2009年10月25日
今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは、松本良さんです。メタンハイドレートの可能性に迫る! ~東京大学・大学院・教授の松本良さんを迎えて~ |
エネルギー革命の可能性を秘めているメタンハイドレートについて、「エネルギー革命~メタンハイドレート」の著者で、東京大学・大学院・理学系研究科・教授の松本良さんにお話をうかがいます。
●はじめまして。よろしくお願いします。まず、とってもシンプルなところからお聞きしたいと思いますが、このメタンハイドレートというのはどんな物質なんですか?
「メタンハイドレートは燃える氷といわれていますけど、氷のように硬い物質で、中にメタンガスがギッシリ詰まっているものです。見かけから言うと、氷と言っていいんですけど、白く透明で、ハンマーでガンガン叩いてようやく壊れるといったものです。よくメタンハイドレートはシャーベットみたいだといわれるんですが、それは間違いで、メタンハイドレートは石とか氷とかガラスのように硬いものです。」
●メタンハイドレート自体っていうのは、私たちが普段使っているガスに代わるものとして注目されているんですよね?
「そうですね。メタンハイドレートを作っているガス、メタンは天然ガスと全く同じものです。天然ガスの場合には、メタンガスが地下の深いところでガスの状態で存在していて、それが掘削によってパイプを差し込むとガスがピュッと上がってくるんですね。そうやって天然ガスはとっているんですが、そのメタンガスがじわじわと地層中を上がってきて、海底から200~300メートルとか数十メートルといった割と浅いところまで上がってくると温度が低くなりますね。しかし、海底なのである程度圧力は高いと。そういう条件のところまでガスがじわじわ上がってくると、そこで氷になってしまうんですね。そもそも起源は同じ天然のメタンガス。それが氷状に固まっている固体状のガス。温度を上げてそれを分解する。で、海底からその白い塊を持ってきて船の上に上げると、ワーッと分解してガスが出ますから、そのガスを使うということで、使うところ以降は今の天然ガスと全く同じなわけです。」
●うかがったところによると、日本がいち早くメタンハイドレートに注目して、研究も早い段階で動き出したと先生の本にも書かれていたんですが・・・。
「そうですね。日本では1995年にメタンハイドレートの資源化プロジェクトというのが始まったんですね。で、その頃はまだ海底下の堆積物中にメタンハイドレートがどうやらたくさんありそうだということが分かってきた段階で、まだまだこれを資源と結び付けようという考えはなかったですね。で、日本はご存知のようにエネルギー資源の96パーセント海外から輸入しているわけで、自国産のエネルギーというのは非常に少ないわけですよ。それから、CO2の6パーセント削減という京都議定書の問題もあるし、最近は25パーセント削減という話も出ていますね。で、CO2のミッションを成功させるには石油や石炭から天然ガスに移行するということが非常に効果的なんですね。そういった環境問題からいっても天然ガスにシフトしたいという思いがあった。そういうことで、日本周辺を見ると、通常の天然ガスや石油はなかなか見つからないけれども、メタンハイドレートが存在しているという兆候は日本の周辺にたくさんあるんですね。で、それを実際に穴を掘って確認まではされていなかったけれども、物理探査という間接的な方法で日本周辺の非常に広い範囲にガスハイドレートが存在するということを我々はすでに知っていたわけです。で、使えるかどうかまず調べてみようということで、FS(フィジビリティ・スタディ:事業化が可能かを探る調査)が1995年に始まって、これはいけるんじゃないかということで、2001年から本格的な開発プロジェクトが動き始めているわけです。その頃になると、欧米諸国や、あるいは日本周辺の国々でも関心が出てきて、日本を後追いするように国家プロジェクトが動き始めていますけど、日本がトップ・ランナーであったことは事実で、そういう意味で世界的にも注目されているし、ある種、尊敬もされていたと思いますね。」
●メタンガスってCO2と比べて温室効果がとても高いといわれているじゃないですか。その辺に関しては大丈夫なんですか?
