2009年4月12日
アジアのトイレ評論家・斉藤政喜さんの「東京見便録」
今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは、シェルパ斉藤さんです。
バックパッカー、そして紀行家のシェルパ斉藤さんをお迎えし、国内外の旅の最新エピソードやトイレの環境問題についてうかがいます。
斉藤さんが語る「世界7大トレイルの特徴」とは?
●お久しぶりです。前回、お話をうかがったときは、ちょうど世界7大トレイルを歩いていらっしゃるときで、去年はエチオピアのほうにも行かれたということなんですけど、ここで改めて世界7大トレイルとは何かをご説明していただけますか?
「実は定義がドーンとあるわけじゃないんですよ。昔僕、耕耘機で旅をしていて、それが終わったときにたまたま運命的にアメリカの雑誌を見たんですね。『Blue』という雑誌で、もしかしたら今はないかもしれないですけどね。それをたまたま友達が持っていて、見せてもらったら、『WORLD BEST SEVEN TRAIL』っていう特集があったんですよ。それを見ると、世界の各大陸に『これがいい』っていうのが出ていて、それを見た瞬間、『これ全部歩きたいな』っていう気分になって、それからなんですよ。で、それがアジアにあり、僕、最初はアジアに行ったんですけど、ネパールのアンナプルナがあって、ヨーロッパのオートルートがあって、それはフランスからスイスまでの。他にはニュージーランドのミルフォード・トラック、世界一美しい散歩道といわれているんですけど、あとは南米だとマチュピチュへ行くインカトレイルがあって、あとはパタゴニアにあるんですね。それは昔、行ったことあるんですけどね。それ以外に、アフリカだとエチオピアだったんですよ。で、順番的にもぼちぼちエチオピアだなってことで行ったんです。」
●トレイルに着くまでがかなり大変だったそうですね。
「そうなんですよ。旅って割とそういうものなんですけど、思い通りにいかないんですよね。本当はパッと飛行機に乗れて行けたはずが、飛行機に乗れなかったんですよ。で、結局自分で町まで行くバスを手配して、町に出て行ったんですけど、バスも2日かかるって言われたんですよ。そういうことがしたくないから日本で航空券を全部手配したのに、結局、乗れなかったんですけど、ただ逆にいい意味で、そのトラブルが『旅ってこういうものだな』っていうのを思い出させてくれたんですよね。だって、旅ってそこに行くまでも旅だから。そこで楽しちゃいけないなって。バックパッカーって本来そういうものだったあぁっていうのを、最初にそういうトラブルがあったおかげで、実際に歩き始めてからもすんなりと入っていけたって感じですね。」
●去年のエチオピアで七大大陸制覇になるんですか?
「いやいや、まだまだです! 制覇ってほど立派なものじゃないですけどね。自分が勝手に歩いているだけで。いくつだったかなぁ。アンナプルナが1ですよね。で、ヨーロッパで2。ペルーで3。ニュージーランドで4。だから5個目ですね。あと2つなんですけど、1つ目のパタゴニアはほとんど歩いた道なんですよ。だから実質あと1つっていうのを、本当は日本も考えているんですよ。」
●できましたものね!
「ええ。日本も1個行きたいから。でも、もう1つはアメリカなんですよね。アメリカで6個目で、実際パタゴニアの場合は、ペルーとパタゴニアって同じ南米大陸だから、最後、日本を歩きたいなと思っているんですけどね。ただ、今年は順番的に考えてアメリカに行きたいなぁ。」
●世界の七大陸、色々な大陸ごとの特徴ってあると思うんですよ。その違いだったり似ているところを教えていただけますか?
