2009年11月15日
「地球創成期に一番近い場所・オーストラリアに魅せられて」
~写真家・相原正明さん~
今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは、相原正明さんです。
オーストラリアの大自然に魅せられ、無人の荒野でキャンプをしながら撮影を続けていらっしゃる写真家、相原正明さんは、オーストラリア・タスマニア州政府からフレンド・オブ・タスマニア(親善大使)の称号も与えられています。そんな相原正明さんが先ごろ小学館から『ちいさないのち~最古の大陸、オーストラリア~』という写真絵本を出されました。今週はそんな相原さんに写真絵本のことや世界最古の大陸オーストラリアの魅力などうかがいます。また、相原さんからのプレゼントもありますよ!
動物をリアルに表現するために写真と文章で構成した
●相原さんは先頃、『ちいさないのち~最古の大陸、オーストラリア~』という写真絵本を出版されましたが、写真絵本という形で本を出されるというのは今回が初めてですか?
「そうですね。今回が初めてです。」
●なぜ、写真絵本を出そうと思ったのですか?
「理由は2つあるんですけど、まず1つは、写真ってその瞬間を写し出すもので、その瞬間の前がないので、撮った時の気持ちを説明するためにも文章を付けたかったんです。それで、世界の誰が見ても分かるような形として絵本が1番良いのかなと思って、写真絵本という形にしました。
2つ目は、自分がカメラマンになる時に、思い出に残った1冊って考えたら、ちょうど子供の頃に買ってもらった絵本があって、その映像の世界がたまたま今の自分の写真の原点だったんです。それで、いつか自分で写真が溜まったら、写真絵本というのを出してみたいなということを思っていたので、今回出させていただきました。」
●この『ちいさないのち』って、写真はもちろんのこと、挿絵も文章も全部相原さんが手がけていらっしゃって、最初にこの本を手にした時に、私はまず写真だけをバーッと見させていただいたんですね。それで「すごく綺麗だな」って思ったのと、なんとも表現が出来ないような青のイメージがすごくありまして、そのあと、文章を読みながら改めて写真を見ていくと、最初に写真だけを見た時の印象と物語がついた時の印象とが、すごく違ったんですね。木もそうですが、被写体になっている色々な物が、ストーリーの一部であり、今現在のものではないような感じがして、すごく不思議な世界に迷い込んだような感じがしました(笑)それも写真絵本の魅力の1つなのかなと思ったんですね。
「そうですね。今みなさん、コンピューター・ゲームとかインターネットとか、ヴァーチャルな世界に浸っているんですが、今回この写真絵本のほとんどの写真がフィルムで撮っていますし、デジタルにしても一切ノー・レタッチで、全てリアル・ワールドなので、ヴァーチャルな世界からもう1回本を通して、リアルな世界を体験してほしいと思っています。
あと、その絵本の中に色々な動物のストーリーが書いてあって、一見子供向けのお話みたいなんですが、実はそこにちゃんとそれぞれの動物の生態の様子を入れ込んでいます。ワニはいつも水の中に隠れていますし、タスマニアデビルはいつも夜じゃないと出てこない。そういうことを簡単に読むことによって、リアルな生態を分かってもらおうと思っています。やっぱりどんな大人にも分かるようにするには、まず子供に分かってもらわないとダメだと思っていて、写真を1、文章を1で、1+1=5にしようと思って書きましたね。
もともと風景を撮る前にドキュメンタリーのフォトグラファーになりたかったので、ドキュメンタリーとなるとやっぱり報道写真があって、それに付随する文章がついて、それで完成系ということをずっと勉強していたので、そのコンセプトをそのまま絵本に応用しました。なので、写真と文章の両方を読んでいただいて初めて完成という形になります。」
●本当にタスマニアデビルもワニも大人にはどう猛というイメージがインプットされていますし、見た目も怖いじゃないですか。でも相原さんの写真絵本も通して改めて知ると、すごくセンシティブで、すごくシャイでこっちがかばってあげたくなっちゃうような生き物なんだなっていうのが感じられたので、不思議だなって思いました。
「例えば、ワニってどう猛な反面、すごくシャイで、怖いからビックリして噛み付いてきちゃったとか、そういう怖さと繊細さの二面が必ずあるので、今回の本でその二面を表すために迫力のある写真、でも見た目と違うんだよというのは文章でフォローしないといけない。それは1枚の写真だけでは完成系にもっていけないんですよね。」
オーストラリアでは地球の回る音が聞こえる!?
●オーストラリアって一言で言ってもすごく広いじゃないですか。相原さんはかなり前からオーストラリアに行っていたんですか?
