2009年11月22日
サイクリスト・埜口保男さんが指南する 「1日100キロ超えをめざす 実践的サイクリング」
今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは、埜口保男さんです。
サイクリスト・埜口保男さんはこれまで、自転車で世界一周を3度行なっています。「第1ラウンド」として1981年~1987年の間で70ヵ国、およそ8万5千キロを走り、「第2ラウンド」では1992年~1993年にかけて43ヶ国、およそ2万7千キロを、そして1994年からは「第3ラウンド・細切れ編」として、1年に1度休みをとって、1週間程度の海外自転車旅をされています。
そんな埜口さんは先頃、「1日100キロ超えをめざす 実践的サイクリング」を出版されました。そこで今週は埜口さんから、自転車の初心者に向けて、遠くに行くためのノウハウや自転車のマナーなどをうかがいます。
自転車で100キロ走るのと、フルマラソンは同じ感覚!?
●お久しぶりです。埜口さんは6年振りのご出演になるんですね。
「もうそんなに経ちましたか。」
●埜口さんはご自身のことを“自転車屋”と名乗っていらっしゃいますが、どうも自転車屋さんと間違える方がいらっしゃるので、あえてサイクリストとご紹介させていただきました。そんな埜口さんですが、先頃「ラピュータ」から『1日100キロ超えを目指す 実践的サイクリング』、副題に「自転車でもっと遠くへ行くための基本ノウハウ36」という本を出版されたんですけど、副題通り、サイクリングのノウハウ本ということでよろしいでしょうか?
「そうですね。」
●これを書かれたきっかけは何だったんですか?
「以前、山海堂さんという会社から何冊か出させていただいていたんですが、既に10年以上経ちまして、本の内容が時代にそぐわなくなってきたというのもありますし、このところの自転車の爆発的な人気で、利用者が急に増えてきたというのもありまして、そういう人達が楽しくサイクリングが出来るようにというのを念頭に置いて、新しく書かせてもらいました。でも、対象が以前とかなり変わりまして、昔は大学生とか汗臭い男の遊びだったんですが、今ではもう団塊の世代と女性に圧倒されまして、もうファッション化してしまいましたね。」
●今では健康にはもちろん、環境にも良い乗り物ということで、例えば、丸の内のビジネス街でレンタサイクルが設置されるようになったりとか、通勤・通学に自転車を使うというのがすごく増えてきているじゃないですか。そういう意味でも実践的サイクリングとなると、対象はどんどん変わってきていますよね。
「ええ。もちろん通勤で自転車を使ってくれれば、なおさら嬉しいですね。例えば、オランダあたりは自転車通勤をすると、住民税の軽減措置をしてもらえるんですよ。」
●そこまで進んでいるんですか!?
「はい、進んでいます。何パーセントか、詳しくは分からないんですが、そういう制度はありますし、日本でもあちこちの自治体が自転車通勤の人達には手当てを厚くするという方向に動いているので、皆さんそれだけ環境面にも自転車は良いということに気付いてきましたと言えると思います。私も今自転車通勤なんですが、千葉県でも是非やってほしいと思います。」
●ですよねー。でもこの本、「1日100キロ超えを目指す」と書いてあるんですが、私もお買い物ぐらいでは自転車を使って、昔は結構な距離を走ったりしていたんですが、それでも都内を少し走る程度で、100キロって結構な距離だぞ!? って思ってしまうんですよね。
「まぁ、100キロというのは具体的に、東京から水戸、宇都宮、高崎の手前ぐらいの距離で、皆さん『え!?』って思う距離だと思います。ただこれ、100キロという感覚ではなく、5時間自転車に乗ると思ってください。」
●5時間自転車に乗る!(笑)
「つまり、初心者の方がフルマラソンを走る時が大体5時間が目安になります。ですから、フルマラソンと自転車の100キロはほぼ同じだと思ってください。でも、そこで問題なのは、5時間サドルに座り続けていられるかどうかという点ですね。これさえクリアしてしまえば100キロは簡単にいけます。フルマラソンよりはるかに楽にいけます。」
●フル・マラソンも私は走ったことがないので、「あ、そうなんだ」と軽く思ってしまいました(笑)。実際のところはそれでもかなりハードだと思うんですけど、この本の中では「10キロ・30キロ・50キロ・100キロ」とステップ・アップ方式になっているので、イメージしやすいですし、最初から少しずつステップ・アップしていけば、最終的には100キロ走れると考えれば、そんなに苦しい気持ちにならないかもしれませんね。本の最初に『東京からの50キロ・100キロ圏』が掲載されていまして、埜口さんもおっしゃったように、北の方では宇都宮、水戸がありますし、西の方では山梨、東では銚子、そして南の方では東京湾を挟んだ、ベイエフエムの反対側になると伊東となるんですが、このベイエフエムがベースとなっている千葉は全域100キロ圏内ということですよね。
「そうです。」
●だから本来なら、我々ザ・フリントストーン・チームは、ベイエフエムに通う時は自転車で軽く来ないといけない距離だということですよね!(笑)
「そうであってほしいですね(笑)」
●・・・ちょっと息を飲んでしまいましたけど(笑)、それを目指して、今日はどうすればそれが出来るのか、コツなどもうかがっていきたいと思います。
初心者でも自転車で100キロ走れるようになるには?
