2009年8月2日
今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは、井田徹治さんです。~共同通信社・科学部の編集委員、井田徹治さんをお迎えして~ |
共同通信社・科学部の編集委員、そして、日本地下水学会の会員、井田徹治(いだ・てつじ)さんをお迎えし、人間が普段使っている水のほとんどを占める地下水についてうかがいます。
●はじめまして、よろしくお願いします。井田さんは先頃、日本地下水学会との共著で「見えない巨大水脈 地下水の科学」というご本を講談社のブルーバックスの1冊として発表されました。最近、アフリカでは水汲みが大変だから井戸を掘ったりして、日本も協力してそのCMが流れたりして、井戸を使っているのは海外ってイメージがあるんですけど、今現在も日本では地下水を大いに使っているんですよね?
「そうですね。気がつかないんですけど、ペットボトルの水として売られているお水の、ほぼ100パーセントが地下水なんですね。ある意味、ペットボトルの水によって地下水がさらに身近になったという側面もあるんですけど、意外と知られていなくて、水道の水として飲んでいる水も川の水ではなくて、実は地下水っていうケースがすごく多いんです。水に標識がついているわけではないので分からないんですけど、意外と我々は知らないうちに地下水を飲んでいたり利用しているんですね。」
●私はペットボトルのお水が市場に広まったときに「蛇口をひねればお水が出てくる恵まれた環境なのに、どうしてお金を出して、わざわざ遠くのお水を買うの?」って不思議に思った時期もあったんですけど、やっぱり違いってあるものなんですか?
「水道の事業者の方なんかは『水道のお水はおいしいのに、どうしてペットボトルのお水を買うの?』って言われるんですけど、今は随分よくなったんですけど、昔、水道のお水がすごくまずくなっちゃったことがあったんですね。それは汚染とか処理方法とか色々問題があったときがあって、たまたまそういうときに、地下水はおいしくて冷たくて、飲み比べると様々な特徴があったりして、多少、贅沢っていうのもあって、地下水入れたペットボトルの水というのがおいしい水といわれて、普及し始めたというのがキッカケだと思います。」
●そもそもの地下水の定義を教えていただけますか?
「地下水学会の人に聞いても、キチンとした定義はないということを今回初めて知ったんですが(笑)、色々な形で存在していて、基本的には地下にあるお水全てを指します。一般的に地下水というと、実は地下にも水を通しにくい層があって、その上に川が流れるように、地下水が溜まってゆっくり流れているような、川のようなところがあるんですね。それを帯水層というんですけど、そこにある程度の量の水が流れていたり、湖のように溜まっていたりする。そういう汲み出しやすい水のことを一般的に地下水と呼びます。」
●それは流れているところのお水と、もっと深いところのお水とでは味も違うんですか?
「違いますね。深いところには何万年も溜まっている水もあれば、日本の地下水っていうのは比較的流れが早くて、染み込んで地下を流れて、また川や湧き水として出てきて、最終的には海へ行くんですけど、地下水の特徴っていうのは様々で、すごく昔の水であったり、つい最近の水であったり、特徴があるんですね。すごく深いところにもあるし、数メートルの比較的浅いところにもあるし、様々な形で地下に存在している水の総称が地下水ということになります。」
●そんな地下水の寿命ってどれくらいなんですか?
「溜まるところから、地下に染み込んで帯水層に溜まって、少しずつ動いていくんですけど、流れ出すまでの寿命を平均すると、大体600歳くらいになります。で、日本は比較的短くて、数十年とか数年で流れ出すものもあるんですけど、場所によっては100万年以上前の水が溜まっているような地下水もあるんですね。」
●じゃあ、山道とかを歩いていて、湧き水を見つけて口に含んだその湧き水は、少なくとも何十年か前の水だったりするんですね。
「そうですね。つい最近のものではなくて、長い間地下に溜まって流れて、その間にキレイになったり、ミネラル分が溶け込んで味がついたりするので、地下水はキレイだしおいしいということなんですね。」
●地球は水の惑星ともいわれているのもあって、「これだけ水がいっぱいあるんだから、水には困らないだろう」って安易に考えがちですが、実際に私たちが飲み水として使える淡水っていうのは、ほんとにわずかしかないんですもんね。
「ごくわずかですね。1パーセント以下だったりするので、使える水っていうのは本当に少ないんですね。大方は海の水だったり、南極のように凍っていたりする水なので、人間が日常的に使える淡水っていうのはすごく少ないんですけど、その割に我々は川の水や湖の水を見ているもので、その量が意外と多いのかなぁと思うんですけど、それより使える水としては圧倒的に地下水のほうが多いんですね。で、人間達が利用しているもので、ある意味川の水や湖の水よりも量が多いし、重要だということになります。」
●井田さんが先ほどおっしゃったように、私たち人間は何気なく地下水を利用しているわけですが、世界的に見て、一番多い地下水の用途っていうのは何なんですか?
