2009年3月1日
子供たちに真心を咲かせて欲しい ~南西諸島黒潮海洋横断に挑戦する 海洋冒険家の中里尚雄さんを迎えて~
今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは、中里尚雄さんです。
海洋冒険家の中里尚雄さんをゲストに、最新の写真絵本のことや、いよいよ再挑戦する南西諸島黒潮海洋横断のことなどうかがいます。
潮に乗せて心を運びたい
●お声をお聞きするのは1年ぶり、お会いするのは1年半ぶりくらいになるんですけど、早いですね。お会いしていない間に中里さんは写真絵本を作られたそうですね。
「そうです。ピクチャー・ブックです。」
●本のタイトルが「地球のたからもの~次世代の子供たちへ」ということで、今、ここに現物もあるんですけど、表紙はウィンドサーフィンのボードの上に横たわる中里さんと、すごく透明感のある海が写っています。
「そうなんです。フィジー島なんですけど、無人島なんです。」
●地球が丸く見える海って感じですね。オーバルに円を描く感じで、地球なんだなていうのを感じさせてくれるジャケットなんですけど、これはどういう内容のご本なんですか?
「これは、今回の海洋横断に向けて自分が伝えたいメッセージをそのまま集約されているという感じです。」
●中里さんは以前、お話をかがったときにも、地元の大網白里を始め、ほかのところでも海の教室という子供たちの環境教育もやっていらっしゃるそうですね。
「そうなんです。8年前からやっていまして、夏に集中するんですけど、子供たちを集めてサーフィンとか、ウィンドサーフィンを通じて、自然体験をしてもらおうと。」
●その集大成的なものがまとめられたのがこのご本なんですね。
「そうですね。本当に大切なものは何かと。技術を学ぶんじゃなくて、ただ火起こしをして、水をろ過して、そういうサバイバル的な技術も大事なんですけど、だけど、地球は一体何を伝えたがっているのか。本当に伝えたい宝は何か。体験を通してじゃないと、子供も大人も分からないので、それを1冊の本に分かりやすく集約した本です。」
●写真を使うことによって、普通のイラストや描いた絵よりも、よりリアルに地球上の美しさだったり、ゴミの山がハッキリと映し出されるじゃないですか。
「すごくリアルですね。」
●こんなにきれいな海辺があって、ビーチがあるのに、こんなに色々なものが打ち上げられていて、こんなにいっぱいゴミがあってって・・・。
「そうなんですよね。海岸に打ち上げられた漂流物は全部色がついていますけど、これは人間のエゴ、欲ですよね。素直ですからね。遠く離れたところから潮に乗って、今回の黒潮もそうですけど、黒潮に乗って、色々なところから、色々な国から、色々な島からゴミがやってきますからね。」
●海って地元のゴミだけではなくて、遠く離れたところのゴミも運んできちゃうじゃないですか。で、反対に言うと、地元のゴミも遠く離れたところへも運んでいってしまうじゃないですか。
「そうなんですよね。お隣の国のゴミが日本に流れてきたり、逆に日本のゴミが遠くに国に行ってしまったりしますからね。」
●自分のところだけキレイにすればいいっていうわけじゃないっていうことも伝えるのに、それの全てを繋ぐのが海であり、波であり、波を作る風なんだなって感じがすごくします。
「海は繋がっていますからね。だけど、潮に乗って運びたいのはゴミじゃなくて心なんですよね。この意識が間違っているからゴミの山になってしまって、キレイな海があって、一方では汚い海もあって、その現実から目をそらしちゃいけないですからね。厳しいですけど、汚いところも見せていきたいと。ピクチャー・ブックにしたら本当はキレイなところだけ見せたいですけど、そうじゃない現実を知ってもらいたいですから。」
●このピクチャー・ブックスは「語り聞かせ本」だそうですね。
「そうなんです。『語り聞かせ』っていうのが大事なんですよね。『読み聞かせ』じゃないんですよね。そこには心も入っているかもしれませんけど、読むっていうとただ朗読するっていう感じがして。その『語り聞かせ』っていうのは感じてもらう、そしてどのように感じるか、で、どのように変わっていくか、そこまでお繋ぎしたいなと思っているんですね。」
●この絵本の後ろのほうには「水人」っていう応援歌が載っていますね。
「そうなんですよ。木津龍馬さんという方が応援歌を作ってくださったんですよ。」
●これは木津さんが中里さんの活動に共感してこの曲を作ってくださったんですか?