「例えばヨーロッパとか、ペルーのインカトレイルもそうなんですけど、あとニュージーランドのミルフォードとか、要は歩くを楽しむ旅っていうふうに分かれていますね。あとは、もともとある道。それから、歩くのを楽しむために作られた道っていうふうに分かれていて、そういう意味では西洋人でいうと、ヨーロッパとかニュージーランドなんかは、いかにトレッキングを楽しむために作ったかというところできちんと出来ている道だし、その点エチオピアとかネパールは、もともとそこに暮らしている方が、道がそれしかないわけです。そこを僕らも歩いていくって感覚が、生活の中に入っていく感じなんですよね。で、それはそれで面白いんですよ。昔の江戸時代くらいの日本もこうやって歩いていたんだろうな、1日歩けば村があって、食料が買えて、寝るような旅籠みたいなのがあってっていうのが、ネパールやエチオピアな感じで、それはそれで面白いんですよ。で、そればっかりでも疲れてしまうので、いかに快適に歩くかを作ったヨーロッパ、ニュージーランドはそれはそれでよく出来ているし、実際に景色が変わっていくこともあったりとか、いい景色を眺めたりっていうので、毎回行って感動していますね。七大トレイルを最初に考えた人もうまく考えたなぁって思うんですけど、バランスがとれているんですね。ディープな生活に入っていくパターンと、美しいトレッキングを楽しむためっていうので。だから、どれかって言われても、毎回楽しんでいますね。」
●このあともアメリカ、日本とさらに違うトレイルの旅が続いていくんですね。
「そうですね。最後、日本のどこを歩こうかっていうのを結構考えているんですけどね。実は思っているところがあるんですけど、発表できるようになったら発表します。」
スーパーカブは“スーパー・ツーリング・マシーン”
●トレイルを歩く一方では、スーパーカブで巡る「シェルパ斉藤の旅の自由形」がBE-PALの人気連載企画なわけですが、スーパーカブで北海道88ヶ所の旅もひとまず終了させました。
「実は随分昔に終わったんですけどね。連載は毎月1回に分けていたんですけど、実際に旅したのは去年の夏に一気に回ってしまって、それをちょこちょこ書いているって状況なんですけど、自分としては面白かったですね。っていうのは、それまで一気に回るっていうのは時間的に出来なかったので、あのときは3週間くらいかけてじっくり一気に行って、いわゆる普通に旅をしたんですね。やっぱり長くなってくると、1週間目2週間目くらいからだんだん自分の旅の感覚が身についてきて、日常っぽくなってくるんですね。で、またそれが長すぎるとダラダラしていっちゃうんだけど、そういう意味では自分の中でも2~3週間でちょうどよかったのかな。」
●88ヶ所めぐりといえば、四国が一番有名ですけど、四国という島での88ヶ所と、北海道という島での88ヶ所の醍醐味の違いって何ですか?
「北海道は正直言って、バッタもんって言ったら悪いけど(笑)、なにせ四国は伝統も千何百年とあるわけですし、信心深いと思うけど、北海道はできて2年目ですよ。しかも多分、弘法大師は北海道なんてあるって知らなかったんじゃないかっていうくらいで(笑)、そこを今さら88ヶ所って言われても正直、信心深さは全くないんだけど、旅としたら結構面白いんですね。要はスタンプラリーみたいなもので、普通、北海道を旅するときっていうのは、観光コースがあったりとか、時計周りに回ろうとか考えるんだけど、『こんなところ普通行かないよな』っていうところに行かなきゃいけない。しかも、順番がこうなっているからっていうのが、僕なんかは逆に面白くて、『普通、こんな町寄ったりしないよね』っていうところに行かなきゃいけないっていうのがね(笑)。町の人も『よく来てくれたね』っていうふうになってくれるから、それが面白かったですね。」
●どちらかというと、北海道の新しい旅のパターンの1つっていう感じで捉えると、すごく楽しめそうですね。
「しかも、行ってもあまり人がいないんですよ(笑)。ほとんど無人なんですけど、逆にいるとすごく歓迎してくれますね。で、場合によっては『ここに泊まってもいいよ』って話にもなるし、そういう意味ではもっとうまく盛り上げていければなとは思いますけどね。でも、旅としては面白かったですよ。要は、自分でここに行かなきゃいけないっていうのもあるんだけど、じゃあ、どこを通ってどう行こうかっていうのを、自分で考えなきゃいけないっていうのが、北海道の前に九州も88ヶ所回ったんですけど、四国の88ヶ所っていうのは、それ自体が修行なものですから、お遍路道が決まっていて、必ずここを歩くようにってなっているんですけど、北海道とか九州とかは、自分でどう行こうか考えるわけですね。『あっちから行こうかな、こっちから行こうかな』って。それが旅としては面白かったかなぁ。で、『あ、失敗した! この道よりあっちのほうがよかったかなぁ』とか、そういう意味では北海道はよかったですね。」
●それをスーパーカブで回ったっていうのも・・・。
「あれは、スーパー・ツーリング・マシーンだと思っているので、なんせ全然壊れないんですよね。で、万が一壊れたとしても、新聞配達とかでも、郵便配達でも使っているようなバイクですから、部品がどこでも手に入るんですよ。で、しかも、新聞配達や郵便配達で使っているくらいですから、荷物はたくさん積めるし、さらに燃費がいい。いいときなんて、1リッターで60キロ行きますもんね。」
●周りのスタッフも笑っちゃっています(笑)。
「今回、北海道では走行距離3300キロ走ったんですよ。それで、使ったガソリンは55リットルですもんね。普通の車を満タンにしたらそれでおしまいで、300キロくらいしか走れないのに、この時代にすごいですよね。助かります。」
●連載の中では「このスーパーカブを、いずれ長男の一歩君に譲ろうかな。その代わり、1人でスーパーカブで旅に出ることを条件に」と書いてありましたが、この辺はどうなんでしょうか?