「そうですね。オーストラリアに行き始めてから21年目になるんですが、実は最初、風景を撮るという目的ではなかったんですね。実はパリダカール・ラリーにエントリーして、そのドキュメンタリーの写真が撮りたかったんですね。で、その練習で行ったんです。日本のバイク・ラリーに出ていたんですけど、バイク・メーカーの人に相談したら、『どんなに日本で練習しても砂漠はないから、パリダカに行くとみんな砂漠を見てパニックになって、初日だけになって、“パリだけ”ってことになってしまうから、せめてオーストラリアに行って練習してこないとダメ』って言われたんですよね。」
●うまい!(笑)
「ありがとうございます(笑)。当時オーストラリアに行ったことのある人に聞いたら『写真を撮るものは何にもない』って言われたんですね。でも、とりあえずカメラ持って行ったら、撮るもの山のようにあって、たまたまみんなが撮っていないだけで、これって宝の山だなって思ったんですね。で、走っているうちに自分は1秒から0コンマ何秒を争って走っているよりも、ここ(オーストラリア)で風景を撮る方が向いてるのかなって思ったんですね。
それまで風景写真って正直ほとんど興味がなくて、やっぱりモータースポーツとかドキュメンタリーのような、動いている一瞬を撮るのが写真だと思ったんですけど、それこそ砂漠でキャンプを1人でやっているうちに日本と違って、『これは風景じゃなくて地球のポートレートだ』って思って撮ったらすごいんだろうなって思ったんですね。やっぱり風景って動かないものだと思ったら、毎日見ていると何十億年という期間で変化している、ものすごい生き物なんだなって思いましたね。で、その表情を撮ろうというところから始まったので、最初オーストラリアに行った時は全然違った形で行きましたね。
あと途中、砂漠で120キロぐらいで走ったんですけど、ドイツ人のバイクに抜かれて、さらに砂塵の中からもう1台バイクが出てきて抜かれたんです。で、翌日キャンプでその時のドイツ人と会ったときに、その人が『実はパリダカに出ようと思っているんだけど、実は僕、ドイツじゃ遅いので、練習に来た』って言ったんですね。その遅いっていうやつに抜かれたってことは絶望的だなって思って、そこでもうパリダカに行こうっていう夢は諦めましたね(笑)」
●なるほどねー(笑)。でも逆に、スピードの速さっていうのが違っただけで、オーストラリアに行ったことで、地球のスピードの方に魅せられたっていう感じなんですね。
「そうなんですよね。よく聖書に最初『光ありき』ってあるじゃないですか。今回の絵本も最初は朝からで、砂漠でキャンプをしていて1番怖かったのは無音と暗黒ですね。よく映画で砂漠のシーンって、サラサラサラっていう砂の流れる音がするんですけど、実際、砂漠でキャンプをしてみたら音はしないんですよね。雷が鳴っても反響するものがないから音はしないし、風のヒューっていう音も立っているものがないから音がしないっていうことが分かったんですね。だから、それこそマンガで空に『シーン』って書いてあるような世界なんですよ。夜になって月が出てないと数メートル先も見えないんです。明け方近くになって、地平線の1ヶ所がポツンと赤くなって、そこから一気に太陽が出てくるんですよね。だから本当に『光ありき』っていうのと、朝が来た時に『あ、グッドモーニングだ』って思ったんですよね。」
●実はこの番組のプロデューサーは、オーストラリア大好きで、しょっちゅう奥様と旅行に行かれていたんですね。それで、『すごく深いんだよ』って言っていたのがすごく印象に残っていたんですけど、色々な意味で深みのある場所なんですか?
「そうですね。日本で知られているっていうのはゴールドコーストとかケアンズやグレードバリアリーフで、それも正しいオーストラリアなんですけど、ごく一部で、日本で言えば東京タワーとか浅草みたいなものなんですね。やはり、世界最古の大陸なので、非常にスピリチュアルかもしれないですし、熱帯雨林から冷温帯雨林まで全部あるので、地球上全てのものが凝縮みたいなものが集まっているので、見れば見るほど与えられるものがどんどん地面から沸いて出てくるようなところですね。逆に何もない良さといいますか、それこそ砂漠に行って転がっていると、地球の回る音が聞こえるっていう感じはありますよね。
今の科学技術でタイムマシーンってないじゃないですか。だけど、もしタイムマシーンがあって、地球創生の時が見られるとしたら、多分、今のオーストラリアが1番近いんだろうなって思って、そのイメージで撮っています。今までの写真集とかDVD写真とか一切生き物を出してなかったんですが、今回創世記みたいなイメージだったので、初めて出版物で生き物を出して、より地球の生きている、地球がみんなを育てているという感じを掴んでもらおうと思いましたね。」
撮影場所でキャンプをしていると、地球のスピリットが浸透してくる
●撮影に行かれると必ずその場所でキャンプをされるそうですね。どうして近くのホテルや宿泊施設を利用せずに、あえてその場所でキャンプをするんですか?
