2009年2月22日
「夢は宝物」 70代で2度目のエベレスト登頂に成功した 冒険家の三浦雄一郎さんをゲストにお迎えして
今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは、三浦雄一郎さんです。
昨年、70代で2度目のエベレスト登頂に成功した冒険家の三浦雄一郎さんをゲストに、エベレストの変化や日々のトレーニング方法、そして次の目標などうかがいます。
冒険とは「死を覚悟して、生きて帰ること。」
●はじめまして、今日はよろしくお願いします。三浦さんは昨年、2度目のエベレスト登頂を成功されたということで、遅くなりましたけど、おめでとうございます!
「ありがとうございます。」
●そんな登頂の記録をまとめられた本、「冒険家~75歳エベレスト挑戦記」が昨年出版されまして、私も読ませていただいたんですけど、このご本の中で三浦さんが書かれていることで、『エベレストっていう8000メートルを越す高所っていうのは、人間の肉体年齢が70歳加齢される、最低でも40歳代の体力がないと登れない極地なんだ』とあります。また、人間は20歳を越えると酸素摂取能力が1年に1パーセントずつ下がるとも書いてありました。最低でも40代の体力がないと、登れないという状況を考えると、それだけでも三浦さんの凄さが分かっていただけるかと思います。
「でも、エベレストに登る前、65歳くらいのときの肉体年齢は多分、80歳代くらいじゃないかなと思います。まさにメタボ中のメタボで(笑)、体脂肪も40を越えていました。それから、血圧が190とか、糖尿病寸前でしたね。もともと、僕は飲み放題食べ放題、焼肉なんかは大好きなものですから(笑)、そういう状況だったんですね。」
●実は1回目、70歳くらいで登られたときに、心臓の手術のほうも・・・。
「あ、2度目のほうかな。1回目はメタボから脱却して、足に重りをつけたり、背中にザックを背負ったりというトレーニングの効果でエベレストを登ったんですけど、ベース・キャンプから頂上へ行って帰る10日間で体重が10キロ、大体1日に1キロくらいずつ体重を減らしながら、この無理が当然、心臓にもくるわけですね。もともと、心臓は子供の頃から丈夫じゃなかったんですよ。ということで、時々出ていた不整脈が毎日出るようになって、自分の家の階段をトントーンと何気なく登った途端に、心臓が痙攣を起こすといった状況でした。」
●それを克服し、サポート役として一緒に登っていた息子さんの豪太さんも気が気ではなかったんじゃないでしょうか。そういう意味では体力的にも爆弾を抱えつつも、メタボを脱却しつつ、「やれるんだな!」って気付かされました。
「人間っていうのは、若い頃でも『俺はもう歳だ』とか、『もう遅い』って、できない理由を一生懸命に並べて考えるんですね。でも、よく考えたら、歳だし、メタボだし、心臓も悪い、できない理由が余るほどあるわけですよね。それなら、そんなことを考えても仕方ないから、一歩ずつ踏み出して、できることからやればいいだろうと。で、考えたんですけど、普通の60歳代~70歳代の人の心臓だったらもっと楽なんですよね。ゴルフやテニスでも大変かもしれないですけど、ましてや肉体の限界が試されるエベレストを、心臓病を抱えて、膝も腰も痛かったんですね。70歳過ぎれば当然、僕も持病のように腰、膝、骨折だ、脱臼だとしょっちゅう繰り返していた。これがあったわけですけど、忘れて、とりあえず1歩ずつ歩いてみようの連続ですよね。」
●ご本によると、三浦さんご自身が「もうやめよう」って決めたら、みんなで降りようということになっているそうですね。
「それが原則ですね。やっぱり立てないとね。」
●冒険家の方ってこの番組でもよくおっしゃっているのが、「行って、生きて戻ってきて、初めてその冒険は成功といえるんだから、そこまでやらないといけない。冒険家は無謀なことをやらないんだよ」っていう話はうかがったことがあったので・・・。
「周りから見れば無謀だろうし(笑)、本人も無謀かなぁと思うんですけど、どこかで『ここから1歩踏み込んだら、生きて帰れない』というポイントがありますよね。これを見極められるかどうか。植村直己さんが『冒険とは生きて帰ることだ』と。彼は非常にシャイな男なんですよ。本当は、冒険とは死を覚悟して、生きて帰る。この世とあの世のギリギリのところ、限界に半分足を踏み込んでも、生きて帰ってくるという世界なんですね。」
エベレストにも及ぶ温暖化の影響
●昨年、70代としては世界初となる2度目のエベレスト登頂を成功された三浦さんですが、登頂は2回ですけど、それ以前にスキーで滑り降りていらっしゃいますので、エベレストという山自体には馴染みが薄いわけではないんですよね?
