらすぐに行動に起こしてしまう性格なので、その本を読んだ次の日からトレーニングを始めたんですよ。でも、高校を卒業するまでは我慢しました。高校を卒業してから、親元を離れて単身で上京したんですね。上京してからは社会人山岳会に入りまして、アルバイト生活を続けながら、そういう生活を続けていた中でふと、東京から実家のある京都まで歩いて帰りたいと思うようになったんですよ(笑)。ふとした思いつきなんですけど、行動が早いほうなので、すぐ次の日くらいから歩き始めまして、東京から長野県の松本市に歩きまして、そこから日本海、新潟県の糸魚川というところに抜けたんですよ」
●随分、遠くからまわったんですね(笑)。
「(笑)。日本海に沿って京都まで750キロくらいを2週間かけて歩いて帰ったんですけど、小さなことですけど、僕にとっては最初の冒険でしたね」
●全然、小さくないです!(笑) 普通の人はあまりやろうと思いません!(笑) でも、そこが冒険人生のスタートだったんですね。
「そうですね。そこからまた気持ちが大きくなって(笑)、今度南米のアマゾン川をいかだで下りたいと思うようになったんですね。それで、京都から東京に戻りまして、現場のアルバイト作業を始めて資金を貯めたんですね。そして、次の年の19歳のときにアマゾン川のいかだ下りを1人でやったんですけど、実は1回目は失敗しちゃったんですよ。いかだが一週間もしないうちにひっくり返されまして、パスポートもお金も自分の荷物も全部流されて、たまたま流木にしがみついていたら現地の住民の人が舟で通りかかって、助けてくれたような状態だったんですけど、本当はそれでやめたらよかったんですよ。でも、馬鹿なので(笑)、また日本に帰って資金を稼ぎなおして、その次の年、20歳のときに再挑戦したらうまくいっちゃって(笑)、アマゾン川の本流を5000キロくらい、44日間かけて下るのに成功したのが、また次、北極へステップしていく弾みになっちゃったんですよね(笑)」
●(笑)。じゃあ、最初が東京から京都まで、次が南米アマゾン、そして、今度は一気に北にと思いをはせて・・・。でも、アマゾン川を1人でいかだで下るって相当大変なことじゃないんですか?
「当時、若くて勢いでやっていたところもあったから、例えば、治安の悪さひとつにしても、アマゾン川の自然の怖さにしても、何も知らないんですよね。とにかく突っ込んでいったような状態だったんですけど、今だったらちょっと考えますね。かなり危なかったんだろうなと思います(笑)」
●でも、無事にここまできてよかったですね(笑)。
「そうですね。今のところまだ(笑)」
●そして、アマゾン川下りを2回目で成功しちゃったがために、次、気持ちは北極のほうへ・・・?
「アマゾン川をいかだで下ったあと、夢から覚めたように、しばらく放心状態だったんです。そしたら、次は北極へ行ってみたいと思ったんですよ。それが、グリーンランドだったんですよね。世界最大の島といわれているんですけど、その内陸部を1人で歩いて縦断してみたいと思ったのが最初のきっかけで、冒険心から北極へ足を踏み入れたような感じでした」
●そのときは徒歩で挑戦されたんですか?
「ええ。最初は徒歩で自分でそりを引っ張ってというスタイルから入りました」
●好きでそういうところへ訪れて、行っている間に環境が変わっていったり、世の中的にも状況が変わっていくのを見聞きすると、「自分が歩いて縦断するまでは、この地をどうしても守りたい」っていう気持ちになっていったんでしょうか?
「なかなか難しいですね。簡単な世界じゃないですよね。それで、知らない間に10年が過ぎてしまった。その間に自分の思考というのも変わってきて、今こういう取り組みをしたくなったという移り変わりで、どこかで縦断という部分に関しては、1人じゃなくても、将来的に調査とか環境的な取り組みを兼ねてやりたいなという気持ちはありますね」
●山崎さんは南極の越冬隊にも参加されたそうですが、越冬隊に参加したことっていうのが、北極圏での環境調査を進める上でいい経験になっていますか?