「そうなんです。書き下ろしてくださいました。すごく勇気の出る応援歌です。」
●「水人」という応援歌なんですね。
(放送では、ここで木津龍馬さんの「水人」を聴いていただきました)
子供たちに真心を咲かせて欲しい
●中里さんの写真絵本「地球のたからもの~次世代の子供たちへ」で語られているもの、写し出されている風景は、このままではないにしろ、全てのものをリュックに背負って、いよいよ再チャレンジということで、実は去年、この番組でも電話でお話をうかがったにもかかわらず、残念ながら天候的なものとか、色々な自然の要素で出発しきれなかった冒険、南西諸島黒潮海洋横断に挑むわけですよね。
「そうですね。いよいよですね。」
●改めて、南西諸島黒潮海洋横断はどういうものなのか、ご説明していただけますか?
「これは、横断の距離は650キロありまして、スタートが鹿児島の桜島です。これは近郊湾なのでそこはまだ穏やかなんですね。そこからトカラ列島という10個の島があるんですけど、今年の7月くらいに皆既日食で結構有名になる島ですね。そこから南のほうにいって、与論島とか、奄美大島、そして、そこから沖縄まであと2つくらい島があると思うんですけど、全部で14の島に止まりながら、横断する予定でいます。これ黒潮と逆流するので、まさにシャケに乗って卵を産みに行くような気持ちですかね。背中のリュックに真心という卵を背負って、色々な島に植えていきたいなぁという。」
●2007年の11月にご出演いただいて、そのときには、黒潮に乗って北上するんだってお話をうかがっていたんですけど、実際、去年出発する予定だったときも、南下をするという形でシャケのように逆に向かって、川に戻っていくかのごとくですよね。
「そういう感じですね。根っこに戻っていこうという気持ちもありまして、色々な気持ちがあるんですね。リュックには子供たちが書いた夢、ハガキなんですが、鹿児島の通山小学校とか、色々な養護施設の子供たちが書いたメッセージをリュックに背負って、着いた島に渡していくんですね。繋いでいくんです。夢のバトンタッチ・リレー。そのハガキを渡された子供たちは、また自分の夢を書いて、郵便屋さんになって、また次の島に渡しに行くんですね。」
●昔、ケビン・コスナーが主演の映画で「ポストマン」ってありましたけど、その役割をウィンドサーフィンに乗って中里さんが・・・。
「夢の人間宅急便ってところでしょうか(笑)」
●かっこいいですね!(笑) でも、それは郵便屋さんだけではなくて、それぞれの島に立ち寄りながら、前回は桜島からだったので、桜っていうキーワードがあったんですけど、それぞれでビーチクリーンとか清掃活動をして、桜の木を植えていきたいみたいな話もされていたと思うんですけど、今回はどうですか?
「それも本当はやりたいんですけど、桜まで背負えないので、花の種にしようかなと思っていますね。なんかすごく楽しいじゃないですか。で、花って言葉を超えて、どんな国でもすごく幸せになれますよね。花をもらって怒る人は誰もいないでしょうからね。花っていうのはキーワードかなって。種を残していきたいですね。」
●花を咲かせる素敵な種、笑顔を咲かせる素敵な心を・・・。
「真心を咲かせて欲しいなぁっていう願いもあるんですね。」
大人の後ろ姿を見て欲しい
●いよいよ再チャレンジ、本当に仕切り直しの新たなるチャレンジとなる、南西諸島黒潮海洋横断、鹿児島の桜島からスタートして、沖縄まで南下して、黒潮に逆らうかのごとく行くわけですけど、日程も全部決まっていらっしゃるんですか?
「一応、予定は組んでいるんですが、全てコンディション次第なので、うまくいくかどうかは分からないですけどね。うまくいけば10日間で沖縄まで行けるでしょうかね。」
●全部で657キロですよね。
「はい。1日平均65キロっていう計算ですね。」
●ウィンドサーフィンで1日それだけ進むっていうのが、どれだけ大変かっていうのが、いまいちピンと来ないんですけど、やっぱり大変なんですか?