「最初は物理的にホテルがないということからスタートしたんですが、やはり地球の風景というよりも地球のポートレートが撮りたかったので、ホテルに泊まってしまうと、世界中のどのホテルに泊まっても冷蔵庫があって、テレビがあって、エアコンがあるじゃないですか。そうすると、撮影が終わって部屋に戻ってくると日常に戻ってしまうじゃないですか。やっぱり一瞬の風景や一瞬の地球の泣いたり笑ったり怒ったりという非日常を見るためには、自分も非日常にいなきゃならないと思うんですよね。で、そこで寝ていると自分の体にどんどん地球のスピリットが浸透してくる感じがして、毛穴の1個1個からその場の空気とか磁場とか色々なものが浸透してきて、やっぱりそこと一体となって初めて撮らせていただけると思うんですよね。昔でいう語り部みたいなもので、たまたまホイっともらったものを自分が写真と文章に表しただけで、ひょっとしたら違うもので良かったのかもしれない。だから、そのためにはその場所とシンクロしないといけないので、ホテルに泊まっていると微妙なシグナルっていうのが撮れなくなってしまうんです。」
●そうはいっても、怖い思いってしないんですか? オーストラリアって確か世界で1番毒の強いTOP3のヘビもいるし、かなりワイルドですよね?
「そうですね。反面トラとかライオンはいないのでホッとしているんですね。ヘビとかはある程度プロテクションできるんですよ。1つは、向こうの陸軍の特殊工作部隊に教わったのは『夜、絶対に砂漠で火を焚くな』っていうことなんですね。みんなよく砂漠で火を焚くけど、アフリカじゃないですし、ライオンとかトラとかがいるわけじゃないから、火を焚くと毒ヘビは熱を感知して集まってくるので、火のそばで寝ているとパクっと咬まれてそこでおしまいになるから、レンジャー部隊は絶対、砂漠で火を焚かないんです。」
●なるほどねー! でも、寒くなるんですよね?
「防寒用の寝袋とか、ハイテクのアンダーウェアを持っていますので、大丈夫です。」
●場所によっては周りにどういう生き物がいるかに合わせてキャンプの仕方というのも変えるんですよね?
「そうですね。あとはサソリとかクモは割と湿ったところが好きなので、朝、ブーツを履くときは中をトントントンとやりますね。バイクの時はヘルメットを被る前に叩いてから被るとか、そういう色々なことを気をつけていますね。」
●今まで、怖いとか、危ないとか、危険という思いはしてきていないってことですか?
「インディー・ジョーンズじゃないので、あったら今ここにいないと思います(笑)」
●そうですよね(笑)。
「ただ、1回だけ大変だったのは、鼻の奥にハエが3匹入ってしまったんですよ。」
●3匹も?(笑)
「ええ。ちょうど9月から11月ぐらいまで、オーストラリアの西海岸に花がものすごく咲くんです。で、2,000キロぐらい花畑なんですね。その花の撮影に行った時に、当然、虫が沢山来ますので、ネットを被って撮影するんですけど、ファインダーを覗いた時に邪魔になるので上げたたら、たまたまヒゲにハエが3匹ぐらい集って、鼻をすすったら全部奥に入ってとれなくなったんです。鼻腔で動いているのが分かるんですね。で、鼻の穴を太陽に向けたら出るっていうのを聞いたことがあったんで、やってみたんですけど、全然出てこなくて、水を入れたりして色々やって1時間ぐらいしたらやっと出てきたんです。それからしばらくしたら発熱してきましたね。それから1,000キロぐらい離れた場所にある病院まで行って、血液検査を受けたということがありますね。」
●ハチじゃなくて良かったですね。でも、鼻の中にハエが入って困ったというエピソードは、この約18年のフリントストーンの歴史の中でも、初めてです!(笑)
「そうですか!(笑) 食べたこともありますよ。バイクで走っている時に、熱くて息苦しいんで口をパクパクしていたら、5~6回食べたことがありますね。オーストラリアの人達に『ハエ食べちゃった』って言ったら『プロテインだから大丈夫だ』って言われましたね。」
●虫を食べるというのは、この番組でもそういう先生もゲストに出ていただいたこともあるので、大丈夫なのは知っています(笑)。
「空飛ぶ朝ごはんみたいな感じですね(笑)」
相原さんが感じる、オーストラリアの環境の変化、そして魅力とは?
●20年以上オーストラリアに通われている相原さんですが、最古の大陸というオーストラリアであっても、このスピード感溢れる人間の仕業で破壊されてしまったりとか変わってしまっていることってすごくある気がするんですが、目に見えて感じられることとか、20年の間で写真を撮りながら感じることってありますか?