「実際、ゴールデンウィークに行こうかなと思っているんですよ。免許を取ったし、うちの高校が割と遠いんですよ。で、わざわざそこへ通っているので、2年生からは駅までは使っていいという話になって、ちゃんと乗れよっていうのを教えるためにも、2人に旅に出ようかなぁ。で、僕も違うバイクを持っているので、それと2台で一緒に旅に出ようかなぁって思っていて、ゴールデンウィークのモンベルのトライ & キャリーが終わったあとに、2人だけでキャンプをしながら旅に出ようかなぁと思っています。」
●斉藤家の新たな旅のスタイルがここで生まれるんですね。
「自分でも楽しみですけどね。ライダーとして乗っている息子の背中を見ながら行きたいなっていうのもあるし。教えたいことを教えたいんですね。教えるから、あとは自分でどうぞと。だから、もしかしたら最初で最後になるかもしれないし、やり方だけ教えて、ずっと一緒だとこっちもイヤだし、向こうはもっとイヤだろうしね(笑)。だから、その最初だけ2人に旅に出たいなぁと思っています。」
水再生センターが壊れたら東京は壊滅!?
●実は斉藤政喜さんには「バックパッカー」、「紀行家」以外にも、もうひとつ肩書きがありまして、トイレ評論家でもいらっしゃるんですよね?
「“アジアの”って限定されるんですけどね(笑)」
●(笑)。そんなアジアのトイレ評論家、斉藤政喜さんとして、これが第2弾になるんでしょうか、「東京見便録」という新しい本も出されました。
「第1弾が『東方見便録』だったんですよ。『東方見聞録』をパクったんですけど、『東方見便録』だったら、次はじゃあ『東京見便録』ってノリで同じコンビで、 内澤旬子さんっていう『世界屠畜紀行』など、自分で実際に現地へ行って、それを文章に書いたり、イラストに描く方で、本職はイラストレーターになると思うんですけど、その方とのコンビでずっとアジアを回って、それを『東方見便録』にしたんですけど、そのノリで東京もやってみたいなぁと思いまして、彼女と2人で4年くらいやっていたのかな。僕が東京に来たときにちょこまか『今度はあれを見てみようか』っていう感じで、東京のトイレを見て回りました。」
●トイレってその土地、その土地の特徴だったり、そこの文化っていうのが、色濃く反映されているじゃないですか。
「そうですよね。アジアを実際に見て回ったときに、各国、『なぜこのトイレはこういうふうになっているのか』というのには理由があって、それは気候であったり、宗教的な問題があったり、あとは民族性とか社会性とか色々なものがトイレに影響しているわけですよね。で正直、東京をやるときには『東京にはそんなに目新しいものはないんじゃないか』って思いもあったんですよ。ただ、逆にいえば、知ってそうで知らない部分も多いから、『東京のトイレはどうなっているの?』っていうところから、言ってみれば、トイレから東京を切れないかっていう思いで行ったんですけどね。」
●実際にご覧になってどうでしたか?
「僕が見たかったのは、出したものがどうなるのかっていう部分なんですよね。今のトイレってだんだん清潔さ重視の方向にいっているから、いかに痕跡を残さないかっていうのが、快適なトイレっていうのがあるんだけど、逆にいえば流したものはどうなるのと。昔でいえば、水洗とかなかった時代は汲み取りであったりとか、出たものがどうなっているかっていうのは分かっていたんだけど、今、全然分からないんですよね。最後、その出た物の旅はどこでどうなっていくんだろうっていう思いもあって、それは前からやってみたかったんですよ。で、取材にかこつけて、色々と水道を見たり、下水道を見たり、水再生センター(昔の下水処理場)へ行ってみたりしたんですけど、逆にいえば、これが壊れたら東京は壊滅しちゃうんだろうなっていう思いがありましたね。本当に地下を流れている下水道の大きさも半端じゃないですし、これだけの人間が住んでいて、出たものが表面に出てこないっていうのは、その奥深さはすごいことだなと思いましたね。都内を網羅している下水道をつなぐと、距離で言うと東京からシドニーまで行くそうなんですよね。」
●えーっ!? そんなに?