●『1日100キロ超えをめざす 実践的サイクリング』ということで、超初心者の私、エイミーがこの100キロ越えをチャレンジするために、まず最初に自転車選びなんですが、どの自転車を選んで、何を揃えて、どうすればいいのかを簡単に紹介していただけますか?
「まずは自転車本体ですが、皆さん自転車本体を、いわゆる『ママチャリ』を連想すると思うのですが、ママチャリではまず出来ません。」
●それは無理ですよね。
「でも、改造できるんですよ。簡単です。サドルを上げて、ハンドルを下げるだけです。姿勢を連想していただければいいんですが、サドルの上にどっかりと座っている状況になると、全体重がお尻にかかってしまいます。そうすると痛くて1時間ぐらいでギブ・アップします。ですから、少しでも前のめりになって、体重を前に分散させる。これが1点。で、もう1点は、非常に簡単ことだけど、すごく重要なのは、タイヤに空気をいっぱい入れてください。それだけです。」
●それだけでいいんですか?(笑)
「はい。ほとんどの人が空気圧が足りないですね。」
●そうなんですか?
「はい。見てみれば分かるんですけど、空気圧が低いということは、タイヤの設置面が広いわけです。その分摩擦が大きくなります。その摩擦力が自転車をスムーズに動かす運動を妨げているんです。」
●なるほど! じゃあ、空気をいっぱい入れて、そして自分が自転車に乗った時の姿勢が前のめりの状態で、足は地面に届く程度でいいんですよね?
「足は初心者の方は届かないと不安でしょうし、やっぱ事故の元になりますので、届く方がいいと思います。ただし、慣れてくると変わってきて、1番力が出るというのは、足を振り下ろした時に、膝が伸びきった状態でペダルの届くところが1番効率的な力の入れ方になりますので、その姿勢だと足はつきません。」
●足を伸ばしてペダルを踏んでるわけですもんね。
「ですから、慣れないと非常に不安です。初心者の方は2段階・3段階に分けて、上げていくのがいいと思います。その次に、これでは物足りなくなって、もうちょっと乗りたいという時に、やはりスポーツ・タイプの自転車、今の時代でしたら、ロードレーサーあたりを購入するのが1番いいかと思います。」
●最低、どのぐらいのものを買えばいいんですか?
「これも、それぞれなんですが、もし本当にヤル気があるのであれば、中途半端なものを買うと、さらに上のものが欲しくなりますので、一気にそれなりのものを手にした方が後々よかったと、私の周りの人達で悔やんでる人は多いですね。具体的にはやっぱり20万は欲しいですね。」
●おーっと! それだけのお金をつぎ込んでしまえば、やめようというより意地でもやるぞ! っていう気持ちにもなりますしね。
「なります! そこに付属品として、万が一のケガ、いつどんな時どうなるかわかりませんので、ヘルメットは必要ですし、ウェアもかなりカラフルになってきていまして、遠くからでも認識してくれるという強みがありますので、派手なウェアの方がいいと思います。このあたりを揃えていただいて、走っていただければと思います。」
●では、いざ走る場合、この本の中ではステップ・アップ方式で「10キロ・30キロ・50キロ・100キロ」と、少しずつ距離を伸ばしていくという形になっていますが、最初に目指すのはやはり10キロということですよね。
「まずは10キロですね。じゃあ、10キロはどういう距離かということをまず考えてみてください。自転車の場合には大体時速20キロで計算しますので、10キロだと、大体30分。距離的にどのようなものかというと、自分が会社・学校に行く時に使う駅のひとつ先の駅が具体的な目安になります。」
●仮に、ベイエフエムのある海浜幕張だと、10キロだとどの辺りになるんですか?