「世界的には圧倒的に農業です。それは、川の水もそうなんですけど、淡水の8割くらいは農業に使われているといわれていて、それは多分、地下水も同じなので、一番多い用途としては農業、作物を育てるために使われる水ということになります。」
●日本の場合はどうなんですか?
「日本の場合、川の水のように表面を流れている水のほうが使いやすいもので、川や湖の水が多いんですけど、それでも、農業、工業、飲み水なんかの生活用水のそれぞれ30パーセントずつくらいの割合で、ほぼ同じくらいの比率で使われています。ただ、世界的に見たら地下水の8割くらいが農業用水として使われています。地下にある、キレイで安定して、安い地下水を汲み上げて作物を育てています。」
●日本って水資源に非常に恵まれた環境にある国なんですね。
「ええ、そうなんです。日本は水全体に恵まれているんですけど、一人当たりの水資源の量とすると、そんなに多くないんですね。世界的に見ると少ないほうなんですけど、ただ、非常に利用しやすい形で手に入るし、雨もいっぱい降るので、水に恵まれた国だと思います。地下水っていうのは森に雨が降って、それが地面に染み込んで、地下を流れて湧き水になったり、井戸水になったりするので、雨が多くて、森が多いと地下水は非常に豊かということになります。日本は3分の2くらいが森に覆われているので、問題はあるんですけど、まだまだ地下水にも恵まれている国だといえると思います。」
●日本の地下水の特徴ってどんなところが挙げられますか?
「先ほど申し上げたように、日本の川もそうなんですけど、比較的傾斜が急なので流れてしまって、寿命が短い水が多いんですね。そうすると、ミネラル分やカルシウム、マグネシウムなどの物質が水に溶け込む量というのが、地下に入る時間が短い分、比較的少ないんですね。それを軟水というんですけど、口当たりがよくて、味はするんだけど、そんなにくどくないっていうか、非常に爽やかな水になります。冬には多くのところで寒くなるもので、冷たくてキレイで、あまりクセのない地下水に恵まれている国といえると思います。」
●このご本「見えない巨大水脈 地下水の科学」の中でも、地下水が生んだ食文化という形で、おそばとお豆腐が挙げられていて、これらの食品作りには地下水が欠かせないと書かれていましたね。
「そうですね。豆腐は特にすごく水分が多いんですね。成分的にも地下水がいいし、温度が安定していて、夏に熱くなっちゃったりするといけないので、お麩や豆腐を作るのは地下水じゃないとダメっていわれているくらい、地下水が重要なんですね。で、豆腐を食べているようで、実は半分以上が地下水を飲んでいるようなものなので、お豆腐の味っていうのも地下水の味にすごく左右されるそうです。」
●ということは、おいしいお豆腐や、おいしいおそばのあるところは・・・。
「地下水の豊かなところで作られていることが多いですね。お酒もそうで、ビールも硬水、軟水では色が違うし、様々な味がありますし、その場その場でその水に合ったビールの作り方とかお酒の作り方が、昔からの経験則で身につけられてきたものなので、地ビールや地酒は地下水によって違うといえると思います。そういう意味では日本人の食文化って地下水のおかげで、それぞれ特徴のあるおいしいものが、あちこちで出来ているってことになると思います。」
●地下水が抱える問題っていうのもたくさんあるそうですね。
