2009年7月12日
「カブトムシとのふれ合いを、命や地球環境を考えるキッカケに」
今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは、筒井学さんです。 |
子供の頃から虫が大好きだった昆虫写真家、筒井学さんをゲストに、昆虫の魅力や、男の子の憧れ、カブトムシのことなどうかがいます。
●はじめまして、よろしくお願いします。筒井さんは先頃、小学館から「カブトムシが生きる森」というご本を出版されました。これは写真絵本という形で、四季を通してカブトムシの一生を紹介しているもので、まずは、カブトムシについて色々うかがっていきたいんですが、今、日本にはカブトムシってどれくらい種類がいるんですか?
「意外と日本ってカブトムシの種類が少ないんですよね。南米なんか結構たくさんの種類がいるんですけど、日本では今、分かっているだけで4種類しかいないんですね。」
●世界的にはどうなんですか?
「世界には1300~1500種類くらいいたはずですね。」
●じゃあ、本当に日本って少ないんですね。
「日本の島の成り立ち、歴史の中で、なんとかカブトムシが棲んでくれたということが、今考えると、かなり子供たちに夢を与えてくれる虫なので、僕なりによかったなぁと思うところはあるんですね。」
●その日本に棲む4種類っていうのも、種類によって生息場所が違うんですか?
「知っている方は少ないと思うんですが、カブトムシのほかにも雑木林には、コカブトムシという、カナブンほどの小さなカブトムシも棲んでいるんですね。ただ、樹液にあまり集まらなかったり、そのカブトムシの変わっているところは、昆虫の死体を食べるという、ちょっと変わった生活史なんですね。ただ、幼虫は普通のカブトムシと同じように、落ち葉の腐ったものや朽木なんかを食べるので、幼虫のときの生活史はよく似ているんですよね。
あとは、沖縄のほうにいるタイワンカブトムシ。これは海外から移入したものと考えられています。今、ヤシの木の害虫になったり、ちょっと問題になっているカブトムシでもあるんですね。
あとは、クロマルコガネという、これはコガネとついていますけど、これも分類上はカブトムシの一種とされているものがトカラ列島に棲んでいますね。以上の4種類が今、日本にいるカブトムシです。」
●カブトムシって夜行性なんですか?
「基本時には夜に活動する虫です。ただ、昼間も見られないことはないんですね。やっぱり夜、樹液に行き着かなかったり、おなかがすいているやつなんかは、樹液に群がる様子は見られますよね。」
●「カブトムシが生きる森」という本では、表紙がそうなんですけど、クヌギにカブトムシが群がっています。「本当にこんなにカブトムシいるの!?」、「写真撮影用にモデリングしたんじゃないの?」っていうくらい集まっていますね(笑)。
「そう思われるかなぁと思ったので(笑)、あえてあとがきではそうじゃないってことを書かせていただいたんですね。カブトムシがいる雑木林はみなさんご存知だと思うんですけど、大分管理されなくなって、荒れた場所が日本各地で増えているって話題になることもあるんですが、50年くらい前の雑木林では、こういった(本の表紙のような)風景も決して珍しいものではなかったはずなんですよね。まだ、人が雑木林に介在しながら、手入れをして、人間と里山の自然がうまく共生していた時代といわれる50年くらい前。その当時もこんな風景はざらにあったんじゃないかと思いますね。」
●本の写真の中にはカブトムシや他の昆虫達と一緒に、スズメバチも一緒に樹液は食べている写真があるんですが、すごく素朴な疑問があります。スズメバチってすごく攻撃的な生き物ってイメージがあるんですけど、こんな同じ場所にあんなに近くにいて、樹液のポジション選びでケンカしたりはしないんですか?
「これも何度か観察したことありますけど、基本的にカブトムシはスズメバチをあまり相手にしないんですね。ただ、よく見ていると、強気なスズメバチがこっそりカブトムシの後ろに回って、足に噛み付いて、ちょっと引っ張る動作をしたりってこともあるんですね。」
●見てみたいですね!