「20年前、砂漠の奥地とか熱帯林の奥地とかって、よほど変わった人か、科学者とか学術研究の人とか、あとはオーストラリアは鉱物資源がたくさんあるので、そういう鉱物資源の探査の人ぐらいしか来なかったのが、車の性能の発達とGPS、携帯電話の発達でかなり奥まで観光客の人がアドベンチャー・ツアーみたいな形で来るようになりました。そうすると当然、量の増加は質の低下になるので、大規模な環境破壊はまだ奥地では見られないのですが、細かい部分で少しずつ環境破壊が起きつつありますね。だから行く際に向こうの土地のことを考えていただきたいですね。やっぱり大地って見るために存在するわけじゃないので、無理しても見られない人は見られないので、そこで無理をして見に来ないという風にセレクションをしてもらいたいですね。そうしないとどんどん余分に破壊されていきますからね。」
●オーストラリアにも何ヶ所か世界遺産がありますけど、ある意味でフィーチャーされるというのは、とても素晴らしいことではあるんですけども、それがあるから多くの人が押し寄せてしまって、かえって破壊に繋がってしまうというケースもたくさんあると思うんですね。自然がブームになってしまうと、せっかくの環境が破壊されてしまうという、嬉しくもあり、悲しくもあるという矛盾がありますよね。
「タスマニアだと、どうしてもゼロに戻すことは出来ないので、なるべく守りましょうということをしていますね。驚いたのは、よくトレッキング・ルートの手前で『靴下は綺麗ですか?』って聞かれるんですね。それはどうしてかというと、色々な国やエリアから人が来ると、タスマニア固有の植物とかがいるのに、綺麗な靴下じゃないと、靴下に種がついてる場合があるので、例えばタスマニアに日本のタンポポが入っちゃうとか、北アメリカの花が咲いちゃうとか、そういうことが起こるかもしれないんですね。そうならないように綺麗な靴下に、なるべくスパッツを穿いてほしいんですね。スパッツを穿いていると下に種が落ちることをなるべく防げますし、帰る時は綺麗に靴下を洗って帰って下さい。そうしないと今度は日本とかアメリカとかヨーロッパとかにタスマニアの植物が生えちゃうかもしれないですからね。」
●そういうところまでってあんまり考えないですもんね。
「そうですよね。だからド忘れして、靴を汚れたままにしていると空港で『靴を洗ってください』って言われますね。やっぱり、もう破壊しちゃったところは仕方ないので、これからは破壊のスピードを何とか遅くしようとしたいですね。ゼロにするというのは人類全部いなくならない限り無理なので、なるべくゆっくりしようと心がけて、出来るところから、『靴下綺麗にしてください』とか『靴を綺麗にしてください』とか、そういうことをやることによって、大分ストップはできると思います。」
●親善大使に任命されてしまうほど通われている、オーストラリア・タスマニアの魅力って何ですか?
「ワインが美味しいと言ったらアウトなんですが(笑)、やっぱり自然と人がうまく調和している感じですかね。
大自然もありながら、そこからわずか数十分行くと人の営みがあって、昔の日本のような感じで、すごく素朴で飾り気のない人がいたり、隣の人と仲良くしようとするところですね。よく欧米って契約社会だから、親切だけでは動かないよってよく聞くんですが、それでも基本は同じだなって思うんですよね。やはり気持ちで大分動いてくれますからね。単に自然がキレイだけだったらオーストラリアに21年も通わなかったと思います。やっぱり人とのメンタリティな接触が非常に大きかったと思いますし、あの辺りの人達と個人的に波長が合うのかなって思います。」
●この写真絵本『ちいさないのち~最古の大陸、オーストラリア~』の中で、子供達に伝えたい1つのメッセージとして『全ての生き物と握手しようよ。握手してお友達になろうよ』ということが書かれているんですが、それは『そうすると、ずっと先まで地球は今のままでいられるよ』っていう、多分相原さんが1番伝えたいことだろうと思うんですね。そういうメンタリティがオーストラリアには大陸自体にあるのでしょうか?
「あると思いますね。」
●みんなが互いに握手をすることによって、特に日本人は昔は知っていたはずのことだから、思い出してくれるといいですよね。
「そうですね。」
●これからも相原さんは、オーストラリアに通い続けるんですよね?(笑)
「そうですね。撮りたいものを色々集約していくと、あと100年ぐらいかかるし(笑)、その他のエリアでも撮りたいものがありますしね。」
●お土産話なんかも是非聞かせてくださいね!
「じゃあ、お土産のワインでも持ってきます。」
●わーい! 楽しみー(笑)。というわけで、今日はどうもありがとうございました。
「ありがとうございました。」
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