「そうですね。」
●最近、地球温暖化とか気候変動の問題とか、色々な地球規模の問題が騒がれていますけど、エベレスト自体、実際に行かれてご覧になって、年月の間に変化とか、温暖化の影響って出ていますか?
「この半世紀、50年ぐらい、エベレストは行ったり来たりしていますけど、50年ほど前のエベレストと今っていうのは、全然違う山じゃないかっていうくらい違いますね。さらに、2003年~2008年の5年の間に氷河の崩壊や、溶ける早さって信じられないくらい。で、今回一番ビックリしたのは、大体ヒマラヤっていうのは羽毛服を着て、吹雪の中でっていうイメージですけど、日中は結構暑いんですよ。7000メートルくらいまではね。特にエベレストの場合は、巨大なすり鉢の底を我々は、ばい菌みたいになって動いているんですけど、太陽熱がいきなり6000メートルの空気の層をなしで照らしてくるってことで、今回、一番暑かった温度はプラスの58℃という信じられない、やけどするような暑さですよ。黒いウェアは焦げ臭いにおいするというくらい。寒さはマイナス40度くらいなんですね。
僕、南極でマイナスの60度の風が吹いている状態、体感温度でいうとマイナスの80度から90度近い世界も経験していますけど、寒いのは着る、運動する、食べるでなんとかなるんですね。暑いのだけは、脱いだらやけどするし、着たらまた暑いし、熱中症、脱水症状と、本当によく死なないで動けるなという状況だったんですね。ですから、雪を集めて帽子に詰めて、それをかぶって頭を冷やしても、シャワーみたいにサッと溶けちゃう状況なんですね。それが強烈に氷壁を溶かして、あるいは氷河を溶かして、クレバスがどんどんできる。ですから、日中6800メートルくらいの氷河が轟々と雪が溶けて、本流が流れていますよ。
例えば、スイスにマッターホルンって山がありますよね。あれも2~3年前に一旦、登山が禁止になったんですよ。というのは、今まで氷で張り付いていた岩が、氷が溶けてどんどん崩れて落石がひどい、大丈夫だと思って掴まった岩が抜けてくるとかね。そういうことで今、世界中の山の氷が解け始めているんですね。特にヒマラヤは中国からインドからを含めて15億の人が暮らしているわけですね。その水源なんですよ。それが、ヒマラヤの氷河が溶けて半分になったとか、3分の1になったとなれば、十数億の人の生活、水資源が涸れてしまうということになりかねませんよね。現に中国でもそういう現象が起きています。だから、地球が温暖化じゃなくて、高熱を出している、インフルエンザ状態だという感じもしますよね。」
三浦さんオススメのトレーニング方とは?
●三浦さんがやっていらっしゃるトレーニング方法で、普段からできるものがあれば教えていただけますか?
「一番大事なのは、日常生活だと思うんですよ。大体、12時間以上は起きていますよね。で、なんやかんやで1時間以上は歩いていますよね。家から会社へ行く、あるいはどこかへ飲みに行くとか(笑)。僕の場合はこれを全部トレーニングにしちゃうということを考えたわけです。ということで、例えば、駅のエスカレーターとか階段の下りを、僕はできるだけ歩くことにしているんですよ。上りと下りのどちらが身体能力が上がるかというと、実は下りのほうなんですよ。これ、オーストリアの医科大学でスキー場で実験した例があるんですけど、中高年の50人ずつのグループが2つに分かれて、スキー場の1キロくらいの斜面を、1つのグループはわっせわっせと歩いて登って帰りはリフトで下ったんですね。で、もう1つのグループはリフトで上って、歩いて下ったんです。要するに、上るだけの運動と、下るだけの運動を比較してみたわけね。はじめの予想は上りのチームのほうが体力がつくだろうと思われていたんだけど、1ヵ月やっての結果とすれば、下りのチームの身体能力のほうが遥かに上がっていたんです。ビックリしたんですよ!」
●そんな違うものなんですね。
「登りは単純に自分の体重とちょっとした荷物を上げる。ところが、下りっていうのは、山だから1歩ずつ段差がありますよね。30センチくらいの段差をトーンと1回踏み込むと、体重の4倍から5倍くらいの負荷が片足にかかるわけですよ。さらに、バランスやちょっとした決断力が必要とされる。そういう要素を含めてやっているうちに、下りのチームの身体能力のほうが遥かに上がっていったんですね。これは、アメリカの心臓医学会で発表された結果なんです。これで調べてみたら、上りっていうのはゆっくりした筋肉を使いますよね。魚と一緒で、人間には遅い筋肉、赤身の筋肉と、早い筋肉、白身の筋肉とがあるわけなんですが、下りは瞬発力を使っているわけですよ。だから、山登りをしてできる筋肉痛は下山で起きているんですね。」
●あー、なるほど!