「樹液を取り巻く昆虫同士の争いっていうか、関わりって、すごく興味深いシーンが常に展開されています。やっぱり、いい場所をいかに独占するかと。樹液を取り巻く虫たちの関係っていうのは、本当に面白い世界ですよね。オスだったらいかに自分が生きて子孫を残すか。メスであればいかに卵を産むか。昆虫達はそういった中でひと夏を過ごしているってことなんですよね。」
●卵という話がありましたけど、卵を産みつける場所っていうのも・・・。
「これもすごく人の関わりが深いんですけど、成虫はクヌギなんかの樹液に集まりますよね。で、幼虫はまず何を食べているかというと、本の中では腐葉土を幼虫の舞台としましたが、最近ではシイタケの栽培が終わったほだ木っていうのを捨てる場所があるんですね。そういったところに幼虫がいっぱい湧いたりとか、要はある程度大きな腐食質、植物質の腐ったものの大きな体積の部分がないと、幼虫自体大きいですし、十分に育つための餌が、雑木林の林床に積もったような落ち葉では少ないんですよね。だから、メスは量的に十分な場所を選んで、そこまで飛んでいって産卵をするということなんですね。ただ、そういった場所は自然ではなかなか出来にくいので、その場所を作るのもほとんど人間だったりで、人間との関わりがすごく深いんですね。それもこの本の中でひとつ伝えたかった部分なんですね。」
●人が生活をするために必要だった雑木林に生きるカブトムシさん達。子供たちにとってはそんな雑木林の自然を知る最初のステップがカブトムシを捕ることだったりっていう、雑木林と人間界をつないでくれる生きもののような気がしますね。
「そうですね。人間、誰しも子供時代に動くとか、かっこいいとか、子供をひきつける魅力あふれる虫だと思うんですね。その虫、今じゃ都会のデパートにも売っていて、手に入れる子もいると思うんだけど、やっぱり自然の中で自分で捕まえたというときの感動は多分、忘れないと思うし、手に取ったりすることで、それが生きているものだと子供が認識するっていうかな。それはカブトムシには計り知れない役割があるなぁと思っているんですけどね。」
●筒井さんご自身もそういう思いから、カブトムシや昆虫に魅せられていったんですもんね。
「自分で虫が好きだって気付いたときは、何歳くらいだったのかなぁ。要するに、周りの友達もみんな虫が好きだったので、自分がズバ抜けて好きだとは思わないんだけど、お母さんや先生が『あんたはあまりにも虫が好きすぎるね』って言われて(笑)、僕は『そうなんだぁ』と、そこで初めて自分は虫が好きなんだって認識が生まれたんですね。当然、カブトムシは捕りたくて捕りたくてしょうがなかったですね。」
●長年、昆虫達を見てきて、今、自然環境ってすごく変わってきているじゃないですか。雑木林もそうなんですけど、やっぱり虫たちにとっても今、暮らしにくい環境なんでしょうか?
「これには色々な切り口があると思うんですけど、ある部分においては温暖化になれば、そこにいない虫がそこに進出したり、逆に標高の高いところじゃなきゃ棲めない虫が棲めなくなったり、すごく複雑なことが絡んでいるんですよね。ただ、総合的に言えば、昆虫が棲める環境っていうのは、どんどん少なくなって、虫全般としては棲みづらくなっていると言い切れると思います。」
●でも、一説では人類が滅亡しても、昆虫は生き延びるだろうって説もありますよね。
「それはゴキブリだとか、極一部の強い昆虫だと思いますね。残された環境の中でうまくそこに入り込めた虫しかないんですよね。」
●そういう意味で、カブトムシって順応性はどうなんですか?
「やはり雑木林という空間ですね。成虫が活動できる空間と、幼虫が育つための餌のある場所。雑木林っていうもの自体が少なくはなっていますけどね。でも、全国的にもそれなりにはあるはずなんですね。ただ、そこで雑木林としての人間の活用がなくなった時点で、カブトムシっていうもの自体も棲みづらい林に変わりつつあるんですね。」
●カブトムシに限らず、最近でもよくカメとかが下水道から出てきちゃったりとか、放されて、外来種が日本の在来種を駆逐してしまうっていう問題もニュースになったりしていますけど、それは昆虫の世界ではどうなんですか?
「もう10年くらい前になるのかな、外国のカブトムシやクワガタの輸入が解禁されるという大きなニュースがあって、昔、僕らが子供のころは標本でしか見られなかった、大きな南米のカブトムシが売っていたりっていう時代になったんですけどね。やはり、そういったものが飼いきれなくて、逃がしてしまって、雑木林に南米のカブトムシがいたっていうニュースも、輸入解禁以後は何度となく見ていますけどね。
厳密に言うと、その虫の環境に合わなければ、棲めるはずもないし、増えることもないはずなんですけど、モラル的な問題と、あとは今、日本で外来種問題で定着しているもの、そういった中には日本の気候に合うものもあるんですね。特に、ミドリガメなんかも北米のものっていうのは寒さに強いですから、日本の気候に合ったりとか。そういったものが日本にはびこるということは問題だと思うし、昆虫に関しては色々な経路で入り込んだ外来種っていうのが現にいますけど、都会の夜の樹上で鳴くアオマツムシなんかは秋に話題にもなりますが、具体的に日本の生きものとどう干渉しあって害があるか、ハッキリした報告がないのも確かなんですが、やはり普通に考えて日本の自然っていう元々あるものが、人為的な中で崩れてしまうというのは許しがたいというか、あってはならないことだと思うので、虫を飼う人はそういうことも肝に銘じて扱う必要があるはずなんですよね。」
●実はこの「カブトムシが生きる森」というご本の中に載っている写真は全て、現在、筒井さんがいらっしゃる群馬県立ぐんま昆虫の森で撮られたものばかりということなんですけど、パッと見た感じはキレイに手入れされた雑木林にしか見受けられないんですけど、ぐんま昆虫の森自体がそういう場所なんですか?