「ここから10キロだと、千葉方面に向かえば、千葉みなと辺りですし、行って帰ってくるのであれば稲毛海岸ぐらいですね。」
●じゃあ初めの1歩としては、ベイエフエムから稲毛海岸を往復するというのを目指すのがいいということですね。
「そうですね。本当にすぐです。『あら、10キロなんてこんなもの?』って思いますよ。」
●そして、次が30キロ・50キロと増えていくと。
「この30キロの場合は1時間半という計算になります。海浜幕張からであれば、東京駅あたりですし、行って帰ってくるのであれば、ディズニーランドの外枠を1周して帰ってくるぐらいですね。それだと40キロぐらいになってしまうかもしれませんが、それぐらいが大体目安になってきます。そして次に50キロが待っています。」
●その50キロはどの辺りになるんですか?
「隣の県ということで、利根川を渡っていただいて、茨城県ということになりますね。」
●少しずつ、ステップ・アップしていくっていうのが大事ですね。
「大事ですね。」
楽しみを持ってサイクリングをすることが大事
●1日100キロ超えということは、日帰りだとすれば、往復で100キロ越えですから、片道50キロぐらいの距離ということになりますよね。
「そこでステップ・アップの話になっちゃうんですが、輪行(りんこう)という手段がありまして、自転車を分解して、袋に入れて電車に乗せるという方法があります。それを覚えてしまえば、行けるところまで線路沿いに走る。疲れたら、自転車を畳んで電車に乗る。まぁ、私はいつもビールを飲んで帰ってきますけど(笑)」
●(笑)。そっちの方がいいですね。「よっしゃあ! 今日はここまで来たぜ!」っていって、畳んで電車でゆったりとビール片手に・・・。
「帰るということですね。」
●そうすると、逆に例え100キロ越えを目指していたとしても、途中で体調が悪くなったとか、天候がすごく悪くなったとか、なんか変化があった時に対応しやすくなりますね。
「輪行は俗に『エスケープ・ルート』と呼ばれていまして、何人かまとまって行く時に全員が行けずに、ここで終了っていうことがあり得ますので、必ずそういう手段を考えないと、他の方を引っ張っていけないということです。」
●この『実践的サイクリング』の中でもいくつかのサイクリング・ロードだったり、オススメの場所だったり、こういう風にするといいよって書かれているじゃないですか。これから寒くなりますが、関東だったら自転車でも全然オッケーですよね?
「雪さえ降らなければ問題ないんですが、行って問題になりそうなのが、木枯らしですね。」
●木枯らし?
「はい。自転車でつらくなるのが上り坂だと思っている人が多いんですが、これは全く違いまして、1番つらいのは風です。で、冬場は風は北風になります。したがって、東京方面からだと、群馬方面に行く人が1番つらくなります。ですから、そこを逆手にとって、先ほど話した輪行を使って、高崎まで電車で行っちゃう。そして、後ろから風を浴びて帰ってくるという方法があります。」
●それ、気持ちよさそうですね!
「これが非常に楽ですね。特に1番オススメなのは、利根川の河川敷が今、非常に整備されています。私もちょっと走ってみて調べているんですけど、群馬県の渋川から銚子まで繋がっていますので、200キロをサイクリング・ロードだけで行けます。」
●200キロ!?
「はい。まずは高崎あたりまで新幹線で行って、背中で北風を浴びながら、利根川の河川敷を銚子まで楽々走ってくるんです。」
●そうすると200キロも結構、楽に行けちゃうものですか?