「はい。かなり影響が大きいと思います。僕が参加させてもらったのが第46次南極観測隊で、2004年から2006年にかけて参加させていただいたんですけど、安全面の確保と組織としての成り立ちをすごく勉強させてもらいましたね。これまでの個人的にやっているものとは違う、安全面とか組織が成り立って成功していくんだなぁというのをすごく勉強させてもらいました」
●今までは無謀にも勢いでやってきた山崎さんにとっては(笑)、安全面というのが一番大事だとここでインプットされたわけなんですね(笑)。
「そうですね(笑)」
●調査はまだ2シーズンしか進んでおらず、この先も2015年まで調査は続いていくわけですけど、今のところは個人として、1人で調査をやっていかれるんですか?
「1人にこだわっているわけではないんですけど、予算的な都合もあってなかなかチームを組んで行けない状態なんですね。将来的にはもうちょっと体制を大きくして、チームを組んで向こうでのフィールド活動をしたいなと思っています」
●今までこのプロジェクトで調査してきたことっていうのは、近況も含めてホームページにアップされていくんですよね?
「はい。ブログをいつも書いていまして、現地からも定期的に、ほぼ毎日簡単にアップしていまして、報告などは専門的なことも入ってくるので、また時期を選ばないといけないと思うんですけど、向こうのこととかをお伝えしていくようにしています」
●山崎さんのこの先のご予定を教えていただけますか?
「11月16日に日本を出発する予定です」
●ということは、このインタビューが放送される頃には日本にいらっしゃらないということですね。
「そうですね。今度はカナダの北極圏に入るんですね。レゾリュート・ベイというイヌイットの街がありまして、そこで犬達を預かってもらっているので、そこを中心にベースにして、動き回る活動になると思います」
●そこからどれくらい進めるご予定ですか?
「今回も半年間、北極に滞在する予定なんですけど、最初の3ヵ月間くらいは、ひたすら準備期間なんですね。まず、犬を走らせてあげて、夏の間に走っていない筋肉を付け直してやったりとか、各観測をやりながら、そういった準備期間なんですね。太陽が昇らない極夜の時季なんですけど、それを準備期間にあてて、実際に活動をするのは太陽が高く昇って、気候がよくなる3月くらいからですね。レゾリュート・ベイという街を中心とした観測を含めて、4月くらいからは最低でもカナダの本土までは行きたいなと思っているんですね。1000~1200キロくらいあると思うんですけど、せめて本土辺りまでは行きたいと思っています」
●ワンちゃんたちもチームとして安全に進むことを祈っています。また戻られたら、是非、番組に報告をしていただければ嬉しいなと思います。気をつけて行ってきて下さいね。今日はどうもありがとうございました。
AMY'S MONOLOGUE~エイミーのひと言~
大好きな北極圏のために何かしたい、貢献したいという思いから個人でスタートさせた北極圏環境調査プロジェクト「アバンナット計画」。これぞ本当のボランティア精神といえるのではないでしょうか。近い将来、大々的なプロジェクトとして多くの人が関わって進められるであろう北極圏の環境調査。山崎さんが今お一人でやっていることは将来必ず評価されることでしょう。
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山崎哲秀さん情報山崎哲秀さんの近況などはホームページやブログなどでぜひご覧ください。 犬のサポーター募集中!
山崎哲秀さんのホームページ:http://www.eonet.ne.jp/~avangnaq/ |
オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」
M1. BLIZZARD / 松任谷由実
M2. WHAT'S UP / 4 NON BLONDES
M3. I LOVE MY DOG / CAT STEVENS
ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」
M4. COLD / ANNIE LENNOX
M5. WALK ON / U2
M6. ARCTIC WORLD / MIDNIGHT OIL
エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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