「広さでいうと東京ドーム10個分って言い方をするんですが、もともと地元にある標高240~250メートルの雑木林の小山と一部平坦地、その長年放置されて荒れ放題の藪になったところを、あえて昔の里山に復元しようということで手を入れ始めて、ようやくこういったカブトムシが棲める環境が整いつつあるところです。」
●筒井さんはこの場所の建設もスタート時から関わっていらっしゃいますけど、筒井さんが描いていた「こういう場所を作りたいんだ」っていうのが、まさにぐんま昆虫の森なんですね。
「そうですね。水辺があって、草地があって、雑木林があって、人家周辺の畑とか色々な環境があったりして、50年前、人が生活する中でごく普通にあった当たり前の風景、そこがなぜ貴重かっていうと、人間が営むことで必然的にその場所が維持・管理されて、それが結果的に色々な昆虫にとっても棲みやすいという環境なんですね。ただ、時代の変化で人間の生活も大分変わって、そういったものが不要になってどんどん荒れてしまっているという中で、今度はその里山という自然環境の素晴らしさを復元しようという意図でフィールドを管理しながら、虫や鳥がたくさん棲める環境を作ったっていうのがこのフィールドなんですね。」
●でも、それだけの膨大な敷地で相手が昆虫という、種によっては目にも見えない小さなものなので、管理することはある意味不可能なのかなとも思ってしまうんですが・・・。
「管理といいますか、要は昆虫っていうのは環境を作れば、虫のほうからやってきて増えるものですからね。ただ、今まで里山と違うのは、虫のために何をするかという、そのための管理が生まれてくるので、草刈りにしても回数であるとか、ある程度高めに切るとか、色々昆虫に配慮した管理手法をしながら、なんとか虫がたくさん棲める環境を維持しているような状況ですね。」
●今、オープンしてどれくらい経つんですか?
「今年の8月で丸5年ですね。」
●じゃあ、作り始めたころと比べて、昆虫の種類も変わってきているんじゃないですか?
「そうですね。多くなるものもいれば、逆にオープン当時、トノサマバッタなんかたくさんいたんですけど、それが少なくなったりとか、人間がいくらいじってもなかなか虫が棲みたいと思う環境と合致しなかったり、非常に難しいですね。あと、生きもの同士の関係もあったりとか。その難しさっていうのは、やりながら常に感じているところなんですね。」
●人間が計算した通りには必ずしもならないんですね。
「カブトムシなんかはある程度の場所を作ってあげれば、人間が想像したようにはなるんですけど、植物っていうのも常に競争し合いながら、ある種類がとても増えてしまったり、それを今度人的に抑制したり、色々なことをやるんですけど、やっぱりフィールドが広い分、細かいところまでなかなか手が回らなかったりしますね。 トノサマバッタが減ってしまったっていうのは、自然でいえば、大きな河川の氾濫原の河川敷にいっぱいいるバッタなんですね。要するに、河川が氾濫することで、かく乱されることによって、トノサマバッタの棲む場所が維持されるんですけど、草地を作ってしまうと、草刈りだけではそういう場所が出来ないんですね。そういう難しさも色々感じているところなんですね。」
●もうそろそろ夏休みですけど、「お父さん、どこかに連れて行ってよ!カブトムシ捕りたいよー!」ってときに、どういうポイントを探せばカブトムシはいるんですか?(笑)
「みなさん、住んでいるところはそれぞれある中で、これはね、うーん(と、考える筒井さん)。まず、親子で行ける雑木林を見つけるということが大事なんですけど、色々な捕り方があるんですが、面白いやり方としては、樹液ってどこでも出ているものではないんですね。ただ、ある程度雑木林があれば、カブトムシ、クワガタムシっていうのは棲んでいるもので、それを餌でおびき寄せるっていうトラップがあるんですよね。パイナップルを1日焼酎に浸けて発酵させるんですね。それを、台所の三角コーナーに使う網の中に入れて、雑木林の秘密の場所に仕掛けておくと、その匂いにつられてカブトムシが集まってくるという捕り方もあるんですね。」
●それは昼間に雑木林に行って、トラップを仕掛けて、遊んで、日が落ちるとカブトムシが集まってくるといった感じですか?