「はい。量の問題と質の問題とで2つあるんですけど、量の問題っていうのは、先ほど申し上げたように地下水ってどこかから来るわけではなくて、雨が降ってそれが染み込んで地下水になるもので、その地下水脈に供給される水の量っていうのが決まっているんですよね。その供給される量を超えて過剰に汲み上げて利用してしまうと、枯渇してしまいます。そうするとそれによって地盤沈下も起こってしまったり、地盤沈下が起こらなくても、その地下水脈自体がなくなってしまう、枯渇してしまうという問題がひとつあります。
日本もそうだったんですけど、外国ではそれがすごく問題になっていて、地下水が枯渇すると農作物が作れなくなって、食べ物もなくなって、非常に困ることになるんですね。で、何万年前にできた水が供給されて、その後あまり補充されていない水溜りみたいなものもあるので、それは石油と同じで、1回利用したらそれっきりっていう地下水源もあるので、それは本当に気をつけて、長い間かけて過剰な汲み上げっていうのはやらないように気をつけなきゃいけないんですけど、それがなかなか難しくて、枯渇してしまうという量の問題がひとつ。
あと、地下水はすごく深いところのほうが汚れにくいんですけど、日本の地下水のように浅いところにあると、やっぱり人間の影響を受けやすくて、地下水が汚れてしまって飲めなくなってしまう、質が悪くなってしまうという問題があります。量があっても質が悪くなってしまうという2つの問題があって、外国では地下水の汲み上げ過ぎで枯渇の問題、量のほうが問題になっているんですね。日本は量というよりも、地下水汚染のほうが深刻になってしまっていて、どんどん汚れてしまって飲めない地下水っていうのも増えているので、将来の子供たちのことを考えたら、今、地下水を汚さないようにする努力ってすごく重要だと思います。で、大気中のゴミや汚染物質が雨の中に取り込まれると汚れてしまうので、大気もキレイにしなきゃならないし、森がなくなると、地下水っていうのはなくなってしまうので、森も大事にしなきゃならない。あと、土を直接汚してしまうって事があって、せっかく山でキレイになってきても、たまたま通り道にある土を汚してしまうと、そこを流れる地下水全体が汚れてしまいます。なので、土壌汚染っていうのも気をつけなきゃならないし、森も空気も土も地下水のためにキレイにする努力をしておかないと、将来の子供たちがおいしくて安全でキレイな地下水を飲めなくなってしまうって事があるかもしれませんよね。」
●お話の中で問題のひとつとして地盤沈下が挙げられていましたけど、地下水が枯れると地盤沈下が起こるんですか?
「はい。“水の上に浮かんでいるようだ”と言うとちょっとオーバーなんですけど、水が地盤を支えていたり、その上にあったり、地下水があると土が耐えられる圧力が高くなるので、水があったほうがいいんですね。地下水脈がなくなると、その上に物を載せたときに重さに耐えられる地盤の力っていうのが少なくなってしまって、地盤沈下が起こるんですね。日本で地盤沈下がすごく深刻だったときがあって、それは明らかに地下水の汲み上げ過ぎによって地盤が沈下してしまったんですね。で、1回そうなると元に戻すというのは難しいんですね。1回地盤沈下したら、止めることはできても。元に戻すことは出来ない。なので、進む一方なんです。最近は汲み上げの規制も大分行き届くようになって、地盤沈下が昔ほど深刻ではないんですけど、まだまだ日本各地で起こっている場所もあるし、地下水の汲み上げ過ぎに気をつけなきゃいけない場所はまだまだあるんですね。」
●世界的に見てもいつまであるか分からない地下水なんですが、今後、私たちはどうすればいいんでしょうか?