「メタンガスは天然ガスです。で、CO2の20倍もの温室効果があるということなんですけど、それはメタンをばら撒いているわけじゃなくて、地下からメタンをとってそれを燃やすわけですからね。燃やして出てくるのはCO2ですよね。その開発のプロセスでメタンガスが漏れるんじゃないかという心配ですよね。ただ、そういう一連のことはすでに従来、天然ガスを使っていることと全く同じわけですから、だったら天然ガス自体を使うなという話になるわけですよ。ところが天然ガスを使うとCO2の排出量は2割下がるんですね。同じエネルギーを出すときに石油が100のCO2を出すとすると、天然ガスは80のCO2しか出さない。それで、単純にCO2の排出量が20パーセント下がるわけですね。そういうこともあって、世界的に天然ガスの使用量がどんどん増えていて、日本は15~16パーセントですけど、世界的には20パーセントを超えているので、どんどん拡大しているといえますね。その動きは止めようもないし、そのことに対して『天然ガスはメタンだから使うな』って言う人は1人もいません。」
●「メタン」という響きにあまりナーヴァスになりすぎないほうがいいということですね。
「そうですね。そういう意見が出た理由のひとつは、メタンハイドレートというのは今あるだけではなくて、地球の歴史を通してずっとあったものなんです。で、地球史の中での生物の絶滅事件、地球の大きな環境の変化、そういったときに温度や圧力に非常に敏感に反応するメタンハイドレートが分解して、少し温度が高くなるとメタンハイドレートが自然界で分解してメタンをバーッと出す。そういうメカニズムで地球上の生物や環境を大きく変えたという事件が何回かあった。それは地質的な事実として確かなんですね。で、そういうことと、今、メタンハイドレートを開発して使うということが、ボヤーッと重なってしまって、メタンハイドレートに手を出すと人類は絶滅するんじゃないかとか、エキセントリックといいますか、科学的であるようで非科学的なイメージで、そういう話と重なってしまっているんですね。」
●ご本の中で、日本ではメタンハイドレートといわれているけど、海外ではガスハイドレートって言い方をしていると書かれていましたね。
「そうですね。誰もメタンハイドレート言わないですね。」
●もしかして「メタン」って言葉が入るから余計に反応してしまうのかもしれませんよね。ガスハイドレートっていわれると、ニュアンス的に違うもののように聞こえてきますもんね。エネルギー的要素が強い“いいもの”っぽいですもんね。
「そうですね。最初、日本で天然ガス開発の一環でハイドレート開発をしようっていうときに、そのときの政策的な判断でメタンハイドレートと名前をつけられてしまったんですね。」
●的確かもしれないけど・・・。
「あまり的確でもないんですよね。メタンハイドレートといっても、メタンの中に他のガスがたくさん入っているんです。で、メタン、エタン、プロパンなど、ほかの天然ガスも混ざっているんですね。ですから、科学的に言うときにはガスハイドレートと言わなきゃいけないんですね。ところが、資源であるということを強調したい人々によってメタンハイドレートと呼ばれて、特に日本でメタンハイドレートと呼ばれています。なので、そのつもりで海外へ行ってしまうと『なんか話が変だなぁ』ということにになってしまいます。」
●私も生まれてからずっと日本で育ってくる中で、化石燃料も含めて「エネルギーを大事にしなきゃもうなくなる」ってずっと言われてきているじゃないですか。メタンハイドレートが新エネルギーとして使えるってなって、『これは大丈夫なのかな?』、『いつまでもつんだろう?』、『みんなが乱用してしまったら、結局地球を痛めつけてしまうんじゃないか』って気になるんですけど、その辺はどうなんですか?
「私もそう思いますね。メタンハイドレートがあるんだから、これでエネルギー問題は解決して、どんどん使いましょうという話には全くならないと思うんですね。メタンハイドレートが使えるようになると、日本はいよいよエネルギー資源輸出国になるんじゃないかとか、世界はエネルギー問題から開放されるんじゃないかとか、非常に楽観的な意見と、メタンハイドレートを分かっていないからこその非常にネガティブな意見と出てしまうんですけど、どちらも大変危険で、メタンハイドレートは言ってみれば、地下深部からじわじわ染みあがってきて、これまで使われていなかった残りカスのように海底付近に集まったガスの溜まり。そういうものを最大限に利用しようというスタンスであって、資源として使える量というのはそんなにたくさんではないと思うんですね。で、資源開発、資源探査がそんなに詳しくはされていないんですけど、その中でも日本の一部では10年も調査していますから、ある程度ハッキリと分かってきていて、今、確実に言えそうなのは、日本の年間の天然ガス使用量の7年ないし14年分くらいということですね。で、今、全エネルギーの15パーセントほどが天然ガスによってまかなわれているわけですけど、これを全部天然ガスでやってしまおうとすると、数年分しかないということですね。その程度メタンハイドレートがあるということなんですが、これはまだ調査している海域が限定されていますから、それを拡大していく。これまでは大体、太平洋側しか調査していないんですが、日本海、あるいは北海道の周辺、三陸沖とか、ポテンシャルの高いところはまだありますから、そうやった調査を拡大することによって、埋蔵量、資源量というのは大きくなるでしょうけど、それにしても無尽蔵にあるわけではないし、丁寧に使っていかなければいけないことは確かですね。さらに、メタンハイドレートは従来の巨大油田とかガス田のように、膨大な物がいっぺんに見つかるということはまずなくて、でき方からいっても割合と小規模なものがあちこちに少しずつある、日本中に小さなものがばら撒かれているというような感じですね。ですから、その使い方についても、それぞれの地域で、地域の小さな天然ガス発電所に供給するとか、そういう形で使い方自体にもこれまでとは違ったポリシーが必要だろうと思っています。」
●お水に例えると、昔で言うところの町内の井戸のようなもので、少しずつをそこでまかないつつ、あとは川からとっておいでというような感じですね。
「そうですね。まさにそういう感じですね。」
●松本先生のご意見で結構なんですけど、いつぐらいに私たちはメタンハイドレートを使うようになるのでしょうか?