「いやぁ、キツイですよ。以前、ハワイ諸島を横断したときも、相当疲れましたからね。普段、気にならないところが気になってくるんですよね。関節とか怪我をしたところ。僕、1回交通事故で死にそうになって、そこからまた復帰したので、骨だとか筋だとか、筋肉とか、足がつってしまったり。ずっと同じ格好なんですよ。普段、波に乗っているときは色々な動きが入るので、あんまり気にならないんですけど、ずっと同じ格好をして乗っていると、普段、気にならないところが出てくるんですよ。痛みが出てきたりとか、それはつらいですよ。拷問ですけどね(笑)」
●でも、やるんですよね?(笑)
「でも、やります! 手間暇かけてでも、伝えたいものがあるので。で、そういう後ろ姿を見せたいんですね。もうひとつの真意、それは大人の後ろ姿。楽をしていませんか? 手間暇をかけて伝わるっていうことがありますから。ポストに投函して渡されたハガキと、フラフラになって手に血豆とか作った状態で渡されたハガキとでは、子供たちの受ける印象も違うと思うんですよね。」
●そうですよね! 私たちも年賀状にしてもなんにしても、ポストにポンと入れてしまえば、送り先から「着いたよ。ありがとう」って連絡をもらったとしても、どういう過程を経て、誰がどう運んでくれているのかって全然見えてこないじゃないですか。下手すれば、蛇口をひねったら水が出てくるのと同じくらいの感覚でしかないと思うんですよね。
「そうですね。感謝を忘れてしまうんですね。」
●それは直に受け取った人が、直に運んで、直に手渡すっていうと、渡した子供の思いも、運んでくれた中里さんを通して全部伝わるような気がしますよね。
「そうですね。それが伝わるといいですけどね。われら、大人たちが見せなきゃいけない後ろ姿というのが必ずあると思うので、次世代に残すものは、机上論であったり、学術的なことじゃなくて、やっぱり後ろ姿かなぁって思いますね。僕も決してそんな偉そうなことを言えない大人ですけど、『やっぱりこんな後ろ姿は子供たちに見せられないなぁ』っていうことをやっていると思うんですね。逆に『こういう後ろ姿は子供に見せられないなぁ』っていう大人も見ているし。僕も何度も死にそうになっていますから、それでも生きているってことは、何か残さなきゃいけないものがある。この肉体がある限りどんどん使って欲しいなぁって願いがあるんですね。」
●それぞれの島ではお手紙を運ぶだけではなく、花の種を届けるだけではなくて、講演会とかの予定はあるんですか?
「ありますね。向こうの小学校、中学校へ行って講演会をしたり、お話会をしたり、子供たちとの交流の場を持つ予定でいます。」
●中里さんの活動はあくまで子供たちが中心なんですね。
「そうですね。夏になるとサーフィンとかウィンドサーフィン、あとサバイバル・キャンプをしたり、自然体験、自然回帰、子供たちが忘れた心を取り戻したいなぁと思っています。」
地球の一番の軸は自然
●早ければ10日間で、鹿児島から沖縄までの657キロを渡りきれるのではないかということなんですが、これは天候ももちろん関わってきますし、体調もあるでしょうし、それぞれの島でもしかしたら「もっとこれやってくださいよ!」とか「あれしましょうよ!」とか「これしましょうよ!」って少しずつ延びてしまうかもしれませんから、あくまで目安という感じなんですよね?
「そうですね。体力勝負もあるし、これは風を掴んで進む勝負なので、風が吹かなかったらどうにもならないんですよね。逆に風が吹きすぎて荒れてしまうと、それでも出られないと思いますし、自分が出られても伴走船が出られなかったりもするんですね。」
●当然、今回のプロジェクトでは伴走っていう形で、中里さんがウィンドサーフィンをやる横で常について、安全チェックも含めて伴走してくださるんですよね。
「はい。伴奏船からはぐれないようにもしないといけないので、そこら辺も注意しないといけないんですね。」
●伴走船とはぐれちゃうことも結構あるんですか?
「あるみたいですよ。逆に伴走船が転覆してしまったりとか、トカラ列島ってなめちゃいけないって海上保安庁の方にも言われたんですけど、やっぱり年に何回か、トカラ列島では船が転覆してしまう事故があるみたいですね。」
●そっか! ウィンドサーフィンだったら、うまく波と風を捉えれば水面を滑っていけるけれども、逆に船だとそうはいかないっていう・・・。
「ってことなんですよね。ですから、スタートするときは慎重に選ばなきゃいけないんですよね。やめるか、明日にするか。もしかしたら、3日間、4日間待たなきゃいけないかもしれないし、缶詰状態になる場合もあるんですね。自然相手なので、それは自分で決められないですからね。」
●でも、通常だと、「それは相手が自然だから」って分かっていても、例えば、今週末にどこかへ行きたいなぁって予定を立てていて、天候が荒れても、「でもせっかくここまで予定を立てたんだから、行っちゃおうよ!」って思うこともあるじゃないですか。でも、やっぱり長年自然と向き合ってきた中里さんからすると、それほど危険なことはないって思うでしょうし、待つことは苦にならなくなるんですか?
「全然ならないですね。すごく大事なことですよね。無理をすると、必ず痛い目に遭いますから。何度もはね返されているんですよ。『いやぁ、平気でしょう』っていって、無理して行っちゃうと、必ずしっぺ返しがきたり、当然、なめてかかると痛いしっペ返しがきたりとか、自然はすごく素直ですからね。やっぱり自然がこの地球の一番の軸ですからね。」
●今回はうまくスタートして、ゴールできるといいですね。
「スタートはできますけど、そのあとは運を地球に任せるというか、地球の息吹に従っていこうかなと思っています。」
●10日間かかるか、1ヵ月間かかるかは自然次第?
「はい。」
●また是非、戻られたらお話をうかがえればと思っています。ザ・フリントストーンの心も一緒に運んでいただければ・・・。
「はい! 背負わせていただきます!」
●お願いします。今日はどうもありがとうございました。
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