「日没直後、大体1時間くらいに飛んでくるので、朝行くよりは8時~9時ごろ行ったほうが成果は出るはずです。そんなことを親子で実験的にやりながら、捕まえられればそれはいい思い出になるんじゃないかなって思いますね。」
●「来なかったよ、お父さん!」、「じゃあ、来週はこっちの木で試してみよう!」とか、子供たちと一緒に試してみると楽しそうですね!
「(笑)。簡単に捕れるよりは少し苦労したくらいのほうが、捕まえたときの嬉しさは大きいでしょうからね(笑)。期待して懐中電灯を持っていくと、カマドウマがいたり(笑)、蛾だけしかいなかったり(笑)、色々なことがあるんですけど、それはそれでまたひとつの面白い結果として楽しんでもらえたらと思いますね。ただ、雑木林があんまりね・・・。」
●千葉県内は結構あるんじゃないですか?
「千葉県はまだまだいい場所がいっぱいありますよ!。」
●みなさんも是非、行っていただきたいと思うんですけど、昆虫の世界を通して子供たちに伝えたいもの、筒井さんご自身が伝えたいのは命の大切さを伝えたいっていうことでしょうか?
「僕なりのひとつの考えなんですけど、環境問題も色々な企業がエコエコって言う時代にはなったんですけど、ただ単に温暖化を防ぐ、二酸化炭素を減らす。それは必要なことなんですけど、やっぱり意識的な底辺として、やっぱり地球が素晴らしいとか、生きものが素晴らしいとか、そういった気持ちがない中では、今の子供たちが大きくなって、地球の環境は難しい時期を迎えるんじゃないかと思うんですね。生きものとのふれ合いとか自然の価値の理解なくして、本当の環境保護って出来ないんじゃないかなぁと僕は思うんですね。虫の好き嫌いは色々あると思いますけど、少なくとも男の子であれば、生きたものを手で触れて感じて、自然が作り出した昆虫という不思議な世界を肌身で感じる中で『地球って面白いなぁ』とか『人間って何だろう?』とか、人間を客観視できるキッカケにもなるんじゃないかなぁと考えているんですけどね。」
●筒井さんご自身の抱負としては、今後どういうことをやっていきたいとお考えですか? 行ってみたい、見てみたい昆虫とかっていうのもあるんですか?
「去年はボルネオに行って、取材の成果を夏休み中の企画展としてやっていますけど、そこでもジャングルが切り開かれて、オランウータンの森が50年間で半分になったというような現場なども見てきて、生きている間に世界各地、色々な場所でそれぞれの地域の特徴的な昆虫を自分の目で見ていきたいし、写真にも撮っていきたいし、それを多くの人に紹介できればいいかなぁと、長い目で見てそんな目標を持っています。」
●私たちが行けないような場所の、そこに生きる虫たちの写真、是非、展示会とかで是非、私たちに見せてくださいね。
「ありがとうございます。」
●今日はどうもありがとうございました。
AMY'S MONOLOGUE~エイミーのひと言~
人のライフスタイルの変化とともに地元の生態系も変化していく。そしてその変化の中、種の存続も危うくなってしまう。これまで私たちは予想以上に多くの生きものたちを傷つけ、絶滅の危機に追いやってきました。日本ではその代表ともいえるのが里山の生きものたちなのかもしれません。幸い最近では里山が見直されていますが、それでもまだ多くの雑木林が荒れ果てたまま放置されているのが現状。でも群馬県立ぐんまの森はそんな放置された里山を“昆虫の森”としてよみがえらせたわけですから、放置されている日本国中の里山/雑木林を、昆虫を初め様々な生きものたちの森として再生できれば日本の自然全体がもっともっと豊かなになるのではないでしょうか。 |
昆虫写真家、筒井 学さん情報新刊『カブトムシがいきる森』 共著『飼育と観察(小学館の図鑑NEO)』 群馬県立ぐんま昆虫の森
筒井 学さんの公式HP:http://i-visualium.net/ |
オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」
M1. WHEN YOU WERE YOUNG / THE KILLERS
M2. YOUR WORLD AND MY WORLD / ALBERT HAMMOND
M3. UNTIL THE END / NORAH JONES
ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」
M4. SWEET MEMORIES / JADE ANDERSON
M5. SMALL WORLD / HUEY LEWIS & THE NEWS
M6. 少年時代 / 井上陽水
エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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