「今、日本の資源エネルギー庁のプロジェクトでは、2018年までにある程度目処をつけて、それ以降、商業生産に手を出していくと。ですから、あと10年くらいと考えているんですね。私も期待していますけど、一方、外国が後追いでインド、韓国、特にインドが非常に精力的にアグレッシブにハイドレート開発に乗り出していまして、なかなかいい資源を見つけていますので、ひょっとしたらインドのほうが先に小規模ながら、メタンハイドレートからガスを回収して使うようになるかもしれませんね。インドは実際に『10年もかからずに』と公言していますので、世界中でどうしても必要だという必要度に応じて、開発のスピードっていうのは変わってくると思うんですが、インドは大変困っていますから、インドが先へ行くかもしれない。どこが先に行くにしても、10年ぐらいが目処だろうと思っています。」
●松本先生の本が「エネルギー革命~メタンハイドレート」というタイトルなんですけど、エネルギー革命という部分を先生のお話や本の内容を踏まえて考えると、私たちみんなが考え方を革命的に変えていかなきゃいけないと感じました。ひとつのエネルギー源に頼ることもなく、“日本が”とか、ひとつに固執することなく、地球規模でみんながシェアしなければいけないエネルギーであるっていう、色々な意味合いがこの「エネルギー革命」には含まれているのかなぁって思ったんですけど、実際のところはいかがですか?
「なるほどー! なかなかいい解釈をしてくれますね!(笑) そうですね。『エネルギー革命』っていうと、華々しい、勢いのある言葉みたいに聞こえるんだけど、実際そういう(エイミーが言ったような)ことなんですよね。発想を変えていく、もっとエネルギーと慎ましやかに生きていくとか、使い方を抑えていく。余計な空調はしないとかね(笑)。エレベーターを使わないで階段を歩くとかね。そういうことも含めてもっと地球と優しく付き合っていく。そのなかで天然ガスは大きな役割を果たすだろうと。で、天然ガスを使うようになるひとつの投資として、メタンハイドレートなんかは新エネルギーみたいに見えますからね。そこそこの役割を果たしてもらえればという意味合いで考えているわけです。」
●実用化は約10年後ということで、この先も日々、状況が変わっていくと思うんですけど、新しいことが分かったりしたら、また番組でも教えていただければ嬉しく思います。
「また来年、再来年、大きなお話がありますから。」
●もうすでに! では、来年、再来年と予約させていただきますので(笑)、そのときはまたよろしくお願いします。今日はどうもありがとうございました。
AMY'S MONOLOGUE~エイミーのひと言~
実は松本先生のご本によると、学術的な関連性は検証中らしいのですが、先生の経験では、メタンガスを豊富に含んだ海底の周辺はカニ漁のいい漁場になっていることが多いそうです。 |
東京大学大学院理学系研究科 教授「松本 良」さんの著作 |
オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」
M1. NEW SENSATION / INXS
M2. HOPE OF DELIVERANCE / PAUL McCARTNEY
M3. EARTH SONG / MICHAEL JACKSON
ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」
M4. WE'VE ONLY JUST BEGUN / CARPENTERS
M5. LITTLE BY LITTLE / OASIS
M6. CHANGE THE WORLD / ERIC CLAPTON
エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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