「一番重要なことは、涵養(かんよう)っていうんですけど、地下水をうまくやると増やすこともできるんですよ。あまり増やすと地下の水位が高くなって問題が出てくるんですけどね。森を育てたり、昔は土の地面だったので地下水が染み込んだんですけど、最近は地面も川もコンクリートになってしまって、降った雨が地下に浸透しないし、染み込まないんですね。コンクリートの地面がすごく増えてしまったので、海まで一気に流れてしまって、地下水になる量が減ってしまうんです。
でも、地下水を守り育てるっていうことはできるので、ひとつは透水性の舗装とかってありますけど、地下に水の染み込みやすい舗装にするとか、あるいはコンクリートが要らないと思ったら土にしちゃうとか、あとはなんといっても森を大事にするということだと思います。森に降った雨が地下水の最初なので、森だけ孤立してしまうと地下水が循環しなくなるんですね。実は地下で繋がっているので、地下の流れというのを意識して街づくりであるとか、環境保全をすると、少なくとも日本の地下水はもうちょっと守り育てることができると思います。
あと汚さないようにすれば、もっといいですよね。1回汚してしまうと、キレイにするのはすごく難しいんですね。それでもできなくはないし、流れていくものだから汚染がなくなれば、やがてはキレイになるかもしれないし。そういう意味では汚染をやめて、地下水を守り育てることっていうのは、日本人にもまだまだできる余地があると思います。そうすると、おいしいお酒もおいしいビールもおいしい水も、まだまだ飲めるということになります。」
●お料理も全ておいしくいただけるというわけなんですね。「見えない巨大水脈 地下水の科学」の本の中で、地下水は世界の共有財産・コモンズという考え方について書いてありましたけど、これについてもう少し詳しく聞かせていただけますか?
「環境問題の全てに共通するんですけど、みんなの共有財産であるはずなのに、1人だけ考えもなくいっぱい使おうっていう人がどんどん出てくると、魚もそうだし、大気もそうなんですけど、ダメになちゃうんですね。地下水もみんなの共有財産だから、みんなで大事に使いましょうっていうふうに出だしで思わないと、自分だけ一生懸命守ろうと思っても、隣の人がどんどん汲み上げたら何の意味もなくなっちゃうし、やる気もなくなってしまいますよね。関係する人で利益を受ける人、守る人全てが関わって、共有財産として守って利用するんだって思わないといけないと思うんです。地下水っていうのはそういうものだと思います。」
●地球の財産っていうことですよね。
「はい、そうです。」
●地球に生きている全ての生きものの共有財産ですもんね。
「そうです。そういうふうに思わないといけない。で、日本が日本の地下水のことだけ考えていてもいけなくて、地下水を使って作った農産物をこれだけ輸入しているので、ある意味、外国の地下水を使っているってことになりますから、外国の地下水を関係ないっていうのではまずいんですね。」
●去年、地下水条約っていうのも・・・。
「はい。始まったばかりなんですけど、国連の機関で地下水を守らなきゃいけないし、一国だけどんどん利用するとそれが紛争になってしまったりする。日本は日本だけの地下水脈なんですけど、国によっては国境をまたがって存在する巨大な地下水脈っていうのがあるので、適切に利用しなきゃいけないし、紛争になってもいけないということで、国際協力で地下水を守って適切に利用しましょうって条約作りをしようって動きが出始めたんですね。ようやく始まったって感じですね。」
●「ようやくなんだ!」って思ってしまいますよね(笑)。
「本当にそう思いますよね(笑)。」
●でも、知った今、この番組を聴いてくださったみなさんも知ったわけですから、水っていうものに対する意識をもう一度考え直していただければ嬉しいですよね。
「もっと大事にして水を飲む、あとは家庭でも汚さないようにする努力っていうのはできるので、地下水のためにできることはまだまだあります。」
●井田さんは地下水、水問題以外にも様々な環境問題を取材されているということなので、今後も取材したものをザ・フリントストーンでは書くよりも早く番組で喋ってちょうだいって感じなので(笑)、是非、番組でも教えていただければ嬉しく思います。
「またお招きいただければと思います。」
●今日はどうもありがとうございました。
AMY'S MONOLOGUE~エイミーのひと言~
今回、井田さんのお話をうかがいながら、私は1日にいったいどれくらいの地下水を使っているのだろう・・・。飲み水は別にして、1日に何回蛇口をひねっているのだろう? 洗い物など、どれくらいのお水を汚して流しているのだろう? など、色々なことを考えました。 |
井田徹治さん情報共同通信社 科学部・井田徹治さん/「日本地下水学会」共著
|
オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」
M1. きれいな水 / YO-KING
M2. WATER ME / BONNIE PINK
M3. WHERE PEACEFUL WATERS FLOW / GILBERT O'SULLIVAN
ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」
M4. OVERJOYED / STEVIE WONDER
M5. STILL WATERS RUN DEEP / BEE GEES
M6. WITHOUT YOU / MARIAH CAREY
エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
|