「上りのエネルギーは体脂肪を燃やす、心肺機能を上げるには非常にいいんですけど、下りのほうは瞬発力ですから、使うエネルギーは糖なんですよ。糖を1歩ずつポンポンと燃やしながら降りてくるということで、下りのほうがインシュリンのバランスが非常によくなるんですね。それから、糖尿病患者とか、糖尿病の予防・治療には山の下りとか階段の下りっていうのは非常に効果的なんですね。」
●日本人も糖尿病予備軍がすごく多いらしいですもんね。なので、上りはエスカレーターを使ってもいいけど、下りはゆっくりでもいいから階段を降りましょうと。
「ということがすごく糖を燃やします。もうひとつ、筋肉というのは、白い筋肉、瞬発力から衰えてくるんですね。なので、山や階段を下るということは、瞬発力、白い筋肉がだんだん強化されて再生してくるということなんですね。」
●これは、すごく参考になりますね。
「山でいったら200メートル、300メートル、階段でいったら2階、3階から降りるという程度でも、この運動効果っていうのは予想以上にバランス感覚がよくなるし、骨が強くなるんですよ。人間を含めた動物の骨っていうのは、垂直の荷重を受けると、電位差が中で生じて、カルシウムがどんどん骨の中に入っていくんですよ。」
●いいことずくめなんですね。
「ですから、階段をトントン下りると骨に、足に荷重がかかりますよね。あるいは全身にも降りている衝撃っていうのがありますから、そういう意味では骨密度が増える、かつ痛い人はゆっくりやってもいいんですけど、関節も強化されているわけですよ。で、筋肉も当然ついてくるわけですね。」
80歳でチョモランマへ!
●5年前にエベレストに登頂なさった際は、曇っていてエベレストの南、ジョモ・ミヨラサンマが「もう一度いらっしゃい。今度は晴れた頂上へ・・・」って声に誘われて、70歳代としては2度目のエベレスト挑戦、そして登頂へと繋がったわけなんですけど、次は?(笑)
「次はですね(笑)、頂上を登ってみたんですね。で、登っている最中も、『ひょっとしたら80歳代でこんなことできるだろうか』と、考えていたんですね。で今回、本当は中国のほうから登る予定だったんですよ。まさに、地球のてっぺん、晴れた頂上に立って、地球を一回り一望の下に見たわけですけど、ふと見たら中国側のルートが見えるわけですよね。あそこはやっぱりもう1回来なきゃいけない。どうせなら、65歳から70歳、70歳から75歳と5年刻みでやってきましたから、それじゃあ、80歳でもう1回、今度は中国側からチョモランマを登ってみようと、帰って娘の恵美里に言ったんですね。そうしたら、娘が『お父さん、そんなこと誰にも言わないで』って言うんですよ(笑)。でも、すでに何人にも言っていたんですね。『どうして?』って言ったら、『これは家族会議で決めて、それに従ってもらう』って変なことを言い出すんですね(笑)。でも、もし家族会議でダメだと言われたら、俺は家出すると(笑)。『私を探さないで下さい』と書き置きして(笑)。これは冗談ですけどね(笑)」
●でも、行き先はエベレストだってみんなが分かっているっていう(笑)。
「そうそう(笑)。また、みんな慌てふためいていますけど、大体いつもこんな調子です(笑)」
●(笑)。昨年は息子さんの豪太さんが、残念ながら一緒に頂上に行けなかったので、無事に生きて帰ってこられたってことで万々歳なんですけど、きっと5年後は豪太さんも・・・。
「ええ。リベンジに行かなきゃいけないね。でも今回、豪太にとって生きて帰れた。そのギリギリのサバイバル、120パーセント死んでいるという状況から生きて帰ったという経験は、頂上を登った以上に彼の人生にとって意味がありましたね。今回、僕がよかったと思うのは、1つは豪太が生きて帰ったこと。隊員の誰にも事故がなかった。僕も頂上に登れた。それともうひとつは、80歳でチョモランマの頂上に立ってみたいという、新しい夢が持てたっていうこと。考えてみたら、夢っていうのは宝物だと。それを得るために色々と苦労したり、夢中になってっていうことが本当の意味の生きがいだし、そういう意味では、80歳でのチョモランマというのが、僕にとってのある意味では究極のアンチ・エイジングだと。大げさに言うと、人類のもうひとつの可能性を広げるトライになると思います。」
●ザ・フリントストーンもその瞬間を番組でお伝えできるよう私たちも頑張りますので、またそのときにはお話をうかがえればと思います。
「頑張りましょう!」
●今日はどうもありがとうございました。
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