「要するに、それだけ見えない部分で網羅しているわけですよ。それが、数ヶ所に集まって、環境に影響を与えないようにちゃんと水に戻してから循環しているっていう素晴らしさ。しかも、最後の水再生センターへ行くと、あらゆるものが全部流れてくるわけですよ。で、もしそこが止まってしまったら、パニックになっちゃうんですよね。要するに、流れてくるものって止められないから、そこがもしなんらかで、停電とかどうこう起きた場合には、パニックになっちゃうんですよね。で、常にそうならないように、バックアップで、雷が来たなと思ったら、すぐに切り替えられる自家発電装置がドーンとあったりとか、常にみんな見張っているわけですよ。みなさん、機会があれば見たほうがいいと思いますよ。」
●本の中にも、こうすれば見られるというのが書いてあるので、チャンスがあったらご覧になっていただきたいですね。
「ええ。水再生センターとかちゃんとホームページが出ていて、申し込めば見られるので、是非、見ていただきたいと思いますね。見たら意識が変わりますよ。」
●ザ・フリントストーンも是非、一度は取材に行かないとダメですね。
「そうですね。だから、トイレに限らずなんですけど、油物を流しちゃいけないよっていうのも、水再生センターを見れば分かりますもんね。全てが最後ここに来て、『じゃあ、これ、どうなっちゃうの!?』っていうときに、油物が一番よくないみたいですね。例えば、トイレットペーパーとかはちゃんと戻るんですけど、油物とか下手に流しちゃうと、最後がヘドロ状態になってしまったりとかするので、一度見たほうがいいですね。」
自然の中でのトイレ問題
●「東京見便録」の中で私も興味があったのが、バイオトイレで、新しいものがどんどん開発されていっているそうで、今トイレってすごいじゃないですか!
「ハイテクでいうと、本当に『どこまでいってしまうの?』っていうくらい進んでいますよね。」
●一方では富士山なんかもそうでしたけど、自然の中のトイレでは、多くの観光客、登山客が増えることによって、排泄物だったり、トイレの問題っていうのが環境問題として大きく取り沙汰されたこともあるじゃないですか。そうすると、そういうところでのトイレ事情も考えなくてはいけないですよね。
「岩手県の早池峰山(はやちねさん)ではトイレの肥を担ぎ下ろすボランティアってやっているんですよ。あそこは高山植物がきれいで、『花の山』っていわれているんですけど、ここ十数年で植生が変わってきているらしいんですよ。というのは、みんな1つの山に集中してしまうから、登山者が集まって垂れ流したものがやたら栄養分があるものですから、そうなると、素人目には『養分があったら植物にいいんじゃないの?』って思っちゃうんだけど、逆にいえば肥沃でない土地だからこそ、ああいう植物が育てたわけで、そこに肥沃なものを当ててしまうと、植生が変わるのも当然なんですね。だから、高山植物も枯れてしまうわけですし、そこにあるべきものを、僕らが行ったことによって変えてしまうっていうのはよろしくないから。じゃあどうすればいいんだっていうことで、地元の方々が山のものを自分たちで全部担ぎ下ろそうって活動を十数年前に始めたんですね。で、僕も体験してみようと思って行ったんですけど、ただ、たまたまそのときは天気が悪くて実行できなかったのですが、それ以来は、北海道の礼文島や利尻なんかもそうなんですけど、義務付けているところが多いんですよね。で、利尻あたりの山へ行くとトイレに行っても、いわゆる普通のトイレじゃないんですよ。イスが置いてあるだけなんですよね。それは携帯トイレブースとして使われるんですけど、そこにセットして、自分でそこにして持って帰る。最初は抵抗あるんですけど、慣れたら全然! 絶対にもれないっていうのもあるし、こういうものだと思えば、それは慣れだと思うんですよ。だから、それが汚いとかそういうことではなくて、『山ってこういうもので、当たり前なんだ』っていうのが認識されていけば、それは全ての面においてうまくいくんじゃないかなって思いますけどね。だから、そのためにお金をとってもいいと思いますもん。むしろ、今の問題って1つの山に集中してしまうから、日本百名山だとかなんとかっていうと、みんなそこばっかり行っちゃうんですね。じゃあ、日本百名山とかっていっているんだったら、そこは特別にお金をとってもいいと思うし、僕はそれで人が減ったほうがいいと思っているくらいだしね。結局、環境問題って1つのところだけがオーバーユースになってしまうっていうのもあるから、そういう意味ではトイレから『こうだから、こうでしょ』って、ある意味分かりやすいからね。そこからだんだん意識改革が始まっていけばいいんじゃないかなって思いますね。」
●トイレを色々チェックするという旅もあるでしょうけど、この先新しい本のご予定はあるんですか?
「とりあえず6月、7月くらいにスーパーカブで色々あちこち回ったのがあるんですけど、それは本にしたいなと思っていますし、それから10月くらいには、実は僕自転車でも旅をしているんですよね。で、自転車で島を旅しているんですけど、それをまとめた本が出る予定があるんですよね。それからあとは『シェルパ斉藤』と名乗って20周年で、自分の20年で得たものが分かるようなバックパッキングのコンプリート・マニュアルを出したいなと思っているんですよね。」
●盛りだくさんですね! 最近、腰のほうも傷められたということなので・・・。
「(笑)。これもね、試練を与えてくれたのかなといいほうに解釈していますけどね。」
●無理をせず、楽しんで旅を続けていただきたいなと思います。今日はどうもありがとうございました。
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