「200キロ近くいけますね。初心者でもかなり楽に行けると思いますよ。」
●本当ですか!?(笑)
「あくまでも輪行ができての話ですけどね。」
●でも、逆に言うと、その木枯らしが吹く時期は、このベイエフエムのある南房総の方を走るという手もありますよね。
「もちろん。」
●そうすると行きは自転車で行って・・・。
「行きは自転車、帰りは館山から“さざなみ”に乗って帰ってきて・・・。」
●ビール片手に。
「はい。」
●行き先で温泉にでも入って・・・、というコースもあり得るわけですよね。
「そうですね。」
●ある意味、100キロ乗れると自転車で楽しむ世界というのがかなり広がるんじゃないですか?
「その人の目的によって、無限大に広がっていきますね。」
●これからやろうという方達は当然、挫折もあるかもしれないですし、もうつらいなって思うかもしれないですけど、続けるための秘訣というのはありますか?
「まず、いきなり100キロ行かない。あくまでも何回かに分けて行く。私の知人の体育大学の先生が、『オリンピックを目指すなら、常に120パーセントの力を出すような指導をするけれど、続けるのが目的であれば、60パーセント以上出すな。楽しい時が終わる時』だと話してくれましたね。その通りだと思いますが、やっぱりつらくなったら続かないです。あと、もう1つは、何らかの目的を持って、その移動手段としての自転車、例えば今流行りのグルメでもいいですし、美術館巡りでもいいですし、地方の旧所名跡巡りでもいいです。特に自転車でグルメを目指すと、ただでさえ空腹ですので、何を食べてもおいしく感じます。」
●(笑)少しずつ自分の楽しむ目標を決めて、そこに向かって漕いで行くということですね。
「そうです。」
自転車は健康に最適!
●自転車人口が増えているのに、道路状況だったり、マナーだったりとか色々な意味でまだまだ日本は世界に比べるとちょっと遅れているかなっていう状況が続いているじゃないですか。埜口さんからご覧になって、少しずつでもそれは良い方向に向かっているんでしょうか?
「向かっています。これははっきりと向かっていると言えると思います。ヨーロッパを走ってみると分かるんですが、オランダを筆頭に、ドイツ、フランスと、自転車に関するインフラがかなり整っていますけど、日本もそれに少しずつ追いついてきていると思います。でも乗っている人のマナーはまだイマイチかもしれませんが、それも10年経てばかなり改善されるのではないかと思います。」
●国内ではよく「北海道はサイクリストの天国だ」って言われていますけれど、埜口さんとしてはやはり北から南、日本全国サイクル・ロードが繋がって、みんなが安全に、しかも楽しみながらサイクリングできる状況があると最高ですよね。
「そうですね。特に通学で使う中学・高校生ぐらいの方々が安心して学校に行けるようなサイクリング・ロードで日本を結べればと思いますね。」
●この本で私も100キロ超えを目指し、何よりも健康な肉体をゲットしたいなと思うんですけど、埜口さん看護士さんですからお聞きしたいのですが、やっぱり自転車って健康にはバッチリの乗り物ですか?
「健康そのものと言いますか、私は病院勤務15年以上、しかも救急病院で三交代勤務という非常に激しい中で働いていましたが、ケガだけは別とすれば、少なくとも無欠勤ですから。それだけでも健康と言えるのではないでしょうか。」
●確か体脂肪率も1桁ですよね。
「そうですね。でも体脂肪率は少なければいいっていうものでもないですからね。」
●でも、多すぎるよりかは全然いいと思います。スタッフ全員が深くうなずいております(笑)。みんなも1桁までいかなくても最低でも10パーセント台ぐらいまで目指したいですよね。
「ちなみに、かつて私と一緒に走ってた同期の人は、1年間で21パーセントから12パーセントまで落ちました。」
●それは1年間でどの程度の距離を走ったんですか?
「私と一緒に100キロを月に1本、個人的にも月に1本走らせてということを1年間やっていったら、12パーセントまで落ちました。でも止めて15パーセントまで戻っていますが(笑)」
●(笑)。じゃあ、1ヵ月に200キロ頑張れば、かなり落ちるんですね?
「200キロ1本というよりも、100キロ2本とか、50キロ4本の方がいいかと思います。」
●計200キロということで。
「そうですね。」
●よし、エイミー頑張ります! 埜口さんも次、お会いするのを楽しみにしていてください(笑)
「はい!(笑)」
●今日は本当にありがとうございました。
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